【第46話】親王陛下のクエスト。
いつもお読みくださいまして誠にありがとうございます。
メイドちゃんが冒険したようです。
皆様のお蔭をもちまして10,000PVを越えました。
ありがとうございます。
俸禄、すなわち給与。
何かを目的とした集団に所属し、目的にかなう働きをした対価として得る報酬。
そのほとんどは金銭で獲得でき、経済活動に供することができる。(作者事典による)
俺がまだ向こうに居たころ、食材流通商社に勤務し、毎月得ていた給与は控除後の手取りで26万円。大卒一年目の給与としては破格の高額所得だったかもしれないが、サラリーマンの日常的な消費にほどほど満足を得られるような会社に勤めていた。
嫌な上司もおらず、出張は多かったが目的もはっきりしていたし成果も大きく取り上げてもらえたりすれば遣り甲斐はあった。
当然、それが嫌で会社を辞めたわけでもないし、選んだ仕事には満足していたのかもしれない。
こちらに来てからは冒険者としてクエストをこなしたり、出会った魔獣や魔物を討伐しドロップアイテムとして手に入れた討伐部位を換金するなどして一月当りとしてはレートが分からないが200万円前後の報酬を得ていたように思う。
それでも、武器や装備のメンテナンスにかかる経費や怪我に備えたポーションなどの購入費用を所得から除くと手元に残る現金収入は15万円ほどの額だったのではないかと思う。フィアと一緒に行動するようになってからはより効率よく報酬が得られるようになって300万円ほどの収入があったと思う。
アマクサに行ってからはゴーランド殿に頂く小遣いが収入の全てではあったが、使うチャンスもなかったために10万円ほどの手渡しによる現金さえもほとんどが手元に残っていた。(フィアの分も含む。)
貴族と言う者がどのような経済観念をもって暮らしているのかは知れないが、マーケットからくる請求書は大体1000万円程度に上る。これが高いのか標準的なものなのかもわからないのだが、これに加えて働いてくれている87名のスタッフの皆さんへの給与が4000万円近く。11名のアマクサから異動となった家令の皆さんが毎月2500万円ほど持っていかれる。これだけで毎月の経費が7500万円。
実際には毎月の経費合計は9000万円ほどにも上るのだ。
しかし、叙任を受けてその際に親王陛下より賜った俸禄は1000億円ほどで、発展なく怠惰に過ごしても90年以上なくならないことになる。
驚いていただけましたか?
俺は驚いて踊ってしまいましたもの。
いや、貢献度としてはこの貴族街に暮らすほとんど全ての貴族に真似のできない仕事をしたとは思うよ。しかし、その報酬が1000億円を超えていたと思うと国貴族と言う存在の法外さに眩暈を覚えたものだ。
「お館様、庭園に聖銀の巨人用の格納庫を建築する件についてですが、お城の方より建て方の指定と許可が参っております。」
アンニさんがシロップさんに連れられて俺たちの寝室へと来てくれた。
俺とシロップさんがフィアにパンツを履かせるのを完全にスルーして手元の押し箔のある厚い用紙を読み上げてくれている。
「そりゃ!っと、で、建て方と言うのはどういった建築方法なのですか?」
「いえ、建築を行う大工のことでございます。」
「ほれ、フィアったら、腕を上げる!ああそっちの方の話だったんですね。大工さんをお城の方で手配してくださるという事ですか。」
「はい。エジンバラ子爵と仰られまして、そもそもこのお屋敷を建築されましたのも公でございます。」
「ああ?奥方様、今羽を出すのはやめてください。」
「こら、フィア!いい加減に目を覚まさないか!」
「・・・・・・もしかして毎朝このような有様でしょうか?」
「「「はい。」」」
おい、なんでお前まで返事してるんだよ。
朝食の席に全員が揃い、ベーコンエッグとサラダ。トーストかご飯にコーンスープだ。
他の貴族も普段は質素にしているというのは本当だったようで、基本的には一日二食は変わらない。
我が家は健啖家が集まった屋敷なので、昼にもサンドイッチなどの軽食を食べる。
エンゲル係数がおかしいのに頷いてもらえるだろう。
「お館様、本日ユンカー様がいらっしゃいますので、外出はお控えください。親王陛下よりお言付けがございますそうですので、お仕事かもしれません。」
「判りました。お待ちするとしましょう。」
「何の仕事だろうね?」
アオイさんは新しい旅かと興味を持ったようだ。
「荒事でなければよいのですが。」
チカゲさんはレネゲイドに傷がついたりするのをとても嫌がる。
アオイさんだと、傷を治すのも楽しいらしいのだが、性格の違いが面白い。
「ご主人様、長く留守にするんですか?買い物の時にご一緒してもらえると助かるんだけどなぁ。あ!イクオ君だけでも貸してもらえると嬉しいんだけどな。」
最早、アットホームに慣れているメイドさんの喋り方は概ね、こんな感じに徹底されてきている。おかげで毎日笑いが絶えないのは俺の狙い通りと言うところだ。
たまに尋ねてくる他家のメイドなどは俺たちのそんな日常に触れ、最初は驚愕と、二度目以降は羨望と共に貴族とメイドたちのじゃれ合いを見ている。
それから半刻ほども経つころにユンカーさんが今度は馬車の後ろに乗ってやってこられた。いつも御者席ではないような身分なのだろう。
「良くいらっしゃいました。」
「はっ、早い時間から押しかけましたようで恐縮ですな。」
「お気になさらないでください。みな食事も済んでおりますし今かいまかと待っていたくらいです。」
「そう言っていただけますと気が楽になります。公爵様としてのお暮しはいかがですか。」
「最初は親王陛下にもご迷惑をおかけいたしましたが、今ではどうにか街にも屋敷にも慣れてきたようです。」
俺たちのファミリアがアットホームであることに苦言を呈する貴族が多くいたことによって親王陛下にとりなしてもらう手間を取らせてしまったのだ。
例の「やると思った。」の件である。
トウト湾に鹵獲空母をわざわざ寄港させ、貴族街の上空を昂暉が編隊を組み飛び回って見せた。ブルーインパルスのように曲芸飛行が行われ、戦技の研究が盛んにおこなわれており、様々なフォーメーションや実戦さながらの飛龍との模擬戦など航空自衛隊の基地祭のような賑やかな雰囲気となった。
国貴族の街に居た全ての貴族が城に集められ、南側の庭園で軽いパーティーのような催しに参加させられていたのである。奥様方や各貴族家の主要な家令たちが同席を許され、軽いパーティーといえどその規模は大変なものだった。
軽食などを振る舞われ、ワインなどが供される頃に南側から侵入してきた昂暉の編隊がフライパスし、そこから基地祭が始まったのだった。
自由自在に蒼穹を掛ける昂暉を見ると、練度の向上が目に見える。
祭りの最後には戦闘機部隊、攻撃機部隊、爆撃機部隊それぞれが編隊を組み、総勢で300機ほどの昂暉が親王陛下の居城上空を翼を左右に振りながら通り過ぎていった。
鹵獲空母にそんなには搭載できないだろう。
ハッとなった俺が親王陛下を振り返ると、深く楽し気に頷いて見せた。純国産空母アカギとカガが就航したのだろう。
親王陛下よりこれらの戦力の全てが俺の叙任の理由だと説明があった。
「ヤマノベ公爵殿、最後に聖銀の巨人の雄姿を拝見したい。この城の魔法障壁を撃ち抜いて見せてくれないか。」
「構わないのですか?」
「せっかくの機会であろう?妻も是非にとせがむのでな。」
「心得ましてございます。フィア、やるぞ。」
「はい!」
貴族たちの集まる庭園脇にひとまず空いた場所を用意してもらい、次元断層を開き、レネゲイドを呼び出した。
デカい次元断層が開いたことで貴族たちが驚嘆の声を上げる。まぁ、普通この魔法を使える魔術師なんていないから、始めてみたのだろう。
次いでそこから現れた神々しいまでの輝きを放つ巨人にため息のような吐息が聞こえた。
「何と美しく、力強く、優雅な出で立ちでしょう。」
お妃様もレネゲイドをご覧になられ、ため息を漏らしておられた。
「レネゲイド、親王陛下にお前の働きを見せる。」
「了解。」
降着姿勢になり、コクピットハッチが開くとフィアと俺は飛び乗る。
直ちに屹立し、飛行を開始したレネゲイドは瞬く間に昂暉を上回る速度で城の周辺を飛び、南側で滞空し背中からバスターランチャーを引き抜いた。
伸長式バレルが音もなく伸び、城の上空に展開されている魔法障壁の向こうを狙い定める。
しばらくの静寂ののちに観戦しているすべての人の度肝を抜くような轟音が鳴り響き、無造作に魔法障壁を消し飛ばしてしまった。
レーザーは瞬時に地平線の彼方へと消えて行ったが、轟音は雷のようになり響き、余韻を残していた。
バスターランチャーを背中にしまい、元居た位置へと着陸すると、貴族たちは誰一人口を開こうとしなかった。鉄壁の魔法障壁が豆腐に指を差し込むほどにも無抵抗に突き破られたことが相当にショックだったらしい。
「ヤマノベ公爵、ご苦労でしたね。」
親王陛下より労いの言葉を頂いた。
「公爵様、奥方様、これほどの力を持ちながら、それでも欲を持とうとはされないのですか?」
お妃様にも大きなショックがあったようで、少し硬い表情をしていらっしゃる。
俺は臣下の礼を取り、親王陛下とお妃様に向かいハッキリと伝えることにした。
「それは私の望むことではありません。レネゲイドだけでも北華など地図から消すことも造作もないでしょう。
しかし、私がこの力を振るうのはフィアと11人の仲間。87人の屋敷に仕えてくれている”家族”を守るためなのです。そうですね、お妃様のご希望とあればもちろんご協力させていただきます。」
「おいおい、叙任をしたのは私なのだがな。私の願いも聞いてもらえると嬉しいよ。」
「それは、ユンカー様よりいただけるお礼次第と言うところでしょうか。」
「ほほほほ、楽しいお方。親王がおイタをした際には必ずお願いするわね。」
俺の話を聞いてお妃様の緊張も取れたようだ。親王陛下は”おイタ”の部分で横を向いておられたが、口笛でも吹きたいような心当たりがおありなのだろうか?
親王陛下は改めて貴族たちの方に向き直り、俺とフィアが臣下の礼を取る横へと立ち宣言された。
「みなも色々と実際にその目で見て、良く判ったことだろう。ヤマノベ公爵は類稀なる大魔術師であると同時に国をも消し飛ばせる聖銀の巨人を御し、我らが国のために先ほどの航空戦力を始め様々な技術を実現せしめ、大国列強のいかなる攻撃をも防ぐ盾と、攻め手の防御を全て貫き通す強大無比な矛を私の手に握らせてくれた。
私はこれをよく使い、慢心することなくこの国の守りに役立てることだろう。
そしてここに居る貴族の皆とヤマノベ公爵の力添えを得て、国内の平定と発展を末永く続けていきたいと思う。
皆の者もよろしくたのむ。」
「ははっ。」
出席したすべての貴族が立式の臣下の礼を取り、頭を下げる。
こんなイベントが親王陛下の計らいで催され、それ以降に俺たちの屋敷についてとやかく言うような貴族は居なくなったのだった。
例のマーケットで入手した紅茶を飲みながら、親王陛下の取り計らいに改めて礼を言い、親王陛下にお伝えいただけるようにお願いした。
「ご自分でお伝えになられれば、陛下もたいそうお喜びになられるでしょうに。」
「いえ、親しくしていただけるのは光栄の極みではありますが、あそこまでしていただいてお気遣いを頂いた後で、厚顔に過ぎるのではと思うのですよ。」
「本当に欲のない方ですね。お妃様に於かれましてもフィア様がお越しになるのをとても楽しみにしておいでですのに。」
「ひゃ?本当ですか?」
「ええ、パーティーや晩餐ではなく、お茶を飲むだけのような時間を過ごしたいのだと申されて、フィア様がおいでになれば楽しいのにといつも親王陛下におねだりしていらっしゃいますよ。」
「そ、それでは今度、伺わせていただきます。ソウタさんも来てくれますよね。」
「いや、そこは遠慮するべきだろう。お妃様はフィアとお時間を過ごされたいのだよ。」
ユンカーさんも笑顔でそれを肯定される。
「ところで、ユンカーさん。本日は親王陛下のご用事をお持ちいただいたとか。」
「おお?そうでしたな。すっかり失念しておりました。
実はですな、ここより東にイバラキという国がございます。こちらは魔法や錬金術、科学などを学ぶ学徒の集う一大研究都市となっておりまして、神国の魔法を修める多くの一流と言われるひとかどならない者たちを輩出しております。
しかし、ふた月ほど前からイバラキを任せておりました魔法科学省の公爵と連絡が付かなくなっております。
トウトへの参勤にしましても時間がかかりすぎておりますし、こちらにおいでになるという先触れもありませんでしたので、こちらにある屋敷にも問い合わせをしましたが、把握していないようでした。
親王陛下とも旧知の間柄の公爵様でしたので、陛下もご心配をしておいでで、ヤマノベ公爵様に状況把握をしていただき、報告をと陛下より賜って来て参りました。
お願いできますでしょうか。」
筑波研究学園都市を任された文部科学省の偉い人が音信不通という事だろうか。
こちらでは魔法科学省と言うらしい。なんかカッコいいな。
「もちろん嫌などあろうはずがありません。直ちにイバラキの現状を確認し、公爵様の行方を探ります。
現場の裁量を優先させることもございますので、その旨、親王陛下によろしくお伝えください。」
「承知しております。お戻りをお待ちしております。」
話が済み、ユンカーさんは席を立って俺たちに挨拶を済ませると城へと帰って行かれた。
居間に全員を集合させ、アンニさんにも同席してもらう。当然アンニさんも着席だ。
俺たち13人とアンニさんが椅子に掛け、それぞれについてくれているメイドさんたちがお茶を用意してくれたところでユンカーさんからの依頼を全員で討議していく。
「貴族を誘拐なんてあるんでしょうか。」
シゲさん付きのメイドさんが発言する。
何さんだったかな?我が家ではどのような会議や打ち合わせにおいても後ろに控えているメイドさんも遠慮なく発言する。俺がそのように仕向け、より多くの意見をテーブルに乗せることでそれぞれの経験や知識、考えや希望などをより多く引き出し、整理するやり方を採用しているからだ。
「シノブさん、誘拐とは限らねぇよ。」シゲさんの発言でメイドさんの名前が判った。
シノブさんは黒に見える紺色の髪を肩までにしているヘッドドレスが良く似合うメイドさんなのだが、暴力的な胸がメイド服を大きく押し上げており、シゲさんも困っているらしい。目のやり場にね。
「謀殺という線もありますね。どのような思惑があってかは判りませんが。」
サチさんは殺されているのでは?と考えているようだ。
得られた情報からではいかようにも想像できるが、連絡が付かないこととこの街の屋敷にも連絡が取れていないことから、良くないことになっていることだけは間違いないだろう。
それからもメイドさんたちの考えやアンニさんの意見、メンバーの想像などを加えながら可能性をいくつかに絞って行くことになった。
真っ先に疑うは誘拐。身代金の要求などがないことから怨恨の類とも考えられる。
この場合には未だ生存しているか、すでに亡くなっているか両面を考慮する。
できれば生きていてほしいが、理由によっては遺品だけでも回収したい。
謀殺。この場合はもちろん怨恨が原因だろうと思うが、その根っこを探ることになるだろう。ことと次第によっては謀反やよからぬ企みにつながっている可能性もある。
考えたくはないが、公爵自身による謀反。これだって可能性としてはゼロではない。
このふた月の間にもそのたくらみが進行している可能性もあるのだ。
大まかにこの三点に絞ってイバラキに向かうことにした。
その翌日俺たちはいつも通りに馬車を三台連ね砦門から久しぶりの外界へと躍り出た。
ウィングは旦那と一緒に久しぶりの旅で見た目からウキウキしている。
昨日は旅のための食材の調達と、アリスさんやキョウコさんのお願いで当座の重そうな食材の買い足しにつき合わされ、えらい目に遭った。
資材車両の食材庫に干物や調理済みの日持ちのするものをしまい、生鮮品は当然俺の次元断層の中に入っている。
途中調達も考慮すれば当分は心配もいらないだろう。
北東へ北東へと馬車を進めながら、片道二日程度の旅程を楽しんでいた。
夕方に久しぶりの野宿となり、いつものメンバーで夕食の準備に取り掛かる。
シノさんとサチさんがアオイさんのお使いで食材庫に干物を取りに行ってから間もなく、悲鳴が上がる。
「キャー!」
コウレイさんとタケヨシさんがバスタードソードとショートソードを帯剣し、慌てて走り出した。
資材車両から聞こえた悲鳴に慌てて駆け寄ったコウレイさんとタケヨシさんだったが、すぐにこちらに向かって両手を大きく振り、大事のないことを知らせてくれた。
驚きはしたがけが人などがいないのであれば取り敢えず問題ないな。
そう思ったのもつかの間で、シノさん、サチさんとコウレイさん、タケヨシさんのほかにまだ二人いる。馬車の陰から小さくなって出てきたのはメイド服を着た小さな二人だった。
「シロップ!、アニエス!どうしてここに居る?」
「すみません。すみません。私たち、奥様のお側に居たくて黙ってついてきてしまいました。申し訳ありません。」
シロップとアニエスはひたすらに頭を下げ続け、フィアやチカゲさんのような小さな子でも一緒に行けるのなら自分たちもフィアの世話をするために一緒に行けるのではないかと考えたというのだ。
これまでの旅で、チカゲさんが危険な目に遭ったことは確かにないが、フィアはいつも最前線だ。巨人やアイアメリカの艦砲射撃のある中にいたのだ。
叱るのも違うと思い、とりあえず夕食の手伝いをさせ、15人になったが食卓を囲んだ。
メイドだけあって自分たちを後回しにしてみんなの世話を焼こうとするが、ここは屋敷とは違いそれぞれのタイミングを合わせなければならない。
「シロップ、アニエス、給仕はいいから一緒に食べなさい。屋敷とは違って後から二人が食べる時間なんてないぞ。
外に出てしまえばお前たちも冒険者だ。食事、睡眠、入浴、すべて一緒に行うんだ。
ここまで来てしまったから仕方がないが、みんなの言う事をちゃんと聞いて規律を守るように。いいな。」
「はい。」
「はい、わかりました。」
屋敷にいらっしゃる時よりうんと怖いね。なんて小さな声で言ってるが、聞こえてるんだよ。
「シロップさん、アニエスさん、公爵は旅に出てしまえばサチさん、コウレイさん、タケヨシさん以外の戦えない仲間を守らなきゃいけないんだ。これまでにもクノエで1000体、2000体と襲い来る巨人たちに向かって生身でフィアさんと一緒に向かっていかれたし、巨人に襲われて戦えない人が散々殺されたんだよ。
ここには巨人なんていないけど、危険が近づけば僕たちなんて簡単に死んでしまう。そうならないためにフィアさんもソウタさんも何日も眠らずに戦い続けたりしたんだ。
今回陛下に依頼された調査も実際に危険があるかは判らないし、こうした旅の途中だって盗賊に襲われたりもするし、それで死んじゃう人もいるんだよ。
誤解しないでほしいんだけど、公爵様は怖いんじゃなくて、自分に対しても厳しくしていらっしゃるんだ。」
イクオ君も屋敷に居る時とは違ってふざけたりなどしていない。
真剣な話を聞いて、自分たちの甘さを知ったらしく可哀想なほどに小さくなっていた。
「ふたりとも、私のことを気遣ってくれてありがとうございます。毎朝だらしないのできっと心配してくれたんだと思います。みなさん、シロップちゃんとアニエスちゃんのこと、よろしくお願いします。」
最後にフィアが締めて反省会は終了となった。
二人にも外の世界や俺たちの仕事を見てもらえば、帰ってから良いメイドになるだろう。
和気あいあいと食事になり、どうやって潜り込んだかとか根掘り葉掘り聞かれ、恐縮しながらも楽しげにみんなと食事を食べてくれていた。
後片付けにも積極的に二人は参加し、資材用の馬車でフィアと共に入浴してから眠りについたようだ。
生活用の馬車は15室の狭いながら個室と調理スペースがある。
資材用の馬車はレネゲイドのメンテナンス機材と消耗品などが収められるほかにバスルームも完備しており、浴室は意外と広いのが自慢だ。3人くらいなら余裕でくつろげる。
夜も更けるころ、歩哨に立っているレネゲイドから呼び出される。
フィアはすでに二回戦をこなして大満足でお休みだ。
俺と同じくレネゲイドから感応波通信が入っているのだろうが、一度寝てしまったフィアには届かないだろう。
報告内容はメイドの二人が俺たちの馬車に近づいているという報告だったので、フィアを俺の上から降ろし、夜着を着なおした。大概は俺も裸だからね。
馬車の扉が控えめにノックされ、俺は扉を開けて馬車から出た。
「どうしたの?もう寝てるはずの時間だよ。」
「はい、あのう後からになって私たち、ご主人様や皆さんに大変なご迷惑をお掛けしてるってわかって、どうしたらいいのか判らないんです。
貴族様のご迷惑になるメイドなんてきっと要らないんじゃないかって思って・・・それで・・・二人で話してもどうしようって。」
「・・・それで、夜伽でもしたら少しはお怒りを治めていただけるのではないかと思ったんです。ご主人様にはご迷惑かもしれませんが、そんなんじゃダメでしょうか。」
シロップとアニエスは二人で相当ビビっていたのだろう。
やってしまったことが後から怖くなって、クビになるかもしれないと。
体で許してもらえないかという事らしい。可愛い二人を貰えるとか嬉しい話ではあるが、俺はそんな貴族ではないしな。
「シロップは生娘なのか?」
俺の質問に暗闇でもわかるほどに真っ赤になっている。
「はい・・・その、殿方との経験はありません。」
「アニエスは?」
可愛そうなほどに真っ赤だな。
「え!?わ、私も経験なんてありません。」
「それなのに俺に抱かれようって思ったの?」
「でも、それしか思いつかなかったんです。他のお屋敷でそうして許してもらったっていう友達もいたので。」
そんな貴族が居たのかよ。ため息しか出なかった。
「いいかい、俺はその家の貴族のように二人を抱いたからと言って特別扱いはできない。だから二人を抱くこともしないし、クビにするなんてこともしない。
確かに二人のやったことは良いことではないよ。でも、自分たちの考えで行動してそれが必要だと思ったんだろう?フィアの世話を焼いてくれるんだろ?だったら帰るまで必ず俺がシロップもアニエスも守り通して、元気に連れ帰ってやるよ。
ビックリはしたけど怒ってはいない。だから余計な心配なんてしないでちゃんと休んで明日の朝また、面倒な俺の妻の着替えを手伝ってくれよ。
二人の大事なものは、お嫁さんになるまでちゃんと大事にしないとダメだからな。
屋敷でも一緒だ。お前たちが何か失敗してもどこで失敗してもそんな手段は俺は許さないからな。
念を押すぞ。二人以外にも俺の家の家族はどこの貴族にどんな迷惑をかけたとしてもその手段だけは絶対に許さない。常に俺に相談だ。いいね?」
「は、はい!」
「はい、ありがとうございます。」
二人で手を取り合って喜んでいる。
「さぁ、布団に帰ってお休みしなさい。ああ、わざわざ言いに来てくれてありがとうな。あんまりにも魅力的な申し出に断るのが大変だったぞ。」
それを聞いて真っ赤になった二人はきゃいきゃい言いながら生活用の馬車に帰って行った。
空を見上げると星が出ていた。明日も移動にはいい天気だな。
レネゲイドを見ると眠っているように見えるが、時々目がアイスブルーに瞬いている。
周辺警戒を続けてくれているのだろう。
「レネゲイド、助かったよ礼を言う。」
「了解です。」
この季節はまだまだ夜が寒い。
急いで馬車に戻ってフィアを載せて寝てしまおう。
馬車のタラップを駆け上がり、扉を閉めるとフィアと目が合った。
「・・・どうした?」
「お楽しみでしたか?」
「バカなことを言わないでくれ。」
「そんなこと判りません!シロップちゃんもアニエスちゃんもとても可愛いですから、ソウタさんがグラッと来るかもしれないじゃないですか。」
「それはどうやって証明したらいいんだよ。トホホだよ。」
「今から三回戦目です!」
「おう!任せろ。四回戦も保証してやる!」
「キャー♪」
フィアのオムネから懐柔してしまおう。
「あ、ああ、んんん。」
明日は俺も寝坊しそうだ。
諸外国の貴族が華やかに暮らしていたころと言うのは、メイドさんたちはどのようなことを考えながらお仕事してたのかな。なんて考えながら今話を書いていました。
決してこんなメイドさんたちがいたとは思いませんが、貴族つっても相手がソウタですからね。こんなものではなかったのでしょうか。




