表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
成り上がり貴族の章
44/161

【第44話】国貴族

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

正月休み中、最後のUPになると思われます。

 特に大きな失敗はしてないと思うが、どうにか終われた。

 控室に引き上げ、ソファーに倒れ込んだよ。

 大きなため息をつくと隣にフィアがポテンと腰を下ろしてくる。

 「ドキドキしましたね。」

 「嬢ちゃん、こんな経験はもう一生したくねぇもんだな。ソウタによ~く言っといてくれ。」

 「なんで俺に直接言わないんですか。」

 「おめぇに言っても、また直ぐにあるような気がしていけねえ。」

 「ホントそうですよね。」

 「そんなご無体な。」

 「失礼いたします。」

 ザ・執事さんが控室にやってこられた。

 「このたび公爵様になられまして、おめでとうございます。今後は神国のためにひとかどならぬご尽力を賜りますようにお願いを申し上げます。」

 「先ほどですね、親王様より領地貴族ではないとお聞きいたしました。国貴族と領地貴族の差と言うのは何でしょうか。」

 「はい、後日いろいろと聞いていただこうかと思っておりましたが、良い機会ですので聞いていただきます。

 まずは領地貴族です。彼らは親王陛下に叙任を受けたのち、ご自身が拝領するまたは承継する(相続する)領地に戻りまして運営を行います。その際に近親者などに部分部分を任せるなどして実績を上げさせ、下位の貴族として徴用することもあります。

 領地貴族が叙任できるのは準男爵、男爵までで、男爵までの爵位は一代限りの爵位として扱われ、そのお子に爵位を相続させることはできません。領地貴族に序せられるためには子爵以上に序せられる必要があり、子爵以上は世襲することができます。

 ただし、二代までの世襲は認められておらず、お子の代に伯爵位に昇爵されない場合には廃嫡貴族となります。

 他にも叙任はされたものの、国貴族として認められない程度の功績だった場合には”寄り子”としてどちらかの領地貴族に雇い入れてもらうこともできます。この際にも子爵以上でない場合には世襲させることができません。

 続いて国貴族ですが、親王陛下に叙任される際に公爵または侯爵である必要があります。さらに親王陛下に特別にお役目を申しつけられており、その任に着くものだけが国貴族と言われる貴族様方です。

 軍を運営する方や国政に関わる方がほとんどで、特殊な任に着いていらっしゃる方とご理解ください。国貴族の皆さまはそれぞれの地元に本宅を。こちらに別宅をお持ちになられ、親王陛下へのご報告などがおありの際にはこちらに参られまして、執務を摂られます。」

 「・・・・・・・」

 「あの?ヤマノベ公爵様?」

 「いえ、判ったような判らないような?」

 「追々で結構ですので、ご理解いただければ幸いです。」

 「ところで私の任ぜられました任務と言うのはどういったものなのでしょうか。」

 「さあ、私は存じませんが。旅をなさるのでは?」

 そんな任務があってたまるか。


 会場の準備が済み、再び俺たちは同じホールへと戻ることになった。

 豪華絢爛なシャンデリアが全点灯され、昼間のように明るくなっている。

 大きなテーブルがいくつか並べられ、たっぷりと刺繍の入ったテーブルクロスが上品さを演出している。ひじ掛けのついた優雅な曲線を描く脚を持った椅子がそれぞれのテーブルに20脚ほどずつ向かい合わせに並べられており、間隔も広い。

 上座の席は四席あり、両側が異様に立派な椅子となっていた。なか二席がこちらに並ぶ椅子と同じらしいので、どうにも嫌な予感がしてならない。

 誰か代わってくれないだろうか。

 ザ・執事にフィアと俺は案の定の上座へと案内された。

 フィアなんて真っ青な顔でフルフルと首を振ってる。

 ごめんな。

 向かって左にフィアがかけることになっているらしい。ザ・執事さんが椅子を引き、フィアを座らせた。

 続いて俺の椅子が引かれ、俺もその隣にかける。

 国賓が天皇陛下主催の晩餐会に招かれるパターンのやつだ。

 という事は俺の隣には親王様の奥方様が座るのだろうか。会ったこともない様な人と何を話せっちゅうんじゃ。

 フィアの隣は親王様だろう。泣きそうになってるフィアがこんな時なのに可愛い。

 シゲさんら、11人のメンバーは俺たちから見て一番左のテーブルにやはり椅子を引かれて腰かけている。

 女性陣は中に向かって。男性陣は外を向くような感じで。

 俺たちが席に着くと別の扉が開かれ、いかにも偉そうな人たちが女性をエスコートして次々と入場してくる。

 それぞれの席次が決まっているようでてんでバラバラに席に向かうのだが、執事さんたちが的確に椅子へと案内していく。さすがだ。

 テーブルと椅子の数で若干滅入っていたのだが、実際に席に着いている貴族とそのパートナーは多く見積もっても20人ほどだった。

 つまりはこの場に居る国貴族は10人という事だろうか。

 最後に入場されたのはやはり親王様で、その後ろにお妃様がいらっしゃる。

 改めてみると親王様は意外に若そうだ。40歳には届いていないかもしれない。お妃様もいいとこ30歳ほどに見える清楚なお綺麗な方だ。

 「親王陛下入場!」

 掛け声とともに全員が起立し、親王様に向き直る。俺たちも立ち上がり、入場してすぐの席へと体を向ける。

 親王様が席にかけ、続いてお妃様が着席される。最後に俺たちが席に着いて晩餐会が始まる。

 部屋の隅に立てられた衝立の向こうに楽師が何人かいるらしく、全員の着席と同時に雰囲気の言い静かな曲が流れてきた。

 少しの間曲に耳を傾けていると曲がより静かになった。

 そのタイミングで親王様が立ち上がり、口を開く。

 「みな、忙しいのに集まってくれてありがとう。今日、ここに居るヤマノベ公爵が叙任を受けてくれ、国貴族として我々と共に神国を盛り立ててくれることとなった。

 公爵は伝説の”聖銀の巨人”を駆り、クノエの巨人たちを誰もが成し得なかった巣ごと成敗し、アイアメリカの新兵器を退けるばかりでなく、海軍と空軍に新兵器の数々を授けてくれた。

 お蔭で神国は他国に対しより強力な盾と矛を得るに至ったと聞いておる。この優位は20年先を歩むに等しい価値があるという事だ。20年先にはこれらも更に先を歩んでおろうし、公爵の功績は並々ならぬものがあると評価したい。

 我が国は他国への侵略を厳に慎み、他国からの干渉は断固としてはねのける。専守防衛を貫くことを国是とし、増々の発展を遂げることができるだろう。

 では、新しい仲間を迎える喜びを分かち合おうではないか。

 さあ、みな、グラスを持て。

 乾杯!」

 「乾杯!」

 曲が数段華やかな曲調に変わり、大きく聞こえるようになってきた。

 たくさんのメイドが下手から並んで入ってきた。器用にいくつもの前菜の乗った皿を腕に乗せ配膳を行っている。

 出されるものを順番に口に運んでいるものの、このシチュエーションでは味が分からない。

 フィアを見ると親王様から話しかけられ、緊張の極致にいるようだ。

 「ヤマノベ公爵様、先に親王が申しておりました盾と矛と言うのはどのようなものなのでしょう。私、重要な席にはなかなか参加できないでおりますので見たり、聞いたりする機会が少ないんですの。

 せっかくご本人様とご一緒出来たのですから是非とも聞いてみたいのです。

 ダメでしょうか?」

 ふんわりとした雰囲気のお妃様だ。

 「はい。一つは・・・


 新兵器の話や、レネゲイドのことなどを聞かれ、話していると食べるのも忘れて夢中になって聞いていた。よほど親王様の仕事に触れる機会が少ないのか楽しそうにしておられた。

 フィアの方もフォローを入れながらだったので、なんか忙しかった記憶しか残っていない。

 その後、色々な役職についている貴族さんたちが順に挨拶に来られて同じ話を何度もすることになったのだが、名前を覚えられそうになかった。

 これはザ・執事さんにでもお願いしてカンペを作ってもらわないとヤバそうだ。

 この席で記憶に残ったのは親王様がテオバルト・フォン・ベートマン・ホルヴェークと言う名前で、お妃様がアマーリエ・フォン・ベートマン・ホルヴェークだという事と、ザ・執事さんがユンカーさんだという事だけだ。

 後は全部忘れた。


 3時間ほど歓談が続き、お開きとなった後でようやくにも解放されることとなった。

 しかしユンカーさんから、下賜された屋敷に行くために着替えが終わっても控室で待っていてくれと言われ、女性陣もいつもの衣装になって男性陣の控室に集まるまで待つことになった。

 「別世界だったよな、旨かったなぁ。」

 ハルシゲさんは大満足だったようだ。

 「私、何食べたか覚えてないわ。」「私もです。」

 アオイさんの感想にチズルさんも相槌を打つ。

 「貴族様と言うのは毎日美味しいものを食べているんですね。」

 イクオ君、それは違うと思うよ。そんなことしたらあっという間に成人病で死んじゃう。

 会食は豪華に、普段は質素を心掛けているとなんかのテレビで見た記憶がある。

 感想を述べあっているとユンカーさんが控室に入ってくる。

 「お待たせいたしました。それでは皆さん、ご一緒にどうぞ。」

 誘われるままに玄関ホールを抜け、自分たちの馬車に戻ると先頭に別の馬車が控えていた。

 「私があの馬車で先導いたしますので、皆さんは後をついてきてくださいますか。お時間にして3分ほどです。」

 言うだけ言うとユンカーさんは小型の馬車に乗り込んで自ら手綱を取った。

 俺たちがそれぞれの馬車に乗り込んだことを確かめてからゆっくりと馬車を発進させて、車宿りから来た道を帰るように暗い森を進んでいく。

 「フィア、森を抜けるだけで3分くらいかからなかったか?」

 「そうですね。そうなると随分とお城に近いところなのでしょうか。」

 そうとも取れるよな。

 なんか城の敷地を出て目の前とかだったら昼間に見た限りではデカい屋敷ばかりだった気がする。

 想像通りと思ったのだが、意表をついてお城の敷地を出てすぐに右に折れて森の外周部を少し進む。

 表通りからだと3軒奥という場所にユンカーさんの馬車が入って行った。

 後に付いてそのまま敷地に入ると、木の多い印象の広大な敷地に立派な洋館が立っていた。本当に立派な。

 「うわぁ。」

 フィアの呆れたという感嘆が聞こえる。だよなぁ。

 一体いくつ部屋があるんだろうかこの屋敷。

 デカい車宿りに馬車四台が平気で並ぶ。ユンカーさんはこの後、お城に戻るだろうが俺たちの馬車はどうしたらいいんだろうか。

 マヌケな顔で馬車に乗っていると、作業着風の男性が4人ほど駆けてきた。

 「おかえりなさいませご主人様。」

 俺に向かって言ってるの?

 箱馬車の出入り口を開け、「ささ、奥様もお疲れさまでした。」なんて言われてフィアもビックリしている。

 後ろの二台の馬車もそれぞれに人が付いて降りるのを助けている。

 敷地の入り口の門から30mは入ってきたと思う。馬車道には街灯が立ち、6台は大型の馬車でも並びそうな車宿りにつながっている。

 ユンカーさんが来て、「この者たちはヤマノベ公爵家に仕える馬番です。馬車のことはお任せしておけばよろしいでしょう。さあ、中へ。」なんて言うものだから思わず「じゃあよろしくお願いします。」なんて言ってしまい、馬番に怪訝そうに見返されてしまった。

 フィアと連れ立ってユンカーさんの後に付いて屋敷に入ると、20人ほどのメイドさんが両側に並んでいた。

 「おかえりなさいませ、ご主人様。」

 今度こそ俺たちに向けて揃った声でメイドさんが合唱された。

 そこでユンカーさんからメイド長の紹介があり、以降はメイド長に話を通しながらこの屋敷を使うようにと言われ、ユンカーさんは帰って行ってしまった。

 「メイド長を務めさせていただきますアンニと申します。なんなりとお申し付けください。」

 「はぁ、よろしくお願いします。」

 フィアと並んで頭を下げる。

 アンニさんは30代の半ばぐらいだろうか。落ち着いた雰囲気の中にもデキル感があり、頼りになりそうだ。

 ところで11人の俺たちと共に旅をした仲間たちはどんな扱いになってるんだろうか。

 ユンカーさんに聞かなきゃと思いつつ、タイミングを逃してしまっていた。

 「公爵様、奥様、私どもにお気遣いは不要です。また、丁寧は結構ですが、へりくだるような言葉遣いはおやめください。まだ若いメイドや下働きもおりますので勘違いさせてしまう場合もあります。」

 「わかりました。こちらも不慣れなのでそう言ったことについては都度、聞かせてもらえると嬉しいです。」

 「畏まりました。」

 「まずは、俺たちはどうしたらいいかな。」

 「お茶などいかがでしょうか。」

 そう言ってアンニさんに招かれ、客間に通された。

 俺とフィアの座る位置は決まっているらしく、アンニさんに教えてもらったソファーに腰を下ろした。なんかどっと疲れが出るよ。


 今後の身の振り方や扱いなんかを知りたいわけだが、これはアンニさんに相談していいことなのだろうか。

 「ええと、色々と今後のことに関して相談する方が必要なのですが、この屋敷のユンカーさんのような方はアンニさんだと理解していいのかな?」

 「そのように仰っていただけるのであれば、謹んで務めさせていただきます。」

 うやうやしくされてもやり難いのだが、本人もそれでいいと言うなら聞くことは山ほどある。

 「アンニさん、それではお時間を頂きますよ。俺とフィアはこの屋敷の主人という事でこれからもお世話になります。

 彼ら11人は今回の俺の叙任を受けてどのようになっているのでしょうね。」

 アンニさんによるとこうだ。

 彼らの所属はすでにアマクサ領軍にはなくなっており、ヤマノベ公爵家に仕える家令かれいとなっていること。俺の裁量によって準男爵ないし男爵へと取り上げて”寄り子”として貴族としての体裁を整えていくべきであるとのこと。

 ただし女性を貴族にすることができないのでその際は婿を取り、婿を貴族にするのだと言われた。どこの世界も男尊女卑の制度は残っているのだという事だろう。生きているうちにこのしきたりもどうにかしてやろう。

 「判りました。続いてですが、この屋敷について。この屋敷はどのようなお屋敷なのでしょうか。」

 「はい。この屋敷は敷地の広さでは国貴族の暮らすこの貴族街最大の広さを誇っており、前の主は親王陛下の弟君でいらっしゃる公爵様がお住まいだったものです。」

 アンニさんの話によると前にここに住んでいた公爵様は全国を旅し、見聞を広めてその情報を持ち帰る役目を果たしていたという事だ。俺たちのやっていることの延長線にあるような感じだ。乗馬や馬車の操車に必要な腕を磨くためにこんな広い土地にしたのだとか。

 おかげでレネゲイドを庭に住まわせても全然余裕がある。整備工場を建ててもどれほども狭くはならないだろう。それほどまでにこの敷地は広いのだ。

 そしてここに暮らす下働きはメイドが80名。前の主の頃から仕えている者で残ってくれている者が50名ほどと、今回新しく雇い入れた者が30名ほどいるという。馬番や力仕事用の男性が5名ほどおり、彼らはすべて妻帯者とのことだ。それぞれの奥さんはこの屋敷でメイドをしており、後は調理係が常時二人いるとのことだった。総勢87名が俺が養うべき従業員という事になる。

 加えて11名の家令の皆さん。

 彼らもこの屋敷に住むことになるという。それぞれに専属のメイドが数人付くので暮らしを整え、街と屋敷に慣れてもらわなければならないそうだ。

 「ソウタよ、お前のお蔭で本当に飽きのこねぇ人生になっちまいやがったぜ。この年寄りにもメイドが付いてくれるのかい?たまげたぜ。」

 アンニさん曰くツーマンセルとのことなので各自に二名のメイドさんが世話係として付いてくれるのだろう。

 「俺はどのような働きをして対価を得ることになるんでしょうね。この屋敷の維持とか皆さんへの給金とか、他にもお金の必要なことってあるでしょう?」

 「この屋敷は神国の所有物です。屋敷の維持にかかる経費はすべて親王陛下のご負担となりますのでご心配にはおよびません。」

 しかし、働いてくれている87名の給金と新しく家令になった11名の食い扶持は俺が稼ぎ出す必要があるとのことだった。そして仕事と言うのは諜報と監査、平定に断罪。

 諜報はその名の通り各領地の最新の情報を得て、それを中央に報告すること。

 監査は税収が正しく神国に納税されているか確かめ、または謀反などの叛意を持ったたくらみが成されていないか、領民が不遇を強要されていないかといったことまで調べ、報告することになる。

 平定とは諍いを治め、信賞必罰を与えること。ケンカなどを止めてどちらか悪い方に拳骨を。そんな感じだ。

 一番やばい仕事が断罪。俺とフィアの判断だけでどの貴族に対しても極刑までを含めた処罰をその場で言い渡すことができるというのだ。言い渡すだけではなくて執行までがその仕事に含まれており、事後で内容の報告も行わなければならない。

 「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんな好き勝手して構わないのか?」

 「もちろんでございます。公爵が悪と判断されたものはどのような処分でも受け入れなければなりません。それに逆らうという事は親王陛下に対し謀反の意ありという事と等しいという事になります。」

 「バカな。」

 「いいえ、この国も一枚岩ではありません。中にはよからぬことを謀してしまう者もいるのです。しかし、親王陛下のお身体はおひとつです。あまねくその真意を届かせるとはいかないのが実情なのです。

 であれば、ご自身の責任において代務者を立てるべきでしょうし、その任にヤマノベ公爵様が足りると判断されたのです。公爵には任せられる。そう判断されたからこそこの屋敷にお住まいになることになり、国貴族としての公爵として叙任されたのです。

 これからの公爵様の行動のその一部は、親王陛下御自身の意思も含まれているものとご理解ください。

 それからこちらがヤマノベ公爵様の公爵たる証でございます。先ほどユンカー様よりお預かりいたしました。」

 差し出されたそれは一枚のメダルだった。

 美しいミスリルとゴールドの合金だった。ミスリルとゴールドは混ざり得ない。

 しかしこのメダルは地金外周がミスリルで。内部に溶け込んだゴールドが翼を広げた蝙蝠の紋様になっている。なぜ蝙蝠?こういうのってドラゴンとかグリフォンとか見た目に強そうなやつが選ばれないか?

 「わぁ、きれいなメダルですね。あ?これってサキュバスの翼なんでしょうか?」

 なるほど、そっちか。

 俺から手渡されたメダルをキラキラの笑顔で裏返したりしながら確かめている。

 聞いていた通りの意匠が表面にレリーフとして誇らしげだ。

 対して裏面は背景に蝙蝠の羽が広げられ、手前には騎士の横からのアングルとその手前足元に箱馬車が駆ける様子が描かれている。

 僅か直径3センチほどのメダルにこの情報量とは大した技術だと思う。

 アンニさんから嬉しそうにメダルを見ているフィアに微笑ましい笑顔が見られたが、こちらに向き直られ、アドバイスを頂く。

 「明日は、この貴族街にある冒険者ギルドへこのメダルをお持ちになって下さい。冒険者カードの更新を行っていただきます。今お持ちのメダルをカードに嵌め込むために専用のカードと取り換えなければならないのです。」

 なるほど、メダルを財布に入れておくわけにもいかないしね。


 今のところ思いつく一通りについて淀みなく聞かせてくれたこのメイドさん、メイド長と言うよりかなり有能な執事と言ったところじゃないだろうか。

 夜も更けたという事でそれぞれにメイドさんと顔合わせが済み、メイドさんに連れられて部屋へと案内されていった。

 俺たちは当然と言えば当然ながら、二人一緒の扱いで良いらしく、目の前に4人のメイドさんが並んでいた。

 二人はフィアと同じぐらいの年齢のようで仲良くしてもらえるかもしれない。

 背の低い方の子は明るい茶色の髪を肩ぐらいまでにしていて元気そうだ。シロップと言うんだそうだ。

 少し背の高い方の子は濃いシルバーで肩より少し長い髪を下の方で一つにしばっている大人しそうな子はアニエスと言う名前だ。

 一人は20歳ぐらいだろうか、栗色の長い髪を三つ編みにしている上品な人だ。アリスさんと言う。

 もう一人は20代半ばぐらいのこの世界では珍しい黒髪の女性だ。

 「キョウコ=アサダと言います。よろしくお願いいたします。」

 「え?」

 周辺から音が消えた。不思議そうな表情でフィアがのぞき込んでくる。

 ”麻田恭子”なのか?

 黒髪の女性から視線が外せないでいると、アンニさんが雰囲気を察して俺たちの側へと近づいてくる。

 「このメイドがどうかなさいましたか。」

 「あ?ああ、いや知り合いかと思ったものだから驚いただけだ。顔も違うし思い違いのようだ、キョウコさんすまなかった。」

 「いえ、お騒がせして申し訳ございません。」

 上品な礼をされてフィアと俺も自室と言いうところへ連れていかれた。

 明日の朝食の時間などを伝達され、今日は解散となった。

 「フィア、なんだかえらいことになっちゃったなぁ。」

 「・・・ソウデスネ」

 「え?なんだよ、なんかあったのか?」

 フィアが、フィアが初めて見るような恐ろしい顔をしてる。

 「アサダキョウコと言うのは誰ですか?私はその人を知りませんが!」

 「そこかよ!」

 まさかの焼き餅だったことにこっちが安堵した。

 「フィア、取り敢えず落ち着いてくれるか?、今から話すことをよく聞いて安心してくれ。」

 「意味が分かりませんが?」

 「麻田恭子と言うのは俺が大学生の頃に付き合っていた女性だ。つまりは向こうの世界に居る女性で、大学の卒業と共に別れたんだ。」

 「大学とは学舎のようなところのことですか。」

 「ああそうだ。入学から四年で卒業することになっていて、大学を卒業すると社会に出て仕事をするようになる。それ以降はどこでどうしているのかも知らないし、そもそも向こうに帰ろうという気もない。

 だから安心してくれと言っているんだが、どうだろうか。」

 大きく深呼吸をしてフィアの表情が緩む。

 「じゃぁいいです。こっちの世界の話でないなら気にするのは辞めにします。」

 「心配させてすまない。こっちでそんな心配はさせないからな。」

 「はい。」

 部屋に用意されている夜着に着替えてベットに入ると、いつもよりもフィアのアタックが激しい。

 何かを払拭しようとするような、上書きしようとするような強い意志が感じられる。

 言葉では納得してくれたのだろうが、心では納得していないのだろう。

 それは多分、フィアが初めて経験する感情であり、俺の失態だ。

 本意ではなかったにしても俺は動揺を見せたし、フィアに不安を抱かせた。だからこそ、詫びるのではなくこんな些細なことも含めて受け入れてもらわなければならない。

 次に何があってもフィアにだけは心配をさせるわけにはいかない。それは俺の存在価値を問われるだろう。

 俺に跨って勢いをつけるフィアの両手を俺は片手で取り、体を入れ替えて組み敷くようにした。

 「っ!?」

 俺は無言のままフィアを愛してやる。

 フィアは表情を歪めながら辱めを受けるように身を捩っているが、それさえも構わずに体中にキスをした。

 「俺を感じろ。」

 そうとだけ呟いてフィアが怖れを抱いたような表情をしたことを無視して体を合わせた。




 「私、どうかしていたかもしれません。誰かにソウタさんを奪われるような気がして居てもたってもいられなかったんです。

 ごめんなさい。こんな気持ちになるなんて。私、ソウタさんの側に居ても迷惑じゃありませんか。」

 俺に抱かれながらそんなことを言う。そんなフィアの不安そうな表情を見ていると、何故だか判らないが涙があふれた。

 「そ、ソウタさん?どうしたんですか!私何かしましたか?」

 判ってる。

 フィアは不安だっただけだ。

 しかし、俺は違う。フィアをただ一人と決めたのに自身の過去を語らずにフィアを不安にさせた。

 「フィア、俺が物心ついてからのことを全て聞いてくれるかい。そうしなければいけないような気がするんだ。」

 フィアの朱金の瞳から一筋、涙がこぼれた。

 その涙に口づけをし、自分の一番大切なものを腕に抱きながら自分の過ごした時間のすべてを語った。

 もちろん秘密にするようなことなどなかったので、その時々の考えたことや気持ちも含めてすべてを伝えた。瞬きも忘れたようにして聞いてくれているフィアに言いようのない安堵を感じた。

 悔いるような過去もないが、今にして思えば恥ずかしいことは散々ある。

 それでもそれを言葉にしてフィアに聞いてもらうと全てが良い思い出に変わるようだった。


 随分遅くまで俺の話を聞いてくれていたが、過去との時間が埋まるにつれ安堵するようにフィアが眠ってしまった。

 この子には本当に感謝している。

 俺の生涯でこの子に出会ったことだけが一番の宝物だろうと素直に思えるのだから、今の気持ちに嘘がないようにしていきたい。

 何もかもをなくす時が来てもフィアだけは無くしたくないと思う気持ちだけで無意識に負った心の傷のすべてが温かく埋め合わされていくように感じられるのだった。


 もう少しこのオムネを堪能してから休むことにしよう。

状況説明の回が多すぎてストレスがたまります。

しかし、フィアやソウタを取り巻く環境の激変に比べれば、睡眠時間がなくなっているのとドライアイで両目が汗を垂れ流しているぐらいしか辛いこともありませんから、がんばってみました。

またおよそ週一ペースになると思いますが、更新の際はご一読くださいますようにお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ