【第40話】サヌキうどん
今年最後の投稿になります。
ゴを出立して間もなくビドウに着いた。
ここは更に東へ伸びる街道と、再び海峡を越えて別の国へと渡る分岐点に当たるのだ。
スの国。
地球で言えば瀬戸内海を越えて四国へと渡ることのできる尾道に当たる場所と思ってもらいたい。
「フィア、フセイでは旨い蕎麦を堪能したが、スの国へ行くと、この国で特別とされるうどんを食することができるんだ。」
「行きましょう。」
即決だった。
フィアにすれば蕎麦に良い思いができなかったために、うどんで挽回を図ろうというものかもしれない。
腹ペコキャラはこういう時こそチョロイ。
ビドウから渡しを利用してスの国へと上陸を目指した俺たちだったが、しまなみ海道を通らなければ馬車ではいけないと地元の港で情報を得、もう少しだけ東へ進み、しまなみ海道へと乗り込んだ。
驚くほどに整備された海道は、スの国へと至る海峡に点在する島々を結ぶように大規模な吊り橋で連結されており、海、島、山岳の風光明媚なポイントをめぐるように道が通されており、そこで暮らす人々の生活を向上させるとともに俺たちの様な旅装の連中の目も楽しませてくれた。
カポカポと馬車が吊り橋で吊られた舗装路を進んでいく。
舗装と言いつつも当然アスファルトではなくてタイルのように切り出された天然の石畳だ。
しかし、平滑な石畳は馬車の車輪を滑らかに進ませ、これが海上にあつらえられた橋だとは思えない重厚さを醸し出している。
時折デカいタコが馬車と馬を襲うために橋のうえに上がってこようとするが、ことごとくはフィアの魔法で退けられている。
たまにエイのような大型のマンタが水面を割り、空を飛ぶように襲い来るが、俺の次元断層に片端から飲み込んでいる。
タコもフィアに都合してもらいすでに10匹ほどは確保済み。こいつらは小麦粉と卵を攪拌し、野菜類と一緒に丸く焼き上げればタコ焼きになる。レネゲイドのいる次元とは別に時間から切り離された空間へと詰め込まれている。
詰め込まれてといっても空間の容量としては0.5%にも満たないので、大きな体育館の端っこに荷物がぽつんと置かれているようなものだ。
スの国と言うのは四つの国が寄り添って出来上がる連合の国で、神国の属国になるのだが冷遇されているわけではない。
元々は南方民族の住む南の方にあった大きな島国だったのだが、その昔に地殻変動により神国めがけて近づき、今の位置に留まったのだという。
それからすでに数千年経過しており、商取引が始まってから船での往来が認められ、今では橋が架けられ人の行き来に制限がなくなったことで種族が融合してしまい、国としては神国に属する形になっているが、種族的には区別などなくなっている。
この国はそうしたことにえらく寛容なようで、さらに南方のオキナワや限界地域に至るまでの種族が融合を果たしてしまっている。
過程では諍いや争いがあったらしいが、最終的に融合が進んでおり上下などないかのようだ。また魔族や獣人の類、魔獣と言った種族ともそう仲が悪いわけではなく、襲われない限りは積極的な融合が成されていったという事だった。
それとは別に純血種と言うべき、魔族や獣人もおり、それらの人達も迫害を受けているわけではないらしい。
独自の文化を形成し、周辺と溶け合う者もおり、それらが受け入れられ、この国が出来上がったのだということを海軍で聞いた。
しかし、吸血鬼やサキュバスのように種族特性があまりにも過激且つ、どの種族とでも融合できるという訳ではない種族もあり、そうした種族をもない交ぜにして出来上がっているのがこの神国と言う国なのだそうだ。
セイトから遷都され、トウトに都が移り、最上位に君臨する親王が寛容且つ柔軟に国をまとめてくれている。
橋を渡り終えるとコンチと言うところだという。
スの国から持ち出される特産品などが集まる市が立ち、街道沿いに宿場と大店が並び立ち、その隙間を埋めるように屋台も出されている。
カツオに似た大型の魚やヒラメと思われるかなりデカい魚が並べられている店では、塩をあてた保存の効く魚介類や一晩陰干ししただけの一夜干しなども見るからに旨そうだった。この店で大量のカツオやサバ、イワシなどの鮮魚と干物の類を大量に仕入れた。
大量の量が半端でなかったために店で訝しまれたが、俺の次元断層に仕舞う限りは永遠にとれたての鮮度だからね。
現代のどんな冷蔵庫にもまねできない、何年たっても取れたてですから、お店で買った直後から次元断層の中では一秒だって経過しちゃいない。
カツオのたたきを一年中、シーズン無視で楽しめそうだ。
続いて目に留まったのはコンチから南西にあるというイーヨ特産の大きなミカンだ。
甘夏や八朔のような大きなミカンが特産という事で、様々な種類の柑橘類が山盛りに積まれた屋台が目に留まった。
そのまま食べてもいいのだが、サラダや肉料理のソースに使えそうな酸味の強い物も選んでこれも大量に購入した。
具体的に言うと屋台に並べられている柑橘類を全部だ。
屋台の親爺さんが顎を外すほどに驚いていたが、目の前で次元断層に仕舞うと、顎が外れていた。
こんなもの普通に馬車に積んだら壊れちゃうんだもの。
そのほかにも塩や旨み調味料のような粉末も手に入れることができたし、南方の特産品と言う砂糖もかなり大量に入手できた。
クノエの特産物も入手でき、やたらとデカい大根や薄い乳白色に肌理の細かい小麦粉なども手に入れることができた。
スの国に穀倉地帯はないのだが、クノエから相当量が仕入れられているそうで、相当量を入手してやった。
普通なら行商の馬車や、輸送部隊が荷車を連ねるような量を購入し、次元断層にそのまま飲み込んでやると目の前から30kg位の小麦粉の紙俵が1000個ほど一度に消えて、手元に残った代金を取り落とすほどに小麦商人は驚いてくれた。
ここで手に入れることができた食材は俺たちの旅の途中で、時々に良い仕事をしてくれるだろうが、小麦粉や米と言った主食に用いるようなものは都度に入手するよりこんな機会に貯蔵しておきたいと旅団で相談していたので、経済活動としては正解ではないかと思う。
コンチを後にして東へスの国をショートカットする。
南へ下れば太平洋に当たる外海に出られるし、ぐるっと回るとスの国は意外にハッキリとした大陸なのだ。
神国にぶつかるばかりに大陸プレートが移動して直前で立ち止まった大陸は、内海を形成し潮の干満によって潮流も一日の中で何度か入れ替わり、激しい海流によって脂と筋肉の発達した旨い魚の豊富な漁場となっている。
爆買いに満足した俺たちは東へと移動を続けるが、特に急ぐ理由もなかったしゆっくりとしたペースで馬車を連ねて移動している。
途中のキャンプでは小麦粉を練って生地を作り、ピザや菓子パンなどにも挑戦したりと楽しかったものだ。
サチさんとシノさんが捏ねた生地が竈の中で爆発したのは原因が分からないが、俺の中では業ではないかと思うのだ。
本人たちには言えないが。
健啖家が多いこの一行は食事の準備ともなると調理に加わる者は多いのだが、それ以外にも天気が良ければ野外での食事が楽しめるようにとテーブルや椅子の類を並べる者やテーブルクロスを掛ける。食器を並べたり火を熾して焼き物をする者などと手際が良い。
お蔭で大量の食事も楽しんで食べることができるし、全員で準備や片付けも行うので連帯感も育ち、役割と言う物が自然と出来上がってくるようになる。
シゲさんだけは別格と言うか、最年長の貫禄から「座して待つ」スタイルを貫いているが、行く先々で入手した情報や物資の吟味と、通商に関しては一手に引き受け、後送を絶え間なく続けている。
巨人たちに蹂躙された荒れすさんだ土地に補給物資を送り続けるという任務を忠実にこなしてくれていることから、復興に携わる多くの人達も餓えることはないだろう。
二日ほどをかけてゆっくりとサヌキへとたどり着いた。
フィアとチズルさん、チカゲさん、アオイさんはサヌキの街が見えるころには腹の虫を合唱させており、その他の面々もそれなりに期待に胸を膨らませていた。
有名なサヌキうどんを堪能し、今後の旅へも弾みをつけたいところだ。
サヌキの街も他と同様に魔物の侵入を防ぐと同時に密輸や密入国を防ぐために国境が整備され、衛兵が門を守っていた。
これまでの国境を越える時と同様に衛兵に身分証を見せる。
衛兵たちも他の旅装の連中と同じように俺たちの身分証に目を落とす。
ビキ!
「ん?なんじゃ?」
シゲさんがおかしな音をさせた衛兵をいぶかしがる。
手に持っているのはフィアの冒険者カードだ。
冒険者カードを手に持ち、フィアの顔を見る。そして俺の方を向き、俺の冒険者カードも確かめる。
4回ほど無意味な行動を繰り返し、固まってしまった。
訝しんだのは同僚の衛兵も同じようで、スタッフや護衛のみんなに許可を与え仕事が捗っていない、固まった衛兵に檄を飛ばしている。
「おい、なにをやっている!さっさとしないか。」
「俺たちのカードに何か不都合でも?」
フィアと俺、同僚の衛兵が固まってしまって動こうとしない衛兵の手元をのぞき込む。
同僚は俺たちと一緒に冒険者カードを覗きこみ、俺たちの顔を見る。
「なんだ?手配書にも該当者はいないぞ・・・・・・」
ビキ。
固まってしまった。
今度は一度で固まってしまった。
なんかやらかしていたのか、でも手配書にはないといっていたし、みんなは通してもらえた。
この人たちの様子は何だろうか。
ツンツンと、フィアが衛兵さんをつついている。
俺も最初の衛兵さんをつついてみる。
「は?も、申し訳ございません。」
弾かれたように身をひるがえし、片膝を立てた臣下の礼を取る衛兵さん。
もう一人の衛兵さんも飛び上がるように反応し、同様に臣下の礼を取って俺たちの前に跪く。
「ちょ、な、なんですか。」
「ひゃっ?」
俺たちを前に膝を折り、深々と首を垂れる。
「ご、ご無礼をいたしました。よもや冒険者のような旅姿でお越しになられるとは思いもせず、失礼をお詫び申し上げます。」
「は?いやいや、本当にただの冒険者ですよ。誰かとお間違えでは?」
「いえ、ソウタ=ヤマノベ様。その奥方様でいらっしゃるフィア=ヤマノベ様。間違いございません。先の救国の英雄としてご活躍され、神国公爵様となられました由、間違えるはずがございません。」
「はぁ?俺たちはそんな話は聞いたことがありませんよ。」
「はっ、失礼を承知で申し上げます。敵国からの侵略戦争を制し、我が国を守る新たな盾と矛をお授けになった功績が認められ、親王様より公爵位を賜っておいでになります。しかしながら、ヤマノベ公爵様ご一行は親王様よりのご連絡をお聞きになられる前にご出立なされ、親王様より叙任をお受けになることができていないと通達が参っております。
正式にはまだ公爵様の位をお受けではございませんが、トウトで叙任されるまでも同位として扱うようにと神国すべての国に通達が参っております。
ご尊顔を知らぬこととはいえ、大変な失礼をいたしましたことを心よりお詫び申し上げます。」
「・・・・・」
フィアが無言のままこちらを向く。
いや、俺が何かしたわけじゃないだろう。咎めるような視線はやめてほしいのだが。
「あの、そのように畏まられては私たちも困ってしまいます。普通に接してはいただけませんか?」
フィアの提案によりおずおずとながら衛兵たちは立ち上がってくれた。
「俺たちはお聞きしたことは本当に、今はじめて耳にしました。大変な栄誉であることは間違いございませんが、サヌキには神国で一番うまいと言ううどんを頂きに来たのです。
いずれトウトに参りまして、親王様にはお目通りいただけることもありましょうが、今はお二人がご存知の美味しいうどんのお店をご紹介いただければ一番ありがたいと思うのです。」
衛兵越しに俺たちの旅の仲間を縋るような目で見てみる。
大概のみんなは衝撃の事実を知り、あんぐりと口を開けていた。女性陣は口を手で覆っている。
俺だって「あんぐり」だよ。いつの間にか俺は公爵になっていたらしい。
護衛が少ないと手配された50人にも及ぶ屈強の兵士たちを何とかお断りし、諦めてもらうためにフィアと俺が天変地異ともいえる魔法を放ち、レネゲイドが戦略級のバスターランチャーを空にめがけてぶっ放し、納得してもらった。
後ろに50人も引き連れる方の身になってくれ。
本当の公爵様たちはそう言ったことも日常なんだろうが、冗談のように公爵になった俺にとっては、今の仲間たちで必要十分なのだ。
しかし、解放の条件としてこのまますぐに冒険者ギルドへと行くように念を押され、そこまではどうあってもと50人の騎士たちが着いてきてしまった。
何事かと騒然とした冒険者ギルドに入ると、50人の騎士に囲まれた俺たち二人に好奇の目が向けられる。
騎士隊長が何かの書類をギルドカウンターにいた20歳くらいと思われる女性に渡した。
ハッとした表情で俺たちを見た女性は深くお辞儀をしてからダッシュで奥へと駆けていった。
このころにはギルド内に居た冒険者連中も静かに成り行きを見守るだけとなっており、剣や槍を持った冒険者の周りには警戒するように騎士たちが壁を作っていた。
5分と経たずに奥からギルドマスターと言われる顎髭も逞しい2m近い身長をした男がカウンターに現れ、カウンターを回り込んで俺たちの前へとやってきた。
そしてやはり臣下の礼。
ギルドマスターはすっと立ち上がり、再び礼を取ってくれた。
「ソウタ=ヤマノベ様、フィア=ヤマノベ様。本日は冒険者ギルドにお越しいただき誠にありがとうございます。こちらではお二方のカードの書き換えを行っていただきます。
冒険者としての実力が認められており、貴族へとなられたお二方にはミスリルの冒険者カードにお取替えいただく必要があるのです。」
冒険者カードなどのギルドカードと言われる身分証にはランクと実績に応じて材質の異なるモノが支給されるのだが、初心者には青銅の。
次に銅。鉄、銀に金。最高位に達した時にはミスリル。
冒険者としての実力と身分が認められると途中を飛ばしてミスリルになるようだ。
フィアの冒険者カードと俺の物が引き上げられ、20分ほどの時間待たされた。
その間にも出入りする冒険者は居たが、中に入ると溢れかえる騎士に驚き、中にはそのまま出て行ってしまう者たちもいた。すまん。
ギルドマスターに招かれて用談スペースへと移動し、腰を下ろす。
「ソウタ様、このたびは叙任おめでとうございます。」
「はぁ、今さっき聞いたばかりで自分にもピンと来ていないのですが、公爵という事になりました。」
「ええ、貴族社会は何かと不自由を感じられるかもしれませんが、ソウタ様には一刻も早くトウトへ赴いていただき、親王様より叙任を受けていただきたいものです。
功績高く、叙任される冒険者が輩出されますと多くの冒険者にとっても良い刺激になります。
ソウタ様は叙任後にも冒険者をお続けになられるのでしょうか。」
「いや、先のことは良く判らないのですが、俺は今の生活がとても気に入ってまして、貴族らしい生活と言うのはできそうにないのです。
このフィアと楽しく旅ができて、今は旅の仲間も大勢いますし終着点も決めております。そこには二人で住むための終の棲家もありますから神国を一回りするまではきっと、今まで通りの冒険者だと思います。」
何気なくフィアの肩に手を置いてみると、トンとフィアの頭が俺の肩に乗せられた。
その様子を見ていたギルドマスターは目を細めて微笑んでいる。
「サキュバスと契約を交わす理由は様々あると聞きます。お二人のように添い遂げる冒険者も多いと聞きますが、こうして拝見しておりますとなるほどよくその気持ちが判りますな。私も若いうちにサキュバスと出会う機会があればと思わずにはいられませんな。
フィア様は本当にお美しくいらっしゃる。
貴族の皆さま方がお集まりになる場所にお出になられましてもきっと、一番輝いておられることでしょう。」
キョトンとした顔をしていたフィアだったが、社交界デビューがあると思いいたったのか褒められて赤かった顔が急転し、真っ青になっていた。
不安げにこちらを見上げるフィアの頭をワシワシと撫でて、微笑んでやる。
「ご愁傷様だな。」
「ええ?ソウタさん、助けてくれないんですか?」
「いやいや叙任するときに最低一回はドレスアップしないといけないだろ?パーティーとかしないにしてもこのかっこじゃ親王様の前にはいけないよ。」
「そ、そ、そうですね。パーティーはなしでもいいんですよね?」
「フィア様、旦那様はただ貴族の序列に加わったわけではございません。国が無くなるという国難をフィア様と共にお救いになられたのです。それだけの功績を治められての叙任であり、公爵と言う貴族最高位なのです。
フィア様には大変かもしれませんが、公爵夫人としてお披露目のパーティーに出ていただかなくてはならないでしょうな。」
愕然とした表情のフィアも面白い。
俺は元の世界での仕事柄、何某かの集まりとか、パーティーに出ることも多かったし、いつもは雲の上に居る社長や役員と大きな仕事の時には同席することもあったので、それなりにマナーはできていると思う。こちらに来てからは普段は手づかみだが。
「フィア、トウトに着くまでにまだ時間はあるよ。基本的なところは俺が教えてやれるし、女性独特のマナーはシノさんに聞くといいだろう。こんな機会なんてそうそうあるもんじゃないんだから楽しんでいこう。」
「そうでしょうか?」
不安げな表情がぬぐえないフィアの頭を撫でていたら、受付に居た女性がトレーをもってやってきた。
「おお、できたようですな。お待たせいたしました。これがソウタ様とフィア様の新しい冒険者カードです。」
差し出されたカードを受け取る。
銀より白っぽい色合いのカードにはランクを示すSと言う彫金と名前。どういう技術でプリントされているのか判らないが俺の顔が刷り込まれている。
銀行のカードや運転免許ぐらいの大きさに結構な技術だ。
フィアのカードにもランクSと名前の彫金。
ちゃんとファーストネームが加えられ「フィア=ヤマノベ」となっている。
たった今まで不安そうな表情をしていたのに、ファーストネームが付いたカードを眺めながらご満悦である。
ニヨニヨと頬のあたりが隠しきれない気持ちを現して動いている。
「ゴールドランクとミスリルランクは3年ごとに更新することが義務付けられています。その他の詳細な決まりごとはこちらの冊子にまとめられておりますので、一度お目通しください。本日は、このギルドにお越しいただき、誠にありがとうございます。
お会いできて本当に嬉しゅうございました。」
「ああ、ありがとうございます。」
革ひもに通されたカードを首から吊るし、フィアにも掛けてやる。
フィアが自分の名前のところをひと撫でして胸にしまう姿に微笑んでしまった。
手をつないで立ち上がり、改めて周りを取り囲む騎士たちにびっくりした。
そうだ、50人からの騎士たちが護衛についてきてるんだった。思い出したが、今更つないだ手を離すのも不自然だろうか。
みんなの元に戻り、本日の宿を目指す。
国境の衛兵に紹介してもらったうどん屋を目指すはずが、冒険者ギルドに連行されたおかげで時間が中途になった。加えて領軍がサヌキの地に居る間に野宿はやめてくれと懇願するモノだから、仕方なく夕暮れ前に宿を探すことになったのだ。
そうでもしなければまた、50人からの護衛が付いてくるというので仕方ないのだ。
このパーティーに何かしようなんて考えても、無駄だと思うのだが。
サヌキの街中にある大きめの宿に部屋を取り、比較的大きな部屋に集まって、今後の対応について協議することになった。
「ソウタ殿が公爵になっていたとは驚きましたな。」
「ちげぇねえぜ。ソウタだってそんなことを考えてやったわけじゃねえだろうし、面倒になりやがった。」
言いながらシゲさんは徳利からお猪口にお酒を注ぎ、ぐいっとあおる。
口火を切ったのはキヨシゲさんだが、その後は口々にその驚きを語る。
Sランクの冒険者カードを回し見ながら、話題にされる。
「フィアちゃんも偉くなっちゃったのよね。」
チズルさんはフィアを抱っこしたまま言っているが、そのヌイグルミ、一応公爵夫人ですからね。可愛いから気持ちは分かる。
チズルさんがフィアを抱っこしている姿はよく見るから。
「護衛は私たち三人だけでいいのでしょうか。国軍ではないですし、アマクサの領軍が特別に懇意にしているように見えると他の領地を治める方々が面白くないかもしれません。」
サチさんの懸念ももっともかもしれないが、旅の始まりから考えればどうと言うこともないように思うのだが、それでもそうは思わない領主と言うのもいるのかもしれない。
「構うことはないんじゃないか?ソウタが侯爵だって喧伝して旅してる訳じゃなし、聞かれた時に事情を話せばいいくらいに思っとけばさ。」
ハルシゲさんの意見ももっともだ。
イクオ君が手を上げて発言の許可を求める。
「あのう、言いにくいんですけど、皆さんが気安くソウタ様のことを呼び捨てにしていらっしゃることの方が当面の問題だと思うのですが、アオイさんがフィアさんを抱えていらっしゃるのも公爵様と公爵夫人にしていいことではないと思うのです。」
「「「あ。」」」
ほとんど全員、俺も含めてだが、全く気が付かなかった。
「しかたねぇだろうが?何を今更だ。」
「ムリ。」
「絶対無理!」
「だって可愛いんだもん。」
「ちょっとムリっぽいかな。」
「いやよ、今からなんて。」
「まぁムリだな。」
「私も今まで通りで。」
「うん、無理はやめようよ。」
「できそうにないですな。」
ええ、そうでしょうとも。無理はいけませんよね。
ハラハラした表情で俺の表情を伺うイクオ君。
「イクオ君、今まで通りで良いんじゃないかな。急に改まってもやることは変わらないわけだし、こっちも畏まられても普段からやりにくいよ。」
「はい。そうですね。私も今まで通りにしていただけた方が嬉しいです。」
「そんなんでいいのでしょうか。」
イクオ君は釈然としていないようだが、俺たちとしてはこの一行で移動し始めたのが先で公爵になったのが後だからね。チームワークという事を考えても今まで通りにしてもらえる方がかえって気が楽と言う物だ。
「いいか、人の目があるところじゃ、それなりにしとくんだぞ。でねぇと、こっちのお館様の立場が危なくならぁな。」
最後にシゲさんがそう言って締めくくり、打ち合わせは終了となった。
その後に大食堂へと移動し、この宿自慢と言う海鮮の数々を堪能した。
紹介してもらったお店ではまだうどんを食べていないが、この宿でもうどんが出た。
たまらない歯ごたえとあっさりしたスープに大満足だった。
フィアは具のない素うどんに首をかしげていたが、少しのスープに生卵を解き入れて食べたうどんは衝撃的に美味しかったらしい。
寝室に戻り、二人でベットに腰を下ろした。
「なんだか大変なことになっちゃいましたね。私が貴族の仲間入りなんてまったく実感が沸かないというか別世界のような。」
「ああ、本当だな。向こうの世界に居た時から特別なことなんて何もなかったよ。フィア、大変かもしれないがこれからもよろしく頼む。」
「何言ってるんですか?ソウタさんが大変なのは私が迷惑をかけるからで、私はいつもとても幸せです。」
ぴったりと寄り添うフィアにはやはり、感謝してしまうな。
細い肩を抱き寄せて唇を奪う。
「ん。」
完全に身を任せてくる。
そのままベットに横にして、覆いかぶさるようにフィアを抱きしめる。
「あ、んん。」
お互いの気持ちが昂ってくるのが判る。
キスの雨を降らせながら、しっかり育成が進んでいるおムネを確かめるとフィアが気持ちよさそうに身を捩る。
サヌキうどんの前にしっかりとフィアを頂き、そう言えば歳暮れなんだなと思い当たる。
こちらの世界では新年を祝うという風習はないが、年が明けても楽しく旅ができればと願わずにはいられない。
俺の腕の中で余韻に浸っているフィアを抱きしめ、髪を撫でると潤んだ瞳で見つめてきた。
「可愛いなぁ。」
「あ、うん?あ、あ、ん。」
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
お蔭さまでここまで走ってこられました。
来年も糖分多めで歯の浮きそうな冒険にお付き合いいただければ幸いです。
皆様、良いお年をお迎えください。
次回投稿は1月1日0時に投稿予約してあります。
ありがとうございます。




