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【第38話】海戦

お読みいただいているすべての読者様に感謝いたします。

お蔭さまで7000PVをあっという間に突破です。叱咤激励をお待ちしております。

SFモード、まだ続いてます。

 怒涛の、まさに怒涛の三か月だった。

 海軍に身を寄せ、俺がぶち上げた対抗策を実現するためにものすごい人数が動員されていた。

 敵性勢力の潜水艦を探知するためのMAD(磁気探査装置)開発に200人からの技術者が。海中に潜むであろう潜水艦を炙り出すためのソナー開発には400人以上の技術者と作業者が。

 乾坤一擲の敵戦力殲滅のために三式弾を開発するためには300人を上回る研究の徒と、それを助けるための作業者が動員されている。

 それぞれの分野で昼夜を問わず検証実験と実現のためのプロセスの構築が行われ、製品化のための努力が払われた。

 先陣を切って実用化されたMAD(Magnetic Anomary Detector)は、ソナーや発電装置などに転用が期待されるコイルコアと呼ばれる磁性鋼板を生み出すに至った。

 ごく薄い鉄板の裏表に磁性体がコーティングされたそれは、表面は電気を通さず、磁力だけは良く通すことができる性質を持ったかなり特殊な鉄の板だ。

 これを同じ形にくり抜き、100枚以上も重ねることで一つの塊を作る。

 インシュレーターと言う電気を通さない材質(木や乾燥させた粘土。現代ではプラスティック樹脂)で包み、その外側には純度の高い銅を引き延ばした電線で巻き上げる。

 同じものをいくつも作り、丸く円筒状に並べるとコイルが出来上がり、空いた中心部分で磁石を回転させると発電する。

 コイルにレネゲイドから電気を流すと中心軸の磁石が回り出し、モーターになる。

 平面上にコイルを並べ、それぞれに流れる電気の量を測ると近くにある磁石に反応して電気の良く流れるコイルと他と比べて少ない電気しか流れないコイルがあることが判った。

 これを応用することで地磁気の連続性を乱す存在を探知することができる。

 すなわち、海中に潜む潜水艦を発見することができるのだ。

 潜水艦は自然界にない鉄の塊であり、駆動方式がどうであれ、その質量を支えるために使われる金属が地磁気を歪め、肉眼では見えないはずの隠密性が失われる。

 これが技術のブレイクスルーとなり、ソナーもほとんど同時期に開発された。

 非常に強い音圧で海中に衝撃を放つと、ことごとくが海中の地形に跳ね返り、薄い紙で作られた聴音器の表面を震わせる。

 振るえる紙の裏側に仕込まれた磁石がコイルの中心で振動することにより、電気が発生する。多角的にこれらを測定することで海底の地形を視覚化することに成功した。

 すると、水中に漂う潜水艦などが再現された地形図の中で浮き上がって見えることが判った。

 こうしてMADとソナーが実用化され、日々進化を続けた。

 その間にも火薬の改良と弾芯の小型化が進められ、一度の破裂で非常に多くの弾芯が飛び散る仕組みにも目処が立った。

 「調定」と言われる破裂するタイミングを計るタイマーのような仕組みも開発され、三点測量という古来よりの測量技術を転用した「測距儀」と合わせて狙うべき敵の直前で弾頭を破裂させる仕組みも確立された。

 ソナーの改良により、海中の潜水艦が海面からどのくらいの深さに居るかが判るようになり、調停の技術を応用した爆雷深度の設定ができるようになった。

 海中の潜水艦を発見するはおろか、これに対し攻撃を行う手段も得ることができ、爆裂魔石に調停により任意の深度で破裂信号を発することができるようになったのだ。

 それぞれの開発が相互に刺激をもたらすことによって、飛躍的に性能を高めると共に実戦までの開発期間を短縮した。




 様々な検証を行う事さらに三か月。

 すべての駆逐艦にソナーと爆雷が装備され、潜水艦を発見して攻撃する手段が備わった。

 すべての戦艦の主砲が46センチの口径に統一され、三式弾が発射可能となった。

 加えて口径を揃えることで作る砲弾の大きさが揃ったため、徹甲弾や榴弾の量産性も高められ、安価に大量の砲弾が製作可能となった。

 そして空軍から借り受けた飛龍の哨戒部隊60機すべてにMADが装備された。

 MADは円筒状の1mほどの筒の中に納められ、飛行する飛龍の二本目の尻尾のように装備された。これをぶら下げて飛行する飛龍には海中に没している潜水艦が地磁気の乱れとして見えるようになり、繰り返し上空をあらゆる角度で横断することで正確な位置や進行方向・速度が特定できるようになる。

 飛龍の搭乗者が測定結果から調停を行い投下した、爆裂魔石を内蔵した爆雷が正確に潜水艦の側近くで破裂し、潜水艦に深刻なダメージを与えることができる。

 最悪は船体外殻に亀裂を生み、浸水した潜水艦が轟沈となる。

 そうでなくても飛龍の行動により、ソナーが正確な位置を把握し、より強力な爆雷を降り注がせ、壊滅的なダメージを与えることができるようになる。

 アイアメリカと異なり、空母は建造されなかったが軽巡洋艦や重巡洋艦にフライトデッキが設けられ、1~3頭の飛龍が巡洋艦に載せられることになった。

 空母と異なり、戦力としては飛龍の効果は定かではなかったが、潜水艦を狩るシーウルフハンターとしてはどの艦隊にも必ず配属されている駆逐艦から放たれる飛龍が監視網を敷き、狩り出された潜水艦は群がる駆逐艦に喰い尽くされることになるだろう。

 すべてのテクノロジーが実戦配備され、アイアメリカとの静かなる抗争サイレントサービスが開始された。

 これまでの半年にさらに4艦隊が殲滅され、延べ8艦隊、48隻もの艦船が海の藻屑となっていた。

 しかし、我が国の海軍もただ被害を被るだけでなく、潜水艦の潜望鏡を探し続け、シーウルフ5匹を屠って見せた。

 真の反撃はこれからである。

 貴重な夏を無為に過ごし(開発に没頭し)、初秋を迎えるころに周辺海域の掃討が始まった。

 来る日も来る日も炙り出された潜水艦が狩られ、どれだけの勢力が潜り込んでいたのかと震撼たらしめた。

 しかし、掃討戦が始まって一週間と経たずにMADに反応がなくなった。

 戦果としては十分なものがあったのだが、俺たちは前線へ赴いては居ないので実感を伴っていないのかもしれない。

 捜索の現場に立ち会わせてくれるというので、重巡洋艦を旗艦とした艦隊と戦艦が二隻からなる打撃艦隊が合同で潜水艦狩りを行う場所へと向かった。

 乗艦は二隻の戦艦の内の旗艦旗を掲げる弩級戦艦だ。

 全長は300m近く、全幅も40mはあるだろう。戦艦大和を彷彿とさせる巨艦であり、艦橋を始めとする構造物も高く、鉄の威圧感が半端ない。

 前甲板に二連装の46センチ主砲が二基。後甲板にも二基、それを補うように左右の甲板に46センチ砲を単装で装備した副砲が配置されている。

 司令長官の指示の元に改修された戦艦は副砲まで統一されており、恐ろしいまでの攻撃力を有しているようだ。

 随伴艦であるもう一方の戦艦も全長で260mはあり、後甲板の主砲が一基少ないだけで似たようなシルエットを持った戦艦だ。周辺には軽巡洋艦が二隻と駆逐艦が二隻。

 重巡洋艦を旗艦とする艦隊には軽巡洋艦が二隻と駆逐艦が三隻随伴している。この国の艦隊は6隻編成が一般的なようだ。これもあのゲームを思い起こさせて俺だけが興奮している。

 「ソウタさん、あちらの空に見えるものは飛龍ではありませんか?」

 フィアの指さす方を見ると4頭の飛龍が広く散開し、それぞれが円を描くように舞っているのが見えた。

 「MADを使って潜水艦を探しているんだろう。尻尾が二本あるように見えるだろ?」

 時折だが、コーンと言う船を叩くような僅かな音と共に振動が足元に伝わる。

 これは駆逐艦の放つソナー音波だろう。海底を探る音波と上空からのMADによる監視によって相当に広い範囲が監視されているようだ。

 やはり成果は無いようで、爆雷が発射されている姿は見かけない。しかし、アイアメリカと我が国が宣戦布告して戦争に突入しているわけではないので、どちらかが降伏して戦闘が終結するという訳ではないため、引きどころが判らないのと、まだ潜水艦が存在しているのかもう存在しないのか見えないが故に辞めるわけにいかないというところだろうか。

 北華は打撃を被ってからと言うもの全く近づきもしないようで、目下のところは様子見を決め込んでいるらしい。

 しかし、こちら側の装備が潜水艦騒ぎのお蔭で異常に発達してしまい、もはや北華の艦艇群など笹船のようなものだ。隔世の感がある戦力差に太刀打ちなどできないだろう。

 実際問題、ヒマでしようがないのだが、平和であることに異を唱えるなどどれほどの非国民かと言いう事だ。

 広範囲に展開していた飛龍の哨戒部隊も自分の艦に戻ったようで、時々聞こえてくるソナーの音以外に変化がなくなってしまった。

 各艦は白波を蹴立て、哨戒任務に従事しているのは間違いないのだが、やっぱりヒマなのだ。船酔いもせずにあちらこちらと眺めて回っているフィアは楽しそうだが、少しばかり小腹が空いてきた。

 「フィア、食堂に行かないか?」

 「もちょっとこの景色を眺めませんか?ほら、遠くに飛龍がいっぱいいますよ?」

 「え?」

 そんなはずはない。さっきまで哨戒任務に就いていた飛龍たちはそれぞれの所属する艦に戻っているはずだ。

 ましてやいっぱいって?疑問形を表情に貼り付けた俺はフィアを見返したのだが、と、同時に警報が鳴り響いた。

 「各員に通達!左舷10時方向より敵性勢力の侵攻を確認、飛龍と思われる攻撃部隊が接近中。敵攻撃部隊はその数およそ1600。対空防御態勢に移行。

 左舷、砲撃戦用意!各砲、三式弾装填用意。」

 艦内に通達が出され、緊張感が高まる。フィアが見つけた飛龍の大群は敵空母から出撃した攻撃部隊のようだ。

 彼方に見える雲霞うんかのような黒いかすみは1600頭を超える飛龍の攻撃部隊だという。

 雷撃部隊、爆撃部隊とそれを護衛する戦闘部隊がいるのだろうか?

 機関音が響き、主砲や副砲が砲塔を旋回させる。

 仰角を合わせるためにさらに砲自身が上下角を合わせ始め、怒声が響き渡っている。

 敵の飛龍攻撃部隊との距離が測られ、砲身の上下角が更に調整され、ベルが響き渡った。

 一息の間があったと思うのだが、その後に砲声が響き渡った。

 「み、耳が?」

 46センチ砲の一斉射撃によって俺の耳と、フィアの耳が潰される!

 「きゃぁ!」

 腹に響くというよりも体全体が振動するようだ。大きく揺さぶられ、放たれた三式弾を見送ると、放物線を描きつつ虚空へと吸い込まれるように光弾が小さくなっていくのが見えた。

 数瞬を置いて、すだれ状に光が放たれ、様々な角度にわかれた鱗粉の燃えカスとでも表現するのが正しいのだろうか、単なる弾体ではない46センチ砲弾が飛龍を襲った。

 遅れて破裂音が響き、放射状に広がった三式弾の拡散する光が敵の飛龍を覆い尽くしてしまった。

 蒼穹が光に満ち、尾を引く光の微粒子がその明度を失ったころには青い空をシミのように汚していた飛龍が居なくなっていた。

 焼ドラゴンさえも残さず大気中の飛龍全てを飲みこんだ光の奔流は、水平線の彼方まで見渡す限りの異物を取り除いた空を俺たちの視界に届けてくれた。

 「警戒状態を解除。警戒状態を解除。敵性勢力の飛行物体は殲滅された。本館に乗艦する聖銀の巨人の操縦者であるソウタ殿のご健闘により、三式弾は1600頭の飛龍部隊を一頭残さず平らげることができた。

 以降の戦闘においても、ソウタ殿の功績を汚すことがないようにより一層の奮闘を期待する。今次警戒態勢は解除された。引き続き、水中及び空中の警戒態勢を厳とせよ。」

 聞こえの悪いスピーカーから警戒態勢を解く放送が流れ、追撃戦が発令された。

 「敵航空母艦を拿捕する。重巡部隊は先行しアイアメリカの艦艇群に先回りし、退路を断つように。わが、戦闘大隊は随伴艦を殲滅し、航空母艦を奪取する。備え!」

 地球では空母に搭載される航空機は様々な役目を帯びた専用機が最大でも70機ほどだったのだが、この世界の空母は飛龍を何頭ほど搭載することができるのだろうか。

 1600頭と言う飛龍が分乗していたであろう空母は20隻以上に上ることになるのではないか?そう皮算用していたのだが、そう大袈裟でもないようだった。

 「本土北北東に適性艦隊を発見、空母24、戦艦6、補助艦艇多数を発見。索敵部隊の飛龍が帰還します。飛龍回収後に打撃部隊は追撃を開始!」

 猛然とダッシュする旗艦をはじめとする打撃部隊は敵空母殲滅と、サンプル艦の奪取に全力を傾ける。

 大きなサイレンが鳴り響き、機関音が一段と大きくなる。

 戦艦を置き去りにするように駆逐艦が我先にと駆けだし、遅れまいと巡洋艦が増速する。

 戦艦の主砲も狙いを定めるべく砲塔を敵艦隊に向け、仰角を最大まで上げる。

 一つの砲身にカートリッジ式の330㎏にもなる火薬が詰め込まれ、1500㎏の砲弾が40㎞向こうまで運ばれるのだ。打ち出す際の轟音にもうなずけるものがある。

 「電探連動!射撃指揮所よりより発令、水平線を越えて先制射撃を行う。照準自動。」

 初期型のレーダーが装備されており、見通し距離を越えた水平線の向こうへ射撃を行うようだ。

 そう簡単に当たるモノではないのだろうが、相手は密集した空母群だからいくつかは当たるのかもしれない。

 どーんと、また鼓膜の敗れるような轟音が響く。

 「ソウタさん!ここに居ては危険なのでは?レネゲイドで支援できませんか。」

 航空支援という訳か。

 艦隊司令に聞いてからじゃないとな。

 俺たちは艦橋に戻り、艦長はじめスタッフの詰める戦闘指揮所に走り込んだ。

 「おお、あなた方は。随分慌てておいでのようだが、いかがしましたかな。」

 指揮所の中はそれほど緊張感もなく、慌てた様子もない。

 「いや、聖銀の巨人で出撃して手伝おうか、なんて話していたものですから様子を窺おうかと。」

 「そうでしたか、今回は相手のほとんどが航空母艦と言う珍しい陣容ですが、三式弾のお蔭でもう、敵の航空戦力はないに等しいでしょう。艦隊戦でしたら圧倒的に有利に進められますから、ごゆっくり見学なさっていてください。」

 出番はないそうである。

 フィアの背中を押し、食堂へと移動することにした。

 その間にもこちらからの艦砲射撃は止むことはなく、艦内に居ても振動が伝わってくる。

 「お二人ともいらっしゃい。主計科のヒシオ大尉です。何か召し上がりますか?」

 「はい、ちょっと小腹が空きまして。何か頂いても大丈夫でしょうか?」

 白い割烹前掛けをした気のよさそうな小太りの調理長さんが気さくに話しかけてくれる。

 振動が伝わっている艦内でも動揺したような様子は皆無だ。かえって安心感が沸く。

 「今の時間帯はきつねうどんと握り飯が出せますがどうです?うちのは旨いですぜ。」

 いい笑顔で勧められればそれを頂くしかない。

 「ありがとうございます。それを二人分お願いします。」

 「あいよ、まいどありぃ!」

 厨房奥には調理に携わる兵隊さんがほかにも3名ほどいるようだ。忙しくしている様子から、夕食の仕込みでもしているのだろう。

 俺たちの他にも数人がうどんを食べに来ているようで、旨そうなツユの香りが漂っている。

 「おまちどうさま!」

 料理長自らがうどんとおにぎりの乗ったトレーを二つ、運んでくれた。

 「これは、すみません。ありがとうございます。」

 俺たちがうどんをすすり、おにぎりに齧り付いていると、それを同じテーブルに座ってしまった料理長がニコニコと眺めている。

 「こちらのお嬢さんがサキュバスのフィアさんですか?」

 目が合ってしまったフィアは、慌ててどんぶりに視線を落とす。

 「はい、私の大切な妻です。」

 「見たこともないほどの美人さんだなぁ。」

 「ぷ!?、ケホ、ケホッ」

 フィアがむせた。

 「こりゃすまねぇ。でも、本当にサキュバスっていうのは綺麗な人なんだな。」

 しみじみと言われてもやらんが。

 真っ赤になって箸が止まってしまったフィアは俯いてしまっている。

 「はははは、こりゃすまねぇ。ゆっくり食べていってくんな。」

 ちょっと締まらないお腹を揺すらせながら料理長さんは厨房へ戻って行った。

 俺はフィアの頭をポンポンと柔らかく叩いて言う。

 「フィアが褒められるとなんだか嬉しいな。」

 「私は恥ずかしいです。サキュバスの生態が知られているのって仕方のないことかもしれませんけど、恥ずかしいものは恥ずかしいんです。」

 「そう?俺には良く判らないけど、”この子は俺のだから!”って主張しやすくていいんだけど。」

 「ひぇ?」

 「うどんが冷める。食べちゃおう。ヒシオ大尉に悪いだろ?」

 久しぶりに食べるうどんに満足し、フィアが持ってきてくれた熱い茶を飲んでいると船が揺れた。

 相手の艦砲射撃も届く距離になったのだろうか。回避行動を取る艦は右に左にと慌ただしく方向を変えながら砲撃を行っているようだ。

 湯呑の中で大きく揺れる残りの茶を飲み干し、フィアと共に艦橋へ戻ることにした。

 何かあった時に対抗手段は早くとれる方がいい。

 迷路のような船の中の通路を進み、揺れに時折フィアを支えながら進む。

 艦橋に戻ると艦長を始め、作戦指揮官なども忙しく働いており、指示を矢継ぎ早に飛ばしている。

 こんな時に飛龍は船の中でどうしているんだろうとか、関係のないことに思いを巡らしながら指揮を執る作戦参謀の後ろから海図の上に並べられた駒を眺めていた。

 自陣営の艦隊は包囲殲滅戦のフォーメーションで分厚く取り囲むように艦隊を展開し、敵空母群を逃がさない布陣となっていた。しかし、敵側にも護衛艦艇がおり、こちらよりも多くの戦艦級を配置している。

 ただ、漠然と眺めている海図に何となくの違和感を覚えてならない。

 包囲から逃れようとしている敵空母群と取り囲むように陣形を変えて行くこちらの陣営。

 その最中に立ちはだかり、敵の殿しんがりを務める戦艦群。

 当たり前に見える陣容に足りないものがあるような気がしてならないのだ。

 フィアは外の様子を必死で確かめており、味方艦に損害が出ないかハラハラしている様子だ。

 敵の戦艦群も護衛艦艇も必死で味方を逃がそうとしているのは分かる。

 何が足りないと俺は思ったのだろうか?

 潜水艦?いや、潜水艦の速度では艦隊行動中の戦艦の速度には追いつけない。

 水中を航行する潜水艦の速度は全速でも駆逐艦の四分の一にもならないのだ。追い、追われる艦隊の速度からすれば圧倒的に遅い。

 24隻の空母、6隻の戦艦、多数の駆逐艦群。

 「巡洋艦の数が足りない。」

 一言呟き、俺は艦橋から駆け出す。

 「ソウタさん!?」

 艦長や作戦指揮官は何事かと振り向いたものの、それどころではない現状に大して気にも留めなかったようだ。

 戦艦がいて駆逐艦がいて、グループを成して作戦行動するには駆逐艦の数が少ない。

 それらを束ねる巡洋艦も居なかった。

 巡洋艦は戦艦に次ぐ打撃力を誇り、雷装艦は巡洋艦のカテゴリーで魚雷をハリネズミのように装備した打撃専門の戦闘艦だ。

 そうした物騒な連中が一隻もいなかった。

 潤沢な戦艦がいれば必要ないと思われるかもしれないが、戦艦は混戦の際に的になりやすく、より高速で強力な火器を持つ巡洋艦はその影を縫うように敵を討つ隠れた主役だ。

 その艦がいないはずはない。

 しかし目前には居なかった。ではどこに?誰も気づいていないようだったが、側面か背後に居るのではないか?

 無性に胸騒ぎがする。居ないならいないで目の前の仕事に集中すればいいだろう。しかし、見えないところに居るとしたら完全に背後を取られたところで挟撃されることになる。

 「ソウタさん!」

 後ろから叫びながらついてきてくれているフィアに外に出ると指で合図し、後部甲板をめがけて走り続ける。

 戦時対応としてキッチリと水密扉が閉じられていたが、ロックを解除するために大きなハンドルを何度も反時計回りに回転させ、止まるまで回し切る。

 乱暴に扉を押し開き、フィアがくぐったところで外側から扉を押し込み、ハンドルをまた回し、完全に締める。

 後方に視線を配り、水平線を舐めまわす。

 今はまだ見えない。

 水しぶきをものともせずに俺と同じように遠くを眺めていたフィアはおもむろに背中の翼を展開した。

 荒海の潮風をものともせずに二度、三度と羽ばたきをするとフィアの体はレーダーや測量員たちが配置されている戦闘指揮所の高さまで一気に飛び上がった。さらに上空へ舞い上がり、周辺をひと眺めしたフィアはその手を大きく伸ばし、真後ろを指さした。

 敵艦はまだここからでは見えないが、フィアの位置からは見える。

 水平線に隠れているとすれば巡洋艦の射程圏外だ。

 今ならまだ間に合うと踏んだ俺は、次元断層を船体後方に発生させ、くつろいでいたはずのレネゲイドを呼び出した。

 「レネゲイド、艦隊後方の敵艦を殲滅する。」

 「了解。20秒後にスタートできます。お二人はコクピットに搭乗してください。」

 上空を仰ぎ、フィアを探す。

 次元断層上に屹立しているレネゲイドのコクピットが開くと同時にフィアは上空から飛び込んでいった。

 右手を伸ばしつつしゃがみ込むレネゲイドの掌に俺も飛び乗り、コクピットになだれ込んだ。

 「滞空何秒行けるか?」

 「地上形態で600秒行けます。」

 「バスターランチャー準備。」

 「了解。発射まで30秒。」

 戦艦の真横に突如現れたレネゲイドに兵たちも驚いたようだ。

 砲撃が止まってしまった。

 構わずにバスターランチャーの射撃準備に入り、後方に向かって狙いをつける。

 高度が100mほどに達するまで、味方艦からの射撃が止まり静寂が訪れた。

 「発射!」

 フィアのトリガーと共に閃光が迸り、爆音が響き渡った。

 遠くの海面を薙ぎ払うように発射された極太のレーザーは敵方からの砲撃さえも中止させてしまったようだ。

 数十秒の間を静寂が押し包み、肉眼で見えなかった水平線の向こう側からいくつものキノコ雲が立ち上った。

 「12時方向の敵勢力は消滅。6時方向に対し、砲撃を行いますか?」

 「ああ、6時方向水平射撃で頼む。」

 俺たちの背後(6時方向)、敵空母群と戦艦群に大してバスターランチャーの水平射撃を行った。高度100mでの水平射撃は敵艦には当たらない。

 しかし、敵のすべての兵たちがそれを見て「何をしても無駄だ。」と思わせるには十分すぎる示威じい行動となった。

 敵の旗艦であろう戦艦の艦隊旗が降ろされ、真っ白の旗のみが掲揚された。


 レネゲイドを敵空母の甲板にゆっくりと着陸させ、バスターランチャーを背面中央のハードポイントに戻し、左肩のバニシングライフルを右手で構える。

 コクピットは開けない。

 甲板上にいた敵兵たちは遠巻きに俺たちを見守っている。

 隣の空母などは甲板上に兵たちが群がるように集まり、レネゲイドを観察しているようだ。

 「外部拡声。英語同時翻訳。」

 「了解。」

 『我々はこの空母を拿捕だほする。乗組員は直ちに僚艦へ退避せよ。猶予時間は20分。守られなかった場合はすべての艦が先ほどのように一撃で海に沈む暇もなく消えてなくなるだろう。』

 艦長が拿捕するといっていたのだからこれで良いだろう。

 両舷に別の空母が接舷してきた。たくさんの水兵たちが荷物も持たずに渡されたタラップを走り渡り、20分を直前に控えて退艦が済んだらしい。

 『もう誰も残っていないようであれば、各艦は退去して構わない。貴国の戦艦の射程圏外に出るまで監視行動を続けるが、戦闘行動をしない限りはこちらからの攻撃はないので速やかに本国にでも戻るといいだろう。通信終わり。』

 最後尾の無人になった空母を残し、敵の艦隊は去って行った。

 「レネゲイド、水中探査。近海に敵の潜水艦がいるか調べてくれるか。」

 「戦闘圏内に敵潜水艦は居ません。すでに調査済みです。」

 「早いな、助かるよ。」

 「それより早く戻していただけませんか。大気中の塩分濃度が高く、非常に不快に思います。」

 どうやらしょっぱい風はお好みではないらしい。

 フィアの頭を撫でながら戦闘態勢を解いた。

 フィアも撫でられたまま腕を組んで前に伸ばし、緊張を解いている。

 「フィアが飛べるようになったことが一番便利かもしれないな。」

 「そうですか?お役に立てて良かったですけど、ここ最近は魔法を使うこともなくておかしな気分です。」

 ファンタジーじゃなくてロボットアクションばかりだものな。


 間をおかず味方艦隊が集結してきて、拿捕した空母の内部が探索された。

 敵兵は一人も残っておらず、艦長などが操舵輪にしがみついて体をロープで固定とかもしていなかったようで良かった。

 全長が250mにもなろうという大型の空母が24隻もいた。

 この世界での新しい戦術が試されており、大艦巨砲主義はやはり過去のものとなって行くのだろうが、俺たちの艦隊は空母を運用する能力もなければそうした戦術思想もなかった。

 これからこの空母を研究し、対抗策や有効な戦術を編み出すとなると相当の時間もかかることになるだろう。

 そうした意味では、北華などはもう、海洋進出を諦めるだろうし他の列強にしても我が国同様に今後のあり方を考え直す時期となるだろうことは間違いない。

 一歩先んじたアイアメリカは海洋戦略としてしっかりしたビジョンがあるのだろうし、今回レネゲイドが居たことは計算外だろうし、いずれは対抗策も発見されるのかもしれない。

 歴史に介入しようとか、技術感染オーバーテクノロジーで世界征服とかはまったく考えてはいないが冒険者としての楽しみや、旅の醍醐味。トサンの平和などを乱されたくないのだ。

 「ソウタさん、なにかいやらしいことをお考えの時の表情です。」

 考え込んでいた俺に向かい、失礼なことを言うフィアは、俺の顔をまじまじとのぞき込んで頬を突っついていた。

 失礼な。たまにしかこんなまじめなことは考えないというのに。

 チュッとおでこにキスをしてやり、覗き込んできたフィアをそのまま捕まえて盛大にキスの雨を降らして、ムネも揉みしだいてやる。

 「きゃぁ!やっぱり。ん?むんん。」

 フィアの表情も潤んだものになって、成すがままになっている。

 可愛いお尻に伸びた手は程よい丸みを感じる、可愛い可愛いカーブを撫でまくってしまう。

 「いや、こんなところでやめてください。んんん?はぁ。」

 「マスター、私は早く次元の部屋に戻りたいのですが。」

 とことん、気が利かないやつだ。

 「それと外部拡声がオンのままです。」

 「・・・」

 「・・・」

 空母を回航するために乗り込んできた兵隊さんたちがレネゲイドの足元に集まってきている。

 海面に穴が掘れると思うか?

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

もう一話、次の話でSFモード終了です。その次からまた魔法の話と旅のお話になりますから。

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