【第36話】海軍鎮守府まで
お巡りさんこっちです。
サンコウのクレハさんの神社に一泊した俺たち御一行様は、翌日には東へと旅立つ。
この神社建立以来、今までになかった大騒ぎであった。
「うぉおおお!誰だ俺の唐揚げに箸を伸ばした奴は?」
「タケヨシさんうるさい!、一個もーらい。」
「チズル?何しやがる!あぁ?サチ隊長ぉぉぉ?なんで二個も持っていくんですかぁ」
「ソウタ殿の唐揚げは本当に旨いものだ。感謝して食さねばならんの。」
「キヨシゲ!そう言いながら3個も盗るんじゃねえ!」
「え?今のキヨシゲさん?」
第8回の唐揚げ争奪戦争のさなか、俺だけが冷静を装っていたのだが、争奪戦の最中にキヨシゲさんが発言していたことがわかり、大変なショックを受けていた。
フィアは、それどころではないとチカゲさんと一緒に箸に縦に何個も唐揚げを串刺しにして数量の確保に忙しそうだ。
だって、あの寡黙なキヨシゲさんの最初の肉声が「唐揚げが旨い」って。
俺の手腕でその声を導き出せたのだと思えばいいのだろうが、周囲の反応が薄すぎる。
「皆さん?キヨシゲさんが喋ったんですよ?」
モグモグと咀嚼に忙しい人たちの中からヒョイと顔を上げてクレハさんが言う。
「ソウタ様、キヨシゲ様もよく私たちの会話には参加していらっしゃいましたが、普段は違うのですか?」
口の周り中が油だらけになっているクレハさんは見たくなかった。
「そうだぜ、ソウタ以外とは良くしゃべってるみたいだが、お前なんかしたんじゃねぇのか?」
「はい?」
キヨシゲさんの肉声を聞いたことがないのは俺だけだったらしい。僅か一泊の間にクレハさんもキヨシゲさんとは会話を交わしているようで、俺だけがハブられていたようだ。
シゲさんを始め、山と積まれている唐揚げに群がる肉食獣13匹(クレハさん含む)は、何をいまさら的な視線で俺を一瞥し、また唐揚げの山を攻略せんと箸を動かし、タケヨシさんに罵詈雑言を浴びせている。
いまはチカゲさんとフィアがキヨシゲさんと言い争っており、まるでいつもの調子と言った風に見える。
「はは、ははは、そ、そうだよね。俺、なんかやっちまってたのかもしれん。」
この疎外感。
俺の作った唐揚げによって、俺の存在がハブられている。
いや違う、キヨシゲさんは俺とだけ話していない。
きっと、俺の心の友はもう、レネゲイドしかいないんだ。
唐揚げ戦線から離脱し、庭へと傷心を癒すために歩み出る。
レネゲイドが興味深そうに食卓をのぞき込んでおり、その姿が何とも滑稽であった。
「どうした、レネゲイドも唐揚げを食べたかったのか?」
「マスター、あれが唐揚げと言う物ですか。皆さんが夢中で食しておられるわけですね。キヨシゲ様が依存症になりそうだとおっしゃっておられましたから、よほど人の口に合うものなのでしょう。」
ここにも裏切者が。
「マスター、どうされましたか?メンタルリズムが底辺になっています。」
「気にしないで、ちょっと散歩してくるから。」
「了解。」
そう言い、こちらから視線を外したレネゲイドはまた、興味深そうに食卓を観察し始めた。
庭と言いつつ、ここは境内と言うのだろう。
背の高い木々に囲まれ、静謐な雰囲気を醸し出している。俺をハブった連中が奥で激戦を繰り広げていてもここは静かだった。
一歩ごとに砂利を踏む音しか聞こえないこの場所は気を落ち着けるために最適だった。
自分なりに反省点を考察してみる。
フィアやそのほかのメンバーは当たり前のようにキヨシゲさんと会話をしているようで、それができていない俺はみんなと何が違うのだろうか。
異世界人だから?それも今更なように思う。
顔合わせの時は?こちらから挨拶をしたのだが、視線を合わせてももらえなかった。
旅の間は?常にキヨシゲさんは読書をしていた。そうでない時はレネゲイドの整備をしているかマニュアルを読んでいたように思う。
言葉をかけるチャンスも少ないといえば少なかったかもしれない。
意味があるのかないのか判らない反省をしつつ、黄昏てしまった。
まだ陽が上ったばかりだというのに、俺の心は夕暮れ時だ。
じゃり、と背後から小石を踏む音が聞こえ、振り返るとキヨシゲさんが所在無げに立っていた。
「ソウタ殿、いかがいたした。皆が心配しておったぞ。」
気を利かせてくれたのだろうか俺の後を追ってきてくれたらしい。そう思うと嫌われているという訳でもないのだと思う。
「すみません。心配をおかけして。俺だけがキヨシゲさんと会話できていなかったようでちょっと反省をしていたんですよ。」
「ははは、そうでしたか。他意はなかったのですが偶然にもお話をする機会は少なかったかもしれません。しかし、私も視野の狭い人間でして、気になることがあったりすると周りが目に入らなかったりするのでご不快な思いをされたかもしれませんな。」
話してみれば何と言うことはない。
変に意識していた俺が恥ずかしい。
「そうそう、これを持ってきたのだった。」
差し出されたのはフィアが作っていた唐揚げ棒。
「これが?」
「フィア殿が持っていって欲しいとおっしゃられてな。冷めてはいかんと思い、慌ててきた所存。私もまだ食べ足りないのでこれにて失礼。」
そう言い置いて、俺の手に無理矢理唐揚げ棒を握らせると急いで戻って行ってしまった。
キヨシゲさんの背中に無言で一礼し、気を利かせてくれたであろうフィアに感謝しながら一つ目を口に入れる。
自分で作ったものながら、異世界で食べる唐揚げは格別に美味しいと思ってしまった。
朝の乱痴気騒ぎが収まり、旅支度を整えた俺たちはいよいよクレハさんに別れを告げ、東へと向かう。
見えなくなるまでクレハさんに手を振り、別れを惜しんだ。
次に会う予定もないのだが、いずれ機会を作ってフィアと一緒に尋ねるのもいいだろう。
松並木の続く海岸線の街道を3台の馬車が正面からの日差しを受けながら東へと進む。
レネゲイドは今は次元断層に退避しており、出てこようとしない。
潮風がお気に召さないようで外を歩きたくないそうだ。
フィアは今、馬車の中に入って部屋の片づけをしているようで、馬車の窓からパンパンとクッションを叩いている音が聞こえてくる。
このアマクサからの旅に出てから、フィアは毎日のように晴れ間さえあれば馬車の中を掃除している。
本当に毎日欠かさずやるものだから、チリの一つも落ちていない。
どうやらフィアなりに新婚気分を味わっているらしく、操車する俺が仕事に出ている旦那さんらしく、家庭を守る主婦としての訓練らしいのだ。
本人から聞いたわけではないのだが、そうすることで家事スキルを磨いているらしい。
居住車両となっている馬車をシノさんが毎日掃除しているらしく、コツやノウハウをフィアがシノさんから習っているのだとアオイさんから聞いたのだ。
俺はそれを知らないふりで見守り、キヨシゲさん、コウレイさん、タケヨシさんはシノさんの潔癖症に困っているのだという。
コウレイさんとタケヨシさんは武人らしく細かいことを気にし無い性質らしいが、自室で武器の手入れなんかしているとシノさんが強襲し、有無も言わせずに片づけていくらしい。
それで部屋をたたき出され、戻ってみるとどこに何があったか判らなくなるらしいのだ。
キヨシゲさんは几帳面な性格だと思っていたのだが、本の虫は読みかけの書籍や資料が勝手に片付けられることに不満を漏らしていた。
しかし、シノさん曰く、こいつらの好きにさせると馬車の中にダニや蚤が沸くという。
片づけられない男衆の意見はさっそう無視のようだ。
シゲさんやイクオ君は逆にこざっぱりとした部屋にしているらしく、掃除のし甲斐がないとシノさんに口説かれているらしい。
女性陣はそれなりのようでシノさんからみんな及第点を頂いているとのことだった。
俺たちは食事時にダイニングにお邪魔するのみで、それ以外は厨房を使うだけなのでこれと言ってお小言などは頂いていない。
フィアが毎日掃除してくれるお蔭で馬車の中はいつも整っている。
毎晩フィアとくんずほぐれつしたベットも次の番までにホテルのように整っているのだから、老後も安心と言う物だ。
そんな日常を数日経て、サンコウの国境であるガンコクを通過し、お隣のコウトウへと至る。コウトウの都は瀬戸内海に当たる広島湾最奥の位置にあり、この場所は山脈から滋養分に満ちた豊富な水量を誇る河川が流れ込んでおり、海産物が豊かなことで知られている。
日本に居たころは牡蠣の美味しい場所と記憶しているが、コウトウでも美味しい牡蠣が採れ、ヒラメや鯛なども美味しいという事だ。
漁村に寄る度に海産物に舌鼓を打ち、豊富な海の恵みを堪能して旅を楽しんだ。
うちは大食いが揃っているので浜で仕入れる魚介類の量も半端ない。
漁師の人達が驚くほどの量を買い込むため、どこの漁港に行っても喜ばれた。
また、どいつも好き嫌いがないのでチズルさん、ハルシゲさん、そして俺、調理師たちの腕の振るい甲斐もあると言う物だ。
海鮮鍋は誰が作っても美味しいので、夕食時などは大人気のメニューだし、作る方も意外と楽なので食卓に上ることの多い一品だ。
アジや鰯が手に入った時は俺の出番で、パンを乾燥させて作ったパン粉を小麦粉と卵の順でまぶし、フライにする。
たくさん作るのも楽だし、これも大喜びのメニューだ。
俺的にはタルタルソースを出すまではだが。
フライにはタルタルソースだろうと苦心の末に作り上げたのだが、一度この味を覚えてしまった連中は、次からもタルタルソースが必要だと俺に強要するのだ。
マヨネーズを作るのが一番大変で、調味した酢に攪拌しながら油を加え、ひたすら攪拌する作業が続くのだ。腕が痛くなるし、作ったその日はサルモネラ菌が心配で食卓には載せられない。すると、ストックを切らせないこととなりほぼ毎日この作業を行わなければならないのだ。
その大変さを訴えるとみんなも手伝ってはくれるのだが、文句を言う者も多い。
そのくせ無いと不平を垂れるのだから業が深いと言わざるを得ない。
俺に申し訳ないと思ったのか、アオイさんとハルシゲさんが異世界でのマヨネーズの作り方を聞いた時に質問したりしていたミキサーを実現してくれた。
持ち手に風の魔石を内包し、柄の先から上に向かって風が通り抜ける。その際に調理する側から空気を吸い込み、風車を回して通り抜ける仕組みだ。
回された風車は攪拌のための編んだ竹串を回転させ、見事にミキサーの役目を果たす。
これができてからと言うもの、みんなが進んでマヨネーズ作りに協力してくれ、タルタルソースの供給に苦労することがなくなった。
フライの進化版としてカキフライを作った時は第9回の争奪戦が勃発し、食卓が戦場と化したのに俺は腹を抱えて笑ったものだった。
次から次へと揚げるカキフライが誰かの腹に消えて行き、大量のタルタルソースが消費された。
みんな太っても知らないからね。
カキフライ戦争が終結を迎え、俺たちはゴに到達した。
ゴは、鎮守府を中心に栄えている町で、様々な制服を着た軍属たちが町を闊歩している。
一番階級が低いであろう水兵たちは独特の襟を持った制服を着用していた。
所謂セーラーである。
この世界にもあったよ、セーラー服!一人だけテンションの高い俺を他の連中は怪訝そうに見ていたが、今はそんなことはどうでもいい。
どうにかしてあのセーラーとプリーツスカートが手に入らないものだろうか。
不純な動機でいっぱいの俺は強制的に休日を作り、町の衣料品店を虱潰しに探して回ったものだ。
一般の人達が着るような衣料品を扱う店には取り扱いがないらしく、プリーツの入ったスカートだけは入手できたのだが、上着がなかった。
しかし、俺の努力を見捨てたりしなかったエロスの神は軍人の官給品としての制服を卸している店を発見させてくれた。
フィアに合うはずのセーラー服を入手でき、笑みが浮かぶのを止められない俺は夜が来るのを待ちきれなかった。
夕食を音速で済ませ、入浴も超音速で済ませた俺は馬車にいち早く駆け戻り、就寝の時間を待ちわびたのだ。
フィアも戻ってきて、夜着に着替えようとしたところを止める。
「さて、ここに一着の衣装があります。」
「はい。ありますね。」
「今からフィアにはこれに着替えていただきます。」
「もう寝る時間ですが?」
「そうです。その時間にこれに着替えるとですね、フィアに対する愛情がさらにワンランクアップすること間違いなしなのです。」
「ほ、本当ですか!」
「ほんとうです。すごく本当なのです。」
さっそくと、フィアはセーラー服に着替えてくれた。
ちょっとスカートが長い様な気がするが、そんなことは些末なことだ。
いま、目の前にセーラー服を着たフィアが立っており、期待に満ちたキラキラの目で俺を見返してくれる。
我慢の限界を超えた俺はフィアを抱き寄せ、思う存分に楽しんでしまった。
着衣のままの営みに気分が変わったのかフィアも積極的で、過剰なまでに楽しんでしまった。
今話も読んでいただき、ありがとうございます。
ソウタの趣味嗜好は作者とは一切関係がありません。




