【第31話】故郷一歩手前(3)空軍
「マスター、進行方向2時の方角から接近する機体2。警戒体制に移行します。」
「ん?接近?」
搭乗者が漏れなくだらけ切っていたころ、突然の警報。
「相手がどんなものか判るか?」
「接近する飛行体はテイムされた飛龍が二体です。」
この近辺でテイムされた飛龍が編隊飛行を行うなど、正体が非常に判りやすい。
「レネゲイド、念のために警戒態勢を維持しつつ、攻撃は禁止だ。相手はこの国の空軍だから部隊によっては俺たちと友好関係にある。相手の行動を監視しつつ、空軍の基地へ向かってくれ。出力は70%に上げて増速してくれ。」
「了解。出力は70%で空軍基地までの飛行時間は15分です。」
「ソウタさん、3番隊の方々でしたら良いのですが。」
この国の空軍、3番隊はオーフェン隊長の指揮する部隊で、俺やフィアと旧知の仲だから、説明もいらず面倒もない。
フィアも隊長のオーフェンが駆る飛龍のドーラに懐かれていることからそう思うのだろう。1番隊や2番隊と面識がないわけではないが、より友好度が高い方が面倒事は少ない。
レネゲイドの出力を70%に上げたことで飛龍隊の飛行速度を上回り、追いつけない速度になる。
出力と正比例して速度が上がるわけではないが、リヒーター(英:アフターバーナー)使用の有無や反重力加速魔法の使用。
空気抵抗を除外する抵抗除外魔法の併用など、更なる魔法の効果を上乗せすれば簡単に条件が変わるという事だ。
いまはそうした相乗効果を期待しているわけではないので、ただ力技的に引き離しにかかっているのだ。
接近を試みていた飛龍の編隊は有無も言わさぬ加速に後方に置き去りにされ、俺たちはかなり先行した状態で空軍基地上空にたどり着いていた。
飛行訓練中の飛龍や警戒態勢(スクランブル待機)の飛龍に取り囲まれ、威圧的な歓迎を受けていた。
近くに来たら光学迷彩を使用しようと決めていたのだが、追われていたことでその予定をすっかり忘れていた。
実体を見せたまま不用意に基地上空に侵入したため、相当の大騒ぎになったことだろう。
さっき遭遇した二機編隊が3番隊だったかは知る由もないが、俺たちを取り囲むように位置取りしている飛龍隊の中にはオーフェンの姿はない。
「レネゲイド、挑発行動は行わず、直立の姿勢で滑走路に降りられるか?」
「了解。大したことはありませんね、これから着陸します。」
宣言の通りにレネゲイドは直立した姿勢となり、一切の武装を構えるようなこともせずに両手を自然に下げ、飛龍や龍騎兵のいない場所を選んで基地に降下を開始した。
ほとんどの兵士たちはその光景を畏怖が半分、興味が半分と言う面持ちで眺めている。
飛龍たちはあまりにも生命とかけ離れた存在に警戒をあらわにしている。
そんな中、一体の飛龍が全く予想もしない行動を見せる。
龍騎兵も載せずに龍舎から直接飛び立ち、「クエエエ」と鳴きながら全く臆することもなくレネゲイドに接近した。
「ドーラ!覚えてくれてるんですね!」
フィアにも接近する飛龍の識別が付いたのか嬉しそうにグラスキャノピーに齧り付いている。
「フィア、キャノピーから離れて。レネゲイド、フィアが席に戻ったらキャノピーを開けてくれるか。」
「了解。接近する飛龍には警戒は必要ありませんか?」
「ああ、知り合いだ。警戒は必要ない。」
フィアが席に戻るとキャノピーが解放され、少し冷たい外気がコクピット内に流れ込む。
フィアの髪も乱れているが、嬉しそうなフィアには無関係のようだ。
レネゲイドの胸殻に器用に取りついたドーラは首をキャノピーに突っ込み、フィアの頬を舐める。
「ドーラ、ご主人様を置いてきてしまったのですね。」
フィアに窘められた飛龍は、悪びれた様子もなく嬉しそうに答える。
「ピュイ!」
そんなの待ってられるかとでも言ったのだろうか、ドーラは容姿の変わったフィアにも戸惑うことなく甘えている。
動物的な本能では外見的な特徴はどうやら判断基準には入っていないのだと思われる。
ドーラを貼り付けたまま機体を降下させるレネゲイドは何でもないと言う風に滑走路に着陸して見せた。
地上に降りたレネゲイドから飛び出し、ドーラの首にしがみついているフィアを見て、警戒態勢を維持していた飛龍隊の面々が驚きの表情を見せる。
まぁ、得体のしれない巨人に飛びついた3番隊の隊長の愛龍があろうことか主人を置いてきぼりにし、巨人から現れた操縦者と思しき幼い容姿の女の子と旧交を温めているのだから驚きもするだろう。
割れがねのような濁声が辺りに木霊する。
「ベッピンさんじゃねーか!」
「ピピィー」
相槌を打つ飛龍と共にオーフェンがコクピットに取り付いてくる。
もはやこの段になっては警戒するのもばからしくなったのか、他の飛龍たちもドーラやオーフェンの側に寄ってきた。
何事かを理解しようとたくさんの兵たちが周りを取り囲み、レネゲイドの逞しい容姿や戯れるドーラ、破顔するオーフェンに驚きを隠せない龍騎兵の面々など、様々な思惑が錯綜している。
「オーフェン!お前は何をやっているか。」
厳しい声が下方からたいそうなプレッシャーを伴って投げかけられる。
思わずコクピットから身を乗り出し、声の主を確かめてみるとサラサラと流れるような金髪を風になびかせる中世的な魅力にその身を包んだ長身痩躯の男性が両手を後ろ手に組み、厳しい目つきで睨みを利かせていた。
「お~?わりぃ、わりぃ、ちょっと懐かしい顔に出くわしたもんでな。」
全く悪びれた様子もないオーフェンの物言いに、非常に渋い表情となる色男。
「オーフェン隊長、あちらの方は?」
俺の問いかけにオーフェンはフィアの頭をワシワシと撫でながら笑顔で答える。
「ああ、あいつは空軍の総司令様だ。」
「はぁ?国軍の総司令様だったら公爵か侯爵だろう?そんなんで大丈夫なのか?」
「ああ、俺はいいんだよ。あいつとはちっせぇ時からの知り合いでな、今更気にしろって言われてもムリだ。ちなみに俺も侯爵様だからソウタも俺様には敬意を払うんだぞ?」
なんで疑問形なんだ。
「オーフェン隊長、こう言っては何だが、今更ムリだ。」
「だよな?だからわかるだろ?」
「ああ?あ、そうだな。っていうか、フィアを放せ。そいつは俺んだ。」
ドーラに飛びついていたフィアは、いつの間にやらオーフェンに攫われていた。
困った表情で撫でつけられており、どうにも居心地が悪そうにしていて哀れでならない。
おお、そうか。というオーフェンに両脇を抱えられ、猫のように差し出されるフィア。
お前はそれでいいのか?
オーフェンが侯爵様だったことなんて目の前につりさげられたフィアを回収し、総司令官様にもう一度睨みつけられれば些細な問題だ。
「オーフェン。貴様はもう少し軍紀とか規律と言う物に理解を深める努力をしろ。3番隊が“バカ”ばかりと言われるのはすべてがお前の行いのせいなんだぞ。」
総司令官のご苦労が偲ばれる。
歓楽街に飛龍で乗り付ける奴なんて“バカ”以外の何者でもあろうはずがない。
都度に誰が頭を下げて回っているのだろうかとあの時も思っていたのだが、目下のところこの総司令官様が最有力候補だ。
俺は3番隊の“バカ”たちに集られないようにフィアを抱きかかえたまま総司令官の下へとレネゲイドから飛び降りる。
「お騒がせしてしまい、大変申し訳ありません。クノエのアマクサより聖銀の巨人を駆り、立ち寄らせていただきましたトサンのソウタヤマノベと申します。
総司令官に於かれましては心労をお掛けしてしまい、心配りが欠けておりましたことを深くお詫び申し上げます。」
頭を下げ、謝意を表すと驚いた顔をされてしまった。
「ソウタ殿、頭をお上げください。私は空軍を預かっておりますアーノルド・フライト・ノーアと申す。オーフェンの知り合いと言うものだからもっと野趣あふれる変わり者かと思って居ったものでな、失礼を致した。」
「ノーア公爵様よぉ、随分な言われようじゃねぇかよ。」
「お前はだまれ!」
オーフェンを一喝できるノーア公爵様に尊敬を禁じ得ない。
「ところでソウタ殿、貴方が抱きしめておいでのご婦人はどちら様であろうか。」
ご婦人?そのような方に知り合いはいないのだが?
トントンと、フィアに背中を小突かれた。
「あの、あの、こちらの公爵様は私のことを仰っておられるのではないでしょうか。」
「あ、そうか。ノーア公爵、これは私の妻でフィアと申します。併せましてよろしくお願いいたします。」
「つ、妻だぁ?」
「オーフェン、その口から我が家に伝わる宝刀を差し入れ、後頭部まで貫きたいと思わずにはいられないのだが、私はそれを許される立場にあるよな。」
と言うかオーフェン、以前のフィアと今のフィアを見て何とも思わないのはドーラとお前ぐらいだと思うぞ。
「オーフェン隊長。フィアと私はクノエに渡ってから正式に契約を交わしました。今では私の妻という事になります。」
「ちぇ!こんな若造が俺より先に嫁を貰っちまうとはな。しかもこんな美しい嫁だとか、ありえねぇだろうが!」
「何とでも言え。」
「ところで以前に会ったフィアちゃんはどうした?」
「「?」」
「以前のフィアって何のことだ?」
「こちらにいらっしゃるお前の奥さんじゃなく、前に馬車に乗っていたドーラお気に入りのフィアさんだよ。」
うん。俺わかった。こいつは天然記念物の“バカ”であると。
「この子がその、以前から変わらないフィアですが。」(ソウタ)
「はい、以前お会いしました。」(フィア)
「え?」(オーフェン)
「・・・たわけ者」(ノーア公爵)
「えええ!?」(オーフェン)
気が付いていないとかあり得ない。
空軍の管制塔や指揮所と並んで別棟で建てられている豪奢な屋敷がノーア公爵様のここでのお住まいだという。
そこへ招かれ、ノーア公爵様の執務室に通された。
玄関をくぐってから、メイドさんたちにあれやこれやと世話を受け、熱いお絞りで手や顔を拭い、軽鎧を預け、冒険者のごついブーツを脱いだ。
メイドさんが連れて行ってくれたところにはタイル敷きの広間があり、ホカホカと湯気が上がる水路のようなものが部屋の中央に通っていた。ここが足湯であることは見ても明らかなので、メイドさんに断りを入れ水路の縁に腰を下ろした。
俺の行動を見てフィアも真似て俺の隣に足を入れた。
思わず二人でホッコリとしていると、いつの間にかメイドさんの姿が見えなくなっており、二人きりで気を緩めることができた。
四半刻(30分)ほども経つと「失礼します。」と声がかかり、タオルを携えて二人のメイドさんが入ってきた。
足湯を堪能し、身も心もさっぱりとした俺たちはまた、前後をメイドさんたちに付き添われ、執務室へと誘われたわけである。
「ソウタ殿、フィア殿、良くいらっしゃいました。空軍は国土防衛が主任務ではありますが、その実は魔物退治であったり、救難活動であったりとこの国で暮らす民の一助になる活動の方が圧倒的に多いのが実情で、気の荒い者が多いのが頭の痛いわけです。
オーフェンだけが粗野なわけではないので更に困ったことなのですが、失礼があったことはどうかご容赦いただけないかと。」
「ノーア公爵様、私どももそう肩ひじの張るような身分ではありませんので、その様なことをお気になさる必要などございません。それよりも、先にオーフェン隊長とお会いした際にはフィアと私がヒドラを勝手に討伐してしまい、3番隊の皆さまに食事をご馳走になるなど世話にもなりました。
オーフェン隊長にはその時にも良くしていただいておりますので、お気遣いは不要です。」
「あなた方が乗ってこられたあの巨人は“聖銀の巨人”で間違いないのですか?そうであるとすると、伝説級の出来事と言えますが。」
「伝説は大袈裟でございます。ですが、あの巨人は確かに“聖銀の巨人”で相違ありません。私どもがクノエまで渡り、アマクサの領軍が保管していただいておられましたので、それを譲り受けてまいりました。」
「譲り受けたと申されるか?」
「はい、実はあの巨人の製作者が私の父でありまして、最初の巨人の活躍の記録については諸説があり、今となってはその真実を知ることができないのですが、今回は妻と私の搭乗者登録が1000年ぶりに叶いまして、私どもが所有者として巨人に認められたのです。
あの巨人の製作者の父は迷い人であり、迷い人はこの世界に迷い込む際にどの時代に迷い込むかが分からないのです。
父は今から1000年の昔のこの世界に迷い込み、アマクサの領軍に身を寄せていたらしいのですが、その際に持ち込んだあの巨人を領軍の手助けを得て完成させたと記録にありました。私はその1000年後にあたる今の時代に迷い込み、フィアと言う伴侶を得ました。
そのおかげもあり、巨人を駆りクノエの地に大挙して訪れた魔物を討伐することもできたのです。一度所有者を認めた巨人は新たな主を認めない期間が設けられており、この間に私どもが死に至ったとしても、次の搭乗者が認められるのは世代が変わった後のことになるように作られておりました。」
「おお、そうでしたか。ソウタ殿が迷い人であったことはオーフェンから聞いておりましたが、フィア殿がサキュバスであり、そのお二人でなければあの巨人は動かないという訳ですか。
では、ソウタ殿はこの後の冒険にもあの巨人を役立てるのですね。」
「いえ、基本的にはそのような予定はありません。あの巨人の持つ力はこの世界のあらゆる魔物に比較しましても過剰が過ぎ、ともすればこの世界そのものを揺るがしかねません。
ただ、身に降りかかる火の粉を払うために巨人を使うことにためらいはありませんので、フィアに害が及ぶのであれば国ひとつを海の底に沈めることにも躊躇はしないと思います。」
「フィア殿の後ろには神をも手に掛けるような強大な守護があるのですね。」
「はい、しかしながら申し上げます。巨人に頼るまでもなくソウタさんにはいずれ神をも殺めて不思議ではない魔力と魔法がありますので、巨人を用いると世界のいくらかが失われてしまうと思われます。
私はそれが現実にならないように諫めるためにソウタ様の伴侶に選ばれたのではないかと思うようになってまいりました。」
ラグナロクの原因みたいな言い方をしないでもらいたい。
メイドさんの淹れてくれた紅茶を飲んで、のどの渇きを潤しカップをテーブルに戻す。
「誰がどのような目で見ているかはともかくとして、私自身は大きな力を手にして何かを成すような考えはありません。あくまで自分たちの平穏が守られればそれでいいのです。脅かすものがあればその根源からを断つために巨人を使い、冒険者の暮らしには自分たちの手足を用いるつもりでおります。」
そう、すべてはフィアのためにあり、俺たちの生活を脅かす者がいるのならその根源を断つことに躊躇いはない。
アマクサに脅威をもたらす巨人たちの巣を討伐するのは云わば例外であり、レネゲイドの整備をし、俺たちがレネゲイドに搭乗するまでの1000年もの間手を抜くこともなくいつでも稼働できる状態を維持してくれた彼らへの言わば“恩返し”だ。
そのあとに残るモノは「冒険者」としての自分たちの生活であり、魔物を討伐したり採取の依頼を成功させるためにはレネゲイドを必要とはしていない。
一方でそうした生活を守るためにレネゲイドはなくてはならない頼もしいアイテムだろうと思う。
安寧を得るためにその手段を持つ。
そう、例えばトサンの実家を襲ったセイトの“解放の光”。奴らが今後も何かを考えるのであれば、今生の間に二度と余計なことを考えることができないようにするためにレネゲイドを使うことに一切の躊躇はない。
しかし、トサンのコウリョウで二子山の魔物を討伐するためにレネゲイドを使おうとは思わない。そう言う事だ。
何か思うところがあるのだろうか、ノーア公爵の口が止まり考えるような仕草を見せる。
「ソウタ殿、いずれではあるがそのお力を借りることは可能でしょうか。」
「先ほど申し上げましたお取り、私たちに仇なす者があるとすればその力を殺ぐために“聖銀の巨人”を使います。そのような事態が訪れるとお考えでしょうか。」
「ええ、いずれ。という事しか申し上げられませんが今ではございません。
ただ、そう遠くない将来かもしれませんし、遠い未来かもしれないのですがその時に巨人が使用できるかそうでないかはこの国に暮らす、ソウタ殿とフィア殿を含めた多くの人達に降りかかる災厄である可能性があります。
お二人のお子が明るい未来を歩むために必要とご判断いただければ、そのお力を借りることは?」
「そのような事態が起こるとすれば何をおいても俺たちの力を役立てて見せます。ノーア公爵様にお声がけいただいたときに必ずお役に立って見せましょう。」
「いまはそれで構わないのです。ソウタ殿、フィア殿のお力を借りずに済めばそれに勝るものはないのですが、司令官と言うのはいつも最悪の事態を想定してしまうものなのです。いつとは判らない事態にも心を砕き、備えを整えようとしてしまうのは最早、性としか言いようがないかもしれませんね。」
そう言いながらもその目は冗談を言っている目つきではなかった。
懸念する内容については話してもらえなかったので、ここまでという事でその場を辞した。
夕方にも少し早い時間ではあったが、俺たちは客人としてもてなしてもらえることとなり、司令官のお屋敷に一部屋を借り受けることとなった。
元々の訪問の理由は、オーフェンとの旧交を温めることにあったので、夕方からの晩餐には3番隊との邂逅を楽しむつもりだったのだ。
しかしながら、夕餉の時間となるころには食堂に当番の割り振られている兵たち以外の多くの兵が集まり、今から始まるイベントに期待を膨らませていた。
ノーア公爵による挨拶があり、その後には俺たちがこの空軍の基地を訪れた際の経緯が披露され、それからのアマクサまでの道中についてを披露することとなった。
聖銀の巨人に搭乗者登録をするところやその後の戦いなどには龍騎兵から多くの質問を受け、戦闘詳報には大いに興味を持たれてしまった。
大量の食事が大皿で運び込まれ、酒やソフトドリンクもたくさん準備されて、にぎやかな食事が始まった。
ここでもフィアが話題の中心になるようで、たくさんの兵たちに群がられていた。
「フィアさん、ここの基地のチキンフライは結構いけるんです。どうぞ!」
「フィアさん、この野菜のかたまりは中にジューシーなひき肉がたっぷりでほっぺたが落ちるほど旨いんです。召し上がって下さい。」
「はわわわ?」
前に一度見た光景が基地内でも繰り広げられている。
3番隊はおろか、他の隊の若い連中まで料理を取り分けた皿をもって行列を作っている。
自分たちで食べりゃいいだろうに。
そう不機嫌を丸出しにした表情で眺めていると、「まさか!?」と自分の目を疑ってしまった。
ノーア公爵様までショコラケーキをワンホール丸ごと片手に持って並んでいるのである。
「オーフェンだけじゃなく、公爵様までって。」
「そう言うなよ、娯楽の少ない基地にあんなかわいい子が尋ねてくりゃぁ、羽目を外したくもなるってもんさ。」
「オーフェン、正論のように言われても俺には納得できるポイントがないんだが。」
「そう言えばお前たちは結婚したんだってな。それであんなに見た目に変化が出るっていうのも面白いものだよな。」
あの時はとにかく必死だったから、容姿が変わることよりも無事に済ませられたことの方が重要だった。
そのあとも巨人討伐で忙殺されたこともあってか落ち着いてそんなことは考えたこともなかった。
こうして改めてフィアを見てみると、歳相応の表情もするようになったし、銀の髪と朱金の瞳に整った顔立ちを笑顔で飾る少女のとんでもない美女っぷりに息を飲んでしまう。
「ああ、本当だな。サキュバスと契約を交わすという事がどんな物かも知らないころだったら腰を抜かしてたかもしれん。」
ノーア公爵は教えてくれなかったが、将来に含みを持たされたような話があった。
オーフェンはそのことについて何か知っているのだろうか。
司令官の執務室であった話をオーフェンに尋ねると、バカ騒ぎを見て笑っていたオーフェンの顔から笑みが消え、聞こえるギリギリの音声で答えてくれた。
「ここだけな話だが、北華の連中が最近盛んに領海侵犯をしているらしい。大群で攻め込む様子でもないんだが、いつそうなるともわからないだろ?海軍の連中がかなりピリピリしてるらしくてな。
ここしばらく俺たち空軍も哨戒任務がかなり増えてるんだ。万が一大規模侵攻があった際に期待されているんじゃねぇか。」
今度は外国が相手とか、大丈夫なのかこの国は。
「もうひとつハッキリしない情報もあってな、真実だとすりゃぁソウタの手を借りたい本命はこっちじゃないかと思うんだが、その北華の警戒に当たっていた海軍の艦隊のいくつかが正体の分からない攻撃で消息を絶っているって話がある。
重巡洋艦を旗艦とした哨戒艦隊まで帰ってきてないって話だから、相手の戦力も侮れないってもんだ。」
戦闘艦の戦力をクラス別で言うと、戦艦・重巡洋艦・軽巡洋艦・駆逐艦となる。
重巡洋艦は戦艦に次ぐ主砲や機銃の充実と魚雷などによる攻撃力を持っており、艦隊行動となれば重巡洋艦1隻に軽巡洋艦2隻と駆逐艦が3隻ぐらいは随伴しているであろうし、これまでも北華からの侵犯行為は十分に跳ね返してきたという。
「いくつもの艦隊が?」
「ドラゴンじゃないかって話もあってな、シーサーペントくらいじゃ相手にもならないしリバイアサンなんて伝説だろうし、もし本当にいたら北華もこの国も海に出られなくなっちまう。」
なんだか本当にキナ臭くなっているようだ。
アマクサに戻ってから、巨人の巣を討伐できたら少し戻れば海軍の鎮守府があったはずだ。そこへ行けば詳しい話が聞けるかもしれない。
「オーフェン、海軍に紹介状を書いてもらえないだろうか。俺たちはアマクサに戻らないといけないわけだが、その用事が済んだ後にでも鎮守府に行ってみたい。
俺たちの力で役に立つものかこの目で見ないと判らないしな。」
「おう、任せろ。ノーアのと二通用意してやるよ。」
よし。これで繋ぎはできただろう。
「それより、お前も呑めよ。周りが楽しくやってるときには難しい話なんて手短に済まそうぜ。」
「ああ、わかったよ。」
単純に楽しむわけにはいかない世の中になりつつあるようだ。
しかしながら、今はその時じゃない。
目の前の救助が最優先事項だ。
「おらぁ!お前らいい加減にフィアから離れやがれ!!」
ブクマ登録していただける方が少しずつ増えていることが大きな励みになっております。
毎話、お読みいただける皆様に感謝いたします。
いつもありがとうございます。




