【第30話】故郷一歩手前(2)里帰り
本日2話目の投稿です。
尊敬する先生が本日2話投稿されまして、がんばりました。
2016年1月3日 誤字修正
アルミ箔ができるまでの一日でフィアの生まれ育った里を訪ねることに急きょ決めてしまったが、どこにあるのかは俺には全く分からない。
レネゲイドは高度300メートル程をゆっくりと飛んでおり、フィアのナビ操作で迷いのない飛行を続けている。
光学迷彩を利かせているので誰の目にも留まらないのだろうが、インパルスモーターは静かなわけではない。
どこからともなく轟くような音が聞こえてくれば何となく見上げてしまうものだ。
先ほどから市街地の上空を飛んでおり、少なくない人がこちらを見上げている。ただ、それで騒ぐような人もいないので見えてはいないのだろう。
お尻がむずがゆいような気分だ。
トサンに入り、ゆっくりとではあるが飛行は続いている。
懐かしい平野を見渡しながら大きく旋回し、山間部を目指すようだ。
「フィアの暮らしていた場所と言うのは山の奥の方なの?」
「いいえ、普段から両親は買い物にも出かけていましたし、距離はそう遠くはないのです。ただ、開けた土地ではなかったのだけは間違いありませんね。」
平野に流れる河川を遡るように上流を目指し、都市部を過ぎたところでレネゲイドは大きく速度を下げる。
河川の両側が駆けあがるように高さを増したところで巨体を直立し、レネゲイドは地上に降り立った。
上空から見た限りでどこにも村落のようなものは見えなかったのだが。
「フィア、この近くで良いのか?」
「はい。ここから歩いてすぐですから。」
「レネゲイド、光学迷彩はどのくらい維持できるんだ?」
「はいマスター、光学迷彩機能は操縦者がいない状態で12時間継続可能です。」
「わかった。10時間以内に戻るよ。それまでは現状維持で待機だ。」
「了解。」
フィアの案内で馬車も走れるような山間道を上へ上へと歩む。
木立に遮られた陽の光は僅かばかり届いており、視界が利かないほどではないが薄暗い。
しばらく徒歩で進むと道は急に行き止まり、先に進めなくなる。
「どうしたんだこれは?」
「これは目くらましなんです。道はそのまま続いているので気にせずに進みましょう。」
という事らしいので、意を決して歩みを進めた。
少しばかりの違和感を感じたが、木立を通り抜けるとその先にも同じような馬車道が続いていた。
こんな結界が張られているような場所なんて初めてお目にかかる。
ほんの2~3分も歩いたろうか村の入り口が見え、道の両脇に太い丸太が境界線の入り口だというように立っていた。
「ここに戻るのは本当に久しぶりなんです。」
きょろきょろとするフィアは久しぶりの自分の生まれ育ったところを確かめるように盛んに辺りを見回している。
後ろをついて歩くと、田畑が広がる日当たりの良い場所へと出ることができた。
しかし、畑に作物が育てられている形跡もなく、村に人気がない。
「人がいるような気配がないんだが、どうなっているんだろうな?」
「ここには私しか住んでいませんでしたから私がソウタさんと一緒に居るようになってからは無人です。」
「フィアが一人で暮らしていたのか。」
そんな寂しい話ってあるんだろうか。
里と聞いて勝手にサキュバスが複数暮らしているものだと想像していたが、フィアの家族が開いた土地だという。
祖父母や両親に愛されて育ったことは間違いがないのだろうが、そのほかに血縁者や同族が居なかったとなれば、俺に会うまでの一年はただの一人で過ごしてきたのだろう。
背後から細い肩を抱き、両手でフィアを抱きしめてやった。
「フィア、俺のところに来てくれてありがとうな。俺も一人だったがフィアも寂しかったよな。」
「でも、もうそんなことは考えなくてもいいでしょう。私はソウタさんに出会えてこれから一生涯の幸せが約束されました。ソウタさんは私に出会ってしまいずっと付きまとわれますがね。」
「それが嬉しいって言ってるんだよっと!」
「きゃぁ?」
フィアを抱き上げ、肩車する。
視線が高くなったことに驚いているが、そのまま俺の肩に乗って喜んでいるようだ。
フィアが14歳まで暮らしたという家が見えてきて、玄関に着いてフィアを下ろしてやる。
玄関を開ける前に一呼吸し、扉を手前に引いた。
シンとした静けさが屋内に満ちており、時間が止まっているかのような錯覚を受けた。
もう数か月もしないうちにフィアも16歳になる。かれこれ2年近くも手入れをしなかったという割には室内は整っており、フィアの性格が判ると言う物だろうか。
両親が亡くなった際に遺体をどのようにしたのだろうとふと思う。
「ご両親のお墓とかはないのか?」
「ありますよ。私も久しぶりに手を合わせておきます。」
いったん家から出て、さらに坂を上ると斜面に面して果樹の類が植えられており、家を中心に様々なものが育てられている造りになっていた。
果樹園を通り坂を上りきると僅かばかりの開けた土地があり、二つの塚が作られていた。
一つは祖父母の墓、もう一つがフィアの両親の墓という事なのだろう。
俺は両方の墓に膝をつき、手を合わせた。
フィアを大切に育てた両親に感謝する。
「フィア、一人で大変だったろう。」
労うように言葉を掛けたのだが、ゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、自分を育ててくれた大切な両親でした。悲しかったことは覚えていますが、大変だとは思いませんでしたね。」
頭を撫でられながら昔を思い出しているようだ。
撫でられていることで顔は微笑みを絶やしてはいない。
「せっかくここまで来たんだから、家から持っていくものとかはないの?」
「ないです。ここは冒険者をやめる時にソウタさんと帰って来たい場所です。その時に用意が足りないのも嫌ですので、物を持っていこうとは思いません。でも、時々は掃除に帰って来たいですね。」
「それはいいね。俺たちの終の棲家になるならしょっちゅう帰って来て掃除しないとだろ?」
「はい!」
もう一度祖父母とご両親の墓を見返し、その隣にお邪魔してもいいかと自分に問いただしてみる。
この世界の人間でもない俺がフィアと契約を交わし、フィアの人生を決めてしまった。それがどれだけの意味を持つのかは判らないが、祖父母やご両親に恥ずべき行為ではなかったとフィアに忌の際に言わせるためにこれからの生き方を考えていかなければならないのだろう。
なぜだか黙祷をもう一度してしまい、フィアに首を傾げられた。かわいいからそれ。
家に戻り、2年で溜まった埃を二人で簡単に掃除した。
お父様の書斎に使われていた部屋で日記のようなものを見つけた。
フィアに相談してみると、こだわった様子でもなく、読んでも良いのではないかと言う。
居間に戻り、ソファーに腰掛けながら読もうとしたのだが、フィアが隣に腰を下ろして覗き込んでくる。
早く開けとばかりにこっちを見るのだが、俺としては男同士の会話のようなものだったのに、フィアのお蔭で余計に緊張してしまうじゃないか。
開いてみると最初からのほとんどは日記であった。
フィアの生まれる遥か前、フィアの母親と出会って惹かれ、祖父母に認められたころ。
日々を幸せに暮らしていることとサキュバスが町に出て辛い目にあう事への憤りや自分の考えなど。
フィアが生まれた時の喜び、将来に対する不安。
そして自分が病に倒れた時。
そのあとに誰とは知れないフィアの将来の伴侶に向けたメッセージがあった。
「君がフィアと出会い、生涯を共にしてくれる者ならばお願いがある。フィアは私たちが厳しく育てたこともあり、心根のまっすぐな良い子に育ったと思っている。
親の欲目ではあろうがこの子が幸せになってくれるために君が必要なのだとしたら、どうか真摯に向き合ってやってほしい。
サキュバスと言う種族は弱く、儚い。しかし、支える者がいてくれたならその可能性は比類ない大きなものだ。
フィアを正しく使ってやってくれれば、フィアは大きな答えを返してくれるだろう。ここに暮らすもよし、他へ連れ立ってくれるならそれもいいだろう。
最期の時まで可愛がってやってほしい。
会ってお願いできないことを深くお詫びする。
父として頼みたい。フィアをよろしくお願いする。」
特別なことは書かれていないが、心に届く内容だった。
覗き込んでいたフィアも照れたような表情を見せながら、俺に頭を預けてくる。
俺の胸にフィアの頭が預けられ、フィアは目を閉じているようだ。
「父は自分が早くに亡くなると悟った時にこれを書いたのでしょうね。私、父とは仲は悪くありませんでしたが、少し怖い人で母のことが大好きな人だと思っていました。私のこともこんなに心配してくれてるなんてちょっと意外と言うかビックリしました。」
「娘の父親って、どこの世界でもこんなもんだと思うよ。接し方が分からなくってさ、不愛想に思われちゃうんだよ。でも、その実は娘に惚れたりしててね、俺の世界でも“嫁にはやらん!”みたいな儀式があるんだよ。俺もフィアのお父さんと多分おんなじことをやると思う。」
「ソウタさんが?本当ですか。」
「うん。絶対にやっちまう自信がある。“娘は嫁にはやらん!”ってね。その時はフィアが俺たちの娘の味方をしてやるんだぞ。」
眉間にしわを寄せながらまだ見ぬ我が子を思うともう、泣きそうだ。
「え?なんでソウタさんは泣いているんですか?」
フィアはドン引きである。
放っておいてくれ!
夜が更けるまで、フィアの両親の話をたくさん聞かせてもらった。
食事を二人で作り、また、父がどうした母が大変だったなどと会話が弾んだ。
フィアが暮らし、ご両親が居た家で聞くからこそ身近に感じられたし、楽しいひと時だった。
もう寝ようという時間になって、フィアの部屋へ上がった。
二階の南側の広い部屋だったが、女の子らしい可愛らしい部屋だった。
パッチワークで作られたのであろうクッションや布団のカバー類などがセンス良く作られており、お母さんが作ったのかと聞いたら自分で作ったのだと聞かされた。
センスの良さを思わず褒めてしまうとフィアは照れて俺に飛び込んできた。
可愛い。
やはり可愛いフィアを可愛いままに可愛がると、二人ともそのまま朝までぐっすりとなってしまった。
目が覚めて驚いたのだが、玄関先にレネゲイドが居て、何事かと尋ねると10時間たっても帰ってこないから迎えに来たのだという。
レネゲイドに心配を掛けた?ことに謝罪すると、他に生命反応がなく心配はしていなかったという。
ただ、河原に立っていると光学迷彩なしでは誰に見られるかもわからないので様子見を兼ねて避難してきたらしい。
思いのほかの部分で気が回るというか、知恵がついているというか面白いものである。
俺は朝食を準備し、その間にフィアはまた部屋の掃除を進めている。
いったん朝食としてからフィアは時間いっぱいまで各部屋を掃除するらしい。
俺はと言うと家の周りで黙々と草むしりをしていた。
手入れされていれば侵入者があっても多少なりと警戒はするだろうが、荒れ放題ではよからぬ事を企むものもいるだろう。
そう考え、建物の周辺から始まりいつの間にか意地になって畑への道や果樹園の下草なども刈ってしまった。
明日には筋肉痛になりそうで今夜は治癒魔法を使う事にしよう。
治癒魔法で筋肉にたまった乳酸を分解すると筋肉痛知らずだ。農家や工夫なんかに人気の魔法で、初級で覚えるような魔法なので魔法使いの良い小遣い稼ぎになっているらしい。
昼いっぱいまで働いた俺たちは家の点検も済ませ、戸締りも厳重にした。
最後に玄関を閉じると二人で思わず見つめ合ってしまった。
こうまですると、この家にも愛着がわき始めている。
「また草むしりをしに来なきゃな。」
「私も掃除をするためにたびたび来たいです。」
何となくだが、終の棲家になるような気がすると愛おしくもなると言う物だ。
「こんなもんでどうだ?」
タカザさんの元へ戻るとすでにすべてのアルミが見事なアルミ箔となっていた。
こちらの期待した薄さ、大きさ、量になっており、これなら良質のコンデンサーができそうである。
約20センチ角、厚みは30ミクロンぐらいだろうか。
5kgのインゴットがすごい量のアルミ箔になって帰ってきた。
「お世話になりました。良いものを手に入れられましたよ。」
「そうか、満足してもらえるなら俺も頑張った甲斐があるってもんだ。また贔屓にしてくれよな。」
タカザさんはご機嫌で俺たちを送り出してくれ、こちらの渡したお礼が仕事に見合ったのだろうか今後も引き受けてくれるそうだ。
普通ならコンデンサーの寿命は約8年ほど。これは今の家電製品でも同じことだ。
8~10年でこの部品は寿命を迎える。あとは品質劣化が極端に進んで家電の性能が維持できないか壊れてしまうかだ。
アマクサへの帰り道は何となくゆっくりとしたものになった。
慌てて帰る理由もないからか、気が穏やかになっているからだろうかあちらこちらと寄り道が楽しかったのだ。
フセイでおろし蕎麦を食べてまたフィアが涙する姿を見たり、空軍に紹介された宿にもう一度泊まってみたりと行ったり来たりしながら帰路を楽しんだ。
今度は積極的に夜の街を闊歩したり、出店に首を突っ込んで余計なものを買わされたりしながら、笑いながら、散財しながらと言う楽しい旅になった。
適当に宿を取りながらの旅だからか、レネゲイドの稼働持続時間がかなり長いのだ。
朝、搭乗する際に残り時間を確かめると12時間とか14時間とか表示される。
プレッシャーの違いなのだろうか。
バニシングライフルも肩のハードポイントに2機搭載しているが、使う機会などありはしない。
フセイから沿岸沿いを海側にはみ出して飛行しているレネゲイドは光学迷彩を使用していない。
目視による混乱を避けるために徐々に沖合に出るように飛行していることで漁船に見つかることも減った。見つかったところでどうと言うことはないのだが、空軍の基地を訪ねようというのだから、海岸に接近する際はまた光学迷彩を使うことになるだろう。
コクピット内は完全にリラックスモードで、二人とも呆けている。
なまじ監視がしっかりしているおかげで目視の必要もないし、かなり遠方から探知してしまうのですることがないのだ。
俺はフィアの髪を梳くしかやることがない。フィアはこれだけはと持ち帰ってきたお父さんの日記を読みふけっている。
「マスター、進行方向2時の方角から接近する機体2。警戒体制に移行します。」
「ん?接近?」
今話で、ソウタがいかにダメになっているかという事が明らかに。
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