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【第29話】故郷一歩手前(1)クレハ

12月2日 文章の一部を修正

2016年1月3日 誤字修正

 翌日以降、シシオ夫妻は多忙を極めた。

 俺たちの持ち帰ったボーキサイトをもとにアルミを精錬するためにと、それこそ獅子奮迅の働きを見せてくれたのだ。

 不眠不休とはいかないまでも、サツキさんも含めて休む暇もないほどに集中してアルミナの析出と苛性ソーダの精製に尽力してくれたのだった。

 サポートするスタッフの努力も大したもので、興味のあったという事も根源にあるのだろうが、二人に負けず劣らず科学実験のようなプラントの構築や、浸透膜を作り上げる電気分解設備の立ち上げに総力を結して取り組んでくれたのだった。

 新しい何かを掴むという充足感に満ち足りた一か月が過ぎ、次々と出来上がったアルミを精錬するプラントに火が入ると、そこからの更なる一か月は集結したスタッフたちにとっても文明開化であったかもしれない。

 そうしてファンタジー世界にあまりにも異質な工場プラントが立ち並び、最終的には5kgにも及ぶアルミのインゴットが誕生した。

 「若いの、今から出立するのかい?」

 シゲさんが旅立ちの準備をする俺たちに声を掛けてきた。

 そう、アルミのインゴットをコンデンサーに使用するアルミ箔に加工するためにフィアと俺はセキセンへ戻ることにしたのだ。

 金箔を作る技術を借り、アルミ箔を得ようとしているので来た道を帰ることになるのだが今回はそれほどの時間がかかるとは思えない。

 「レネゲイドで飛んでいきますから、すぐに戻れると思います。ウィングのことをよろしくお願いします。」

 「ああ、任しとけ。まぁ、寂しがることもないだろうがよ。」

 そうなのだ。あの美人な馬は幾多の危険を乗り越えてきた馬であり、騎兵隊の馬たちと共に暮らすうちに「いい人?」を見つけたらしく、最近ではフィアさえ相手にされないこともあるらしい。

 「ウィングは遠くに行ってしまったのです。」と、ウルウルとした目でデートに忙しいウィングを眺めていたらしい。

 俺はレネゲイドの腰のハードポイントに、旅に必要な道具類を大きめの革で作ってもらったボストンバックに詰めこんで装着しているところだ。

 フィアはコクピットでレネゲイドと何やら会話中らしい。

 ここ最近、ウィングが相手をしてくれなくても砦の女性たちと仲良くやっていたが、スタッフ連の女性たちから熱心にレネゲイドの講義も受けていた。

 そのおかげもあって、レネゲイドの細かな操作や機能について習熟してきているらしく、レネゲイドと過ごす時間も増えているようだ。

 いざ実戦と言うときには頼りになると思う。

 「フィア、そろそろ行けそうか?」

 「はい、大丈夫です。この子の調子はとてもいいようです。」

 唯一の不満が、自分で名前を付けれなかったことだというので、それについてはどうしようもないじゃないか。

 「では、シゲさん行ってきますね。」

 「おう、気を付けてな。」

 フィアがシゲさんに挨拶をしたところでレネゲイドを起動させる。

 シシオ夫妻も見送りに来てくれており、領主のゴーランドの脇に控え手を振ってくれている。

 これからもここに留まり、アルミの増産に励むそうだ。

 鎧や盾なんかの強度を必要としないところにアルミを使用することで兵の負担が減り、とても好評を得ているという事だった。

 砦の正面大扉が開かれ、レネゲイドは滑らかな歩行で太陽の下に歩み出た。

 第1、第2、第3と防護壁の修繕も済み、以前のような姿を取り戻していた。

 「レネゲイド、出力40%でサンコウまで飛行する。」

 「了解。」

 両足の装甲が開き、インパルスモーターとノズルがせり出し、肩の鎧が変形し空力特性を上げる姿勢に変形した。

 ノズルからの推力を受け、レネゲイドは軽やかに上昇を開始する。


 水平飛行に移り、コクピット内にメッセージが流れる。

 「飛行は約30分です。目的地近傍で詳細なナビゲーションを希望します。」

 「わかりました。ランドマークは私が案内します。」

 フィアが言うのはクレハさんの住まいのことだ。

 何より作戦の成功を報告したい相手だ。

 今日はクレハさんのところに泊めてもらい、クノエに渡ってからのことを報告するつもりだ。

 ついでに喜んでもらえるような夕飯を作って上げられればいいだろう。

 夕ご飯のメニューの話に花を咲かせているうちにクノエとサンコウを隔てる海峡も渡り切り、二か月以上もご無沙汰した景色が目に入る。

 道中、流れる景色を見ながらだったが随分と人が戻ってきているようだった。

 簡易な建物が建ち始め、村の復興に勤しむ人の集まりをそこかしこで見かける。

 なにより嬉しかったのが、海峡を渡るときに見たたくさんの漁船だ。

 穏やかな表情を見せる海面に幾多の漁船が網を入れ、海の恵みを享受しようとしていた。

 「フィア、俺たちがレネゲイドを動かしたことで、当たり前の日常を取り戻せたような気がするよ。頑張った甲斐があったなぁ。」

 「はい、ソウタさんとともにいると今後も困った人たちのお役に立てそうな気がします。私たちが頑張ればサキュバスに対する見方も変わるのでしょうか。」

 やはりフィアには種族としての迫害があることが残念でしょうがないのだろう。

 祖父母、両親、そして自分。サキュバスでありながら良い人生を歩んでこられた肉親を見てきたからこそ、人とサキュバスの共存共栄を信じて止まないのだろう。

 クレハさんから聞いたように、両者にある確執と言う物はそう簡単なものではないが、フィアがこれから歩む人生が人にとって好影響を与えることができれば、少しはその溝も埋まるのかもしれない。


 そんな話をしているうちにもフィアはナビ画面から目的地を指示し続け、レネゲイドはその威容をクレハさんの住む大きなお社へと近づけて行った。

 轟音と大きな影を地上に落としながら近づいてくる異形の巨人に、近所の農民や社に集まって勉強でもしていたのだろう子供たちが飛び出して来て、手をかざしながら見上げている。

 そんな中、社を囲む松や杉の木立を避け、道端に何の衝撃もなく降り立った。

 レネゲイドは放熱も必要ないらしく、降着姿勢に屈みこんでハッチを開いてくれる。

 いつもの緋袴に白い着物を着たクレハさんが子供たちに囲まれて表に出てきてくれた。

 「ソウタ様!フィア様!よく無事で戻ってこられました。」

 花が咲くような笑顔で出迎えてくれる。

 「ただいま戻りました。約束通りにソウタさんと帰ってこられました。」

 「フィア様?髪の色が・・・そうですか。おめでとうございます。契約を済ませられたのですね。今日はお泊りになっていただけるのでしょう?フィア様とはいっぱいお話をしたいです。」

 ハッチを閉じ、屹立の姿勢に戻ったレネゲイドはすでに自己修復モードに移行し、点検やメンテナンスの必要な個所を自ら手入れし始めている。

 クレハさんはレネゲイドの側に近づき、そっと手を触れて見る。

 「これが比翼の鎧なのですね。お二方に動かすことができて、私たちが拝見できるとは本当に良かったです。そしてフィアさん、お幸せそうでよかった。良い伴侶に恵まれると一際お綺麗になられるのですね。同じ女性として羨ましすぎます。」

 「ふひえ?」

 「フィアが綺麗だって言われると俺も嬉しいな。」

 「ふひゃあ?」

 真っ赤になったフィアがかなり狼狽している。かわいい。

 

 怖いものでないと分かった子供たちにレネゲイドが取り囲まれ、男の子たちはやはり興味があるのかしきりに「かっこいい!」と叫びながらよじ登ったり抱き付いたりしている。

 女の子は逆にレネゲイドへの興味はそこそこなようで、それよりも見たことのないサキュバスの少女に群がっている。

 せがまれて出した背中の翼に頬摺りする子や、珍しい銀の髪を羨ましがる子などに取り囲まれて大人気だ。

 微笑みながらフィアの側に居るクレハさんも俺たちが受け入れられていることに安心しているようだ。


 日も暮れるころには子供たちは帰り、俺は厨房に立ち料理に取り掛かっている。

 フィアはもう、クレハさんに捕まりあれやこれやと質問攻めにあっているようだ。

 道中のことや自分が危険な目に遭い、やむなく契約に至ったこと。

 その詳細などを聞かれる段になっては、フィアは気を失っていたこともあって語れなかったが、二人して厨房にやって来て話せとせがまれた。

 異界料理を堪能してもらい、食事の後も色々な話が続きクレハさんが満足したころにはもう、フィアが眠そうにしていた。

 「お話が聞けて良かったです。そろそろフィア様をソウタ様にお返ししなければいけませんね。お疲れでしょうからごゆっくりとお休みください。」

 お休みの挨拶をしてフィアをお姫様抱っこで宿坊へと引き上げる。

 俺の胸にすり寄ってくるフィアを微笑みながら運び、布団に寝かしつけると俺の首が捕まえられた。

 「ソウタさん、ありがとうございます。クレハさんにも無事な姿を見せられてよかったです。人とも触れ合えて今日はとてもいい一日でした。あの、それでですが」

 急にモジモジとし出すフィアだが、熱っぽい目で見られれば何を期待しているのかは当然まるわかりだ。

 喋り終わる前にその薄紅色の唇を俺の口でふさぎ、背中を支えてやりながら濃厚なキスをする。フィアの鼻からため息のような吐息が漏れ、身をよじる。

 空いた手を使いフィアの体をまさぐるように撫でほぐし、また少し育った胸をヤワヤワと揉み解す。

 「ん、んん!」

 寄せてくる快感に身を任せながらよがるフィアをさらに大胆に愛撫することでたかめてやると軽く絶頂を迎えたようだ。

 本格的に着ているものを脱がし、布団の中で肌を合わせるとその甘え方はもう遠慮のないものとなり、大きな嬌声を上げはしないが絶えず悩ましい吐息が吐き出される。

 俺を迎える準備が整い、いつものように慈しみを籠めてフィアと一つになった。


 翌朝はいつものようにフィアを載せたまま起床し、以前より更に艶を増した深い色合いの銀の髪を手で梳いて楽しんだ。

 俺はまた厨房に立ち、相当量の食事を作り始めた。

 今日も子供たちが来るというので、彼らの昼飯を用意しようと考えたからだ。

 前回訪問して以来、やはり「おにぎり」は子供たちにもその親にも受け入れられ、一大センセーションを起こしているらしいが、今日は昼にめがけてクレハさんにも喜んでもらえた唐揚げを膨大な量つくるつもりだ。

 更なる食文化の発展に寄与してこの辺りに日本食文化を広めてやろうとしている。

 昼前の11時ごろには準備が整い、昼食はこれで大丈夫だろう。

 エビや野菜のてんぷらをおにぎりの上に埋め込むように乗せて、海苔で持ちやすくなった「天むす」と唐揚げ、ジャガイモを四角い柱状に切り、油で揚げたフライドポテト。

 辛くない中華卵スープが準備でき、俺たちがお暇する時間となった。

 「クレハさん、一晩お世話になりました。」

 「こちらこそ。こんなに準備までしていただいてきっと子供たちも喜びます。セキセンで目的を達せられること、お祈りしております。道中、お気をつけていってらしてください。

 またきっと、お寄りになって下さいね。」

 再会を誓った別れだったのであっさりと済ませ、子供たちを踏まないように気を付けながらレネゲイドは歩みを進めた。

 周辺に人の気配が無くなったことを確認し、レネゲイドはインパルスモーターに点火して大空へと舞い上がる。

 ここからセキセンまでは3時間ほどの空の旅だろうか。

 アマクサに行くときは色々な出来事に遭遇し、たくさんの人達と出会うことができたものだったが、この空の旅は何事もなく俺たちをセキセンへと届けてくれたのだった。

 クレハさんには鎧を見せる意味も込めて空から現れたのだが、今度はそうもいかず、大都市にこんなもので乗り付ければ大騒ぎになることは請け合いだろう。

 キンタクの郊外に降り立ち、ひとしきり思案したのだったが、レネゲイドをこんなところに放置するのも怖いし、お供にするには大きすぎると思っているとフィアから提案があった。

 「光学迷彩を発動して見えないようにしながら一緒に行ってはいかがでしょう。」

 そんなことができるとは大したものだ。

 金箔を作る工房があるのは街中ではないので、それで行けそうである。

フィアとレネゲイドが会話を交わすとレネゲイドの輪郭からぼやけ始め、完全にその身が溶け込むように消えた。

 俺たちが向かう先は徒歩で1時間とかからない。

 手をつなぎ、景色を楽しみながら進むと後ろから質量のある足音が聞こえるのだが、これを隠すのは難しいだろう。

 街中でないのが幸いだ。

 規則正しい歩幅で田舎道に科学的な足跡を残しつつ半刻の道のりを歩んだところに小さな村が開け、茶屋がその入り口に店を開いていた。

 子供たちの昼食は準備したが、自分たちが昼食を取るのは少し遅い時間になってしまっていた。

 茶屋に入ると年老いた夫婦が迎えてくれ、熱い茶を二つ出してくれた。

 品書きを訪ねると、野菜を煮込んだ田舎煮が旨いというので大盛りで二人前を注文した。

 二人のお腹が落ち着き、主人に支払いをすますと箔を作る工房を紹介してくれたのだ。

 なんでも二人の息子夫婦がやっているそうで、大変助かる。

 タカザと名乗られた工房主に用件を伝えると、不思議そうにアルミを手に取って試すすがめつしながらどうしたものかと思案顔だ。

 「柔らかい金属だな。金と同じように伸びるかはやってみないとわからないが、やってやるよ。」

 「助かります。金箔ほどの薄いものは必要ありませんが、柔らかく巻き取ることができるくらいの厚みでこのくらいの大きさの箔がたくさんほしいのです。」

 手で50センチ四方の大きさを示すとタカザさんは難色を示す。

 「箔打ちの機械と挟み込む和紙はそんな大きさのものは加工できないよ。」

 つなげて使うことも可能だと提案してみたら、それならと安心して引き受けてくれた。

 「明日の昼頃にはできるだろうから、そのころに来てくれるか?」

 明日の昼に約束を交わし、代金を先払いする。

 ほぼ一日の余裕ができてしまったのでどうしようかとフィアを見ると、フィアも何かを考えていたようで、口に出していいものか迷っているようだ。

 「どうした?言ってみてくれていいんだよ。」

 「ご実家には行かれないのですか?」

 「今はやめておこう。母上のご実家と領主の間でトラブルもあって、俺たちには近づくなと言われただろう?余計なトラブルには近づかない方が良くないか。」

 「それでしたら、私の故郷へ行ってみませんか?ソウタさんにお会いしてから一度も家の様子を見ていないので、できればでいいのですが。」

 フィアの絹のような髪に手を置き、笑顔を見せてやると俺を見上げながら微笑む。

 「行ってみようか。」


 一度村を離れ、レネゲイドのところに戻ると光学迷彩を維持したままで空へと舞い上がった。

 フィアにしか場所は分からないから、ナビは完全にフィア任せだ。

 それでも大した距離ではないだろうし、泊まる場所があるかは判らないが冒険者でレネゲイドを連れていることを思えばどこでも心配はないだろう。

 戦闘目的でもないし、フィアの暮らしていた村には興味もある。

 他にも暮らしているサキュバスが居れば色々と聞くこともできるかもしれないと、期待を抱きつつレネゲイドが宙を駆けていった。


セキセンへの往復を書く、つなぎ回ですね。



いつもお読みいただきありがとうございます。

次話は早いうちにUPできると思います。

フィアの暮らした里ってどんなところなんでしょうね。

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