【第28話】露天掘りからの露天風呂
2016年1月3日 誤字修正
一夜明け、昨夜の治療以来昏々と眠り続ける旦那さんを他所に、フィアとサツキさんは朝食の準備をしてくれている。
食材はすべて俺たちの馬車にあるモノだったが、それは今言う事ではないだろう。
しかし、扶養する対象が増えたという事は、食料がより早くなくなるという事だと言える。
今後の予定を見直し、早めの帰還を考えなければならないだろう。
俺は飯盒でご飯を炊きながら、旦那さんの様子を看る。
穏やかな呼吸をしており、体温も正常な範囲内だと思う。怪我による衰弱もあったろうから、今は休養が特に大事だろう。
朝食の準備が整い、食べるころになっても旦那の目覚める気配もなかったので、俺が握り飯を用意し、目が覚めてから食事ができるようにと少し野菜炒めを甘辛にして良く炒めておいた。
自分たちの食べる分とは分けて調理したので、ごく少量ではあったが病人食として柔らかく水分を足して煮ておいた。これで濃い味付けも和らぎ、消化にも良いだろう。
「ソウタ様、シシオのために申し訳ございません。きっと食材の残りの量も気になるのではないでしょうか。領軍にたどり着くまで私たちは食事など必要ありませんから、そのように取り計らってくださって構いませんのですが。」
「いや、そんなわけにはいきません。ご主人は病み上がりなんですから特に気を使ってあげてください。俺たちこそ普段は満足に食事を摂っていますので、シシオさん共々遠慮するところではありませんよ。」
「申し訳ありません。このご恩は必ずお役に立ってお返しして見せますので、アマクサまでご一緒させてください。」
「ソウタさんにお任せください。」
フィアが請け負い、俺もうなずく。
「まずは俺たちが朝食を頂いてしまいましょう。」
朝食が済み、食器などを片付けている頃に旦那さんが目覚める。
「サツキ、サツキ?」
「ああ、シシオさんでしたね。ご心配には及びませんよ、私たちはアマクサの領軍に関わっている者です。奥方様は私の妻といま、朝食の片づけをしてくださっているのです。」
「あなたは?」
夕べから今朝までの出来事を詳しく語って聞かせた。
俺たちが領軍を出て、何をしにどこへ向かうかも隠さずに伝えたのだが、俺たちが聖銀の巨人を動かしている当人だと知り、いたく感動されてしまった。
「ソウタ様、そう言う用向きでの外出という事であれば、私どもはお二方のお役に立つことができるかもしれません。サツキからお聞き及びのこととは思いますが、私どもは錬金術に長けておりますので、そのアルミとかいう金属の精錬にもご協力ができるように思うのです。
サツキも錬金術を使いますので、そのソーダとか言う物の精製と手分けすれば効率よく目的を達成できるかもしれませんね。それでお役に立てれば助けていただいた御恩の一部なりともお返しできると言う物です。
幸い、ソウタ様のご助力により私の体調もほぼ、戻っているようです。
どうか、どうか私たちをご利用くださいますか。」
随分と義理堅い人たちだ。
おかげでアルミを入手する目途が立ってきたように思う。
旦那さんが目覚めたことを知り、飛んできたサツキさんはシシオさんの首に体ごと飛び込んでいた。また死んだりしないか?
フィア、なんでうずうずしてるんだ?
だいたい考えていることは分かるので、試しに両手を開いて迎えるようにしてみた。
パッと花の咲いたような表情になったフィアがサツキさんの真似をして俺に飛び込んできた。
首に飛びついてクルクルと回って喜んでいる。
それを見た錬金術師夫妻は声を上げて笑っていた。フィアが恥ずかしさで憤死しそうになったのは言うまでもない。
四人を乗せた馬車は昼頃にはチョウザの町の跡へとたどり着いた。
ここもやはり巨人たちの攻撃を受け、建物と言う建物に被害が及んでいるようだ。
クノエの西に突き出たような半島は広いことは広い土地を有しているのだが、標高のある山間地がないため、見渡す限りに遮蔽物がない様な開けた場所だ。
北東側に僅かな高地があり、本来ならば水源として森が育まれていただろう小高い山々は禿げ上がり、真黒な地肌のみが晒されている。
目的地はこの山間にある露天掘りの鉱山だ。
石炭を得るために開かれた鉱山だというのだが、石炭と共に少しのウラニウム鉱石や雲母、鉄鉱石なども産出されているためにそのささやかな出土品を有効に活用するべく錬金術が盛んに研究されたという謂れがあるそうだ。
そうした研究の徒についていたシシオさんたちライカン族も種族として錬金術を得意とし、ドワーフ族らと親密な関係を築いて暮らしていたそうだ。
ライカン族の居た東の方でも鉄鉱石が取れる鉱山があったそうで、立て坑を掘り進め、崩落による犠牲を払いながら純度の高い鉄鉱石のインゴットを特産品にしていたと教えてもらった。
今回目指す炭鉱は露天掘りなので、深い穴を上から掘っていき、らせん状にぐるぐると降りていけるようにすり鉢状になっているのが普通だ。
この方式だと鉱石のない場所も同様に掘り進める必要があるため、若干の無駄があるが崩落などの危険がないためにとかく大きなすり鉢ができやすい。
この鉱山も石炭を掘るためとはいえ直径が300メートルはありそうで、深さも50メートルはあると見える。
らせん状に手押し車や馬車が昇り降りできる穏やかな傾斜を底に向かって馬車で駆け降りる。
その途中途中に目当てのボーキサイトらしき赤灰色の鉱石が岩肌や土砂に埋まっているのが判る。それらを丁寧に掘りだし、麻袋に投げ込んでいくと麻袋一つがすぐにいっぱいになった。
それからしばらく同じ作業を繰り返しながら四人は馬車に乗らずに探索を行っていた。
ご夫婦は鉄鉱石も集めているようだが、石炭と一見して見分けがつかない。
フィアはサツキさんに見分け方を教わっているようだが、俺たちには必要ないんだがな。
もう、すり鉢の底に着くというときに気配察知が働く。
「フィア!」
フィアも気がついたらしく、夫妻を馬車へと急がせた。
「ウォグルグルグル」という低い唸り声が一番底の横穴のようなところから響き渡る。
穴から現れたそいつはオルトロスだ。巨大な犬の体に二つの犬の顔を持っている。
低く構えながら俺たちを伺うように唸っている。
「ひいっ?」
サツキさんが馬車の上で悲鳴を上げる。
俺たちとしてはヒドラから比べれば「わんちゃん」にしか見えないのだが、一般的には死をも覚悟するような怪物なのだろう。
「フィア、じゃ~んけ~んポン!」
いきなり理解不能な行動を取る俺たちをシシオさんとサツキさんは茫然と見ている。
「ああ?お二方!あいつがこっちに来ます。早く逃げなければ!!」
「勝った~!ウォッシャー!」
何に勝ったかもわからない二人はもう、気が気ではない。楽しそうにじゃんけんに興じる俺たちの背後にはオルトロスが間近に迫り、今にもどちらかに噛みつこうとしているのだ。
「ああ!?」
「もうダメ!見てられないわ。」
「しかたありませんねぇ~、じゃあ私が。」
じゃんけんに負けたフィアがヤレヤレという表情を見せ、おもむろに背中の剣に手を掛けた。
瞬間、本当に瞬間、フィアの周りに風が巻き上がり、フィアがいつ抜いたのかもわからない身長ほどもある大剣を鞘に戻していた。
「ギャン!」
オルトロスの悲鳴が聞こえたと思ったところが、二つの頭が信じられないという表情のままに宙を舞っていた。
前のめりに首を失った獅子ほどもある体が崩れ落ち、静寂が戻る。
「お~おみごと!」ソウタがフィアの頭をなでなでと撫でまくる景色がもはや非現実のように二人の目に映る。
「どうしたんだ?なにがあった?」
ぽかんとした表情のままに目の前で繰り広げられた戦闘ともいえないような抜剣をどう理解したらいいかわからぬままに、シシオたちは馬車から降り、恐る恐ると近づいてくる。
「いま、どうなったのですか。」
サツキさんは俺たちを得体のしれないものを見るかのような表情で見る。
「驚きましたね。いや、フィアにしてみればあんなの犬でしょう。ここに来る前にはヒドラの首を4本も刎ねてましたから運動にもなりませんよ。」
「ほ、本当なんですか?」
「ソウタさん、そんな言い方しないでください。そのとき5本の首をちょん切っていたじゃないですか。私が4本狩る間にソウタさんは5本狩りましたから私よりすごいんじゃないですか?」
「ひええ、貴方たちはなんですか。」
それどころか俺たちの場合はあの巨人でも100体単位で一人で相手をしてきたのだが、それを言うと人間扱いしてもらえないかもしれないので、ここで言うのは控えておこうと思う。
「ソウタさんは巨人も魔法で100匹単位で消し飛ばしてましたから、ご安心ください。」
何で言っちゃうかなこの子は。
「…私たちは何か聞いてはいけないことを聞いたような気がしますが。」
「…さ、さぁ、あまくさにかえりましょうか…」
シシオさんとサツキさんを馬車へと押し込め、フィアをメっと睨んだら不思議そうな表情で首をかしげて見る。
それ、かわいいからやめて。
露天掘りの鉱山を無言で登り切り、来た道を帰るように黙々と馬車を進ませる。
沈黙に耐えられなくなったフィアが夫妻に頭を下げた。
「あの、ごめんなさい。怖がらせるつもりではなかったのですがソウタさんも私もお二人をお守りできるとお伝えしたかったのです。すみませんでした。」
「いえ、謝らないでください。ちょっとお二人の強さが想像できなくて戸惑っていたのです。怖がっているなんてそんな失礼なことしません。」
「ありがとうございます。」
そう言ってフィアはもう一度頭を下げた。
その頭をそのまま俺は撫で、フィアは嬉しそうに笑った。
荒涼とした平野でもう一泊しなければならないと告げると、シシオさんが良い案を出してくれる。
「少し海岸線に降りると温泉地があったと記憶しています。被害が少ないようならそこで夜を明かしませんか?」
回り道をするように海岸線に進路を向ける。シシオさんの記憶の通りに海岸線を辿ると立派な温泉宿が見えてきた。
生憎と人気はなく、旨い料理を食べるわけにはいかなかったが、温泉も無事でいくつもの露天風呂が竹林や衝立で仕切られて趣のある風情を醸し出していた。
「いいですね。」
この見渡す限りの水平線と良さそうな温泉に俺も満足だ。
話し合って、それぞれがこの温泉を堪能することにした。
「ふわ~、気持ちいいですね。」
「ああ、やっぱり温泉は生き返るよ。」
フィアは俺に背中を預け、俺の胸の中にいる。
「ぼーきさいとは十分な量になったのでしょうか。」
「多分ね。シシオさんたちに頑張ってもらってどれだけの量ができるのか判らないけど、あの赤色の石の6割くらいがアルミナって成分なんだよ。これを精錬すると半分くらいの量になってそれがレネゲイドのために必要なものになるんだよ。」
「あん、ソウタさん、近くにお二人がいらっしゃるのでは?」
腕の中にフィアがいると思うとつい、つい抱きしめてしまった。
それからかわいいお胸に手をやるとフィアが可愛い声を出す。
「ん!んん?あ、ん。」
胸からまんべんなくタッチを繰り返し、フィアの体を堪能すると昂った体を反らす。
伸びたフィアの両腕はそのまま俺の首に回され、俺の両手は自由になり、更にフィアの色々を慰めることができるようになった。
「ひっ、ううん。あ、ああ?」
フィアを背後から抱え、十分に楽しむことができた。
満天の星空の元で十分に温泉を堪能し、満ち足りた気分で眠りにつくことができた。
翌日はもう、アマクサにたどり着く。
朝も早い時間ではなかったが、しっかりと朝食を取りウィングに飼い葉をやり、準備を整えてからの行軍はわずか半日余りだった。
傷んでしまったが十分に威容を放つ三重の砦を潜り抜け、最奥の要塞に至るころに夫妻は一緒に城砦を見上げていた。
レネゲイド出撃用の大扉脇から馬車ごと中に入ると、近くに居た兵やスタッフが声を掛けてくれる。
「あ!おかえりなさい。」
「探し物は見つかりましたか?」
「フィアさんツヤッツヤですね!」
最後のは余計なお世話だ。ナノハだな。
「シシオさん、サツキさん、ここがアマクサの領軍の拠点ですよ。あそこに立っているのが比翼の鎧と言われているものです。
近くに寄ってみますか?」
「側に寄っても大丈夫なのですか?」
「もちろんです。俺たちが乗らなければ勝手に動いたりしませんよ。」
「マスター、私を危険なもののように言うのはやめてもらえませんか?」
「うわ!?喋りましたよ。」
会話に入ってきたレネゲイドにたいそう驚いている様子だ。
「ソウタ殿、そちらのお客人はどちらの方ですかな?」
そう言って現れたのは領主のゴーランドだ。
「シシオさん、サツキさん、こちらはアマクサの領主で領軍の指揮官もしておられるゴーランド殿だ。俺たちはここの人間ではないが、この鎧を動かすためにここまで来て、ゴーランド殿に良くしてもらっている。」
シシオさんとサツキさんはゴーランドに深々と頭を垂れ、挨拶を述べる。
「初めてお目にかかります。ココノエから参りましたライカン族のシシオと申します。これは妻のサツキです。道中に怪我を負った私をソウタ様方が助けてくださったのです。それでソウタ様の探し物のお役に立てるのではと厚かましくも連れてきていただいたのです。
お許しを頂けますなら、精いっぱいお役に立とうと思いますので、こちらに置いていただけますでしょうか。」
「そうでしたか、どうかソウタ殿の求めるものが完成するようにお力添えください。この砦では自由にして頂いて構いません。技術的なことでしたらスタッフも多くおりますので使ってやってください。」
「おお、ありがとうございます。錬金術師の名誉にかけてお役に立って見せます。」
「ソウタ殿、良い方々と出会われたようですな。」
そう言ってゴーランドは執務に戻るらしくナノハに後を任せ、立ち去って行った。
「私はここで雑務を言いつけられておりますナノハと申します。お二人をお部屋に案内いたしますのでこちらにお越しください。」
「ソウタ様、フィア様、本当にお世話になります。こうして私たちが無事にあるのもお二方のおかげです。」
俺たちにも頭を下げ、サツキさんたちはナノハに連れられて行った。
一つ伸びをしてフィアを振り返るといい笑顔で微笑んでいる。
「ん?」
「いいえ、なんでもありません。」
華やかにほほ笑むフィアは、自分だけ納得したようにうんうんと頷き、部屋の方へと歩き出した。
「フィア、なんだよ。」
「いえ、大好きですよ。」
「はぁ?」
それきり振り返りもせず、フィアはクスクスと笑いながら歩いていってしまった。
納得がいかないのだが、怒られたわけでもないのでいいか。と、割り切ることにした。
どんな人とも種族とも何の偏見も持たずに接して、自分の持てる力の限りで助けてしまう。
どれだけお人好しなのかと思わずにはいられないのだが、そう言う人だから自分も受け止めてもらえ、必要とされるのだと思うと何だか気分が良かった。
だから「大好き」と普通に伝えることができたのだ。
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
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