【第27話】ボーキサイトがほしい
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2016年4月22日 誤字修正
バカ騒ぎの夜が明け、砦は平穏を取り戻している。
正確には酔いつぶれた大半の兵士やスタッフが起きてこないだけなのだが、領主のゴーランドさえもベットで撃沈しているという事だ。
満タンまで補充され、活力の有り余っているフィアは目覚めるなりにお腹が鳴り、殴られた俺はそれで目を覚ました。
つやっつやのお肌のフィアさんにせかされて食堂へ赴くと、そこには普段通りにしている兵士たちやスタッフエンジニアが俺たちと同じように朝食を求めて集まってきていた。
スタッフのチーフを務めてくれているシゲと名乗られた年配の技術者のオヤジさんが、昨夜のバカ騒ぎを明け方に解散させたそうで、「バカ野郎どもが」と朝食のテーブルで悪態をついておられた。
「シゲさん、おはよう。」
フィアと二人でシゲさんの向かい側に腰を下ろした。
トレーにはパンと分厚いベーコンを焼いて大盛りの野菜の上に乗せた主菜に、魚のすり身の団子と根菜類がたくさん入ったスープ。フィアには果物のジュース、俺は熱い紅茶がセットになっているものが与えられた。
俺はベーコンに齧り付きながら、レネゲイドの完成に必要な情報を求めていく。
フィアは一心不乱に野菜の山を切り崩しているらしい。お年頃のフィアにとっては野菜を片付けてから肉を食べると太らないという都市伝説をスタッフから仕入れてからと言うもの、野菜・野菜・肉みたいな食べ方をするようになってしまった。
冒険者は肉・肉・ついでに野菜だと思うのだが。
「シゲさん、これだけの戦闘を1000年ぶりにやったわけなんだけど、レネゲイドの整備は今後どんな計画になるんでしょう。」
すでに大体のところを腹に納めたシゲさんは、熱い緑茶のようなものをすすりながら教えてくれる。
「あいつはな、ほとんどメンテナンスが必要のない造りになってやがってな、つまらないったらないよ。俺は1000年前から面倒見てるわけでもねえしな今日から詳細に調べていくことになるんだが、慣らし運転にしちゃぁハードだったろうから駆動系の様子を見るにはちっとばかし時間を貰う事になるぜ。」
「じゃあ、その間にバスターランチャー用のコンデンサー関連で調べ物でもしますよ。」
「おうよ、そいつは助かるぜ。なにせこの世界にない部品だって言うじゃねぇか。制圧用の攻撃型らしい武器が使えねぇんじゃレネゲイドもかわいそうじゃねぇかい。」
いつの間にかシゲさんとの会話に夢中になっている間にフィアの側には女性のスタッフや兵士が集まってきていた。
気が付かなかったのだが、隣に黄色い声が飛び交い、ずいぶんと賑やかなことになっていたのだ。
「こいつらにゃぁ、付き合い切れねえぜ。」
一言こぼしたシゲさんは自分のトレーを持ち、席を立った。早々に退散するんだそうだ。
スタッフのチーフもいなくなり、うずうずとした気配が充満しているようだ。
なんだろう?身の危険しか感じないのだが、俺も逃げた方がいい様な気がする。
「ソウタ様、フィアさんとの馴れ初めを聞かせていただいているんですが、ソウタ様は元は貴族でいらしたとか。フィアさんと出会われてからご一緒にお屋敷を出られたというのは本当ですか?」
なんでそんなことを聞くんだろうか。
「ええ、その通りです。」
「「「「「キャー!」」」」」
「本当なのね?ロマンチックよね~!私もそんな彼氏が欲しいよぅ!」
「貴族の身分を捨てて、フィア様を選ぶなんて!かっこいいわよね~?」
「そうそう、フィアさんが羨ましい!」
「 !」
「 ?」
「 !!!」
もう、俺の耳には何も入ってこない。
人数が増えてる。
俺の向かいも周りも若い女性の兵士やスタッフがごっそりと集まっているじゃないか。
フィアを質問攻めにして盛り上がり、俺に確認して黄色い悲鳴を上げる。
昨日の巨人の方が余程ストレスを感じなかった。精神がゴリゴリと削られ、もう、HPがゼロになりそうだ。
夕べの酒宴のお蔭で長のつくような者たちのほとんどが布団で腐乱死体となっているからだろうか、若い娘たちの女子会トークが食堂で留まるところを知らない。
俺は脱兎のごとくにフィアを置き去りにして逃げ出してしまったのだ。
まぁ、話題の中心に居るフィアはとても楽しそうだったので、年の近い仲間もできるだろうし、置いて来ても大丈夫だろう。
そのまま格納庫まで逃れ、ひじ掛けのついた簡易の椅子に腰かけると、兵装マニュアルを手に取り、自分なりに納得のいくようにと読み込んでみた。
レネゲイドの戦闘システムはやはり、大半が自動化されており搭乗者が素人でも十分な戦闘が行えるように戦術シミュレーターが充実しているらしい。格闘戦のノウハウや航空自衛隊の戦術訓練データ、陸上自衛隊の専守防衛構想に始まり、ナチスドイツの戦車殲滅戦の作戦計画書などまでデータベース化されて運用に活かされているらしい。
そうまでして自動化が図られているのも驚嘆に値するわけだが、すべてのデータが地球から持ち込まれたものであり、過去の大戦や現在の電子戦に至るまでのコンバットノウハウが恐ろしく充実している。
逆に戦略構想に関しては基本的なものしか備えておらず、戦闘機械であるらしく戦術級の分野のみが突出しているようだ、。
また、試作型らしくフィードバックシステムが優れており、成功した攻撃や失敗した際の問題の修正を学習するシステムが特に発達していた。
兵装の特徴なども頭に叩き込んでいく。
レネゲイドの特徴として固定武装がないことが挙げられる。
機体に直接装備されている機銃の類などもなく、すべてが機体全体の10か所のハードポイントに後から装備する仕様となっている。
やはり最後に問題になるのはバスターランチャーだ。
巨人の巣を叩くにしてもこれがない限りは明確な打開策とはならないだろう。
バニシングライフルの10000倍のエネルギー収束が可能で、一撃で富士山も吹き飛ぶだろうと思われる。
それだけのエネルギーをぶつけなければ突破できない巨人たちの巣はどのようにして作られたものなのだろうか。
それを用意した者の存在さえも気になってくると言う物だ。
昼頃になってようやくフィアも解放されたらしく、軽食を籐籠に詰めてやってきた。
「フィア、疲れなかったか?」
「はい、大丈夫です。たくさんの方とお知り合いになれてとても有意義な時間でした。ソウタさんは随分早くに席をお立ちになられましたが、お腹は空いていませんか。私たちは今までずっとお茶と軽食を頂いていたので、私は大丈夫なのですが皆さんがこれを持っていくといいと準備してくださったのです。」
そう言い、見せてくれる籐籠にはうまそうなサンドイッチがたくさん詰められていた。
水筒もあって、熱い紅茶が入っているそうだ。
「フィア、ありがとう。」
サンドイッチをつまみながら、雑談をしているとフィアの元へ女性スタッフがやって来て、連れられて行ってしまった。
午後からは白いノートと睨めっことなり、慣れない計算式に埋もれて時間が過ぎていった。コンデンサー容量が1TFという事もあり、製造方法について考察を続けていたのだった。
やはり、この世界での製造の可否を検討するとアルミ箔を積層構造にするのが一番現実的なように思える。
トサンのコウリョウにでもアルミを作っているところはないだろうか。
構造計算の結果、アルミで作成する場合は直径が1.2メートル。厚みが60㎝を超えるような大きな円筒状になると計算結果が導かれた。
デカい。
シゲさんに相談すると、バスターランチャーの大きさからすれば寧ろ小さいとまで言われてしまった。
ランチャーは見たことがないが一体どんな物なのだろうか。
アルミは自然にあるモノではないのでやはり製鉄所のようなところを訪ねるのがいいだろうか。また、箔を作るにはセキセンの技術がいるらしい。
ああ、石川県の金箔を作る技術か。
有力な情報としてボーキサイトと苛性ソーダを入手する必要があることが判った。
ボーキサイトは鉱石なのでどこかの鉱山から入手できるかもしれない。
苛性ソーダは水酸化ナトリウムなので、海水から電気分解の過程で純水の中に析出してくる。といっても電気分解なんて。と考えたところでレネゲイドを見上げてしまった。
こいつは電気で動いているんだった。
ボーキサイトの産出される場所を調べていたが、時間がかかった割に成果は上がらなかった。過去の文献によれば長崎で僅かに掘られたことがあるようだが、基本的には熱帯に分類される場所が主な産出地になっているらしい。
地球ではオーストラリアとか中国、南シナ海の諸島群で産出量が多かったと記憶している。幸いにもクノエの地と照らし合わせれば長崎と思われる場所はこのアマクサから近く、チョウザという場所が該当しそうである。
「シゲさん、チョウザに鉱山があるとか聞いたことはないかな。」
「あ?確かあったな。」
よし、朗報になるかもしれない。
サクッとレネゲイドで飛んでいけば時間も労力もかからないのでは?そう考え相談してみると、素気無くも断られてしまった。
「馬車で二日ほどなんだぞ?レネゲイドは点検中だ。フィアさんと一緒に馬車で行ってきやがれ。」
あんまりである。
「はい、一緒に参りましょう。」
簡単に馬車で行くことが決まった。
「ウィングと久しぶりのお出かけですから楽しみです。」
俺もここ最近、ウィングとは顔を合わせていないな。
と言った打ち合わせを経て翌日には出立となった。
「ブルルルル」
ウィングが「お前は誰だったかな?」的な顔をする。
フィアだって久しぶりなんじゃないのか?
「いいえ、私は毎日ウィングを散歩に連れ出していましたよ。」
「うっ!?」
ウィングの前に立ち、頭を下げる。
「すまなかった。」
「ブフフン。」
なんか序列が入れ替わっているように思えるのは俺だけだろうか。
馬車に積んでいるのはツルハシにスコップ、麻袋が5枚ほど。
食事の用意は余裕を見て5日分、30食を用意した。
「なんだか、久しぶりの様な気がしますね。」
「ああ、本当だな。色々あったからずいぶん時間が経ったような気もするが、ほんの一週間ほどなんだよな。俺たちが契約してからはさ。」
「そ、そそ、そうですね。思い出すと恥ずかしいです。」
「なんで?」
何とはなしに聞いてしまったのだが、フィアは真っ赤になって俯いている。
「私、ソウタさんと出会ってからずっと契約してほしかったんです。でも、契約しないうちからソウタさんはいつも私を大事にしてくれていましたので、それで何が変わるんだろうって思う事もありましたし、決して離れることのない約束が交わされることについての憧れもありました。そんなころの自分を思い出すと恥ずかしいのです。」
そんな昔でもあるまいにフィアには随分昔の話を思い出してるような雰囲気があるな。
そりゃ、ずっと昔の話を幼馴染に暴露されたりとかは恥ずかしいなんてもんじゃないだろうけど、先週の話で何を言ってるんだろうね。
お互いのその時に考えていたことや、思ったことなんかを語り合いながら、馬車を進めていく。所々でウィングが振り返りながら嘶くのが相槌を打っているようでフィアと顔を見合わせてしまった。
でも、これまでだってウィングと旅を続けている間のことを思い出すと、要所要所で阿吽の呼吸を見せていたんだから、きっと俺たちの話していることが判っているんだと思う。
フィアにもそう言ってみたんだが、いい笑顔で肯定されてしまった。
巨人たちのお蔭でどこもかしこも荒涼とした景色しかないのだが、三人で話し合ったり、笑いあったりしているうちに随分と進み、陽も傾いてきた。
「今日はこの辺で良いだろう。ウィングを馬車から外して楽にしてやってくれ。
荷物を降ろして食事の準備をするよ。」
「ソウタさんの作る夕食を頂くのは久しぶりですね。楽しみです。」
「今日の朝まで旨いものを食べさせてもらってたんだから、期待すんなよ。」
本当にここ最近は宿の飯だったり、砦で出される豪華且つ豊富な食事になれてしまっていたから舌が肥えているような気がする。
そこでひと工夫しなければ俺が廃るとばかりに、豊富な食材を利用して炊き込みご飯とあらかじめ砦の厨房を借りて準備していた煮豚を使った炒め野菜の肉多めを作ってみた。
油揚げを使った味噌汁と一緒にフィアに食べさせると、本当に幸せそうな顔をする。
ウィングにも奮発して用意したニンジンやリンゴを飼い葉と一緒に進呈したのだが、たいそう喜ばれた。
完全に日も落ちて辺りが闇に包まれたころにはフィアへの本来の補給も終わり、気だるい感じはあるものの、夜警も必要なので俺は馬車の外に出て、焚火の火の番をすることにした。
フィアが寂しくならないようにと馬車の中に敷いた布団から焚火の番をする俺が見えるようにしてみた。
布団の中で寝返りを打ったフィアがムニャムニャ言いながら俺を探していたようだったが、こっちを見つけて安心したのかまた目を閉じていった。
そして静寂が訪れ、火の中で薪がはぜる音を聞きながら周囲に気を配っていた。
探知魔法を使用する限り、危険なものもそうでないものもすべてが見通せるのだから本当なら焚火の番も必要ないのだろうが、こうして一人になる時間もしばらくなかったからか、自然と色々なことを考える時間となった。
フィアとは考える間もなく契約を交わしてしまった。契約を結ぶこと自身には後悔もないし、望んでいたことだったから問題もない。
だが、僅か15歳の少女が生きるためとはいえ、その身を縛られるというのが俺のこれまでの人生観からすればたいそう過酷な運命だと思わざるを得ない。
地球では当然そんなことなんて今ではあるハズもなく、高校1年生が将来を選択することなんてめったなことではないだろうと思うのだ。にもかかわらず、この世界ではそうしなければ生きることさえ叶わない。
誰が作ったかもわからないこの世界で必死で生きている彼女たちを思うとやるせない気持ちでいっぱいになるのだ。
コボルト、オーク、ドラゴン、吸血鬼、ラミア、ハーピー、ワーウルフにサキュバス。神に巫女。騎士に魔法使い。この世界は複雑にして単純。
様々な生命に満ち溢れ、生と死が隣り合い、強者が弱者を喰らい、数多の生命が生まれ、死んでいくのだ。
俺がこの世界へ来る前に過ごした20と余年は複雑怪奇でもなく、命のきらめきもなく、怠惰で生ぬるい、そして無為でありすぎた。
その時々で悩み、苦しむことはあったと思うのだが、この世界に暮らすありとあらゆる命と比べてどうであったろうかと考えてしまうのだ。
契約を結んでしまった限りには、フィアには幸せになってほしい。
あんな小さな体で俺と共にあり、大剣を振るい命を燃やしているんだ。後悔だけはさせないようにしなければ。
俺の命が尽きる時までフィアは一緒に居なければならない、選択の自由もないままに。
そうであれば、今結んでしまった縁を最期の時に良かったと思わせるように俺は生きなければいけないのだろう。
そんな風にこれからのことに思いを馳せて、気合を入れなおしていると気配察知に反応が現れた。
距離はまだ随分と遠いがこれは人間の反応だろう。
多分二人分の反応があるが、多分と言うのはその片方の反応がひどく不安定なのだ。
そう、端的に表せば死の淵にいる。とでも言うのだろうか。
俺たちはアマクサを出て、北へと向かっているのだが反応は真東からやってくるのだ。
様子を見ている限りでは、焚火の火をどこかから認めたのだろう確実にこちらに向かってきている。
その二人のうち片方は死にかけているように見えるが、それでも確かな足取りでこちらへと歩んでいるのだろう。
フィアを起こすのはギリギリまで待てばいいだろう。近づくまでにまだ2時間はかかるだろう。
「フィア、起きてくれるか?」
そろそろ姿も見えるだろうかと言うところまでやってきたのは2時間半も過ぎた頃だった。
段々と死にそうな方の反応が弱くなってきている。
「ううん。うみゃ、そたさん?」
寝ぼけてる。
「フィア、すまないが人が来る。起きてくれるか。」
「ああぁ、はい。わかりましたぁ。」
大きく伸びをしながら上半身を起こし、両手で眠い目をこすりながら布団から抜けて出てくる。
「どうしたのですか?」
ようように意識が戻ってきたフィアに水筒のお茶を魔法で加熱して取り分けてやる。
熱い茶を注意しながら飲むフィアにも気配察知から人が近づきつつあることが判ったようだ。
「誰でしょう?」
「今のところは分からんが、二人いて片方は死にそうだ。」
焚火の火を大きくし、歩み寄る二人が見えやすいようにする。
時間を置かず、旅装束の男女が近づいてきた。
「すみません、旅の者なのですが連れが怪我を負っていまして休ませてはもらえませんでしょうか。」
本気で申し訳なさそうに近づいてきた二人はライカン族のようだ。
二人とも頭部にはヘルムのような革の兜を乗せているが、そこから犬耳が飛び出している。
そしてフサフサとした尻尾が冒険者の軽装な革鎧のお尻から見えるのだ。
女性が話しかけてきたのだが、やはりもう一人の男性は顔色が悪い。女性の肩を借りてようやく立っていられるような状態だ。
「そちらの男性はかなり状態が悪いようですが、どうされたのですか。」
とりあえずコミュニケーションを図る。
彼らの方はまだ、警戒を解いていないようで俺たちを注意深く観察している。
「火の側で休まれますか?私はアマクサの領軍に厄介になっているソウタヤマノベと申します。こっちは私の妻のフィアと言います。」
フィア、赤面している場合じゃあないぞ。
アマクサの領軍に思うところがないらしく、警戒が緩んだことが判る。
「私たちはココノエから参りました。私はサツキと言います。夫のシシオです。巨人たちに村を襲われ身一つで逃げ出したのですが、アマクサの領軍に助けていただこうと歩いてまいりました。
途中で何度も巨人をやり過ごしたのですが、昨日の昼に大きな群れに見つかってしまい、逃げる途中で夫が怪我を負ったのです。
ヤマノベさま、夫を助けていただけませんでしょうか。」
「ソウタさん、こちらの男性は…」
二人を火の近くに招き、旦那の様子を看ていたフィアがこちらを向き、首をゆっくりと左右に振る。余程手遅れな様子だ。
「そんな…」
ここまで緊張を強いられ、夫に肩を貸し、歩き詰めだったろうに今現在、旦那さんの方は力尽き、その命の火を消そうとしているようだ。
「奥さん、聞いていいでしょうか。お二人が襲われたことについては同情を禁じ得ません。しかし、アマクサの領軍も難民を受け入れるような状態にはないのです。地上に蔓延っていた巨人たちは領軍によって討伐されましたが、巨人の巣は今のところ健在なのです。
お二方が戦場の最先端に赴かれどうしようとしていたのでしょう。」
「シシオは錬金の技術者でして、古から受け継がれて強大な力で巨人を討つという比翼の鎧を動かすお役に立ちたかったのです。」
なんだと?錬金術師、アルミの精錬、バスターランチャーの完成。
そこまでを夢想し、俺の何かに火が付いた。
「フィア、バイタルを取ってくれ。」
「何かされるのですか?」
俺の態度が変わったことを察知したフィアは慌ただしく動き出した。
「脈拍45、血圧は上が100、下が40ほどでしょう。生食静注しますか?」
生理食塩水を静脈注射しながらやるような魔術じゃなく、いきなり全快だ。
「いや、一気に行く。リジェネレーションを発動するから、この旦那さんを押さえていてくれ。奥さんも、旦那さんが動かないように押さえていてくれますか。」
「は、はい。」
ここからは力技だ。
死にかけの人間に掛ける魔法の中では最大級の魔法になる。
怪我はなかったことに、失われた血液や体力などは強制的に魔法で補充する。
意識を旦那さんに集中する。
「リジェネレーション!」
この魔法はなくした腕でも足でも生やしてしまう治癒魔法系統では最大級の物だ。
俺の魔力量からすればたとえ最大級の魔法でも打ち放題なんだが、錬金術師と聞いたからには完全に治療しなければならない。
怪我の様子を探り、損傷を特定し、足りないもののリストを脳内補完する。
強引に健常な状態へ引っ張り上げると、ライカンの旦那はゾンビのように暴れ出した。
どうにか二人がかりで押さえつけ、怪我のすべてがなかったことになったころ、旦那さんの呼吸が正常に戻り、眠っているその姿は死にかけている人のものではない。
「おお!神よ!!ヤマノベ様、ありがとうございます。本当にありがとうございます。」
涙をあふれさせ、旦那に縋り付く奥さんを見ていると自分のしたことが二人のためになったのだろうと安堵する。
「ソウタさん、相変わらず無茶苦茶ですね。ふふふ、王都の神殿にいらっしゃる神官長でもこんなことは絶対にできないでしょう。」
それを聞いたライカンの奥さんはキョトンとした表情をしている。
「そうなのですか?実力のある治癒術師様でしたらどなたもリジェネレーションはお使いになると聞いたことがありますが。」
かしこまった表情でフィアがコホンと咳払いをする。
「サツキさん、さっきも言いましたが王都の神官長でも今のリジェネレーションは無理です。旦那さんに注がれた魔力量は神官長20人分をはるかに超えていましたから。」
「えええ!?」
「お二方がこちらにいらっしゃったのは天恵かもしれませんね。うちの夫はその有り余る魔力を比翼の鎧に分け与えることでこのクノエに蔓延っていた巨人を一体残らず討伐してしまったのですから!」
おお!フィアのドヤ顔すごいです。もう、当たり前に「うちの」って言うてます。
「えええええ!??」
ひたすら驚くサツキさんにひたすら吹きまくるフィア。
「フィア、いい加減にしときなさい。旦那さんはまだお休みですよ。」
「本当に、ありがとうございます。なんとお礼を申し上げればよいやら。」
「いいえ、お礼などいいのです。ですが、よろしければチョウザへ行こうとしている私たちに同行いただけませんでしょうか?」
意味が分からないという表情のサツキさんに説明を続ける。
「比翼の鎧は強力な兵器です。あの巨人たちを討伐することに関しては十分の働きをしてくれますが、クノエの地が二度と奴らに襲われないようにするために巣を殲滅するためには力が足りないのです。
その力を補うために必要な物資を確保する目的で私たちはチョウザを目指しています。旦那さんも明日になればきっと元気になられますから、アマクサの領軍に行こうとされていたのであれば、少し寄り道をお願いしたいのです。いかがでしょうか?」
考える仕草をした後、サツキさんはフィアと俺をしっかりと見つめ、返事をしてくれた。
「わかりました。それで何ができるかは判りませんが、きっとお役に立って見せます。今日のお礼は絶対にして見せますので、ご一緒させていただけますでしょうか。」
強い意志を秘めた頷きを返してくれたサツキさんと、九死に一生を得たであろう旦那さんの協力を取り付けられれば、アルミの生産も上手くいくかもしれない。
バスターランチャーを完成させる光明が見えたような気がした。
フィアが火の側に腰掛け、寝てしまっていた。
まだ眠い時間だよな。
ちょっとした設定だったはずのコンデンサー。こんなに後を引いてしまうとは。
思い通りにキャラが動いてくれないんですが!涙)




