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【第19話】Snow Halation.

時間軸修正のために作らざるを得なかったお話です。

フィア視点でトサンでの時間調整をしています。

 ソウタさんと出会ったのは秋の始まりのころ。

 トサンの冒険者ギルドでグレートビー討伐の依頼を完了してからソウタさんはご実家を私と一緒に出てしまわれ、西へと向かう旅に私たちは身を任せることになった。

 しかしながら、国境を越えられなかった。

 これは私のせいであり、ソウタさんにとっては「楽しい寄り道だった。」といつか語ってくれたのだ。

 コウリョウの町を出てから海沿いに街道を進むとヒョウミと言う漁港を中心とした小さな町にたどり着いた。


 ソウタさんは何故かこのヒョウミと言う町で長期滞在をするとおっしゃられ、宿を取ったのは最初の数日のみ。

 その間に町中で平屋の小さな一軒家を借りることにされ、私を伴い大した商店もない町で日常の暮らしに必要な細々としたものを買い揃えていかれたのだ。

 「ソウタさん?なぜこの町に留まろうとされているのでしょうか。」

 ここ数日のソウタさんの行動を見ていると、かなり本格的にこの町での暮らしを考えておられるようであり、大量の薪にウィングの為の飼い葉。馬車に積む用ではない寝具、調理用具や食器の類まで。

 「心配かい?」

 言葉少なに問いかけられ、私は心底疑問に感じていたので黙ってうなずく。

 「西への旅は一旦保留にして、俺たちのウィングソードは合宿に入ろうと思っているんだ。これは、パーティーとしての錬成を高めるためと、俺とフィアのより関係を深めるためなんだよ。」

 優しげな表情で言われ、頬のあたりが熱くなるのが判った。

 「ふぃ、フィア?そういう意味じゃないんだよ。いや、そういう意味ももちろんあるけど、お互いのことをちゃんと知るために、戦いの中で息を合わせられるように。ここの町は海が近いお蔭で海生の魔物と、小高い山々が迫っているおかげで御三家をはじめ結構豊富な種類の魔物を相手にすることができるんだ。

 人が暮らすには危険の多い場所ではあるが、俺たちが技量を高めるためには都合がいい土地なんだよ。」

 事前にそう言ってくだされば疑問に思う事もなかったのだが、聞かされればなるほどと思う事もできる。

 でも。

 「一言相談があってもよかったのでは?」

 「もしかして心配をさせてしまった?すまない。こんなところがまだまだ俺に足りないところなんだろうな。フィアに心配をかけるつもりは全くなかったんだが、結果としてフィアの気分を害してしまったな。本当に申し訳ない。勝手に決めたことだがしばらく付き合ってもらってもいいかな。」

 しばらくって?そのうち突き放されるような言い方をされた。

 「しばらくしたら私はどうなるのですか?」

 私は不安でたまらない表情をしていただろうと思う。両方の目から勝手に涙があふれて止まらないのだ。

 「お、おい?どうしたんだよ。」

 動揺を隠せない表情はお互い様だ。

 でも、ソウタさんは泣き出した私の髪を撫で、自分の胸に抱きとめてくれた。

 「フィア、落ち着いて聞いてくれるかい。」

 ソウタさんの胸に顔を埋め、腰に回した手をきつくして、聞きたくないものが聞こえないようにと、恐怖におびえるように体の震えを止められなかった。

 「フィアを不安にさせたのは俺の言葉が足りなかったからで、本当にすまない。でも、フィアが不安に思うようなことは俺の選択肢にはないよ。ここでしばらく暮らすうちにたくさんの魔物を討伐し、経験値を上げていく。

 日常の生活を経験していくうちに互いのことをもっとよく知っていく。俺たちウィンドソードはそうして強くなり、クノエに行ってもそれからも俺が歳を取って冒険者を続けられなくなるまでパーティーだよ。」

 「そのあとは?」

 「フィアがお母さんだろ?」

 「ソウタさんがお父さんですよね?」

 「違ったら俺は立ち直れそうにない。泣いちゃうよ。」

 「ふふふっ、女の子しか生まれませんからね。」


 それからの買い物の間は、ソウタさんは私の手を放そうとしなかった。

 二人で半分ずつ荷物を持ち、借りた家へと帰る。

 新しくもきれいでもない家だったが、将来に二人が暮らすための予行演習だと思えば、それだけで心が温かくなるようだった。

 そう、私たちはまだ一緒にいるようになって数日しか経っていないのだ。

 お互いに言葉が足りなかったり、思い違いをしてしまったりしたって仕方ないのかもしれない。

 ソウタさんはそうしたことを今から解決しようとしてくれているんだから、私たちはこれからのことを考えればいいんだ。

 失敗もたくさんあるかもしれない(主に私が。)、それでも二人で過ごす時間が増えていくほどにお互いのことが判るようになり、こんな風に心配することもなくなるのだろう。


その日は夕食をソウタさんが準備してくださった。

 手際よく魚を捌き、とてもおいしそうに焼いてくださった。

 塩加減がとてもよかったのでご飯と一緒に食べるととても幸せな気分になれた。

 でも、いつまでもこんなことではいけないのではないか。

 朝ごはんは、私が汁物を作ってみたのだが、ささがきにした野菜や葉物の野菜を一度に入れたものだから、煮崩れた野菜がいっぱいで悲しいことになってしまった。

 ご飯だけはちゃんと炊けたのだが、私の女子力は全く悲しいことになっているらしく、具だくさんの野菜スープを振る舞うつもりで野菜の溶け込んだ具の見えないスープに涙しか出なかった。

 ソウタさんは、スープの中に塩漬けした豚肉を少し大きめの短冊切りにして入れ、火を止めてからトマトをつぶして入れてコショウを足された。

 たったそれだけで私のスープはどこかのお店で食べたような料理になったのだ。

 「野菜がいい感じに出汁を出してくれたから、美味しくなったね。」

 それだけ言って私の髪を何度も何度も撫でてくれた。

 「フィア、経験は積んでいけば貴重な財産だよ。でも、これからって事はフィアにも俺にもたくさんあるからそれを楽しんでいかないともったいない。」

 私の失敗がソウタさんによって失敗ではなくなった。恥ずかしい思いでいっぱいだったのに、ソウタさんはいつもこんな風でフォローされてばっかりだ。

 失敗して叱られたり、笑われたりしたことが一度もない。

 ソウタさんに聞いたらそれは尊厳に対する侮辱だと言われた。


 午前中から山間部に入り、燃えるような紅葉や広葉樹の色づきに感嘆しながら魔物を探し、連携の訓練を積んだ。


 それから二か月ばかりこのヒョウミの海に山にと出かけ、サハギンや海蛇のたぐい、銀蟷螂シルバーマンティス、スパイダーベアなどゴブリンやオークの上のクラスを相手に鍛錬を続けたころ、季節も完全に冬になり朝晩の冷え込みがとても厳しくなった。

 トサンと言う土地は周囲を山で囲まれていることから夏は盆地のように蒸し暑く、冬は北からの寒風に加えて積雪がかなりの量に上る土地で、もうすぐ辺り一面が雪に閉ざされるだろう。

 そうなれば魔物も冒険者も春の雪解けまでしばしの休暇となる。

 そこまでにできる限りのレベルアップをすますつもりでソウタさんは休みなく山に海にと魔物を求めて冒険を繰り返された。

 「フィア、左から回り込んで背後に回って!」

 「お任せください。」

 三体のオークがどこかの家畜小屋を襲ったのだろう、それぞれの両手に首を折られたり頭を潰されたりした牛や羊が握られていた。

 私たちを敵と認めたオークたちはそれでも家畜を離そうともせずに唸り声で威嚇をしてくる。

 ソウタさんは正面に立ち、障壁の魔法を展開してオークたちを抑え込みにかかる。

 私は風の力を利用して加速し、左回りに背後をつくように飛ぶ。

 背後だけ隙間の空いた障壁のオークが通り抜けるには狭い間隙を突き、大きな背中へ切りつける。

 「グワァ?」

 突然の痛みに家畜を振り回しながら一番後ろのオークが勢い、振り返る。

 羊と共に振り回される腕をかいくぐり、二の腕を切り上げる。

 「ウォオオ!」

 筋が切れたのだろうか腕が力なく垂れさがるが、それでも自分の獲物を離そうとしない。

 私の動きはオークの目で追い切れていないようなので、二番目のオークとの間を走り抜け、一番後ろのオークのさらに反対側の腕を切り上げた。

 今度は会心の一撃となり、牛と共にごつい右腕が地面に落ちた。

 どす黒い緑色の血液がとめどなくあふれ、失血死に向かうオークが背中から倒れた。

 倒れたオークの胸板を踏みつけ、二番目のオークの後頭部、首筋をめがけて跳躍する。

 禿頭の後頭部を確認し、がら空きになっている首筋に剣を突き立ててやった。

 剣はのどぼとけの位置を喰い破り、ヒュウと言う呼気の漏れる音と共に頭部を分離することに成功した。

 勢いが足りない時に串刺しにした剣が抜けなくなって、別のオークに襲い掛かられたことも先にはあったので、刺突技を使うときは剣に速さと重さを乗せることを心掛けるようにしている。

 「フィア、上手いぞ。魔法で残りの首を飛ばす。戻って来い。」

 「はい、お願いします。」

 再び障壁の隙間から飛び出し、左回りにソウタさんの元へと戻る。

 そのころには障壁が解除され、業火が先頭に立っているオークの首にチャクラのようにカーブを描きながら飛来するところだった。

 一瞬、ジュっと言う肉の焼ける音を立てただけで、頭部を上空へ放り投げた。

 焼き切られた首からは出血が起こっておらず、首のないオークは膝から頽れるように地に伏せ、生きているオークは居なくなった。

 周辺警戒を行い、安全を確認してから肩の力を抜く。

 ソウタさんも深く息を吐き、笑顔で振り返ってくれた。

 「随分風の力も増したようで、速度が申し分なくなっているよ。」

 ソウタさんの満足そうな表情は私にとっても嬉しい。

 小高い山々が連なるように折り重なるヒョウミの山岳地帯の結構深くまでやってきてしまったが、帰り道は楽しかった。

 麓まで僅かの小山の頂で二人並んで海を見下ろすように景観を楽しんでいるとき、目の前を白い埃のようなものがよぎった。

 「あ!雪です。」

 視線を上げるとあとから後から羽のような雪が舞い降りてくる。

 鈍色の空は陽の光を遮り、寒々しい景色となっていたのだが、舞い降りる雪によって幻想的な景色に変わった。

 思わず見とれるように言葉も途切れ、二人して黙り込んでしまった。

 遠くを見通せなくなるほどに雪の密度が増したころにぽつりとソウタさんが呟いた。

 「いつまでも、いつまでもこうして居たいな。」

 私は「こうして」の意味が分からずソウタさんの横顔を眺める。

 こうして冒険者としてやっていこうという事なのか、こうして私と二人でいたいという事なのだろうか。

 どちらも私の望んでいることなので心の中は暖かかった。

 でも、この幻想の世界は予感に騒ぐ心をかき乱させるような景色だった。

 切なさも感じ、期待感にも溢れているかな。

 ソウタさんは私の手を取り、しっかりとつなぐと私を見ないままに歩き出した。

 でも、手をつないでいるので不安はない。

 この人は不思議な人だ。

 この二か月で自然な会話も増え、互いの意思の疎通も積極的になったので初めのような誤解は既にない。のだが、時折こうしてどこを見ているのか判らない時があって、聞いていい雰囲気でないときは不安にもなる。

 でも、手をつなぐだけでそれはどうでもいいことになる。


少しずつブクマ登録件数が増えることが励みになっています。

いつも気にしてくださってありがとうございます。

次話でまた西への旅が進みます。

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