【第18話】御しえない力
リア充爆発しろ。
龍玉館での手厚い歓待を受け、翌朝ウィングに迎えられた。
ウィングも高級宿の厩舎で手厚い歓待を受けられたようで、毛並みが1ランク上がっているかのようだ。
艶々とした栗毛色は黒い鬣と共にコンディションが最高のようだ。
「ウィング、昨夜はよく手入れしてもらったようだな?」
「ブヒン!」
上機嫌なことが伝わってくるじゃないか。
パカパカと軽快な足取りで馬車を引き、さらに西を目指す旅が始まった。
「昨日のことを伺ってもよいでしょうか?」
昨日と言うとミノタウロスとの戦闘のことだろうか。
「いいけど、俺にもわからないことだらけだぞ。」
「ひとつは風の魔法と思われるとても速い移動です。私は剣に籠められている加護の力を得て加速しています。自分には魔法全般に適性がないようで、魔法らしい魔法と言えば唯一これだけです。
ただ、ソウタさんのあの移動は魔法の流れを感じませんでした。それにもまして、私の目では捉えることができませんでした。元の場所から消失し、目的の場所に実体化する。
そんな感じだったのです。ソウタさんはその時どんな感じでしたか?」
「あの時か。たしか、フィアの前に出ることしか考えられなかった。間に合わせるってことしか頭にはなかったな。
一歩蹴り出し、視界がゆがんだんだ。目的の場所が拡大したように見え、眩暈がしたよ。その時にはもう、目の前にミノタウロスが剣を振りかぶっていたな。」
フィアは深く考え込んでいるらしく、御者席で前方をにらみつつ前を見てはいないようだ。
会話が途切れたところで、手持ち無沙汰な感覚に思わずフィアの髪を梳くように撫でてしまう。
それでも反応を返さないのをいいことに手の中を流れる髪の感触を堪能していた。
「どこかでそのような能力について聞いたことがあったと思うのですが、思い出せないのが悔しいですね。」
「どうしても思い出さないとだめなのか?」
「もちろんです。知ることによってその能力を体系的に会得でき、再現することができるようになります。あの瞬間に移動できる能力は戦闘にきっと役立つと思うのです。もちろん私が転んだ時ばかり役に立つようでは、私が泣いてしまいそうです。」
「もう一つは障壁の魔法か?あれは単に気合の問題じゃないのかな。」
「いいえ、障壁が攻撃性を伴うなんて聞いたことがありません。確かに魔法ではあると思いますが、複合魔法になっているか別種の魔法が障壁と言うキーワードで発動している可能性もありませんか。」
発動条件が判らなければ確かに次の戦闘に活かせるかわからないものな。
フィアの言うことももっともだ。
さらにあーだこーだと議論を重ねつつ、フィアの記憶が思い出されるきっかけはないかと無駄話を続けた。
「思い出しました!あの移動は“テレポート”と言うんです。」
「マジか!?」
盛大にこけました。
「俺の居た世界でもテレポートだったよ。もっと何かこっちの世界らしい呼び名があるんだと言う期待を完全に裏切る結果と、安心の結末にもうどうしたらいいのかわからん。」
あとはなんだ?サイコキネシスにクレヤボヤンスとか言うのかともちろん冗談半分に問い詰めたんだが、魔法を使わずに手も触れないでモノを動かす力と、魔法阻害の向こうさえも見通す透視能力ですよね。と、全肯定されてしまった。
テレポートにしても攻撃性の障壁にしても、その他の不思議現象にしてもなんとなく、原因が判るような気がした。
「イメージ力じゃないかな?」
「イメージと言うと想像力とかのことでしょうか?」
「ああ、強くそうあってほしいという願いのようなものがイメージとしてあれば、事象改変が唐突に発生するんじゃないかと考えてみたんだ。」
「それだと、切実な願いがあれば、私でも魔法が使えるようになるのではないでしょうか。」
フィアにもそう切実に願った瞬間があるのだろうか。
それでも事象改変が起こらなかったという事は、願うだけではない発動条件があるのかもしれない。
例えば、自分の手駒の中にある選択可能な加護や魔法、スキルと言ったものの中から複合的にまたは合成されて希望の事象改変を実現するのかもしれない。
手札にない駒が必要な事象改変が起こらないのも説明できないだろうか。
「そうだな。仮にの話だが、身体強化と風魔法を会得している術者がいたとして、空を飛びたいと切実に願ったとしても空を飛ぶことはできないだろう。しかし、もう一つ物質軽減のスキルを取った時にはどうだろう。
たぶん自分を飛ばすことができるんじゃないかな?」
「なるほどです。でもそうするとソウタさんは今までにかなり不思議な力の使い方をしていましたから、たくさんの加護や魔法をお持ちになっているという事にはなりませんか。それって、すごいことですよね。
ああ、でもそうすると魔法の素養がなかった私はいつまでたっても今のままなんでしょうね。」
俺のバリエーションに感嘆と尊敬を伴った視線を向け、自分の何もない懐にはっきりと落胆の表情をして俯いてしまった。
「フィア、お前はまだ若い。しかし、多分だがその歳にして積み重ねた経験値は同世代の誰にも負けないレベルに達しているはずだし、ステータスも自信を持てる数値になっているはずだよ。
それであればいずれ適性の強い魔法から使えるようになるかもしれない。スキルを得るかもしれない。風の加護があって、その他の何にも適用がないなんてことはないんじゃないかと思うよ。
どれどれ?ってランク6?フィア、会った時はランク2じゃなかった?なんでこんな短期間に三倍にもなってんだよ。」
驚愕の数値である。
俺もランクは8あるから常任の範疇から逸脱しているんだが、フィアのそれも大概であった。
15歳の少女がランク6っていう事はあるはずがない。
当然ランクは1から始まり、幼少期に教育などを受けることで精々が2まで。
15歳の成人を迎え、そこからどのように過ごすかで壮年期までに成長の度合いが違う事になる。
一切荒事などに縁のない生活を送り、嫁に行って子を成し、幸せにおばあちゃんになるような場合にはそのままランク2で一生を終える人もざらにいる。
冒険者になってそこそこ稼ぐ一線級の魔法使いや治癒術師、魔法剣士で冒険者を廃業するころにランク5とかだ。
軍に入り、近衛兵や騎兵、あのシュナイダー隊長でもランク6なのだ。
それが、14歳から狩りをするようになり、15歳で俺と出会う頃にランク2だったはずなのに、秋に出会い、冬、春と季節は廻ったとしても一年と経っていないのだ。
久しぶりに鑑定眼でフィアのランクを見たとはいえ、驚かされる。
「実は、私にもその成長が良く判らないのですが、ソウタさんと出会って初めての夜にお情けを頂いた翌日にはランクが3になっていました。
当然、戦闘経験もたくさん積ませていただきましたが、それよりも毎晩お情けを頂くことで増えるステータスの方が多いんです。
オログ=ハイを倒したことで得られたステータスは平均して2でしたが、初めての夜に得たステータスは最大で20くらいでした。」
なにそれ?チート?
「まって、まてよ。フィアは毎晩その、エネルギー補給の度にステータスが更新されているのか?」
「はい、最初は毎晩のようにランクが更新されていましたので、嬉しかったのですが最近はそれも少しずつのようです。それでもこんなにランクが上がるなんて、もっと可愛がってくださいね。」
なんて羨ましい。
じゃなくて、どうしてそんなことが起こるのか?という事の方が問題だ。
俺が異世界人だからなのか、フィアがサキュバスだからなのかそのどちらもなのか?
まあ、変に副作用もなかったみたいだからいいんだが、フィアも喜んでいるようだし大丈夫なのか。
馬車は軽快に進み、ヨネゴで昼食を取った以外にはそのまま国境を越え、トウコンと言う国へと入る。
トウコンと言う国は年に一度、この国の諸神が集うという大社が建立されており、この国の宗教観の根源を成すと言われているらしい。
日本でも神無月に島根県の出雲大社に津々浦々の神様方が集まり、祭りを開いたとか会議をしたとかで神有月と地方独特の暦を使用していたとか。
夕方にはデクラウドと言う町に入り、宿場町らしい通りに面した大きな宿に部屋を取った。
「今日は何事もなく、とても順調に進みましたね。」
一日中馬車に揺られることが少ない旅だったので、今日は珍しいと言えるだろう。
フィアも座ってばかりで退屈したかもしれない。
「時間も早いことだし、町の探検と行こうか?」
「はい!いいですね。座ってばかりでお尻が痛くなりました。」
やはり、丸一日座っていると体が固まってしまったようだ。
宿を出て、手をつなぎながら通りにある色々な店を冷かして回る。
土産物の店には可愛らしい小物や手鏡、カラフルな手ぬぐいなどフィアの琴線に触れるもののオンパレードだったようで、絶えず歓声を上げていた。
選びに選んだ一品は、どういう訳か手鏡。
聞くところによると、初夜の晩に怠りなく準備をしたものの、完成を確かめるための鏡がなく、俺の目にちゃんと可愛く映るか不安だったのだという。
可愛いことを言う物だから、手鏡は俺からのプレゼントという事にした。
履物屋では旅に向いた草履やサンダル、冒険者向けの革靴、ブーツ、果てはグリーブなど見て回るだけでも楽しむことができた。
衣料品を扱う店でフィアの様子が変わった。
「あの、あの、ここで少し買い物をしたいのですが、一人で行かせていただいてもよろしいでしょうか。」
「うん?どうしてだよ。」
なんだか、モジモジしているフィアも可愛いのだが、大丈夫だろうか。
「ちょっと一緒に行っていただくわけにはいかないのですが。」
店の中で別行動という事なので、特別危険がある訳でもないしいいかと割り切り、外套や防寒具の陳列されているところで夏の雨天時に着られそうなマントなんかを探しながら待つことにした。
女性の買い物は長いだろうと覚悟していたのだが、意外にフィアの買い物は短時間で済んだようだ。
20分と経っていないと思う。
「すみませんでした。選ぶのに時間がかかってしまって。」
「いや、まったくそんなことはない。謝る必要なんてないよ。」
それからも屋台でつまみ食いをしたりしながら楽しむことができた。
祭りでもないが、こんなに楽しそうにしているフィアを見ると歩いての散策もまんざらではないなと思ってしまう。
宿を取るたびとはいかなくてもこうして買い物したりと言うのも結構楽しいと改めて思わされたものだ。
夜も宵の口と言う頃には宿に戻り、食事を頂いた。
泊まる部屋で食事をとるのではなく、食堂に宿泊客が集まり、様々な趣向を凝らした海の幸や山の幸をふんだんに供されたバイキング形式の食事を楽しんだ。
好きなものを好きなだけ皿に盛り付け、お替わりも自由となればフィアのテンションが異常なことになり、取りすぎた食材はすべて俺の口の中へ。
「ソウタさん!この卵料理は何というのでしょう?「オムライス?」オムライスですか?ふわふわと甘い卵がとても素敵です!この滑らかな食感は何でしょう?「マッシュポテトのサラダかな?」そうですか!こんなサラダがあるのですか?美味しいですね。」
始終こんな調子である。
もう、お腹いっぱいですが。
食後のスイーツメニューまで堪能したフィアはもう、ご満悦である。
食べすぎたフィアをおぶって部屋に戻る羽目になった。
それでも風呂に入りたいというフィアを設えられた部屋風呂へと連れて行くと、ここの風呂もたいそうなものだった。
総ヒノキ造りの風呂場は洗い場も湯船も情緒あふれ、わずか三畳ほどの浴室ながら、贅沢さを感じられる木の香りと湯に浮かべられた柚子のような柑橘系の果樹の実の醸し出す香りで宿泊費を上回る満足を与えられたような気分にさせられる。
いつものように背中を流したり流されたりしながら体を休ませ、そろそろ上がろうかと言う頃になって、そわそわとし出したフィアが申告してきた。
「ソウタさん、先に上がっていただけますか?」
「ああ、別に構わないけどどうした。」
「先にベットで待っていてもらえますか?」
なんだか顔が赤いが大丈夫だろうか。
気分が悪いという訳でもなさそうだったのでそのまま脱衣所にフィアを置いて部屋に戻り、明日の準備のために荷物を詰めなおし、寝るだけとなったころにフィアが戻ってきた。
「どうしたんだ?」
いつものフィアなら、布団に入る際にはそのあとのことを考えて宿で用意された寝間着やパジャマ、ローブなんかを羽織るだけなのだが、今日だけは軽装ではあるが外に出るような服装をしている。
見覚えのあるそれは初めて俺の元へとやってきた晩に来ていたワンピースだ。
相違点としては今日買い求めた靴下を早くも身に着けている位だろうか。
「ちょっと恥ずかしいのですが、いつも私のことを大事に扱っていただいて感謝しています。ただ、お情けを頂くときに私、いつもおねだりするばっかりでソウタさんが満足していらっしゃるか不安に思うときもあるんです。
自分なりに工夫をしてみようかと思ったのですが、ソウタさんに喜んでいただけるか判らないので確かめてもらってもいいでしょうか。」
いつも俺だって満足しているのだが、そんなことさえも不安になるのだろうか。
「良く判らないが、いつもフィアが可愛くしてくれるから不満なんてまったくないぞ。どうして欲しい?」
「できればソウタさんに脱がせてほしいかなと。」
もう、それだけを伝えるだけで真っ赤である。
マンネリ化した熟年夫婦でもあるまいし、まさかそんなことを心配していたとは思いもしなかった。
「じゃぁ、こっちにおいで。」
フィアを手招きし、ベットに腰掛けさせる。
「ん。」
軽いキスから始め、ボディタッチへと進み、部屋の明かりを落とし、フィアを昂らせる。
いよいよワンピースを脱ぎ落すと、今までになかったものが。
「ブラジャー?」
「はい。お会いしてから毎晩可愛がっていただいているおかげで、ソウタさんの為の私の胸がだいぶん育ってきました。戦闘になるときに少し邪魔になるので思い切って買ってみたのですがいかがでしょう?とても迷ったのですが、かわいいと思ったので選んでみました。」
明日、あの衣料品店にもう一度行かなければならない。
何時開店だろうか?
「フィア、明日は俺も選ぶからな!」
「ふぇ?」




