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【第17話】ダンジョンに二人連れでロマンを求めるのは間違っているだろうか。(陳謝)

サブタイトルは最近のお気に入りのリスペクトです。

と言ってもどの作品かはお分かりのことと思います。面白かったですよね。

 チョウシュの洞窟。

 特段、ダンジョンに興味がある訳ではないのだが、サンドスコーピオンを退しりぞけ成り行きで海岸線をなぞるように進んだところに地下迷宮があったというだけなんだ。

 「フィア、ここにダンジョンがあります。」

 「はい。目の前に管理の衛兵さんがいらっしゃいます。」

 「必然性はないがどうする?」

 本心としてはここをパスして先に進み、ちゃんとした宿を取ったうえで美味しい海産物に囲まれた幸せを享受したいのだが、その後にフィアを享受して惰眠を貪るのも定番のコースで安心のパターンだ。

 「じゃぁ、入っちゃいましょうか。」

 「・・・はい。」

 フィアに続いて入場料のような通行税のような訳の分からないお金を払い、地下へと潜る。

 ここ最近、目覚ましい成長を遂げるフィアは、対人スキルが向上したことを自覚しているのか衛兵と交渉を済ませ、貨幣を入れる革袋から必要な額を支払い、あまつさえ釣銭を受け取っていた。

 この一文であればいかにフィアを馬鹿にしているのか?とも取れそうではあるが、そうではない。

 出会ったころよりのフィアをよく知る者ならば、俺以外の人と会おうものなら俺の背後に隠れ、話しかけられれば俺の背後に隠れ、ベットの中でも俺にすっぽり隠れてしまっていたフィアが対人交渉スキルを発動しているんだ。

 僕には帰る場所がある。こんなに嬉しいことはない。なんてのたまってもしょうがないじゃないか。

 「なぜだか、バカにされているような気がするのですが。」

 「うむ。それは盛大な気のせいだ。俺は今感動に打ちひしがれているぞ!」

 「納得できる要素がみあたりません!」

 すごい膨れた頬を脊髄反射でつついてしまった。

 「むう!?」

 「ごめんなさい。」

 腰を90度折り、謝るしかなかった。

 新しい関係を築きながらもダンジョン(観光洞窟)を2階層へと降りてきた。

 思えば、ここは観光地であって冒険をするところではないので景色や鍾乳石の織りなす奇跡のオブジェを堪能すればよいのだ。

 何かのイベントが発生してミノタウロスに襲われるとかレベル5のトップランカーに助けられるとかは全く必要ない。

 必要ないといったはずだが?

 「ドウン」

 洞窟を揺るがす嫌な振動が伝わり、低くこもった破裂音が響いてくる。

 「なんですか?」

 フィアが俺の腕をつかんで警戒する。

 続けざまにそこから三度、ただならぬ振動が伝わってきた。

 ここ、崩落したりってしないよね。

 さらに下の階層に続くスロープからほかの観光客がこけつまろびつ慌てふためいた様子で駆けあがってくる。

 「た、助けてくれ!」

 中年を越えた頃合いのお父さんや、その昔のお嬢さん方が押し寄せるように溢れ出してきた。

 あふれる前に崩落が起これば良かったのに。

 不埒な考えをいましめるように階下からの閻魔大王が現れた。

 「ミノタウロス、キター!」

 あろうことか本気のミノタウロスが襲い掛かる。

 赤銅色の表皮、艶やかな漆黒の体毛。強靭な膂力を支える背筋と胸筋。大地をも砕くと思わせる剛腕とその手に携えられたド級の大剣。

 刃渡りが3メートルに及び、刀身の幅が1メートルにも達しようという片刃の剣だ。

 引きずるようにガリガリと耳障りな擦過音を纏わせたミノタウロスが鼻息も荒くやってくる。

 正直、お約束に喜んでいる場合ではない。

 「やりますか?」

 フィアの大剣も大概だが、この狭い空間でそのデスマッチが成立するのかはなはだ疑問だ。

 しかもその発言。

 前向きではあるが、適した空間を確保するためにも場所を移した方が得策だと思う。

 適したフィールドで自分の持ち味を活かすというのは戦闘を有利に進める大前提だと思うのだ。

 「フィア、ここは一旦退こう。フィアの剣を活かせるところまでこいつを牽引しよう。」

 「判りました。」

 フィアはミノタウロスの大剣にひと当てし、タゲを取ることを忘れない。

 鼓膜を割るような雄叫びを上げ、俺たちに襲い掛かる。

 「ウルセェ!?、狭いところで吠えるんじゃねえよ!」

 ここは地下二階層だ。もう一階層分のタゲを取らないといけない。

 よそ見をさせないように牽引するとなると、ひと当てを数回繰り返さなければならないのだが、後ろを振り返りながらの後退は足元がおぼつかない。

 何度目かのタゲ取りにフィアが大剣を当てると、振り返り数メートルを走って牽引する。

 が、地上階へとおびき出し入場口へあと少しと言うところでフィアが躓いた。

 グレートビーの時のように。

 しかし、今度の敵はアレとは違う。

 トールの石鎚ミョルニルのような質量兵器がフィアの命を刈り取ろうと迫る。

 「フィア!」

 「きゃぁ!」

 失うことを許されない、かけがえのない半身を俺から奪うな。

 鞘から強引に引き抜いた自分のもう一つの半身を構えると同時に駆ける。

 間に合えとミノタウロスを睨みつけた刹那、視界がゆがんだ。

 「うお?」

 意図しない自分自身の変化に眩暈と戸惑いを覚える。

 視界が元に戻ると目前にミノタウロス。

 「なんだ?」

 しかし、逡巡している暇はない。振り下ろされる必殺の一撃が目前に迫っている。

 咄嗟に出る言葉。

 「障壁!」

 ゼロタイムで展開される障壁がド級の大剣を迎え撃つ。

 「ガイン!」

 金属質な衝突音が木霊のように洞窟に反響する。力と力のぶつかり合いになり、ギリギリと障壁にミノタウロスの剣が食い込んでくる。

 「うおぉぉぉぉ!」

 裂帛の気合を体の中心から絞り出すと障壁に異常が生じる。

 障壁の厚みが増し、おかしな光を帯びて輝きだした。

 それと共に奴の大剣を障壁がまるで拒絶するかのようにはじき出される。

 「ぶうぉ?」

 俺も訳がわからないが、ミノタウロスも己の矜持を脅かされたかのように押し返される事実に表情が変わる。

 しかし、増々光量を増す障壁が微かにながら唸りはじめる。

 耳鳴りのように次第にやかましく鳴動を始める障壁が直視できないほどに輝き、俺の体から何かが抜け落ちた。

 その瞬間に目を閉じてしまったが、光が収まり網膜が機能を取り戻すとそこにはミノタウロスの姿はなかった。

 正確にはその上半身が消失し、腰から下だけが屹立きつりつしていた。

 どんな鋭利な刃物で上半身をほふったのかはわからないが、腹圧で弾けだすはずの臓物が未だ下腹部にとどまっている様子から余程の勢いで上半身が刈り取られたのだろう。

 どぷ。

 耳障りな音と共にようやく下半身に取り残された内臓が胴から吐き出され、あのミノタウロスの下半身が背面に倒れ込んでいった。

 「何ですか今のは?」

 俺の横にやってきたフィアはお尻に着いた砂埃を払いながらその惨劇を見つめる。

 「俺にもわからない。」

 正直、本当に何があったのか?

 「それにしても私よりも早い移動の体術を見たのは初めてです。どんな種類の魔法ですか?風系統には加速するものが多いですよね。」

 自分でも何をどうやってあの瞬間移動を成し得たのか判らないし、光る障壁の解放された瞬間に抜け落ちたMPは何だったのか。

 今となっては尽きることのない湧水のようなMPも、あの一瞬で1/4ほども持っていかれた。

 その分、恐ろしいほどの威力ではあったが、再度使用することができなければ、ほぼ意味がない。

 視線を下に下げ、己の両掌を答えを得るように見つめていた。

 「俺って人間離れし始めてないかな?」

 「時々そう思っていましたが、ご自分で自覚されていないのでしょうか?」

 あれ?両目から汗が・・・


 周辺警戒を行いながら、入場口へと戻る。

 入るときにいたはずの衛兵は既におらず、職務怠慢をだれにチクッてやろうかと不遜な思考を巡らせていると、金属甲冑に身を包んだ兵隊が12名ひと纏まりとなってやってきた。

 「そこもと等、大事ないか?」

 兵と言うより、武士と言った言葉だ。

 「大丈夫だ。怪我もないよ。下層から逃げてきた人たちに怪我はなかったか?」

 「おかげさまで。行方不明もいませんし、冒険者のお二方には我ら一同、感謝いたします。ありがとうございます。」

 一堂に会した兵たちの一糸乱れぬ最敬礼に気恥ずかしさを覚える。

 フィアも最後は危なげではあったが、間違いも犯さず良い仕事をしたと思う。

 感謝の意という事でその日の宿は今までに見たこともないような高級宿に招待されることとなった。

 手配された馬車が用意された宿に横付けされるかと思いきや、通りから隔絶された石畳を延々と通り抜け、不安を覚えるころにバカげた大きさのロータリーにようやくたどり着いた。

 キッチリと着込んだ和装がよく似合っている仲居さんの大部隊が荘厳な造りの一泊いくらするのかもわからないような宿の正面を固め、両脇に数十人と言う鉄壁の防備を見せつける。

 「うおっ?」

 「いらっしゃいませ。ようこそ龍玉館へお越しいただきました。」

 敷居が高い。高すぎるよ。

 宿の受付に行くと気の置けない女将さんが冒険者カードの提示を求める宿とは違った。

 宿に入ると良く判るが、受付のカウンターがデカいうえに遠い。

 使途不明なロビーの広さに納得がいかないまま、カウンターへようやくにもたどり着くと、そこには忙し気に振る舞う多くの従業員たちが居た。

 一人の執事然とした好々爺と言える年配の従業員が俺たちの方へと歩み寄る。

 「失礼いたしました。今夜お泊り頂けますソウタヤマノベ様とフィア様でいらっしゃいますね。」

 「ああ、そうだが俺たちはこんな立派な宿に泊まるような仕事はしていないと思うんだが。」

 「いえ、過ぎたるご謙遜は美徳とは言いかねます。チョウシュの国は観光に特化した国でございましてな。商業や工業の分野においては近隣はもとより、遠隔にございます鄙びた国々にも勝るとも劣らない後進の徒にございます。さすれば観光に訪れます皆々様に心行くまでご堪能いただくのは至極当たり前でございますのにこの失態。

 加えまして折しも奇跡的にも訪れていただきましたお二方に加勢を頂きまして、此度は怪我人の一人もいないという僥倖を得ました。

 こちらにお越しいただき、一晩の疲れを癒していただけますことを心より嬉しく思います。」


 「かこ~ん」

 鹿威ししおどしが優雅に長久のリズムを刻み、典雅な空間を創造する。

 俺はどうしているかと言うと、泥にまみれていた。

 ついでに言うと、フィアも泥に埋もれている。

 とはいうが、苦行や何かという訳ではない。

 俺たちが世にも珍しい高級と言う、贅をつくした夕食をご馳走になった後に風呂に入るというと先ずはと、全身に温かな湯で溶いたきめの細かい泥を全身に塗りたくられたのだ。


 角質を一皮むかれ、珠のようなお肌になり、湯船へと送り出された俺たちは二人きりの世界を堪能していた。

 「ふあ~~~~~ぁ」

 50メートルプールにも匹敵するような大浴場にたった二人で浸かる優越感。

 漏れる吐息も50メートル先に届いているだろうか。

 水面に揺蕩たゆたうようにぷかぷかと流れていくフィアを見ていると自然と笑みが漏れる。

 「フィア、遠くに行かないでくれよ。」

 「はい、先ほどからとても幸せな気持ちです。ソウタさんの周りをこうして漂うのは何とも言えませんね。」

 湯船に入ってすぐから、フィアは俺の周りを楽しそうに泳ぎながら回遊していたのだが、先ほどからはただ、浮かぶように手足を伸ばし、湯の流れに任せるままに公転軌道を描いているのだ。

 太陽から離れるほどに引力を感じるのか、近日点へ帰ってくる惑星のように手で湯を櫂て帰ってくるのだ。

 そしてまた気を許すと、遠日点を目指し芸術のような肢体を惜しげもなく弛緩させ、白磁のような肌を湯に上気させながら俺の目を楽しませ、通り過ぎてゆく。


 部屋へ戻るとふっくらとした布団が並び、睡魔を誘ってくる。

 「昼間はちょっと大変だったが、この夜を堪能すると甲斐があったと言う物だな。」

 「私、また失敗してしまいました。申し訳ありません。」

 「そんなことを言ってるんじゃないんだ。いつも正しいことができるとは限らないだろう?そうしたときに相棒が居るとどちらがどちらを助けるにしてもこんな風に明日を迎えることができるじゃないか。明日出会う魔物に俺が危ない目にあったなら、フィアが助けてくれると信じてる。

 俺はフィアが危ないと感じたならいつだって、どこからだってフィアの前に立って見せるさ。二人っていうのは実にいいものだなと思えるんだ。」

 いつの間にか俺の布団に入り込んでいたフィアは俺の胸板にごしごしと額を擦りつけてくる。

 「私の祖父母は死の間際まで仲睦まじく、祖母が祖父を世話する様子もとても優しい景色の一部でした。父も母をとても愛しておりました。母がサキュバスだったために父はとても様々な場面で苦労をしていたようでしたが、いつも母の自慢をする父を尊敬していましたし、母に嫉妬を覚えたこともありました。それは今にして思えば羨望だったのですね。」

 「ずいぶんと素敵な家族を見ながら育ったんだな。でも、フィアを見ているとそれもわかるような気がするよ。」


 今までに経験したことのないような甘い時間を堪能した。

 いつにもましてフィアも感じてくれたようだった。

 いつもなら満足を表情に表しながら眠りにつくフィアが、眠そうな瞳で甘えながら俺の腕をからめとる。

 「いつものように私を抱き上げてくれますか?」

 「うん?いつもはフィアが俺の上に乗っているんじゃないのか?」

 「いいえ、毎晩私を抱き上げてくれるんです。覚えていらっしゃらないのですか?」

 テラトン級の破壊力を持って見上げてくる。

 そうか、俺がフィアを抱き上げていたのか。自分でやってるなら納得がいくよ。

 そりゃ気が付かないはずだろうとも。

 掛け布団と俺の間に軽々とフィアを抱き上げ、しっかりと抱きしめる。

 「私、両親のことも祖父母のことも羨ましくありません。とても幸せなんです。」

 嬉しいこと嬉しそうに伝えてくれるフィアをもう一度敷布団と俺の間に入れて抱きしめたのは言うまでもない。

 何回もレベル上げをしようじゃないか。


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