【第13話】刺客?
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まだまだ先が長いので、お付き合いいただければ嬉しいです。
セキセンの宿を出てから俺たちはウィングに連れられて国境を越える。
フセイ側の衛兵から声を掛けられた。
「おう、お前さん方。昨日はヒドラを倒したそうじゃないか。たった二人であいつをやれるなんて、たいそうな腕前なんだな。」
セキセンの衛兵が後ろから声をかけてきた。
「だな!その小さなお嬢ちゃんもヒドラの首を四本も狩ったっていうじゃないか。空軍から丁重にお見送りをしろってな。そっちのアンちゃんはどうでもいいそうだが嬢ちゃんだけは粗相があっちゃならねえって厳命が来てる。お嬢ちゃんは空軍に何やらかしたんだよ?」
「え?ええ?」
国境の両方の衛兵からフィアは熱烈な歓迎と送別を受けて狼狽えている。
その表情はかわいいぞ。
それに引き換え俺の扱いはどうだよ。
ウィングと俺はおまけにもなりゃしない。
俺たちは不貞腐れながら、フィアは恥ずかしかったのか頬を赤く染めながら馬車を進めて行った。
麗らかと言うか、穏やかと言うか、ヒドラに悩まされた近隣の人々の憂いを拭い去ったのは単純に自分たちの為でもあったが、通り過ぎる村々や町の人達の表情を見ると、怯えながら過ごす必要が無くなったためか田畑に出る人たちにも商いを営む人たちにも道中を急ぐ旅人たちにも穏やかな表情が見て取れる。
こうした活気のある人たちと出会うことによって、冒険者の存在意義や自分たちの行いの結果を実感できることもある。
主要幹線を馬車で進むと、海沿いを舐めるように西に進むことになるのだが、この季節だとまだ、日中が暑すぎるという訳でもなく水平線を眺めながら水面に照り返す日光に目をすぼめながら世界の大きさを感じたり、売られている海産物や農作物を眺めて回ったり目を楽しませるものが多く、財布の紐が緩まないようにすることが大変でもあった。
「自殺の名所」などとおおよそ不名誉な名を冠した観光地にたどり着くころには、陽は水平線にダイナミックに飛び込んでいる時刻となっていた。
あちらこちらと寄り道をしたものだから、散々につまみ食いもしていたのだが、この辺りではおろし蕎麦が有名だと聞き、メインイベントとして挑戦することにした。
日本でも馴染の蕎麦だったが、この地ではこの蕎麦に様々な具を盛り付け、それを覆うような辛味大根の粗おろしを鰹節と出汁の味で楽しむのが王道だという。
「う~む、癖になるな。」
「そうでしょうか。」
ひたすらさっぱりとした大根おろしの辛味と鰹節をふんだんに振りかけた蕎麦は大盛りな器であったが、滞ることなく完食させてくれた。
疑問を呈するフィアを見ると、若干涙目で大根おろしを避けながら蕎麦をすすりこんでいた。蕎麦は美味しいのだが、大根おろしが辛くて食べられないようだ。
陽もとっぷりと暮れ、お腹も満足のいった俺たちは名所の付近で宿を取り、ひと心地ついている。
「ソウタさん。クノエまではまだ相当あるのでしょう?道中の間、私たちパーティーはまだまだ経験を積んでいく必要があると思うのですが、ご実家の方は大丈夫なのでしょうか?」
うん。何を心配しているのかは判るが、俺たちにはどうしようもないじゃないか。
あの家族の中で俺たちに隔意を抱く。そんな相手に気を割きながら旅を続けなければならないのだが、だからと言って明確な行動方針も判らないのだから、実際に防ぎようもない。
「トサンから離れるにしたがって情報が届きにくくなるからな。そうした意味では狙うにも都合が悪いと思うんだ。もう一つ国境を越えるとまたトサンへの情報は遅くなるだろうし、いずれ俺たちを狙うにも結果を確認するにも時間がかかりすぎるようになると思うんだ。」
「それはそうかも知れませんが、先々で魔物などと対峙するときに背後に注意を払うというのも危険だと思うのです。」
なんかフィアが随分と慎重な気がするが、俺はそこまで心配してはいなかった。
それが単なる能天気なのか危機感の欠如なのか判らないが、お父様でない家族の害意だとしたら、お母様だとする。
アーディの婿がねにと世話をしたのにフィアに盗られた。そう考えるかもしれないが、そうだとしてお父様の目を盗んで資金を動かし、人を動かしてフィアを狙うというのも実に想像しにくいものがある。
アーディ自身が人を動かしているとする。
それでも自分一人で動かすことのできる人やモノ、カネと言う範囲がそう大きなものではないのではないかと思えるのだ。
そういう風に考えると距離を置けば置くほど彼女たちのでき得ることが必然的にタイムラグを生んで適格性を欠いていくと思うのだ。
すると、俺たちに対する圧力が減り、背後に気を取られるという事もなくなっていくのではないだろうか?
そう分析しているから俺はある種楽観的でもあったのだが、フィアの考えは違うようだ。
「私は、ソウタさんにこうして遠くまで連れてきていただいて、とてもありがたいのですが、奥様やソウタさんのお嫁さんになりたかったお嬢様の気持ちを考えると、そう簡単に割り切れるものではないように思うのです。私がソウタさんにお声を掛けさえしなければお二方はご自身の希望をかなえられたかもしれません。」
「フィア、考えていることは分かるよ。でもね、彼女たちはお父様の目を掠めて行動を起こさなければならない。貴族とはかくも面倒であり、醜聞を嫌うものだ。そうした貴族が取ることのできる手段とはそう派手なものでもないし、主人がそれを警戒している限り、できることなんて大したものではないんだよ。」
俺が楽観的に構えている理由を語ったのだが、それでもフィアの表情はすぐれない。
「私はそうは思いません。」
フィアが言うには身分とか醜聞とか気にするのはあくまで男性であって、この世界でも女性の揉め事はそう簡単なものではないのだという。
「ソウタさんは異世界からいらっしゃった人ですから、そちらの世界の常識が判断の規範となっているものと思われますが、この世界では女性の感情による行動の方がより複雑でより、根深いと思われます。ですから、そう簡単には割り切ることができないのです。」
「フィア?俺は迷い人だと話したことはないはずだが、どこでそれを知ることができたんだい?」
「…すみません。初めてソウタさんのお部屋に伺った際に、お部屋の机に置いてあった書付を盗み見てしまいました。ご気分を害してしまい申し訳ありません。」
また、俯いてしまったフィアの頭を撫で、顎を取ってこちらを向かせる。
「フィア、何度も言うようだが、俺はお前と旅を続け共に成長することを選んだと言った。そうであれば、どこから来たかもどうしようと思っていたかも関係ない。フィアに語った通り、フィアと共に旅をして共に成長することが今、俺が選んだこれからの望むべき道だ。」
早速、明日になれば最初の連絡が入ることになっている。
お父様の便りがあれば事情が判ってくるだろう。
「明日、この宿でトサンからの知らせを受けることができる。それを見てからまた話し合う事にしよう。」
「そうですか。では続きは明日にいたしましょう。」
不完全燃焼ではあったが、ここで明確な回答が得られないのだから、これ以上この件について話し合っていても解決はしないだろう。
そのような場合は、寝てしまうに限るのだ。
「あ!?」
ベットの端に二人並んで腰かけ、重い話を続けていたのだが、俺はフィアを抱えてごろりと寝転がることにした。
小さく声を出したフィアは俺に抱えられたままベットに投げ出される。
脇に抱えるようにフィアを抱き、いつものように口づけを交わし、愛おしさを籠めながらその身体を解きほぐしていく。
「う、うん。んん。」
フィアはかわいい声を漏らしながら昂ぶりを堪えようとしている。
その反応を確かめながら少しずつきわどい場所を攻め、促していく。
「あ、ああ!?」
大きなうねりが訪れたように背を仰け反らせ、一度弛緩するフィア。
毎晩ではあるが、こうして反応を楽しみながら俺自身も昂ぶりを我慢せずに交わっていく。
翌朝、やはり俺の与り知らぬうちにフィアは仰向けに寝ている俺の上で幸せそうに熟睡している。
「解せないな。」
こればかりは本当に理解の外にある。
まぁ、だから厭だとかそういう事もないのだが。
しばらく安心しきったフィアの顔を見ていたのだが、俺より僅かに高い体温にすっかり慣れてしまい、寝返りで転げ落ちないようにフィアを抱えている俺も大概ではあるよな。
今は朝日が昇り始めてどれほども経過しておらず、朝食にもまだ早いのでゆったりとした時間の流れに身を任せているのだが、一刻もすればセキセンの商業ギルドからトサンのお父様との密談の結果が届けられるだろう。
内容次第でこれからの行動指針を決めなければならない。
面倒にならないことを祈るばかりである。
四半刻もたつとフィアの目も開き、その元気な腹時計が朝食の時間であると俺に告げる。
と言うか、それはそれでフィアの生きている証だと思えばいいと常に言っているのだが、お腹が鳴るたびに俺がポカポカと殴られるのは何故だか納得がいかない。
食べさせてないわけでもなし、公平に食事の機会を堪能し、満足してくれるまで我慢もさせずに食事をしてもらっている。
食べることによって成長や満足を得られるものではないことは十分承知しているし、食事の色々を楽しんでもらえているのだし、健康でいてくれるからこそ食事の前にお腹もすいて来れば可愛らしい訴えも自己主張するという物だろうに。
羞恥に染まって、誤魔化すように殴ってくるフィアに実は俺がとても満足しているのは内緒だが。
身支度を整え食事を済ませ、出立の準備も済んだ頃に扉が叩かれ、宿の女の子が来客を告げる。
そのまま招き入れてもらうと、40歳前後の精悍な顔つきをした冒険者に見える大柄な男が部屋を訪れた。
「ヤマノ=ベソウタ殿でよろしいか?」
部屋の入り口に屹立したまま、中に入ろうとしない。
「ああ、俺がそうだが、商業ギルドには迷惑をかける。」
誰がやってきたのか判っているというスタンスで返答すると、男性は安堵の表情を浮かべる。
「トサンから書簡を預かってきている。昼夜を問わず先を急いだのでな、掛けさせてもらっても構わないだろうか?」
「気が利かなくて申し訳ない。こちらへ。」
中へ招き、テーブルの向かいへ掛けるように促してやる。
背嚢を降ろしながらやってきた大柄な男は、俺の向かいへ腰を下ろし大息をついた。
「急がせたようで大変申し訳ない。」
初仕事に緊張を強いられていたようでここまでたどり着いたことを大きな安堵の表情で物語っている。
「いや、すまない。このような案件は初めてだったものでな。要人警護や討伐パーティーの支援などが通常業務で、連絡業務などこれまでに経験がなかったもので危険の度合いを測りかねていたのだよ。」
そう言いつつ降ろした背嚢から一通の書簡を取り出す。
封蝋の施された書簡を受け取り、蝋に押された印を確認する。
稲穂に鎌を入れる紋章が蝋によって象られ、この国の中部域を示すCenterの「C」、本土の北側大海に面するNorthの「N」、トサンの「T」、ウォルフ家を示す「W」に当主であることを示す「01」が取り巻くように配置された印影である。
俺は無造作に開封し、中をむさぼるように読んだ。
書面はこうだ。
「ソウタ、壮健であるだろうか。お前の寄こした使いによればこの家の者がお前の契約したサキュバスを害しようとしており、また、ソウタに害が及ばないように監視者もいるという事であった。私はそのようなことがあってはならないと当主としてその身を律し、お前の信頼に足るように努めようと思う。さて、そうした目で我が家を見てみるとそこかしこに不審な点があるようにも思うのだが、今現在においては何かを断定するに足りる物証はないのだ。だが気を付けるに越したことはない。ソウタへ。連絡者を寄こすこの手段は有効ではあるが、今お前たちがどこにいるのかを私に知らせる必要はない。情報の漏えいを最大限に抑制するためには互いの近況などを語り合うべきではないだろう。セイトの都から先に使いが来ていたようだ。何の用件でこの屋敷を訪ねたかは判らぬが、その際にはアーデルハイドが面会し、一刻にも及ぶ話し合いが行われていたようだ。妻もこの件に関しては全く無関係とはいえないようなので今現在はどちらか、或いは両方を警戒するべきだと考えている。妻はこのトサンの生まれで育ちもトサンだから、セイトとのつながりは無いはずでアーデルハイドも同じだ。次の情報交換までは周辺警戒を厳とし、セイトに近づくことを警戒するがよかろう。」
このように本当に用件だけを伝えてきた。
しかし、想定外であったのはアーディと母上が今もって容疑者から外れないことであった。
容易に的は絞れると考えていたのはどうやら間違いのようで、少し複雑な背景があるようだ。
文面をフィアにも見せ、書簡を届けてくれた冒険者に再度礼を告げた。
「俺は商業ギルド専属の冒険者でセドリックと言う。ウォルフ家にしばらく張り付いていたが、ご当主はソウタ殿の言うように信用に値すると思われる。しかし、奥方様とそのご実家。そしてご息女には不審な点が見受けられた。これを利する我々ではないが、ギルドマスターより忠義を尽くすように申し付かっている故、俺の子飼いをそれぞれに8名ほど張り付けてある。しばらくの後には何某かの情報を得ることもできるであろう。では、ゆるりともできぬのでな。これにて失礼仕る。」
そう言ってセドリックと名乗った偉丈夫は席を立ち、背嚢を背負うや振り返りもせずに部屋を出て行ってしまった。
後に残された俺たちはどうにもやるせない気分にさせられたのだが、すでに俺自身が決めてしまったこれからの行動方針に変更はない。
「フィア、疑うべきは明らかになったが、俺たちのすることに変わりはない。引き続き西を目指し、セイトを通過しよう。」
「はい。それについては異存はありませんが、本当に良いのでしょうか。」
この書面にはセイトとの係わりを示唆されている。
セイトはこの国の建国当時、首都がおかれた場所であり、政の中心であったという。
場所からすると、日本の京都と同じような場所だろう。
霊的な祭事の中心であると同時に国の中心でもあった都市と言うのは、それだけで何かの力を感じられる。
とはいうものの、現状でセイトのどのような連中とウォルフ家の繋がりがあるのかも判らないし、畏怖しようにもしようがないのだ。
「俺たちはこのまま沿岸沿いに西へ抜けるつもりだ。注意は当然するとして、さっさと抜けてしまう事にしよう。」
フセイとヘイコに挟まれたセイトは北側の大海に面してはいるものの、海岸沿いを通るとさしたる距離を経ずとも更に西側のヘイコへ抜けてしまうのだ。
そうであれば、セイトの何某かの勢力も俺たちを害する機会が減るというものだ。
当然本人たちもそれには気が付いているだろうが、いつ通るとも知れない特定の個人を待ち受けるのは難しいものがあるだろう。
そうした隙を狙うのがこちらの作戦だった。
むろん、バカみたいに往来を進むわけもなく、林間から森の中。山林に分け入り、時には海岸沿いの砂浜を防風林に紛れながらと、周囲を最大限に警戒しながら進んだ。
俺はウィングと共に馬車で往来を進み、フィアが付かず離れず右に左にと風のように進んでいるのである。
それでも、お互いが交感しているおかげで互いの位置もわかるし、状況もお互いがまるでその場で見ているかのように理解できた。
それで気づいたことだが、集落を通過する都度に網の補修をする漁師や、杉木立を伐採する山師の中に疑わしい者たちが散見できた。
異常に魔力量が多いのだ。
しかし、それらの者たちも一人乗りの旅馬車を怪しんではいるものの、手持ちの情報と一致しないのか行動を起こそうという者はいないようであった。
このままヘイコへ抜けられればと思いもしたのだが、そう簡単にはいかないようであった。
「そこのお方。どちらへ向かわれるかは存じませんが、古都の土産に雅な菓子などはいかがか?」
小高くなった峠道の茶屋を通り過ぎる際に茶屋の親爺が俺を引き留める。
こいつの魔力量も大したものだ。
「ほう。こちらにはどのような菓子をおいているのかね。」
何食わぬ顔で誘いに乗ってみると、求肥のような半透明の衣に餡を挟み、きな粉でも掛けたような菓子を差し出された。まんま「八つ橋」であるな。
クスリと笑った俺は、「うまそうだ一つ買わせてもらおうか」と購入を希望した。
親爺はさも嬉しそうに「八つ橋」がいくつか詰められた箱を差し出し、俺から貨幣を受け取っていた。
ありがとうございます。そう言い、貨幣を懐にしまう。
ほんの僅かではあったが、その瞬間に懐刀の柄を確認できた。
やはり、何某かの力を持った者なのだろう。
「親爺、この辺は物騒なところなのか?茶屋の親爺でも武器を持たねばならぬとは、俺も心して旅をすることにしよう。」
聞くや否や、茶屋の親爺は殺気を漲らせ、ゆっくりと懐へ手を差し込もうとした。
油断のない構えではあるが、もう遅い。
「ファイヤーウォール。」
俺の一言で親爺は炎に囲まれ、身動きもままならない状態になった。
「ち!」
舌打ちをするのも結構だが、炎の壁はその直径が1mほどしかなく、身じろぎすれば火に触れてしまうだろう。
俺は籠める魔力の量を足しながら調節し、炎の温度を徐々に上げていく。
赤く、揺らめくようだった炎の色が次第に白熱し、酸素を取り込んで勢いを増す。
「色々と策もあるのだろうが、もうそろそろそのまま灰になる温度になるぞ。」
まもなくバーナーのような青色の炎に近づいているようなので、1000℃近くの温度があるだろう。
「ま、待ってくれ、俺が何をしたっていうんだ。」
額から流れ落ちる汗を拭おうにも手を動かすことさえできない状態だ。直立不動でいなければ、容易に炎に触れてしまうだろう。
「まぁ、何をしたという事はないんだが、その身に纏う魔力量は一介の茶屋の親爺の物ではないよな?」
「なに!?、お前魔力量が測れるのか?」
「生憎な。そんな情報はウォルフ家から貰っていないのか?」
「いや、俺たちは…はうっ!」
何を言おうとしたのかは判らなかった。
しかし、親爺の眉間にごく短い投擲用の短剣が突き刺さり、俺のファイヤーウォールで燃えだしてしまった。
勤めて冷静にゆっくりと振り向くと、編み笠を被った僧侶が5人、一列に並んでこちらに近づいてくるところだった。
どいつも修行僧にはあるまじき魔力量を誇っており、先頭の坊主は錫杖を持っていない上に手に印を結んでいた。
それだけでも怪しいというのに、この坊主の周囲に2本の短剣が浮遊している。
高野山の戦闘僧かよ?
あと5メートルという距離にまで近づいたこいつらは、歩みを止め、背後の四人が錫杖を構えた。
「どういうつもりだ?」
俺の問いに答えたのはやはり先頭の坊主だ。
「某どもはトサンからの旅の二人組を探しておる。その方は魔法を使うようだが、剣を持った女子を知らぬかの?」
気に食わない。
どうせ判って話しているんだろうが、やはりフィアを狙っているのだろう。
フィアは今、20メートルほど戻ったところにある街道沿いの大樹の上に隠れている。
気配が完全に消えているために気が付かずに通り過ぎてきたのだろう。
俺の視聴覚を通して会話や状況を確認しているだろうから、気配察知にかかることはないだろうし、心配はないな。
それが俺の余裕となり、相手には疑心となる。
「その方、聞いているのか?」
「ああ、すまない。聞いているよ。で、そちらの皆さんはその少女をどうしようというのかね。」
「何という事はない、縛られた御身を開放して差し上げようという事だ。」
「つまりは余計なお世話と言うやつか。」
体内で錬成された魔力が周囲の温度を下げ始める。
同時に大気中の湿度が上がり始め、電位が上昇を始めた。空気中に蓄えられたオゾンの匂いさえ感じられるようになったころ、異変に気が付いた坊主が印を変え、呪文を口にし始める。
「オン・アボキャ・ベイロシャナウ・マカボダラ…あう?」
真言密教か?
呪文詠唱を待つまでもない。俺は敵に優しい方ではないので無駄な配慮などしない。
「サンダー!」
俺の一言で大気中に潜むことができなくなった雷は上から下ではなく、全周から5人を襲った。
バリバリと言う放電現象が空気を割く音を轟かせ、5人の体を貫いた。
時間にして1秒とかからなかったろう。
紫色になった大気がようやく怒りを治め、何事もなかったかのように一陣の風が舞った時、俺の脇にフィアが現れた。
「今のはすごいモノでしたね。髪が逆立ってしまいましたよ。」
手で髪を撫でつけるしぐさをする。
思わず俺もフィアの頭を撫でてしまった。気持ちいい。
茶屋の親爺は灰も残らず、僧侶たちは露出した肌のいたるところに落雷が落ち、炭化した穴が開いた状態だ。
当然生存者などいるはずもなく、手掛かりを得ることもできそうにない。
完全なオーバーキルになっており、口を割らせたかったのだがまずかった。
「なぁ、このままだといつまでも手掛かりが得られないような気がしないか?」
「こう言っては何なのですが、ソウタさんの魔法があまりにも容赦がないのでは?」
そうは言うが、手加減して何かあってもバカみたいし、あれだけ魔力量があったのだから、一人ぐらい半死半生のやつが残っているのではないかと思ったのだ。
「次行こうか?」
「次は一人くらい生き残るといいですね。」
バカな会話をしつつ、涙目になっているウィングも撫でてやる。
音に驚いたようで、それでも走り出さなかったのだから相当賢いのではないだろうか?
フィアを撫でつつ、ウィングを撫で、三人で歩きながら先を目指すこととした。
両手が疲れてきたよ。




