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Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
次段の成長の章
125/161

【第124話】無事の帰宅

いつも読んでくださって、ありがとうございます。

真祖ファイナルっす。

 「そろそろ終わりにしないか?」

 俺の問いかけに対して吸血鬼は自分の足元に侵入された驚きと、不遜な物言いに憤りも顕わにした表情を見せる。

 灯りの落とされた玄関ホールとその先を漆黒に沈める長い廊下のちょうど境目に居る吸血鬼のその表情は、僅かばかりの月明かりによって辛うじて窺い知ることができる。

 俺の場合はそれとは別に暗視も上乗せされ、怒りに震える薄い唇の動きでさえも捉えてはいるのだが。

 「お前は本当に何者なのだ。私の居場所を正確に把握し、移動先にまで同時に現れることのできる能力。人種の数十倍と言う反応速度に当たり前のように追従できる身体能力。

 そしてミスリルでも打つこと叶わないという我が不滅の肉体を手に掛けるその剣。どうやら魔力量も人並みではないようだが、望んでも叶わないようなその全てを得る貴様は神の使いなのか?」

 改まってそう言われるとなかなかにチート臭いなと思わざるを得ないが、昔から言われるように「上には上が居る。」と言うだけなんじゃないかな。

 俺にだってまだまだ遠い存在のあのサキュバスとの番の男。

 あいつ自身のレベルだって知れないじゃないかと思うし、今のレベルでもってしても叶うとは思えない。幸いにも敵対する存在ではないことが救いとなっている。

 それと最近は鳴りを潜めたようにしているが、ダイハンで大量の兵たちの移動に手を貸し、シンカタで無理矢理にも地殻変動を引き起こそうかとした奴もいる。

 奴はそれで俺を釣ってトウトの屋敷にまで攻め込んだ過去もある。その際にはサキュバスの番にシロップやアニエスたちを守ってもらったこともあるが、姿の見えない敵もまた存在するのだろう。

 今この瞬間も、どこかで何かをしようとしているのかもしれない。

 パワーインフレが引き起こすバトル漫画になるつもりはないが、毎週パンチ一発に気合と捨て台詞の応酬になって、叫び声と共に「続きは次週!」では俺自身が週刊誌を投げ捨てる自信があるからな。

 そんな意味では誰得かは知れないが、俺自身のためにもこんな吸血鬼ぐらいにいつまでも時間を取られる訳にはいかないな。


 俺の沈黙をどう解釈したのかは判らないが、質問に答えようとしない俺に対してフンと鼻を鳴らすのみだった。

 吸血鬼は玄関ホールにまで歩いて戻り、絵画が掛けられた壁を通り過ぎ、雨具を預かる場所すぐ手前に数々のコレクションとして飾られているフェンシングに使うような切り刃のない刺突剣レイピアを手に取った。

 ほう?とも思ったが、あの拳を斬る如月に当たり前にある剣でどうこうできるとは思えないのだが、敢えてそれを選ぶことに注意を払う事にする。

 そこで欲張りな奴だな。そう思わせる行動を見せる吸血鬼。左手を壁に伸ばして刃渡り30cmほどの受け流し剣マンゴーシュも取り上げた。

 いや、マンゴーシュにしては刃幅があるし、片方の刃が櫛刃になっている。

 この世界に来てから初めて見る破壊刀ソードブレイカーか?

 それさえも如月に有効だとは思えないが、気を付けるに越したことは無いだろう。

 互いの距離が縮まり、右手にレイピアを、左手にソードブレイカーを持った吸血鬼が気合を入れ直す。

 フランスの騎士道が育んだというこのスタイルとは剣を交えたことは無いが、盾代わりのマンゴーシュか、よりアグレッシブなソードブレイカーも含めてこの吸血鬼が使いこなすのなら、しっかりと学ばせてもらおう。

 こちらも対策がない訳ではないぞ。如月に籠める魔力を複合させ棟金に赤黒い霊光を纏わせる。

 刃金は紫の霊光が強く実体化して大気に干渉しており、低い唸りを上げている。

 二色に煌めく如月はただ斬るだけではなく、その強度も増している。

 〔いくわよ。〕

 自信を深める如月の柄を強く握り直し、愛する妻を抱きしめるような気持ちを籠める。


 吸血鬼が霧化せずに突撃を図る。

 実体を持つ剣を手にする以上、自分だけ霧になるわけにはいかないのだろう。

 レイピアが正確に俺の心臓を狙い突き出される。これは牽制の一撃だろう、躱される前提での攻撃だろう。

 如月で掬い上げるように払うとピーンという硬い音がしてレイピアが跳ね上がる。同時に如月を上から抑え込むようにソードブレイカーが被せられた。

 櫛刃に噛み合った如月をまさに折らんとして引き絞られたソードブレイカーだったが、こちらの目論見通りに分の悪い如月の剣先を櫛刃で曲げ折ろうとしたソードブレイカーの方が折れ飛んだ。

 「なんだと!」

 〔ふん、その程度!〕

 吸血鬼の驚愕と如月の侮蔑の言葉が同時に交わされ、ソードブレイカーが役に立たなくなった。

 それでも弓のように引き絞られたレイピアがまた刺突され、右肩を狙って滑るように襲い来る。

 思い切りのいい攻撃は厄介だが、その鋭い攻撃も俺には良く見えている。

 右肩を引くと同時に如月を逆刃で払いあげるとレイピアの先の方を斬り飛ばせた。

 「くっ!」

 肩の上を空振りしたレイピアを上手く停止させ、横薙ぎに俺の首を狙ってきた時には少し焦った。ちゃんと鍛えられた剣技を使う吸血鬼に驚くよりないが、小さなデストロイウォールが自然に俺の首筋に発生して側頭部を守ってくれる。

 意識しないでも現れるとはホントのイージスの盾だな。

 引き際にレイピアもソードブレイカーも投げ捨て、更に壁から手に取ったショートソードを構える。

 非常に洗練された動作に感動を覚えるが、片手半剣バスタードソードよりも短いリーチは速度ではロングソードに勝るが、如月のような日本刀のリーチに対しては明らかに不利だと思う。

 こちらも武器破壊ばかりしているとまた霧化されて厄介だと踏んだ俺は、如月に籠める魔力を強化だけに振ってショートソードとまともに打ち合う作戦に変えた。

 さすがに真祖と言うだけあって、吸血鬼ならではの剛腕を誇り、打ち合うと手が痺れるほどの衝撃がある。

 〔手を抜いちゃダメよ。〕

 如月はそう言うが、ここぞと言う時を狙っている俺としては、一撃一殺にして毎度仕切り直すのもイヤなんだよ。

 振り下ろされるショートソードを受け流し、空いた左半身に斬りこむと強引に吸血鬼が左ひじを当てに来る。

 肘を蹴り上げると吸血鬼が後ろに距離を取る。

 そのまま踏み込んで逆に斬り下ろすとまともに斬り結んでしまった。

 右手だけで如月を受け止め、左拳を突き入れてくるその手腕も戦い慣れているというか、いつかの訓練が活かされているのだろうと思わせる。

 「うおぃ!」

 左を空けて拳を交わす。右側に体を回転させて横薙ぎに斬り入れると顔の高さにあった剣を手首だけで捻り降ろして吸血鬼が如月を受ける。

 ちょっと楽しくなってきた。

 西洋の剣術と言うモノがこうであるという見本のような戦い方をする吸血鬼は、体術にも力にも優れ、機敏な動作と判断力で実に多彩な攻撃と守備を見せてくれるのだ。

 「面白くなってきた。」

 〔また!そんなこと言ってていいの?〕

 俺の表情を読んだのだろう如月が「悪い病気が始まった」とでも言うように文句を上げる。

 「キサマ、バカにしているのか!」

 本意ではない戦いを強要されている吸血鬼にはプライドを汚されたとでも思われたかもしれない。

 確かに上から言われるような物言いだったかもしれないが、バカにしているつもりはない。

 こんな戦い方もあるんだと素直に感心した。と同時に自分の剣技がそれに届いていることに喜びを感じただけなんだよ。

 ヤキモキとする如月にもバカにされたと怒る吸血鬼にも悪いことをしたと思うが、それを実感できたところで充足感は得られた。

 ブオン!といきなりにも紫の霊光が増し、次の一閃でショートソードごと吸血鬼の腕を斬って捨てる。

 「があああ!?」

 右肘から先が剣ごと無くなり、苦痛を上げる吸血鬼にさらに踏み込んで一太刀を浴びせた。

 胸を正確に薙ぎ払い、体内から爆発的な霊光が噴き出すと同時にデストロイウォールを発動する。

 自分を守るためではない。手傷が致命傷になると体を捨て魔力に変化するこいつを逃さないためにデストロイウォールを球状に張り巡らし、閉じこめたのだ。

 案の定、斬られた体を捨てようとした吸血鬼だったが、出られない障壁に閉じこめられたことを知ると強引に深手を負った体で障壁を壊そうとする。

 苦痛にゆがむその表情のまま、逃れられない真祖の体を焼く炎は勢いを緩めずに燃え盛り、暴れる吸血鬼が哀れだ。

 騒ぎで起きだしてきたのか最初から居たのかは判らないが、多くの女性たちが廊下の奥から燃え盛る真祖を無表情に眺めているのが判った。

 数分の間、障壁の中で力の限り抵抗していた真祖だったが、焼かれ、炭化した体はいずれその暴れる体を支えることさえできなくなり、繰り出した拳が砕け、二の腕が折れて落ちる。

 手が無くなれば足を蹴り上げるが、腿で体から離れて崩れ落ちる。

 そのまま崩れるように球状の障壁の底にまとまると、真祖は動かなくなってしまった。

 奥の女性たちが何かしやしないかと警戒すると同時にディープサーチによって真祖の魔力溜がどこかに移動しないかを燃え尽きる様子と共に見張っていた。

 生命力の源がどこにあるのかは判らないが、もうほとんど燃え尽きたその身体にまだ魔力が留まっている。不死の象徴と言われる吸血鬼のその命だけがそこにあるような感じだ。

 実体を伴わず、じっと身を隠しているようにも見えるそれ・・は俺が障壁を解除するタイミングを見計らっているのかもしれない。

 〔ダメよ?〕

 「うん?如月は俺がこれを逃がすとでも?」

 〔そうじゃないけど、ここで情けを掛けてもいいことなんてないわ。〕

 「そりゃぁ、そうだな。」

 眷属化された女性たちが静かに廊下を進み、丸い障壁の周りに集まり出した。

 その姿はただ静かに閉じこめられた真祖を見下ろしているだけで、手を出そうとか助けようと言った類の意志は見受けられない。

 「剣士さま。真祖はどうなりましたのでしょう?」

 メイドの姿をさせられた女性たちの中から割と年配の女性が進み出て、俺に問いかけてくる。

 「この吸血鬼はまだ生きてるよ。まぁ、この障壁を解除するつもりもないしここから出られるはずもないがね。」

 一様に安堵の表情をする女性たちを見ると、精神支配は受けていないようだ。

 別の女性がそれでも拭えない不安を俺にぶつけてくる。

 「真祖は10年前に一度死んだと聞きます。それでもまた現れて私たちをここに閉じこめました。

 またいつか現れるのではないでしょうか?」

 「10年前の真祖はこいつなのか?」

 要は何人も真祖がいるのならコイツではない奴が10年前に死んだのかもしれないし、前の真祖もコイツなら今後は俺の生きている限りここから出られはしない。

 この後、次元断層で未来永劫に渡って監禁が決定しているからな。

 数人のメイド衣装の彼女たちがお互いに顔を見合わせて確かめ合っているようだが、確認作業が済んだのかまた、別の女性が話しかける。

 「先の真祖も今回の真祖も同じ者だと思います。」

 「そうであればもう二度とこの真祖が現れることは無いでしょう。ここにこうして閉じこめてますからね。」

 また全員が丸い障壁を見る。

 様々な思いが去来するようだが、そろそろ話をまとめたい。

 「すみませんが、この障壁を隔離して構いませんか?」

 どうするのか判らないなりにも女性たちは障壁から距離を取り、それでも逃げ出さないかを怯えるような目で見つめ続けている。

 「如月もこれでいいだろう。」

 〔ええ、これで一安心だわね。〕

 「次元断層。」

 俺の呟きと共に障壁の真下に丸い次元断層が開き、ゆっくりと断層に飲み込まれていった。この次元断層は時間の経過のない閉ざされた世界に通じているので、中に入った障壁に魔力を供給し続けることなく今の状態が維持される。

 つまりは本当に俺が死んでしまうまでこのままという訳だ。

 事象の狭間に捨てるのでも良かったのだが、それだと行方不明にはなるだろうが魔力の供給が途絶えた時に障壁が解除されるし、自由になった真祖が何らかの手段で戻ってくる可能性も否定できないからこそ身近に置いておくことにしたのだ。


 「さて、それでなんですが、皆さんは吸血鬼に眷属化されているのですか。」

 「そうだとして、私たちも処分されてしまうのでしょうか。」

 全員の表情に緊張が走る。

 眷属化されているらしい。

 「違うんです。まぁ、普通に考えたら一度眷属化した人と言うのは元には戻りませんから、新たな吸血鬼として考えるべきなんでしょうが、俺の魔法によって元に戻せるか試してからどうするか考えたいんですよ。」

 まだ安心できるという訳ではないが、マナドレインによる魔力吸引によって体内から吸血鬼の証を分離できればこれまでの日常に戻ってもらえばいいし、そうでなければどこか別の場所に生活できる場所を用意してあげればいいだろう。

 そうしたことを話し合うと、殺されるという選択肢を提示しなかったことで随分と全員の表情が緩んだ。

 「では試してみます。どなたからしましょうか。」

 魔法を掛けるのも、ただ俺が背中に手を当てるだけだし、痛い事も辛いこともないと聞いた彼女たちは我先にと手を挙げてくれた。

 一番年若い少女がみんなの中から一歩出て、どうしてもやってほしいと言う。

 来月に長い付き合いを経て結婚するはずだったので、どうしても戻りたいのだと。

 明るい表情でこう言えるという事は、俺が口に出さなかったような辛い目には遭っていないようだ。

 それが判っただけで如月も俺も随分と気が楽になったモノだ。

 如月も今は嫁の姿に戻っており、その紫の霊光に包まれて剣が消え、少女が現れると言う儀式に全員のお口をあんぐりと開けさせた。

 自己紹介を経て俺の妻であることに驚かれ、人でないことにもう一度驚いてもらったが、そのうえ三人の娘を持つ母親だと知ると全員が尊敬の目を向けてきた。

 何故か俺に。


 一番目の被験者になることを望んだ少女が進み出て、俺に背を向けながら礼を述べてくる。

 「上手くいったら本当にお礼の言葉を頂きましょう。」

 断ってから少女の背に両手を当てる。

 「マナドレイン。」

 無詠唱で魔法を掛け、少女の体内に巡るマナの中に混入している真祖の魔力を捕まえる。簡単ではないが、選り分けて凝集することはできそうだった。

 5分ほど抽出作業が続くと少女の体を包むように淡い霊光が現れる。本人もだが、側で成り行きを見守っていた女性たちも驚きを口にし始める。

 「んんん!?」

 突然に少女が口ごもるような呻き声を上げて、自分の口に手をあてがった。

 口の中から出てきたのは黒い不透明な牙が二本。

 「ああ!あなた牙が取れてますわ。」

 少女に大丈夫かと声を掛けた母親くらいの女性が驚きの声を上げる。

 次々と女性たちが少女の口元を覗いていた。

 少女らしい朗らかな笑い顔を俺にも見せてくれ、長く伸びていた犬歯が可愛いモノになっていたのを確認した。

 誰かが手鏡を少女に渡して元の自分の歯になっているかと尋ねているが、少女の顔を見れば成功したかどうかなど聞くまでもないだろう。

 少女が確かな感謝を俺に伝え、ハグの挨拶を交わした。如月が「な!?」と声を上げそうになったのだが、少女が如月にもハグして感謝を伝えたモノだから、何も言えなくなったようだ。

 なんか俺が守られた気分になったよ。

 効果が確認できたことで次から次へと処置を行っていく。

 ちょうど全部で40人がこの屋敷に囚われていたのだが、他に居ないかと問うとこれで全部だと答えがあり、陽が上るまでをこの屋敷で過ごしてから凱旋することになった。

 夜着のまま連れ去られた女性たちが殆どで、明日その衣装では帰りにくいという事だったので、今着ているメイド服をそのままいただくことにした。


 憂いのとれた彼女たちに案内されて、客間を用意してもらい如月と休むことになったのだが、何人かの女性たちが如月にもメイド服を着せようとするのだ。

 最初は何のことか判っていなかった如月と俺だったが、一人の女性が「これもいい物ですよ。」と如月に耳打ちし、如月の顔が赤くなったことで俺にも意味が分かった。

 「仕方なくよ。本当に仕方なくなんだから。折角だから着てみるだけなんだからね。」

 如月の言い訳がましい言葉を聞きながら俺が期待の籠った熱視線を向けると、如月がクローゼットのあるところに逃げ込んでまだブツブツ言いながら準備してくれている。

 「どうかしら?」

 着替え終わった如月がヘッドドレスもちゃんと着けて本当のメイドさんになって登場した。

 あまりこうした遊びに免疫のない如月はものすごく恥ずかしそうにしており、それだけでもご飯が3杯は行けそうだ。

 「かわいい!」

 俺の感想を聞いてボッと音がしそうなほどに顔が朱に染まった。

 「な、なに言っているのよ。バカじゃないの!」

 モジモジするレアキャラを抱きしめてベットに連れて行き、ファッションショーのように如月にベットの上でクルッと回ってもらったり歩いたり座ったりしてもらう。

 清楚なメイドの衣装と紫の髪、メリハリのある肢体に短めのスカートが何とも言えずに可愛いのだ。デジカメが無いのが何とももったいなかった。

 着衣のままで如月を抱きしめ、スカートの裾から入れる手に興奮を覚える。

 恥ずかしがる如月を一晩可愛がると、気持ちのいい天気が俺たちの起床を促してくれる。


 夕べまでは明日をも知れない自分の身を心配しながらの生活だったが、今朝は自分たちのこれまでの生活に戻るための。ここでの最後の朝食と言う嬉しいイベントだと言い、食糧庫にあるモノを全て使い切る勢いでみんなで朝食を準備したのだと言う。

 晩餐会にでも出席するかのような華やいだ雰囲気に俺たちも楽しく朝の挨拶を交わすことができた。

 今朝早くに俺と如月は村長の家に飛んで、討伐の成功と女性たちの救出、眷属化の分離に成功したことを告げた。

 町はそれで祭り騒ぎのようになり、迎えの馬車を寄こすように手配を済ませてある。

 楽しい朝食があるのでゆっくりと迎えに来てほしいと念を押し、屋敷に戻ってからみんなにそれを伝えると歓声が上がる。

 女性たちの歓待を受け、如月と共に楽しい食事を摂ることができた。

 それから全員が身支度をして、小さな荷物をそれぞれが準備した。

 全員に迎えの馬車が来てくれて、それぞれを心配し、待っていてくれた人たちが笑顔や涙を見せて喜びを分かち合う。

 一番年下だった少女の迎えは婚約者の青年だった。一番に駆け付け、少女と抱き合って喜ぶ姿は何とも言えない心温まる光景だ。

 その後に熱い口づけが交わされ、俺がヤジを飛ばすとみんなに揶揄われ少女が赤面するのも面白い。

 妻を奪われた夫にしてもその心配は計り知れなかっただろう。

 男性たちに感謝され、何度握手を交わしたことやら。

 そうして一人、また一人と迎えの馬車に乗り込み、屋敷前の大渋滞も解消されたころ、村長の馬車に俺たちが乗り込んでそれが最後となった。

 道中に感謝の言葉を何度も貰い、戦いの報告も簡単に済ませた。真祖が俺の次元断層に囚われていることと、そこからは永遠に逃れられないことを聞き、また感謝の言葉を贈られた。

 眷属化も分離と凝集によって取り除くことができたこともあって、吸血鬼に対抗する術が後からでも可能であると報告したのだが、陛下から「そんなことができるのはあなただけですよ。」そう断言され、それでも安心が出来るとお褒めを頂いた。

 帰り道にダイタクヤに顔を出し、クエストの報告とダイタクヤの様子の確認を行い、フィアの村に寄って異常のない事の確認と草むしりをしてきた。

 それでもきっちりと5日以内の帰還を遂げ、アニエスとシロップの出産に間に合わせることができたよ。

 アマーリエ様のご出産には間に合わせることができなかったのだが、昨夜元気な男児を授かったとアンニさんから伺う事が出来た。

 我が家に新設された分娩室を最初に利用していただき、アマーリエ様ご本人にも医師や看護師のみんなにも大好評を頂けた。

 これに安心したのか、アンニさんもこの育児スペースの高機能に大満足をしてくれたようだ。ユンカーさんが夫婦ともに高齢であるが故の心配の全てが無くなったと言ってくれたし、本格的に我が家に逗留を決めて朝から晩までを我が家で過ごしてその快適さに深く感銘を受けたと言ってくれている。

 そのアンニさんもすぐにも出産だろう。

 多分、シロップとアニエスが先になるだろうが、珠のような赤子を抱き、幸せに満ちた表情と暮らしやすさにお気楽に過ごされているアマーリエ様を拝見すると俺のやったことに自信を深められる。

 ベビーベットの最初の一つが埋まったことも、すぐに二つ埋まりそうなことも。そのあとにフィアやアンニさんにも使ってもらえることにも嬉しさしかないよ。

 ベビーベットの側に膝を着いて我が子を覗き込む親王陛下を見ると、その脇でご自分の弟君を観察するゲオルク様を見ると、神国が存外に長く平和でいられるのではないかと期待してしまうのだ。

 さぁ、ここからしばらくは夫の仕事と父親の仕事に専念しないといけないだろう。


 楽しみだ。

マインゴーシュは仏語の英語訳と、間違った使い方なんだそうです。

そう言う理由で作中では正しくマンゴーシュとルビしてます。

ここから出産パートです。

幸せパートは肩の力も抜けるし、書いてて作者も幸せです。

今週末から来週にかけては本編の更新はありません。

本編は更新しないのです。念のため。

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