【第123話】分体か本体か?
なかなかに手強いようです。
文字数もすくないですけど。
確かに斬ったという感触はあった。
にもかかわらず、目の前で燃え尽きようとしている蝙蝠とは別に俺の後ろから偉そうなコメントを頂いた。
正直、ちょっとビックリしたんだが真祖と言う吸血鬼にどんな特徴があって、戦闘能力がいかばかりかも知らないので、斬った真祖が本体だったのか蝙蝠を使った擬態だったのか、はたまた能力で入れ替わっているのかも判断できなかった。
とにかく俺の背後に真祖が居り、燃えた吸血鬼のようなモノは目的のモノではなかったという事だろう。
「今度はこちらから参る!」
言うや霧のようにその姿が掻き消え、眼前に瞬時にして現れる。
「-っ!?」
目視でとらえ、バックステップを取り距離を空ける目の前でまたその姿が霧のようになって消える。
「ガハァッ!」
背後から強烈な衝撃が加えられ、気配を察知した時には遅かった。
脊髄が悲鳴を上げるが、視界に収めようと吹っ飛ばされながらも体をひねる。その時には吸血鬼が霧になるところだった。
マズい!そう思うより早く再び、背骨を蹴り飛ばされるような衝撃が背後から襲ってきた。このままではいいように弄ばれるままだ。
貧血を起こすのではないかと言うほどの血の気の下がりを実感し、額が冷たくなるのが判る。
それでも蹴りの連鎖から逃れなければならない。その思いだけで何もない空間に如月を斬り上げる。
「危ないではないか!」
今度は背後を確かめもせずに前方を睨んだままで蹴り飛ばされ、如月を斬り上げたことで眼前に現れた吸血鬼に一太刀浴びせられると思った。
しかし、寸でのところで霧化を維持されてしまい、空を斬るのみとなった。
吸血鬼はなんでもない様な表情のまま5mほど向こうに実体化し、楽しかったのに。という表情をして見せた。
ディープサーチ!
無詠唱で深域探査を始める。これでどこへ霧化されても追う事が出来るだろう。
もう一度如月に魔力を充填し、跳躍する。
「無駄な事を。」
小さな声で呟いた吸血鬼がまた霧になって姿を消す。
しかし、今度は魔力の揺らぎもその軌跡も見える。俺の右斜め後ろで実体化しようとするところに如月を突き出した。
「おう!?」
慌てたらしく、再度霧になる。
背後を回り込み、左後ろに来た。同じように如月を突き入れると右腕に刺突が入ったようだ。
「ぐぁ?」
霊光で焼かれた様に右腕から紫の炎が上がり、それを庇うようにまた霧になる。
さすがにマズいと感じたのだろう吸血鬼が大きく距離を取ろうとしているのが判るが、それを許すはずはない。
魔力の軌跡を見て、実体化するポイントに跳躍する。
吸血鬼の背後を取るために通り過ぎて振り返る。その時に如月が横一線に閃き、実体化した吸血鬼の背中を大きく抉ることができた。
「かはぁ!バカな!?」
タキシードの背中が大きく割れ、業火のように紫色の炎が燃えあがる。
それでも再度の霧化を成功させ、更に20mを魔力となって走る様子を見た。
俺も20mを跳躍し、さっきと全く同じ間合いで如月を袈裟懸けに斬り下ろす。
その表情は信じられない。という声のように思えたが、額から顔面を斜めに迸る刀傷によって実際には声にはならなかった。
顔面を割って噴出する炎と、それに焼かれながら憤怒の表情を見せる吸血鬼が印象的ではあったが、同情するような相手でもないしそのまま燃え尽きてくれればと思う。
崩れ落ちたその身体は紫に燃え盛る炎に包まれ、炭化したようだ。
これも処分しなければ復活する元となるのだろうか。
放っておくとまた復活しそうだという気がする。そのまま次元断層を開き、次元の狭間へと捨てるように放逐した。
〔あたりに気配はないの?〕
如月もそう簡単ではないと思っているらしく、まだ疑っているようだ。
「う~ん、どうなんだろう。今は気配察知できるような奴はいないなぁ。」
〔それであなたの怪我はどう?〕
心配してくれていたらしい。
「ああ、大丈夫。二回ほど蹴られただけだ。本気じゃなかったんだろう?揶揄われてるうちに反撃できてよかったよ。」
如月は剣のままでおり、なんとなく様子見な雰囲気があって、まだ気を緩められないような気がするんだよな。
そう思わせる根拠がまだ上空にちらほらと見える蝙蝠だ。
吸血鬼が現れた時ほどの数ではないのだが、普通に見るよりたくさんいる。
ひとつ確証を得たんだが、ディープサーチの魔法はほぼ目に見える物が映らない。探知範囲にあるその魔力の流れが鮮明に映り、魔力に影響を受けた物体のみが申し訳程度に映りこんでくる感じだ。
吸血鬼が霧になって移動するときに障害物となったであろう街路樹や家屋などがその時々で映りこんだ。
この魔法が今後必ず必要になるとサキュバスとの番になっている奴が言った。
今日みたいな使い方で合っているんだろうか。
俺が殆ど常時使用している気配察知は脳裏にレーダー画面が投射されてて、基本的な地形情報にオーバーレイするように生命反応がプロットされる。様々な抽出条件を重ね合わせると3Dに等高線まで併せられるし個人を特定することも出来る万能すぎるイケメン魔法だ。
これに比べると情報量はひどく少ないのだが、この世でないものやエネルギーを拾い上げてくれるのだ。
あとは圧倒的な広範囲索敵が可能な事も上げられるか。
気配察知がほぼ見通し距離に制限を受けるからせいぜいが半径で4kmほどだ。レネゲイドなんかで飛行中は見通し距離も伸びるので視界の届く範囲に索敵が可能になるが、地上ではそれほど広範囲なわけではない。
有ると無いとでは雲泥の差があるけどね。
これに対してディープサーチは障害物に一切干渉を受けずに半径で100kmは索敵できる。地理に明るいと地形表示が無くとも場所の特定も出来ないことは無いが何よりの利点は一切の障害を受けないという事だろう。
緯度経度、高度の一切の縛りが無く、魔法による障壁の中まで構わずに探知してくれる。
唯一の不満があるとすれば排他的にしか利用できないことだろうか。
気配察知と一緒に使えない。会得した時にすぐに気配察知と重ねて使えないかと試したんだが、起動しなかった。
気配察知を解除すると使える。
ディープサーチが発動中は気配察知を起動できなかった。
一緒に使えると色々な情報と重ねられてとても良かったのだが、それが出来ないとなると・・・やはり使い方が違うのか、知らない使い方があるのかそうしたことを簡単に聞けたらなと思わないこともない。
かなり遠いところで何かの破壊音が起こった。
ガラスの貴重なこの世界では一般家屋で窓にガラスを嵌めているようなところはない。
だからこそ「ガチャーン」みたいな擬音は発生しないのだ。
ディープサーチを行うと北北西の方向に2kmほど先だろうか、さっきの吸血鬼の気配がある。
「如月、やはりまだ駆逐できたわけではなかったらしい。いくよ?」
〔ええ、あなたの魔法量は大丈夫かしら?〕
「十分に回復してる。問題ないよ。」
瞬時にディープサーチと気配察知を切り替える。
残像のように魔力の残光が残るうちに気配察知を起動させるとピンポイントの地形情報や様々な重要情報と併せて観察できる。
せめてこれぐらいの工夫はできるようになった。
そしてテレポートだ。
レネゲイドに聞いた通りであれば移動に45秒掛かるわけだが、レベルが40を超えたあたりからそれも短くなっているような気がする。
いや、正確に短くなっている。
気配察知のレーダー上に場所を定め、テレポートするまで僅か1秒掛かっていない。
レネゲイドにその仕組みが判らないと文句を言われたのだが、実際に目視してテレポートするときにはほぼ0秒で飛んでいるらしい。
飛んだ先への事象干渉をして、回廊の固定に45秒かかるのは他の魔法使いに共通した前提条件のハズだが、俺だけがこうらしい。
短い分にはいいじゃないかと思うのだが、レネゲイドに研究対象にされているっぽい。
的を定め、当然のように瞬時に移動した。
目の前の家屋はこの辺りでよく見る平屋の平均的な大きさで、特徴的な部分は無かったが、中庭に面した掃き出し窓の表に閉じられた雨戸ごと討ち破られている。
中から悲鳴が上がり、吸血鬼が侵入したことに驚いた家人が目を覚ましたのだろう。
追うように土足のまま上がりこむと家人ではなく吸血鬼が驚いた顔で俺を見る。
「キサマ、どうやってここに!?」
「さぁて、どうやったんだろうなぁ。」
先ほどとは形勢逆転とも言える物言いを交わす。言葉を交わすと同時にその胸倉に如月を突き立ててやった。
また炎が上がるのだが、俺は串刺しにした吸血鬼をそのまま庭先に放り投げ、背中から転倒した吸血鬼をもう一度如月で貫いたうえで通りに放り投げた。
家屋の側で燃やすと民家に延焼するかもしれないじゃないか。焼却処分しかない吸血鬼には燃やす場所にも気を使わなければならない。
日本でやったら消防車が駆けつけてしまうだろうな。
結局、一言しか言葉を交わさなかったが、燃え始めた奴から言葉を貰うことは出来ないだろう。
家人が数人、恐る恐ると庭からのぞいているが、俺は片手で中に入るように勧めておく。
若い娘さんが居るようで、彼女が襲われなかったことが僥倖と言えるかな。
〔この分だとそうそう簡単に終わらないかもしれないわよ。〕
如月の考えには俺も頷けるものがある。
どうした理由かは判らないが、吸血鬼は如月に討たれてから別の場所に出現した。
討伐の際に逃げ出すことが可能なのであれば今目の前で燃えている吸血鬼もすでに本体が逃げ出した後なのかもしれない。
ディープサーチを起動して吸血鬼を追う。
半径で100kmの索敵範囲は伊達ではない。真南に3kmのところに吸血鬼を捉えた。
「如月、もう一度やる。」
〔まって、飛ぶ前に探知を切り替えるのよ。〕
「気配察知を使わないと一気にテレポートできないんだが?」
〔ええ、それは判るわ。でもディープサーチでなければ斬った後の吸血鬼がどうなっているのか判らないじゃないの。〕
う~ん、確かにテレポートして斬るまでは気配察知になってる。
「わかった、テレポートには気配察知を使わないといけないんだよ。出てからすぐに切り替えることにしよう。」
〔ええ、それでいいわ。タイミングをしくじらないでね。〕
ひとつ頷き、テレポートした。
今度は町の街道沿いに面した商店だろうか。表の扉が討ち破られ、侵入者があることが判る。
そのまま入り込むと、こちらに向き直った吸血鬼が迎えるように立ちはだかっていた。
「お前は何者なのだ。どうして私の後を追うような真似をする。」
憤りを隠しもしない睨みつけるような目をくれるが、俺にとってはコイツの存在そのものが困ったことだ。
「吸血鬼の存在は否定はしない。しかし、お前のように手当たり次第に食って回るようなモノをそのまま放置することも出来ないんだよ。惚れた相手に眷属になってもらい、仲良くするならいざ知らず、望むと望まざるとに関わらずたくさんの人を脅かすようなことがいつまでも許されると思っていたのか?」
大きなため息を吐くような仕草をし、やれやれとでも言わんばかりの様子だ。
「人間の勝手な考えを私に押し付けるのはやめてもらおうか。真祖とは多くの者を従え、高貴であってその存在がゆるぎない物でなければいけないのだよ。
摘んでも摘んでも生えてくる草木のような人族がほんの少し私の恩赦で囲われたところでどれほどのモノでもないだろうに。」
吸血鬼の言う事が間違っているとは思わない。
人の目ではそう簡単に許されることではないのだろうが、それぞれの主観に立った場合にはその立場や歴史による見方もあるのだろう。
吸血鬼の世界観では人など少しぐらい減ったところですぐに増えるではないか。そう言いたいのだろうし、今まではそうしてきたのだろうと思う。
だが、今の世でそれを言うと素直に認めてやるわけにはいかないのだ。
「ああ、お前の言い分は判ったよ。だが、これまでがそうであったから、これからもそれでいいとは言う訳にはいかない。
一個人の気持ちを考えずにその多くを自分の自由にしていいと言う時代は終わったんだ。時とともに移り変わる世の中の常識と言うモノを無視してまで昔から許されていたからという理屈はもう通用しないと思ってくれ。」
「10年前はその様なことを私に言う者は居なかった。」
「ああ、10年前は俺が居なかったからな。」
互いの魔力が膨れ上がる。
言葉での会話が終わり、武力で勝った方が言葉を認めさせる時間になったのだろう。
「この家に迷惑を掛けるんじゃない。表に出てもらおうか。」
俺の低くなった言葉を聞き、吸血鬼も渋々と言った様子ではあるがあとに付いて店の外に出てきた。
大きな通りに向かい合うように吸血鬼と対峙する。
如月に魔力が通り、薄紫の霊光を纏い始めると吸血鬼は拳に籠める魔力をさらに増大させた。
「参る!」
地面をめくり上げるように爆散させ、俺に迫る吸血鬼。
俺も前傾姿勢を取り、倒れ込むように加速する。右手に流された如月は更に紫を強め、空気に触れ唸りを上げている。
ディープサーチで探る限り霧化の兆候は見えないが実態が明らかでない吸血鬼のすることに油断は禁物だ。
会敵の瞬間、振り出される拳と如月が切り結ぶ。
ガン!というまるで金属の塊同士のぶつかり合うような硬い衝撃音が起こり、真っ向から受け止められる。
数々の硬質なものを斬って伏せてきた如月を受け止めるとは大したものだ。
少しばかり感慨もあったが更に魔力を籠め、斬れないモノがない事を如月の誇りにしてやりたいじゃないか。
交差するなりに両者共にもう一太刀の為に振り抜き様に急機動を行う。地面を抉り、体重移動を行うと同時に更に如月に魔力を籠める。
「っの野郎!」
俺の気合を乗せた斬り上げに上から拳を振り下ろしてくる。
唸る如月が大気もろともにその拳を斬り飛ばした。
「バカな!」
驚愕の表情を隠そうともしない吸血鬼の前で振りぬいた剣を、俺自身の体の回転で速度を上げ、振り向きざまの横薙ぎにして再度襲い掛かる。
足の止まった吸血鬼に再び襲い掛かった如月でその腕と胴をまとめて切り分けた。
〔今!〕
如月が吸血鬼を切り裂き、霊光がその身を燃やそうとするとき、如月から強い意志の籠った言葉が掛けられる。
ディープサーチは発動しており、一瞬のことだが吸血鬼から魔力が失われたことが判る。
如月のお蔭か失われた魔力がどうなったかを逃すことなく追いかけることができた。
俺から離れて行くように魔力が地を這い、距離を取ってから舞い上がる魔力溜が見える。そのまま宙へと舞い上がったそれは一点を目指して飛び去った。
〔あなた、どう?〕
「如月、愛してるぞ!」
〔なっ?何言ってるの!〕
照れてる。照れてる。
帰還点を見極め、後を追うようにテレポートしてやる。
町の北東に約8km、セキセンの半島先端に当たる場所だろうか。いかにもな洋館が外洋に面して建っている。洋館と言うのは城と言うほどの大きさではないからで、洋館としては破格の大きさを誇っているようだ。
その中へと帰還した魔力を追ってここまで来たわけだが、中の様子はうかがい知れない。
トウトの俺の屋敷より大きく、ダイタクヤの屋敷程大きくはない。そんな大きさだと思うのだが、眷属化された女性たちはみんなここに居るのだろうか。
そんなことを考えながら館の入り口からノックもせずに入り込んだ。
「キサマ、どうやってここを知った!?」
屋敷の玄関ホールから奥に繋がる廊下で奥を目指そうとしていたのか、吸血鬼が突然に開いた玄関に向かって驚愕の表情を向ける。
やはり先ほど如月で斬り放った手も復元している。さっきの廊下を奥へと歩もうとしていた様子からすると、それぞれが分体ではなく本体ではあるが、こうして実体化する際にそれまでの不具合を無かったことにできるのだろう。
それもこれまでにしてもらおう。
何度もやり直せるのはずるいと思うんだよな。
「そろそろ終わりにしないか?」




