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Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
次段の成長の章
123/161

【第122話】初撃決着?

吸血鬼がどのような生態を持つのか調査不足の感はあります。

 陛下からのクエストを持ち帰ったのは日が暮れる少し手前という時間帯。

 地平線に沈もうという太陽は橙というにふさわしい色合いに染め上がり、ゆらゆらと陽炎を纏ったまま明日への英気を養おうととこに入るように消えて行った。

 馬車で自分の屋敷の車宿りに入ったはいいが、暮れる夕日を眺めて玄関先にたたずんでしまったのは自分には似合わないセンチメンタルだったかもしれない。

 10人ほどのメイドさんたちが迎えに出てくれていたのだが、俺と一緒に地平線に沈んでいく明日の太陽を見送ってしまっていた。


 互いにこっぱずかしさを感じながら「じゃ、入ろうか。」という俺の言葉に無言で頷いてくれたものだ。

 自室に戻り外で着ていたものを脱いで部屋着に着替えるのをメイドさんが黙って見つめていた。

 「エイミーさん?」

 「は!?も、申し訳ございません。決して不埒なことではございませんので。」

 いや、目の色がいやらしい方向性じゃなかったからそれは判ってたんですけど、どこを見てるのか判らない視線に不安を覚えたんです。

 「それは判ってるんだが、どこ見てるか判んなくてさ。」

 今にも泣きそうになっている20代後半の青みがかった黒髪をお団子にまとめているメイドさんは、とにかく頭を下げる行動を繰り返すのみだった。

 結局泣いてしまったエイミーさんが言うには、自分たちの聞いたことのない様な奇跡を大安売りする俺のどこにそのような力があったりするのかいつも不思議に思っていたのだと。それでいつも俺を見かけるたびについ、その疑問が首をもたげて見入ってしまうのだと言う。

 それよりも泣いている理由が可愛くて、不興を買ったらせっかく勤めを得た屋敷から追い出されるかもしれないと。

 ヘッドドレスを触らないようについ、ポンポンと頭を撫でてしまう。

 「我が家の家族にそんなひどいことをするわけが無いでしょう?エイミーさんもシロップやアニエスのように大事な家族でしょうに。

 俺を見て納得のいかないことがあったら、今みたいな話でもいいんで聞かせてください。お茶でも飲みながらみんなで話してみるといいかもしれないでしょ?」

 エグッエグッと、泣きじゃくった後のようになっている彼女ではあったが、こんなことは俺の不興を買うような話と程遠いと知ったからか不器用な泣き笑いを見せてくれた。


 「あなた何かしたの?」

 俺の後ろに居たエイミーさんを見るなりにこんなことを言うのは如月だ。

 食堂に入り、自分の席おたんじょうせきに着くなりに俺の右側先頭に掛けていた如月は、俺が座ったことで遮蔽物の無くなったエイミーさんの表情を見てそう告げたのだ。

 「いや、言いたいことは判るんだけど、違うからな?アニエス、シロップ、別に俺が何かしてエイミーさんが泣いちゃったんじゃないことだけは弁解させてくれ。」

 フィア以外の妻たちが、また何かやったのかという表情でエイミーさんと俺を見ていたんだよ。

 そこからエイミーさんの弁護があり、俺の無罪が確定したのだが晩御飯の席でそんな話になれば周り中のメイドさんにだって聞かれていたわけで、それぞれに思うことがあったのだろう、大質問大会になってしまった。

 食事をしながらのイベントだったので、みんな席に着いたままだったがこれまでに聞きたかったことを今とばかりに挙手をして、俺が指し、質問に回答していくような面白いモノになった。

 気を利かせた調理師の二人が、追加でオードブルみたいな手でつまめるものを中心にした料理を用意してくれて、随分と長い時間をみんなで過ごした。

 男衆は酒を飲みながら。メイドの幾人かもご相伴にあずかりながらで、とても楽しかった。

 アンニさんがユンカーさんが迎えに来て、帰ってしまった後だからこそこんなざっくばらんな時間を過ごせたのだろう。

 マチルダさんはそれほど規則規則と言う事もないし、俺の屋敷に勤めるだけあって公爵とメイドが慣れあう事にも全く気にした様子もなかった。二番頭が寛容なおかげか夜の部は比較的いつもゆったりとした時間が流れるようだ。


 「今日みたいに改めてソウタさんのこれまでの話を聞いたりすると、なんだか別世界の人と一緒に居るみたいな気分になりますよね。」

 「シロップちゃん、ソウタさんは別世界の人だったはずよ。」

 シロップとアニエスが今夜の話をしながら衣服を脱ぎ始めた。

 イベントが解散になり、俺たちも部屋に引き上げたのだが、いつものように如月と睦月とシルファが風呂の準備を始め、細かいのが脱ぎ散らかし始めたところから入浴タイムとなる。


 「パパが陛下のところに行った用事は時間が掛かっちゃうの?」

 ユイがアニエスとシロップの出産が近いことを心配しているのだ。なんだか判らないようなクエストに出掛けて、出産のときに側に居られなかったらどうするの?という表情をしてる。

 ユイとしての最大の心配事は、シズが生まれる時にフィアの側にいるんでしょうね?ということだろうが、ユイはそれだけではなくシロップやアニエスの出産にも当然のように心配をしているのは言うまでもないだろう。

 「みんなの心配は良く判るよ。ダイタクヤに居た時にもみんなと話していたセキセンの吸血鬼の話があっただろ?

 その吸血鬼が意外にも頑張るものだから私掠免状が発行されちゃったんだよ。」

 陛下からのクエストの内容を聞いてみんなが「ああ。」と納得の頷きをくれる。

 「手伝いが欲しいなら言って欲しいにゃ。」

 シルファもほとんどの妻たちが妊婦であることからか、手伝いを買って出てくれる。

 もちろん嬉しいには違いが無いが、相手が吸血鬼である以上は強いか弱いかは関係もなく、万が一にも身内に眷属を作ってしまう訳にはいかないのでそこは説明を加えて自重してもらった。

 「そう言う事なら私が行くしかないわね。たとえ吸血鬼に噛まれたとしても私には吸われる血もないし、眷属になる心配もないし。」

 「そうなのか?」

 如月が風呂の準備が整って戻るなりに自己申告してくれた。

 それに驚きつつも疑問形で尋ね返すと「ズイ」っという音が聞こえそうなほどに胸を反らして見せた。

 「ちょっと!」

 グラマラス且つ、若い肉体をこれ見よがしに主張されると条件反射的に如月のオムネを蹂躙してしまうのも仕方のない事だと思う。

 フィアもアニエスもシロップも娘たちと一緒に風呂の準備を終えて、一糸まとわない姿になっていたのだが、如月だけは脱ぎ始めたところで今の状態になっていたので、とても煽情的とも言える状態だったんだよ。

 上半身がブラだけで、下半身には脱げかけて引っかかっているワンピースがもどかしそうなうえに、腰の左右に結ばれた紐パンの蝶々結びが解いてほしそうに揺れていたんだもの。

 それでも叱るでもなく身を守ろうとする如月は、とても可愛かったと断言しておこう。


 アマーリエ様はすでに臨月を迎えていらっしゃって、いつ陣痛が始まってもおかしくない頃だ。アニエスにしてもシロップにしてもそれはそう変わらずに、遅れても一週間とないかもしれない。

 そんな見立てで、吸血鬼の討伐に割ける時間はいいところが4~5日ほどと話し合って決めた。

 意外にもその期日を切ってきたのがユイとシルファで、それ以上は待てないはずだと言うのだ。何を根拠にそう言うのかは本人たちにも良く判っていないようなのだが、所謂「虫の報せ」的なモノなのだろう。

 それが魔法によるものだとすれば、それはそれで将来が楽しみになろうと言うモノだ。

 そんなことを二人に告げると、シルファとユイは互いを見つめ合って「楽しみだね。」と頷き合っている。

 二人の感性がそう言うのであれば、それぞれに魔法の素養が芽生え始めているのかもしれないじゃないか。

 俺の遺伝子が受け継がれ…シルファは実子じゃなかったんだ。であれば、俺の遺伝子が伝染していてくれるのだろう。

 とにかく明日から5日以内に討伐を完了させればいいだけだ。

 風呂から上がり、全員が寝る準備を済ませてもシルファとユイは将来魔法が使えるようになったらの話をずっと続けていた。

 俺は将来と言わず、今夜も如月を剥いて深く愛し合っていたのだが、その横で子供たちが将来を語り合うというのも、情操教育に悪影響がない事だけを祈りたい。


 明けて翌日はセキセンへの出発の準備で朝から大忙しだった。

 情報収集は屋敷のメイドさんたちが方々ほうぼうへと使いに走ってくれたおかげで多くの成果を持ち帰ってくれている。

 我が家の者ならばと、どの貴族様もこぞって協力をしてくれているそうだ。中には貴族様本人から情報を入手するような強者つわものもいるらしく、どれだけの信頼を築いてきてくれているのかと感謝に堪えないよね。

 いわく、世界に10年ぶりに復活した真祖らしいこと。

 曰く、40代までの女性を手当たり次第に食い散らかしていること。

 曰く、相当数の女性に対し眷属化を行っていること。

 などの既知の情報の他にも。

 ランクSA相当で、レベルは36にもなること。

 外見上は年若いなりをしており、10代の青年に見えること。

 理知的で理性的な行動の反面、夜の行動は非常に大胆で、家屋侵入も当たり前に行うらしく、毎夜に被害者が出ているようだ。

 噂では現在の肉体の元になっているのは迷い人の可能性があるらしいとの話もあった。

 ランクにしてもレベルにしても俺には及ばない所為せいか、情報を集めたメイドさんたちもそれほど危機感は抱いていないようだが、普通の冒険者であればどれだけの手練れであろうとも敵うような相手ではないんだがな。

 午前中の早い時間にはそんな情報が揃い、俺と如月は一番懐かしい馬車に白い夫婦をつないで出発したのだった。

 ウィングと旦那の子もまだ小さいしな。


 「如月、弥生と卯月は大丈夫かな。」

 いつか通った道をもう一度なぞるように俺たちの馬車は急ぐ。

 如月はフィアやシルファが居るんだから考慮する必要はないと、全く心配しようともしていない。

 クマタニを大急ぎで通過し、軽井沢まで一日で踏破した。最初はレネゲイドで飛んで移動するつもりだったのだが、なぜかフィアに止められた。

 「一足飛びに飛ぶのはやめた方がいいと思います。自分でも何故だかは判りませんが、そうして多少なりとも魔力を消費した状態で吸血鬼と見えることが、良くないことだと思えるのです。

 ソウタさんの実力をもってすれば戦闘になるとしても一日とかかることは無いと思いますし、馬車で魔力を保護しながら敵対した方がいいと思います。

 仮に時間がかかったとしても、馬車はダイタクヤで預かってもらえますし、そこからレネゲイドさんで飛んできても半刻とかからないでしょう?」

 フィアの根拠はないものの魔力は使わずに行きなさいと言う意見には、不思議と俺でさえも従っておく方が良いような気がしたのだ。

 ユイやシルファに未来予知のような魔法が目覚めつつあるように、フィアにも第六感のような新しい知覚が目覚め始めているのかもしれないと思わせられた。

 そうした理由もあって、こうして馬車の旅をしているのだが、馬車となれば一日でセキセンにまで届くのは不可能だ。随分急ぎ旅ではあるが、工程の二分の一を消化したところで野宿となった。

 ここ最近はご無沙汰だったが、繰り返し経験してきた野宿だけに如月も俺も夕食の準備にも手間取ることもなく、簡単な食事を済ませて周囲の状況の確認しやすい場所に馬車を泊め、ベットへと潜り込んだのだ。

 「あなたはいつも楽しそうにしているのね。」

 布団の中で俺の腕に小さな頭を乗せて、向かい合って言葉を交わす如月はとてもレアだ。

 いつもはその小柄な体格を生かして俺の頭を抱き込むように眠るのだが、今夜は他に妻もいないことから俺の腕枕を独占している。

 これから如月を味わおうと言う時にこんな風に切り出してきたんだよ。

 「どういう意味だい。俺はお前たちが居てくれるお蔭で確かにいつも楽しいよ。子供たちはまだ小さいから如月たちが面倒を見てくれるお蔭もあるし、みんないい子に育っているから毎日が楽しいのは間違いがないよ。」

 俺の背中と敷布団の間に片手を通し、もう一方の腕を俺の胸に回して小さな如月が俺を抱きしめるようにして距離を縮める。

 「そうね。あなたと出会ってからのこれまでの時間、みんなと仲良くなれて子供たちを授かり、あなたに可愛がってもらって確かに幸せだった。」

 懐かしむように言うなんてどういう考えがあるんだ?

 「私ね、あなたと出会ってからと言うもの、これまでの1000年を思い出さない日が本当に多くなったの。それは幸せなことだって実感もあるし、これからもっと長い時間を共に過ごせるんだもの、昔のことなんてきっとどうでもよくなるでしょうね。

 でも、時々思うのよ。これが夢だったらどうしようって。」

 他のラノベだったらこれがフラグってやつかもしれないが、如月は俺とフィアのお蔭で「不滅」をその身体に得ているし、もともと寿命なんてあってなきがごとしのこの子にはそんなフラグも多分意味を成さないだろう。

 それでもそう言う事を言い出すこと自体が少しの不安を掻き立てるのだ。

 如月の頭を腕に乗せたまま、抱き寄せるようにしてその身を俺の腕の中に包み隠してみる。

 満足そうな笑みを見せてくれ、如月はもう一度俺を強く抱きしめてくれた。

 互いの顔を正面にして、如月の表情を探りながらその薄紅色の唇に俺のそれを重ねた。

 群青の瞳は閉じられてしまったが、如月は不安を感じているのではなく、今の時間を慈しみ、これからの時間に思いを馳せているのだと聞かせてくれた。

 「だって、あなたなんだもの。あなたがどうこうなるなんて思ってもみないわよ。」

 小さな声で存外に失礼なことを言う如月の夜着を肌蹴はだけさせていった。

 その身体を感じると、如月も気持ちが昂ってくるようで、吐息に艶が混じり身悶えする様がとても愛おしかった。

 しっかりと如月を愛して、休んでしまった如月を腕の中に抱きながら俺も明日に備えて休むことにした。

 馬車の側にはレネゲイドも居てくれるので、じっくりと熟睡することができるだろう。


 翌朝、日が上る直前に目が開いた俺はレネゲイドに一晩のことを尋ねたのだが、全く異常のない夜だったと告げる。

 レネゲイドの魔力残量を見ると、随分と減っており、バニシングライフルを使ったことは明白だ。

 それを告げるも、レネゲイドは「朝食にどうぞ。」としか言わなかった。

 レネゲイドと禅問答のような事をしているうちに如月の目も開き、布団から出て着替えをするころには表に横たわっているヒグマが見えた。

 全然気が付かなかったとレネゲイドに言うと、出力を調整するとサイレンサーのような機能を使えるのだと言う。

 俺自身は知らない機能だったのだが、普段使うバニシングライフルが異常事態の時ばかりなので、当然全力射撃の一択しかなくて静かに射撃する機会もなかったから仕方がないのだろう。

 如月も驚きはしたものの、朝食の準備に取り掛かってくれ、野菜のスープを作る下ごしらえをしている。

 俺はせっかくのレネゲイドのプレゼントを使わない手はないと日も登り切らないうちから解体作業に精を出すことになった。ヒグマは体高がゆうに2m近くもあり、大きな個体だったのだが、綺麗に額を撃ち抜かれた上に首を引きちぎられていた。

 ソニックソードを使わずに血抜きのために首をもぎ取ってしまったらしい。

 若干バイオレンスな狩りではあるが、レネゲイドなりに一晩を楽しんだのだろう。

 立派な獲物に礼を告げると、嬉しそうに次元断層に帰っていったのだ。優秀なボディーガードのマタギとしての才能が開花したようで如月と笑いあってしまった。

 ヒグマは立派なスープの具材となり、炙ってから煮込んだことで脂が気にならないすっきりとした味わいを楽しめた。


 朝食の際に併せて作っておいた熊肉のローストを挟んだサンドウィッチを馬車を走らせたままで昼時に口に入れ、夕方にはトサンを過ぎる所まで来ることができた。

 セキセンの国境を越えたところですっかりと日も暮れたのだが、どうせならと吸血鬼の居るスーズの街まで一息にやって来たのだった。

 潮の臭いの強い海岸線をひたすらに北上し、暗闇の中を走り抜けたが、俺にとっては昼も同じように夜道が見えるので、馬たちも不安なく走ることができたらしい。

 町はずれにキャンプを設営して簡単に夕食を済ませたころには夜の9時ごろにはなったのではないだろうか。

 しかし、吸血鬼に怯える町の人達には今夜も心安らかに眠るわけにはいかない雰囲気が漂っており、どの家にも明るく灯りがともされていた。

 吸血鬼が様々な物を忌み嫌うと迷信めいた話もあるが、この世界の吸血鬼はニンニクも十字架も銀の杭でさえも恐れることはしない。

 例え聖水を浴びせられても火傷するでもなくハンカチで拭ってから報復をするだろう。

 基本的には魔術か体術、剣技などで捻じ伏せるしかない魔物なのだ。

 代りに眷属も魔素さえ綺麗に抜ければ解放される可能性もあり、力のある者の努力が報われる余地も残されてはいる。

 俺の闇魔法のマナドレインが有効ならば、眷属にされた女性たちも救う事が出来るかもしれないが、先ずはこれ以上犠牲者を増やさないことが大事だろう。

 如月も既に剣の姿に変わっており、確かにこれならば吸血されることは無いな。

 そんな話を如月と交わしながら村長むらおさの屋敷を尋ねる。

 まだ遅くはないだろうと玄関を叩くと、屋敷の中が軽いパニックになったようで表からでもバタバタと騒ぐ物音が聞こえてきた。

 〔あなたが吸血鬼だと思われているのよきっと。〕

 何を楽しそうに言っているのやら。

 「吸血鬼を討伐に来た者ですが、よろしいでしょうか?」

 玄関から大きな声を掛けたのだが、反応が無い。

 居留守を決め込むように人の気配はするものの、物音をさせないように息を潜めているような感じがする。

 「親王陛下の依頼を受け、トウトから来ましたソウタ=ヤマノベと申します。」

 再び大きな物音が屋敷の中から聞こえて、今度は玄関先まで走り寄るような大きな物音が近づいてくる。

 「あの・・ヤマノベ公爵様でいらっしゃいますか?」

 「あの」が何を指すのかは判らないが、丁寧な物言いの割には玄関を開こうとしないのは用心の良い事だと思う。でも覗き窓ぐらい開いてくれたっていいじゃないかと思わざるを得ない。

 「覗き窓を開けると蝙蝠になって入ってきたりしませんよね?」

 お!?俺の心が読める人なのか?

 そんな感想を持つものの、こんなやり取りをしているうちに被害者が出ないとも限らない。

 「大丈夫です。私掠免状を差し入れますので確かめてくださいますか。」

 告げた内容の通りに覗き窓の隙間から箔押しの入った三つ折りの書状をどうにか押し込んだ。

 僅かの時間でかんぬきが外され、明けられた玄関扉から白髪の老人が飛び出し、玄関先にひれ伏してしまった。

 「公爵様を疑うような所業、どうか平にお許しください。」

 傍から見てわかるほどに震えている爺様に思うところもないので、さっさと立ってもらった。

 「特に気分を害してはいませんよ、気にしないでください。それよりもこれから町に入って吸血鬼を探しますので、遭遇した際には戦闘になるときもあります。

 予めお断りさせていただこうとこうして立ち寄った訳です。

 騒ぎになった時には積極的に町の皆さんをお世話して差し上げてくださいね。」

 あと、私掠免状の特記事項として、戦闘中に起こった破壊や二次災害は国が費用補償をするが、それ以外の引責事項がない事や俺たちの活動に最大の便宜を提供しなければならないことなどについても説明する。

 俺が要求したのは町はずれにキャンプを設営する許可と、食材を買う許可を貰う事だけだった。

 食材などいくらでも提供すると言ってはくれたのだが、俺は珍しい物や興味のあるモノを大量に買うかもしれないので、代価を必ず受け取るように周知させた。

 あまりに自分たちにメリットが大きすぎると言ってはくれたのだが、陛下からのクエスト報酬も安くはないので心配はいらないとだけ言っておいた。


 町を巡回し一刻が過ぎたが、未だ吸血鬼の気配はない。

 それでも時々頭上を舞う蝙蝠を気配察知でとらえているので、向こうも警戒はしているのだろう。

 俺の実力を自分で計り、どうするのか決まればアクションはあるのだろうと蝙蝠が飛び交っていてもあえて無視するようにし、街をぶらぶらと彷徨うように歩いてみている。

 いくつかの家屋から外を伺い見るような気配があるが、危ないからとそれぞれの家に注意を促して回る。

 吸血鬼に対抗する武力だと認識してくれているようで、励ましの声をくれる者も居たが、とにかく中に入っているようにと忠告するしかない。

 ある家ではご老人が玄関先に現れ、提灯のような灯りを持たせてくれた。危ないからと聞かせたのだが、男のそれもこんな年寄りは襲われはしないとうそぶいて見せ、蒸かしたばかりのあったかい芋を握らせてくれた。

 礼を言い立ち去るが、他にもそんな家があり意外にも期待されていることを知ることができた。

 それからもう半刻は過ぎている。町の外周はもう歩きつくし、広大な範囲を気配察知で探ってはいるが、今のところは蝙蝠以外に接触を図る者も居ない。

 南北と北東に細長い町ではあるが、中央にはそれなりの公園もあるし、井戸などの生活インフラもあるのでそこへ足を向け、長丁場を覚悟しながら気配察知を続けることにした。

 頭の中に浮かぶレーダー画面にずっと3匹の蝙蝠が映っており、そのうちの1匹がそれなりに強い魔力を持っている。

 あれが真祖だとしたら。そう意識を向けながら監視を続けていたのだが、真北の方角からもう1匹飛来する。

 北西の方から2匹追加されて飛来するようだ。

 合計6匹の蝙蝠が遠巻きに上空から様子を窺い見ているようだが、近づく気配はないらしい。

 それぞれに特徴的な魔力を放出しているものの、魔法を放出しているのとは違うようだ。

 「随分慎重な吸血鬼だよな。」

 〔強者は強者を知ると言ったところかしらね。〕

 俺が事前に情報を仕入れたように、吸血鬼は今現在情報収集の最中なのかもしれない。

 如月はそんな意見を聞かせてくれる。

 それが正しかったかは判らないが、レーダーの索敵範囲内に四方から数匹ずつの群れが集まりだし、随分と大きな群れになりつつある。

 〔そろそろ何か仕掛けてきそうね。〕

 如月の忠告に頷きを返し、鞘から如月を抜き、構えを取る。ゆっくりとブーストを掛けるように如月に魔力を充填し始め、薄紫の燐光が如月の刀身を薄く包み込むように纏いつく。

 それだけでも暗い町の中では派手な目標となるのか、東側の海沿いから低高度を侵入してきた蝙蝠6匹がいよいよ俺たちに襲い掛かってきた。

 蝙蝠から浴びせられるミリ波に俺は顔をしかめ、後方から迫る敵機にミサイルの照準を定められるときのような警告音が頭の中で鳴り響く。

 北を向く俺の右手方向からやってきた蝙蝠は、纏わりつくように俺に襲い掛かろうとしたようだが、俺の気配察知はレーダー波を出していないらしく、それでも的確に敵の様子を知らせてくれ、紫色の残光が舞うと切り裂かれた蝙蝠が辺りに落下していった。

 もちろんこんな攻撃は吸血鬼にしても小手調べくらいのモノだろうし、本気の攻撃であるはずがない。

 俺たちはそう思うからこそ油断なく周囲を探知しているし、向こうのミリ波から接近を確実にとらえていた。

 5~6匹ごとの奇襲部隊の編隊が襲い、それが数度と切り払われるとそれ以上の追撃は無い。俺が切って足元に落ちた蝙蝠も俺のファイヤーボールやファイヤーアローで丁寧に焼かれており、だまし討ちがないように気を付けているつもりだ。

 そんな中を最初の6匹が群れをかき分けるようにゆっくりと近づいて来て、俺たちの正面に対峙した。

 だが、そのまま攻撃を加えようという雰囲気ではなく、それぞれが胴と両手両足に頭の位置にまとまる。

 「其の方は随分と油断のならない実力者のようではあるが、この私を狩る者か?」

 蝙蝠に化けていたのかそれぞれのパーツとして集まった蝙蝠はいきなり口を利いて来て、真っ黒のタキシードとシルクハットに長尺のマントをひらめかせる吸血鬼の姿を現し、地面に降り立って見せた。

 俺の正面、10mほどの距離に立つその男は俺より少し身長が高く、長身痩躯と言うのにふさわしい姿だ。

 顔は若いとは聞いていたが、それでも聞いていたような10代には見えない。

 まぁ、俺よりは若そうではあるが。

 「ソウタ=ヤマノベと言う。陛下より真祖の討伐を受けたのでこうしてこの地を訪ねている。あなたが真祖で間違いはないのかな?」

 「うむ。問われれば答えを返す必要があろうな。私はフリッツ=ハールマン伯爵である。この体で何度目の転生であるかはもう記憶にもないが、今しばらくは楽しませてもらおうと思っておるのだよ。」

 何を言ってくれてるんだ?こっちとしては楽しくないので、速やかに退場願おうと思っているというのに。

 「聞いたことにさえ答えてくれたらいいんだ。そこで確かめたいんだが、殺してもまた再生してしまうのかな。」

 「随分と不遜な生き物のようであるな。私とて真祖を名乗ることを許される身である故に人ごときに殺されるようには出来てはおらん。」

 う~ん、会話が難しい相手なのかな。

 「判ったから。それで殺してもまた出てくるのか?」

 「私を虫けらの様に言ってくれるな。私が亡ぶなどと考えることは止めておいた方がいい。」

 死んだらそれで終いであれば、切り捨ててそれまでなんだが、また出てこられるなら次元断層の肥やしにする必要がある。後始末の方法を知りたかったのだが、どちらだとしても次元断層行きだな。

 「じゃぁ、取り敢えず死んでくれるとありがたい。」

 俺はそう言いつつ、一歩を踏み出す。

 「人間風情がどこまでやれるか試すがいい。」

 蹴り足に力を一瞬籠め、吸血鬼の目の前に飛び込んでやるとその表情が一変し、驚愕を浮かべる。だが、遅いな。

 吸血鬼が反応するよりも早く、瞬間的に魔力が増大した如月が唸りを上げて大気もろともに吸血鬼を切って捨てた。

 長丁場を覚悟したものの、あっけなく袈裟懸けに切り払われた吸血鬼は青白い燐光に包まれて燃えるように消えてしまった。

 その燃え尽きる様子を確認していると後ろに気配があり、今度はこちらが驚く番となった。

 「なかなかやるようであるな。今度はこちらから参る。」


 うそ!?

ソウタの許された時間は短い。アニエスとシロップの出産に間に合わせることができるのか!?

さて、次回分を書き始めようかな。

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