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Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
次段の成長の章
122/161

【第121話】真祖

読みに来てくださって、ありがとうございます。

新しいトラブルの発生です。

 「ソウタさん、セキセンに吸血鬼が出ているという話を聞きましたか?」

 シルファとユイに付き添われて、大きなお腹を大事そうに守りながらフィアが作業部屋へとやって来た。

 特に慌てたという雰囲気ではないが、表情は少し深刻そうにしている。

 作業机の上を簡単に片づけてフィアを座らせるために椅子を引いてやる。

 フィアはその椅子に腰かけ、ユイを隣の椅子に座るように促していた。

 俺はシルファに紅茶を四つ頼み、シルファが帰って来てから座る場所の方も片づけた。

 今は断層の変化を察知するためのセンサーをこっちに来てからも量産している最中だったので、工具類や作りかけのパーツがあって子供たちには危ないと判断したからなんだが、ユイもテキパキと魔石や小さな部品を丁寧に片付けてくれている。

 「ユイ、色々とできるようになったんだな。」

 「へへへ、できてる?」

 フィアも照れるユイの頭を撫で、目を細めて自分の娘の成長を喜んでいるようだ。

 「吸血鬼の話は子爵から聞いてるよ。ノートの方だって言うから半島の突端の方なんじゃないかな。」

 セキセンは南北に長い領地で、遥か昔にはトサンも含めてエチゼンからエッチュウまでをセキセンと呼んだそうだが、その当時はトサンにある二本の一級河川が事あるごとに氾濫を繰り返し、流域に多大な被害を及ぼしていたという事だ。

 治水技術が未発達な頃だったから、そのたびに多大な復興予算を消費し、財政が傾くほどだったらしい。これに耐えかねたセキセンの領主は今のトサンに当たる領域を切り離して無理矢理に独立させたと言う。

 トサンの領主にならされた侯爵様は血のにじむような苦労を背負わされたことだろう。

 暴れ川の流域を手放した結果、セキセンはノート半島からフセイまでの南北に長い領地となったと聞いている。

 北の海に大きくせり出しているノート半島にも多くの集落や町があり、漁業と酪農が有名な産業となっている。

 「そうです。半島の随分先の方にトサン湾側にスーズと言う町があって、そこに吸血鬼が棲みついているらしいと聞きました。

 村の女性たちに相当に被害が出ているらしくてですね、何人かの眷属化が確認されているそうですよ。」

 「女性?被害は女の人ばかりなのか?」

 フィアが仕入れてきた話では40代までの女性が被害に遭っているそうだが、未婚既婚は関係ないらしく、とにかく女性だけが狙われているそうだ。

 そしてそのうちの何人かは吸血鬼化しており、更に被害者が増えるのではないかと町が戦々恐々としているらしい。

 「俺たちに討伐依頼が来ているとか、そう言う話なのか?」

 「ソウタさんに直接依頼するような動きは無いようですが、トサンでも警戒態勢に入っており、国境が閉鎖されていると聞きました。

 かなり厳重な防疫処置も取られていると聞いてきましたし、出る方はそうでもないのですが、トサンに入るにはかなりの時間がかかるそうです。

 関所に長い列ができているそうですから、他から来られた人たちにもいい迷惑かもしれませんね。」

 ワゴンに紅茶のセットを乗せたシルファが戻って来て、俺から順にカップに注いでくれている。

 最後に自分の分を用意して席に掛けてくれた。

 「パパがちょっと行って来たらすぐに片付くんじゃないかにゃ?」

 「うん。パパならきっと簡単だよ!」

 そりゃ吸血鬼程度の相手に後れを取るとは思えはしないが、アニエスやシロップがもうすぐ出産になる。

 ヨランダとヘッセン子爵が結婚式を済ませ、新婚旅行から戻りもうふた月が過ぎている。秋の気配も深くなり、ダイタクヤが海抜も高いことからトサンの中では真っ先に秋に突入しているようだ。

 陛下に自分の後を頼まれてからトウトを逃げ出してすでに半年が過ぎようとしていることになる。ここに来てから一度もトウトからは連絡が無い。

 トウトの屋敷には週に一度は顔を出しているのでアンニさんのその後の様子についても把握しているし心配はしていないが、彼女が出産する前にはみんな戻らないといけないだろう。

 託児所を建設してくれたダイタクヤのエキスパートたちも仕事を済ませてこちらに戻っているし、お妃様のお子ももうすぐ産まれるはずだ。

 そうなれば否でも向こうに居なければならないだろう。そう思うとそろそろ答えを出すタイムリミットが来ているように思うのだが、俺の中ではまだその答えが出ていないのだ。

 出来る出来ないという事に関していえば、面倒だが出来るだろうと思っている。

 ただ、心情的にこの世界の者でもない俺がこの世界の一つの国とは言え数多あまた暮らす人たちの頂点を任されるという事が本当にいいのか?だけ、答えを出せないでいるのだ。

 それを言うとアニエスもシロップも「もう、このダイタクヤを面倒見ているじゃないですか。トサンだって、クノエだって。エイゾにしてもギーフにしてもソウタさんを頼りにしています。」と、片足を突っ込んだんだから最後まで面倒を見てあげればいい。そんな風に言うのだ。

 シロップのヒマワリのような笑顔で言われると危うく「うん。」と素直に返事をしそうになるのが怖いし、アニエスに右腕を抱え込まれてお願いされるとそのフヨフヨとした感触に我を忘れて「いいよ。」と口が滑りそうになるのだ。

 如月はこれからずっと一緒に居られることが判ってから肩の力が抜け、いい意味で角が取れたようになった。あまりこうしたことに口を挟まなくなったし、あえて聞いても「好きにするのが一番よ。」と俺に判断を委ねようとする。

 今の今まで目的を持って行動してきたわけでもないし、功績を称えてもらえるのは嬉しいが、そのほとんどは成り行きであって、なし崩し的に巻き込まれただけのようなモノだ。

 内政チートをして国を手中に収めるとか、圧倒的な武力を生かして神やドラゴンを相手取って無双するとかしたいわけじゃなかったし、自分から飛び込んだ世界でもなかったから「この世界を守るんだ!」的な気持ちもない。

 フィアと出会ってしまったから、その身を抱きしめてしまったからこの子だけは守らなければならないと思ってきた。フィアにしたら俺に近づいてきた理由は俺が必要だったからではないのだろうが、出会いはそんなものだろうと思うよ。

 その後には俺にはフィアが必要で、フィアにも俺が必要なそんな間柄になれたんだ。

 お互いを必要な相手だと認め合ったからこそ契約も結べたし、その時点でもやはりフィアさえ守れればそれで良かったんだよ。

 今となってはそんなことも言ってられないほどに家族ができたし、彼女たちを守るのにすでに何の理由もいらないと思う。

 俺の生きる意味がフィアであり、シロップであってアニエスで、如月なんだと思う。

 それぞれとの愛の結晶も俺にとってはすでにかけがえのない大事な者たちだ。そうして少しずつ増えた大事なモノは俺がそうしたいと思ったからこそ苦労しても努力しても面倒とは思わないし、身に染みて幸せだと感じることができる。

 ああ!と思う。そう、目的が無いんだよ。

 親王陛下と言うお仕事に就いて何をするのか、何をしたいのか想像がつかないからきっと陛下に返事が出来ないのだろう。

 フィアを守る。シルファを娘にしたい。ユイのお婿さんはしっかり者だろうか。如月とずっと一緒に居たい。

 そんな単純で簡単な形ある目的が無いから考えられないんじゃないかな?

 「俺はさ、フィアと出会ってからずっとフィアと一緒に居たいと思ってる。」

 「はい。私もソウタさんとずっと一緒に居られることが幸せです。でもそれが?」

 吸血鬼の話と何ら関係もない言葉が口を突いて出る。

 フィアは言われたことに素直に返事をしたようだが、ずっと黙っていた俺が口を開いて言った事が良く判っていないようで聞き返してきた。

 「シルファの髪を最初に撫でた時に俺が守りたいと思った。」

 「パパに出会ってからずっと幸せにゃ。」

 「ユイのお婿さんになるテオバルト様はユイを幸せにしてくれるよな。」

 「ユイにはまだ分かんない。でも、テオはとても仲良しだよ。」

 一人一人の顔を見ながら目を合わせながら自分の思っていることを口にする。

 皆がそれに答えをくれて、俺の目的が達せられているかを聞かせてくれる。

 今のところはみんなに満点を貰えているようだ。

 「そんなね、目に見えるような目的があって、それを自分ができているかこうして聞いてみてその答えを知りたいんだよ。

 シロップが、アニエスが、如月が俺に対して満足してくれているか。シルファが、ユイが、睦月が、カーリオが、クレイオがね、俺をパパと言ってくれて慕ってくれていて、幸せでいてくれるかみんなの顔を見て知りたいんだよ。

 弥生も卯月もすぐに大きくなるよ。その時に俺のところに来てくれてよかったって言ってもらえるかがとても大事なんだ。」

 フィアは俺の言葉をじっと聞いてくれている。

 聖母の様な笑みを浮かべているところを見れば、フィアにとって俺は良い旦那をできているのだろうか。

 「この国を守ると言って、それを誰に確かめたらいいのか判らないんだ。だから陛下にもお返事を差し上げられないんじゃないかと思うよ。」

 そんなことかとフィアは小さな嘆息をつき、ユイのだいぶ長くなった髪を撫でながら口を開いた。

 「ソウタさん。私たちがこうして居られるそのほとんどはまるで奇跡のようなモノです。その奇跡を現実のものにしてくださったのはソウタさんで、他の誰でもありません。

 15歳の誕生日にこの体が性質を変え、どれだけ不安だったと思いますか?見知らぬ男性に声を掛けて抱いてもらうという恐怖にどれだけの勇気が必要だったと思いますか?

 お父さんやお母さんのように自分が子を成すなどと思いもしないような出来事をくださった。

 その全てがソウタさんに分けていただいたモノばかりです。

 そしてそのどれもが私にとって絶対にやり直しのできない幸運ばかりでした。不安に怯えながらソウタさんに声を掛けた時、ソウタさんはなかなか首を縦に振ってはくださいませんでしたね。

 私を初めて抱いてくださったときの優しさも忘れてはいません。恥ずかしくて、怖くて、でも仕方なくて本当はサキュバスになんて生まれてこなければよかったと。

 死んでしまえば今度は普通に生きられるのではないかとそんな気持ちでいたんです。でも、ソウタさんは私がサキュバスで良かったとそう思わずにはいられないほどに大事にしてくれました。

 だったら、誰かの治める世界で私たちを幸せにするのではなく、ソウタさんの治める世界で大事にして欲しいと思います。

 ソウタさんの意志で、ソウタさんの気持ちで動いている神国に暮らしたいと思います。」

 ゆっくりと、余り抑揚のない口調でフィアが俺に言葉を贈る。

 俺と出会ったフィアが俺と家庭を築いてきたこれまでは、テオバルト様が統治する世界であって、それが平和な世界だったから俺たちが好きにできたのだと。

 これからの幸せのためには俺自身が作る世界で有って欲しいとフィアが言っているのだろう。

 それがこれまでのように、良い物であればユイやシルファにとって安心できる世界になると。

 そんな大それたことなのだろうかとも思ったものだし、ゲオルク皇太子の治世で世の中が乱れるとも思えない。俺たちがユイを支えて行く限りは。

 フィアにとっては例えそうであったとしてもユイがゲオルク様と共に苦労するよりは、俺の直接の庇護のもとに有って欲しいと思うのだろう。ユイはフィアと俺の大切な娘だから。

 そう思うと、ふと、腑に落ちてしまった。

 「フィアはすごいな。」

 「はい。ソウタさんの最初の妻ですから。」

 憑き物が落ちたように気持ちが軽くなった。何に悩んでいたのか判らなくなるほどに。

 「そろそろトウトに戻るよ。アニエスとシロップの子供が生まれる前にアマーリエ様にお子が産まれる。生まれたばかりのお子様には手がかかるだろうし、そうなればゲオルク様のお相手はユイにしかできないよ。

 何といってもゲオルク様はユイのことが大好きだからな。」

 「ほ、本当?ゲオはユイのことが好きなの!?」

 「ああ、本当だ。ユイがアマーリエ様をお助けするんだよ。ゲオルク様がしっかりとしていらっしゃれば陛下もアマーリエ様も生まれたばかりのお子に構っていられるし、ゲオルク様にはユイが居ると判れば寂しくならないだろうから、きっとしっかりとしてくださるよ。」

 ユイは自分の帯びた重要な任務に「フンス」と鼻息も荒く、大きな頷きをして見せた。

 それを見てフィアも俺もおかしくて笑い出してしまったのだが、シルファも肩に力の入ったユイがおかしいとばかりに一緒に笑ってくれたのだ。


 「いい顔になったじゃない。惚れ直したわ。」

 そう、如月に及第点を貰ってから、数日のうちにトウトへの帰り支度を始めた。

 頭の片隅には吸血鬼騒ぎもあったのだが、俺の優先順位はいつだって間違ったりしない。いまは臨月間近の三人の嫁たちを設備の整ったトウトの屋敷に連れ帰ることが一番重要な仕事だ。

 馬車の中に暖魔石と座り疲れない様な特注の椅子を三脚運び込ませ、野宿はナシで余裕のある旅程をこなした。

 それでも六日間の旅で何事もなくトウトへと帰還を果たしたのだった。

 次の日からはもう一度、俺だけがダイタクヤへと戻り、トサンのお父様や伯爵、ギーフのダラゴナ侯爵家などへも挨拶に出向いて、これからもよろしくと言葉を交わした。

 ヨランダは侯爵家から子爵家へと降嫁したようなものだが、気の合う旦那と獣人たちに囲まれてにぎやかにしているようだ。

 夫婦そろってケモナーとか、業が深いと思うよ。

 雇い入れたバステト族の夫婦の子供を我が子のように可愛がっている様子を見ると、ここの家庭にもコウノトリが早く来るような気がするね。


 アンニさんは9か月に入りとんでもなく大きくなったお腹を抱えながらもいつものように屋敷のメイド全てを上手く回している。

 本人の希望もあって、我が家で出産を行うらしい。ユンカーさんと空いている部屋を借りて子育てがひと段落するまで下宿することになっている。

 アマーリエ様とシロップ、アニエスはもう、いつ出産が始まってもおかしくない上に、兵力・・の分散?を避けるためにと来週から他の空いている部屋に下宿されるそうだ。

 これは陛下からも強くお願いされ、二家族が不安ないようにと俺たちの元へと集まってくることで大きな安心を得ているようであった。

 託児所も立派なもので、10脚のベビーベットがいつでも受け入れができるようになっている。母親もストレスなく育児に集中できるようにと来客や他のメイドたちに気を使う必要のない落ち着いた環境になった。

 広大な庭を一望できるような優れた環境に、日当たりと空気の流れを考慮した暮らしやすい工夫が随所に見られる。

 子供や母親が怪我をしない工夫もたくさん盛り込まれ、見るだけで気持ちが温かくなるような育児ルームだ。

 脇には分娩室もあり、ここには集中治療なども行えるだけの設備が整っている。

 新生児や母体に何かあったとしても対応できるだけのものを揃えたつもりだ。それに治癒魔法が無料でいくらでも利用できる訳だから、安心の度合いが違うと思うのだ。

 一般の食堂と隔離された厨房と食事の空間がまた見事で、母親がおっぱいを飲ませる時に周囲の目を気にする必要もない。調理設備も独立しているので免疫力の低い子供が外からの感染に気を使う必要も少なくなるのだ。この近くの全ての廊下と手すりや取っ手など手に触れる全ての場所が常時発動の聖魔法で守られているので、これも安心感を底上げしているだろう。


 トウトの色々な準備も整い、もう誰が産気づいても大丈夫という態勢が出来上がった。

 そんな折も折、陛下からクエストが発行され、グリムリーパーのデスサイズが箔押しされた私掠免状が久しぶりに俺の手に乗ることになった。

 「この忙しい時期にすまないな。久しぶりにこっちに戻って来てくれた側から申し訳ないのだが、一つ頼まれてはくれまいか。」

 手元の私掠免状には「セキセンに棲まう吸血鬼を討ち、眷属を鎮めること。」とある。ダイタクヤに居たころに耳にした吸血鬼がその後も自重せずに活動していたのだろう。

 領軍では歯が立たず、国軍では周りの被害が大きすぎるという事で俺にお鉢が回ってきたようだ。

 「陛下、吸血鬼については私も聞いています。しかし、私掠免状が必要なほどに特別なモノなのですか?」

 「ああ、10年ぶりに真祖が誕生したようなのだ。真祖については公爵はご存知かな。」

 そう尋ねられたが、吸血鬼とその真祖との違いは俺には判らない。本来の意味での真祖はもっとも古くから存在する吸血鬼で、他の吸血鬼よりも歳を重ね、より強力な身体能力を有しており、深い知識を持つ歴史ある吸血鬼を真祖と言ったと思う。

 だが、10年ぶりに現れたという真祖は極若い個体だそうだし、能力的な違いでもあるのだろうか。

 疑問を表情に浮かべていると陛下が近くに控えている男性を呼ぶ。

 「この者はミル=ハインドと言うトウト北部に支配領域を持つ吸血鬼でな。人格者であるがゆえに支配領域をよく守り、男爵としての仕事についても高く評価しておるのだよ。

 それにな、むやみな吸血による被害を出すこともなく、人を妻として娶って仲睦まじく暮らしておることも有名な話なのだよ。」

 人と共生関係にある吸血鬼と言うのか。見るからには吸血鬼に見えないこの男性は、肌艶も良く物腰の穏やかな中年のおじさんと言った容姿を持っている。

 「ヤマノベ公爵様、お初にお目にかかります。ハインド家24代目当主のミルと申します。以後、よろしくお願い申し上げます。」

 臣下の礼も実に洗練されており、ひとかどの貴族として認められそうである。

 「ソウタ=ヤマノベです。初めましてですね。吸血鬼には知り合いが居りませんで、色々とご教授くださればとても助かります。」

 ミル男爵に握手を求めると、にこやかに応じてくれた。こんな風に接することのできる吸血鬼が居るとは知らなかった。

 陛下から俺に真祖と普通の吸血鬼の違いを聞かせるようにと言葉があり、ミル男爵が俺たちの側に席を移してテーブルを囲むようになる。

 「公爵様、吸血鬼と聞けば血を吸う事と不死の肉体を持つこと、眷属を従える能力を持つことのほかにご存知のことはございますか?」

 「いいえ、大した知識は持ち合わせておりません。人に比べて優れた身体能力を持つと思うのですがいかがでしょう。」

 朗らかな笑みを浮かべ、俺の意見を肯定した。

 「詳しい事は兎も角としまして、特徴的な部分としては仰られる通りです。ただし、真祖はその能力の桁が違います。また、寿命自身はどの吸血鬼もだいたい300年ほどでして、天寿を全うすれば人のように死んで行きます。

 吸血鬼は吸血鬼同士で次代を残すことができませんので伴侶を人に求めることが多くあります。眷属化はその中でも特に気に入った伴侶を自分と同じだけ生きられるようにするために行う儀式のようなモノでして、闇雲にできるモノでもないのです。

 しかしながら真祖は身の回りの世話をさせる者や自分の盾とする者なども眷属化によって揃えることもありますし、いたずらに眷属を増やし大きなファミリアを興して勢力を拡大することもあります。

 そして真祖として最大の特徴はその個人が転生体であることです。」

 「転生体?生まれ変わりと言う事ですか?」

 「ええ、その通りです。生前の記憶を持ったまま幾代も生まれ変わり、より狡猾により強力になって生まれてくる者が真祖と呼ばれます。

 今回、陛下が懸念を示しておられる真祖は特に長い時間を生きてきた吸血鬼でして、フリッツ=ハールマン伯爵と言う名でございます。」

 陛下が後を引き継ぎ、ハールマン伯爵のことを聞かせてくれる。

 出身はイウロペのゲーマニアン北中部。ハノーファーという中堅都市の領地貴族で伯爵位にあったとされている。

 欧州の吸血鬼がなんで神国に居るのかという根本的な謎もあるのだが、吸血鬼になる前は人だったというのが驚きだ。やはり魔族や魔物にもそうなる前の姿があったのだろうか。

 このハールマン伯爵は恵まれた良家に暮らしながら外での遊びなどに呆け、伯爵家の財を喰い潰し、性病に罹患するなど貴族らしからぬ悪童でもあった。幼少期から青年期にそうした曲がった時間を過ごしたせいか、爵位を継ぐ頃には一部からは「狂っている」と言われていたそうだ。

 それが噂ではなくなった時、殺人鬼ハールマンがギロチンによって処刑されたのだった。

 調べによると青年期から通して老若男女をほぼ無差別に快楽殺人の贄とし、48人の尊い命を己の愉悦のためだけに奪っていたことが判ったのだった。

 一部始終を日記に書き留めており、屋敷のいたるところから白骨化した遺体が回収されたというあまりにもオカルトチックな人となりを伝えられた。

 胸の悪くなる思いもするが、処刑された晩に墓の中から自分の首を持ったまま抜け出て、空を覆うばかりの蝙蝠となって行方をくらましたと言う。

 1000年以上も昔のイウロペの話だという事だが、今日こんにちは神国におり、セキセンでいたずらに眷属を作っている。

 「その能力は未知数と言われており、レベルがどれだけあるのかも正確には判っておりません。一説には20ほどのレベルにあるのではないかとか、数十万と言うMPを持っているのではないかと言われているのです。

 ヤマノベ公爵様がどれだけ破天荒な強さをお持ちでも人の限界は越えられないのではないかと推察しますに、充分な兵力と十分な作戦が必要かと思われるのです。」

 真剣なまなざしで忠告してくれるミル男爵には悪いが、それでは俺の半分にも満たないレベルだ。

 判っているという顔の陛下がミル男爵の肩を軽くポンポンと叩き、俺を見る。

 「ミル男爵様、貴重なお話をありがとうございます。かの吸血鬼はレベルが20ですか。私の妻よりも少し弱いくらいなんですね。」

 「は?公爵様は何と仰られましたか?奥様がレベル20?」

 「正確には21です。MPはちょうど900,000ほどだったかな?まだ成長の途中ですからもっと強くなるでしょう。」

 男爵、おくちがあいてますよ?

 「そ、それで公爵様は如何ほどの?」

 「私はレベルが46です。MPはもう表示されなくなってしまいましたので、いまはどれだけあるのか判らないのです。」

 よ?よ・・・って、男爵様のお口がハングアップしてしまった。

 さてと陛下が背筋を伸ばしてまとめに入られた。

 「ヤマノベ公爵にクエストを発行する。セキセンへ向かい吸血鬼の真祖討伐を命ずる。大した敵ではないが油断なく速やかに処理を完了させ、我が妻や公爵の愛妻の出産に間に合うように戻ることを希望する。」

 「は!、謹んで拝命いたします。」


 「よん?・・・ろく!?」


 もういいってば。

吸血鬼には弱点らしい物がたくさん認められているのですが、それでも恐怖の対象だったのですね。

重犯罪者が狼男になったとか、吸血鬼になったとか。

そんな話があるそうです。

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