【第116話】自宅警備
久しぶりにLove Doll更新しまして、こちらを後回しにしておりました。
いつもお読みくださって、ありがとうございます。
また、最近にもブクマしてくださる方がいらっしゃって、嬉しい限りです。
ありがとうございます。
妻たちは子供たちと護衛を引き連れて領地内の商店街などを冷かしに行っている。
シロップとアニエスが妊娠して半年ほど。
フィアは4か月となり、それぞれに運動も兼ねてちっともじっとしていられないようだ。
如月も卯月と弥生をベビーカーに乗せて護衛に押させながら睦月の手を引いて一緒に出掛けて行った。
シルファもフィアの側に寄り添ってついて行ってくれている。
ダイタクヤの領主館にやって来てかれこれ半月ほどになるが、広い領地は見るモノや確かめる場所も多く、妻たちには良い気分転換になっているようだ。
陛下からのトンでもなお願いを聞かされ、フィアや如月が安請け合いはしたものの、俺自身の中では消化できていないことではあるし、内容が内容だけに周囲にも相談できずにトウトから逃げ出したようになっている。
トサンに来てヘッセン子爵にだけは事の重要性を説き、最高機密に当たるこの話の相談に乗ってもらっている。
トサンのダイタクヤも初夏のこの時期は朝晩は清々しいのだが、日中は気温も高くなるし、トサン独特の盆地のような蒸し暑さにすこし参ってしまう。
平野部に比べれば山間を抜ける風が強い地域で、マシだとは思うがそれでも暑い。
メイドの相互交流が続いていることから、こちらに来てもトウトのメイドは必ず2~30人くらいは見かけるし、ダイタクヤのメイドもトウトのメイドと変わりなく俺たちと仲良くしている。
どっちに居ても気分良く過ごせるのだが、神国の親王を任されようとしている自分をどうしたら良いのか判らなくなって、ここに逃げ込んだような形になっている。
都会に疲れて田舎に逃げ帰ったとでも言えばいい。
「私どもの老後の楽しみが増えたのでしょうかね。」
ヘッセン子爵は聞いた当初は信じられないという驚きを現していたが、今ではそのように俺に言うのだ。
俺たちが歳を取っていかないこと。これについては「ご領主は何もかもが規格外ですから。」そう言って、そんなことでは驚きませんよ。と請け合ってくれたのだが、親王陛下のお言葉にはさすがに返す言葉もなかったという。
今も俺は屋敷の南側に造成された季節折々の植物が楽しめる広大な庭の真ん中にテーブルを出してもらい、ヘッセン子爵と二人きりで紅茶を飲むだけの時間を過ごしている。
子爵は領地の運営に忙しいはずにも拘らず、俺がこちらに来てからほとんどの時間を俺の側で過ごしてくれている。
胸のモヤモヤを吐露するにはこの年上の子爵はとてもありがたい家臣と言え、無茶も無謀も全部受け止めてくれる、今となっては最重要ポストを任せられる人生の先輩であり、全幅の信頼を寄せていると言ってもいい存在になっている。
「俺はこの世界に迷い込んでから、どうやって生きていったらいいのか判らないままに無茶ばかり通してきたように思うんだよ。
向こうの世界で知り得た知識はこちらでも十分に役には立っているけどさ、この世界で生まれ育ってきた人たちと同じことを考えられるわけでもないし、そんな俺がこの国を背負うなんて無責任にしか思えないんだよ。」
お茶のワゴンは俺たちのすぐ横にあるが、淹れてくれるメイドは20mほど離れたところで控えてくれている。
声も届かないだろうと安心してヘッセン子爵に自分の考えを伝えようとしている。
まだ、自分の中でも処理し切れていなくて、何を相談しようとしているのか良く判っていないのだが、とりとめもない事を言っているうちに何か纏まるんじゃないかと、付き合ってもらっているんだ。
「ご領主様。ご領主様はフィア様のことをとてもお大事になさっておられますが、フィア様はサキュバスです。サキュバスは人の中においては忌み嫌われ、殆どの者は性欲のはけ口にしか思われておりません。」
「そうらしいね。俺にはそんなことは判らなかったし、最初に出会ってから今の今まで共にあって隣に居ることが当たり前だったから。
付き合ってみてわかったんだ。素直な性格や俺の考えに理解を示してくれるフィアはいつでも逞しくて、優しくて可愛かった。」
「それは拝見していれば判ります。如月様は生まれて1000年を超える魔剣です。成長を遂げられ、人の姿にもなりはしましたがそれでも魔剣として類稀なる特殊な存在ですね。」
「如月かぁ。あいつはアニエスの家に生まれてからずっと寂しい思いをしてきたって言ってたっけ。
刀なのに話しかけてきてさ、生意気を言うんだよ。それでもって俺の魔法力をどんどんと吸い上げて行くんだぜ。でも、いつどんな魔物と対峙しても全く不安はなかったな。
如月と居れば、如月をこの手に持てば負ける気なんてしなかった。
俺にとっては魔剣であっても妻なんだよな。」
ニコニコと話を聞いている子爵は「そうでしょうとも。」と頷いてみせる。
「アニエス様とシロップ様は平民の出で、公爵様の奥方としては妾にするのが相応と思いますが、どうして正式に側室にされたのですか。
身分などから申し上げても重用しすぎではないかと思いますが。」
「それは成り行きだと思うんだよ。そもそも俺にとっては妾も側室も違いが判らないし、彼女たちも妾で必要十分だって言ってたんだけどね、一緒になった頃から陛下の元を尋ねることも多くなってさ、よくフィアと一緒にお城に上がるようになったんだよ。
フィアもあの性格だろ?まるで姉妹のようにしているとアマーリエ様にも二人が気に入られてね、アマーリエ様も結構気さくな性格をしていらっしゃるから馴染んじゃったんだよ。
そうするとメイド服のまま城に行かせるわけにいかなくなっちゃうし、そうなるともう、妾なんて言ってるわけにもいかないだろ?本人たちはどう思ってるのか知らないけどね、アニエスもシロップもフィアと同じように俺の妻なんだよ。」
ヘッセン子爵は紅茶のカップを手に取り、ゆっくりと一口を楽しんでからテーブルに戻した。
「もっとも異彩を放っているのはシルファ様でしょうか。ご領主もご存知の通り、彼女はバステト族です。今ではご領主と陛下がおっしゃられる”生物進化論”によってバステト族などの獣人種が人族と変わりない種族であることが証明されつつありますが、それでも獣人種と言うのは蔑みをもって見られる種族でしたし、神国貴族が戯れでも養子にするなどなかったと思います。」
俺も紅茶を飲みながら聞いていたが、カップを皿に戻し、メイドさんに視線を向ける。
「失礼いたします。」
丁寧な所作で紅茶のお替わりを注いでくれて、ついでにとメープルシロップの掛かったスコーンの様な焼き菓子を二人の前に勧めてくれた。
おいしそうだと摘まんで齧る。
「これ、美味しいな。どこで売ってるの?トウトに戻るときにお土産にしたいな。」
「これはですね、私の実家の伝統的な焼き菓子なんですよ。今日は私が焼いてみたんですが、気に入っていただけました?」
「すごいよ!菓子職人が作ったって言われても絶対に判らないよ。」
「嬉しいです!日持ちもしますからお帰りまでにたくさん用意しておきますね。」
自分の作った物が褒められてとても嬉しそうにしてくれ、お土産を用意してくれると言う。
「今度、俺が作った菓子をごちそうしますよ。本当においしいね。」
「やった!お館様自らがお作りになったモノを頂けるのですか?」
楽しい会話の後にメイドさんがまた元の場所へと戻っていった。
「シルファの話だったね。出会いも面白かったんだけどさ、あの子のそれまでの人生があまりに我慢できなくてね。それでも捻くれたりもせずにいい子に育っててくれたんだよ。
もう、ほっとけなくてさ。フィアたちもそうだったみたくてその日の晩には養女にしちゃったんだ。
素直だし、賢くてね。感心したものさ。」
ヘッセン子爵が満足そうな笑みを表情に表して、頷いている。
「でも、なんでそんなことを聞くんだよ。」
ヘッセン子爵の表情が一変して厳しいモノになった。
「ご領主様、陛下が目指しておられる国作りとはどのような物なのでしょうね。
諸国に対して強い国でしょうか?
それとも貴族が国内をまとめ、身分を弁えた秩序然としたこれまでの様な国なのでしょうか。
私が思いますに、全ての国民が心安らかに暮らせて餓える者のない、安全な、そして平等な世界なのではないかと思うのです。
人が人をだまし、搾取する者とされる者たち。人が人を従えて強制したり、意に染まぬ行いを強要される。
そんなことが無い世界を目指しておいでのように思います。
そして、それを体現し、今もそのように振る舞う事が出来る者がいたらその者こそがこの国を背負うにふさわしいのではないでしょうか。
自分の妻や子がどんな種族でも全く構わず、屋敷に仕える者たちがそれは楽しそうにしています。一人の民草も辛い暮らしを強いられることなく、恐怖や危険から守られています。
この領地をご覧になって下さい。
開拓が進み、人が集まる街になっています。
そこに暮らす者たちも明るく、楽しそうにしているでしょう?
旅の者たちからもとても良い評判を得ているんですよ。さすがヤマノベ公爵様の領地は違う。と、野宿しても襲われる心配もない、宿もいい。そんな風に言われています。
トサンから獣人種や精霊種なども移り住み始めています。トサンが治安が悪いとか差別が横行しているという訳ではありませんが、より安全なこの地を求めるのでしょう。
ここはサキュバスの奥さんやバステト族の娘を持った公爵家の治める街ですから。」
「やめてくれよ。そんな大層なもんじゃないよ。全部成り行きなんだ。俺がそんな世情に疎かったから、結果的にそんな風にできただけなんだ。
この世界で生まれて育っていれば、俺だってそれなりの事しかできてなかったはずだ。」
「ええ、そうでしょうね。」
ハッキリとヘッセン子爵も肯定する。俺がこの世界の人間であれば、他の人達と変わらないだろうと。
「じゃぁ・・・」
「あなたが”迷い人”だから、あなたがこの世界の人間ではないからこそ、この世界をお任せしたいと思うのです。
陛下もきっとあなただからこそお任せしたいと思われたはずです。」
そう言ってヘッセン子爵は席を立ち、屋敷へと戻っていった。
一人残った俺はもう少し考えてみたかった。
「ここはもういいよ。」
離れて控えているメイドにそう告げると、少しためらったようだが、近づいて来て一礼の後にもう一度口を開いた。
「私ども、先の領主様が廃嫡されてお暇を出されました時、目の前が真っ暗になりました。
良いご領主様ではなかったかもしれませんが、無体をなさる方でもなかったですし、明日からどうしようって。
でも、こちらに来させていただいてとても良く判りました。
働くことの素晴らしさとそれを認めてくださる人が居ることの幸せ。空気のように扱われるのではなくて、その仕事の全てを見ていて下さるヤマノベ公爵様に生きる喜びを教えていただきました。
大げさかもしれませんが、自分たちの存在を認めてもらえるって嬉しいんですよね。
”おはよう”って言われたり、”ありがとう”って言ってもらえるだけでその目に留まっているって思えるんです。
そうそう、ケーキ屋のご主人がお礼を言っていました。
”すっかり腰が良くなった。お礼を言っておいてほしい”って。ご領主様はどこで何をなさっているのでしょうか?あちらこちらでそんな話を聞きます。
あ!?勝手なことばかり言ってしまって申し訳ありません。それでは失礼いたします。」
すこし紅潮しているメイドさんはなんだか感謝をしてくれているようだが、取り敢えず良かったらしい。
あのケーキ屋のご主人、店先で蹲ってどうしたのかと思ったら長年患った腰痛がぶり返して動けないって。リジェネレーションをその場で掛けたんだけど、経過はいいみたいだな。
それから日が暮れる直前まで庭で一人、陛下のお願いについて考え続けていた。
夕食を終えて自室に引き上げると、相変わらず如月がいそいそと風呂の準備をする。
それを睦月やシルファがいつものように手伝って、それぞれに入浴の支度をし始めるのだが、妊婦さんが三人もいるために気を付けなければならないことも多い。
アニエスとシロップとフィアは風呂場で転ぶと危ないから手をつないで一人ずつ洗い場へと誘う。
子供たちはシルファの言う事に従ってぐるっと小さな輪を作り、前に居る子の背中を流している。これはとても見ていて可愛いのだが、睦月もカーリオもクレイオもしっかりしてきたせいでユイとシルファも入ると本当に見ていて飽きない光景になっている。
弥生と卯月はまだ小さくて二人とも俺の膝から降ろせない。
泡まみれにしてやるとキャッキャと喜んでいる。
弥生を俺の膝に寝かせ、髪を洗うのだがその間、ずっと俺を見つめている。
卯月は気持ちよさそうに目を閉じて洗われるんだが、弥生はいつもガン見している。
如月に聞いて判ったことだが、顔に水がかかるのが怖いらしく、緊張しているらしいのだ。次からはもっと優しくしてやらないとな。
順に歳が大きくなっていく洗髪作業は子供たちではシルファが最後になる。
もう背中の真ん中まで伸びた髪を洗うのは結構大変なのだが、嬉しそうに膝に乗ってくるシルファに断ることは出来ない。
妻たちも俺が洗うのだからシルファを断るなんてできるはずもないのだが。
しかし、あの夜のことがあってから何となくシルファのことを女性として意識してしまい、そのささやかなムネも何もかもを隠そうともせずに今まで通りに膝に乗るものだから、なんとなく落ち着かないのだ。
少なくともまだ12歳のシルファに色気を感じることは無いが、思うことは無いでもない。
子供たちが終われば妻たちの番になるが、先鋒は必ず如月だ。
如月は妊娠しても妊婦でいる期間が無いため、いつものようにひっくり返るように俺の膝の上に乗る。そして、「さあ洗え」とばかりにグラマラスな肢体を俺に披露するのだ。
本当に140cmほどの小柄な体に不釣り合いなほどのメリハリのきいた体つきをしており、いつもドキッとさせられる。
次からは妊婦さんが続くので俺は一際慎重になる。
シロップがやって来ていつものように少し照れながら俺の膝に体を預ける。アニエスと同じように大きなお腹をしており、辛くないようにと妊婦さんの椅子を高めにしている。
背中を反らさなくていいように。楽な姿勢で俺の上に寝転がれるように工夫してみたのだが、好評だ。
鳶色のショートカットを優しく洗い上げ、起こしてやるとうっとりとしている。
この子は髪を伸ばすのかと思ったが、長くするつもりは無いようで時々毛先を整えながらいつも同じくらいの長さをキープしているらしい。
次にアニエスが来て、腰まで届いている銀の髪を洗わせてもらう。今はお腹も大きく、気を付けなければいけないが、着やせするこの子は折れそうな腰つきでも驚くほどのムネがある。
いつものイベントの最後はいつもフィアだ。
今はお腹に俺の大事な娘がいるが、そうでない時はこの待たされた瞬間さえも大事にして俺と交わるのだ。
光が零れるような銀の髪を洗いあげると満足そうにしている。
いつものように妻たちの髪を乾かし、ベットへと移るとフィアが俺を見て話しかけてくる。
「ソウタさん、まだ気持ちの整理がつかないのですか。」
他の妻たちを見てもみんな真剣な表情をしている。
もちろん茶化すつもりもないが、自分が神国を担うという意味が見いだせていないせいか、良い返事はできそうもなかった。
「すまない。まだ、俺にできるとは思えないんだ。フィアや如月には出来ると思ってもらえているんだろうが、俺にはまだな。」
「ソウタさんはずっと私たちを守ってくれていました。いつ、いかなる時も私たちが不安のないようにしてくれて、そして愛してくれています。
私たちがいつも安心していられ、たくさんの幸せをくれたのはソウタさんです。
もうちょっとたくさんの人がソウタさんに幸せにして欲しいと思っているんですよ。」
フィアの言う事は判る。
ここ数日で出来るモノならしてもいいとは思うようになった。
「でもな、フィアが、如月が、シロップが、アニエスがそう言ってくれるのは嬉しいんだ。それでもな、俺がしたいことと言うのは四人の俺の妻とシルファ、ユイ、睦月、カーリオ、クレイオ、弥生、卯月、そしてまだ見ぬお前たちのお腹の中の子供たちを幸せにすることだけなんだよ。
屋敷のみんなや、街のみんなも幸せになれるならもっと良い。
でも、やっぱりそうやって見える範囲。手の届く範囲以上は難しいと思う。
それじゃ、ダメかな?」
「あはははは、やっぱりそう言うと思ったわ。そうよ、貴方はそんな人なのよ。自分で大きなお仕事をしていてもちっともそれを誇りもしない。
もっと大きな仕事も十分にできるのにそれをしようともしない。
貴方らしいわね。」
俯いた顔がちょっと赤くなってしまう。
「本当にソウタさんには欲がありませんよね。世界は俺に任せろ!って言っても本当にできそうですが。」
「私もそう思います。ソウタさんですから、どこまでだっていけますよ。私たちが置いて行かれちゃったら泣きますけど。」
アニエス、ウルウルしないの。俺は妻たちも子供たちも置いて行かないんだから。
よしよしとアニエスを撫でて「心配ない。」と告げる。
シロップとアニエスが俺に擦り寄って来て、甘えるようにする。
シロップの髪も撫でて慰めてやるとアニエスと一緒に可愛い笑顔を見せてくれる。
如月も呼んで無理矢理髪を撫でると、照れたようにしながら撫でられている。
フィアもと、呼ぶと俺の側まで来てから膝に上がりこんできた。背中を預けるように座り込んできたのはまた、可愛い。
よしよしと髪を撫でると、昔からとても気持ちよさそうな表情をする。
「そう言えばフィアと契約する前にクノエまでの旅をしてた。」
「はい、どうしましたか?」
「うんとね、朝目が覚めるとフィアが俺の上に乗っててさ、うつ伏せにぐっすり眠ってて俺の胸が涎まみれなんだよ。」
「あなた、それ今も一緒じゃない。」
「そっか、そうだな。いや、それでね、目の前にフィアの頭があるじゃないか?それでつい撫でてしまうんだよ。
ツルツルの髪を撫でると気持ちが良くてさ、毎朝クセになったもんだ。
ずっと撫でているとそのうちにフィアの目が開いてくるんだけどね、撫でてるときってホントに幸せそうな顔をして目を覚ますんだよ。
可愛かったよなぁ。」
「なんで今そんなことを思い出すんですか!?」
フィアが真っ赤になって怒っている。
「なんだかどれもこれも懐かしく思うよ。シロップとアニエスがイバラキに行くときに忍び込んだことも、如月を初めて手に取った時のことも覚えてる。
そう言えばシロップと初めてベットを共にしたとき、「だめ~言っちゃダメ!やめ~~~」って、ね?」
「知りません!!」
べしべしとシロップに殴られてしまった。
「アニエスは・・っぷ」
無理矢理アニエスにキスされて口を塞がれてしまう。
「私もするわよ!?」
「お?おう、たのむ。」
自分でするっていったくせに俺が求めると途端に照れてしまう。
そんな如月もかなり可愛い。抱き寄せてキスしてやると如月はフィアごと俺を抱きしめる。
妻たちが可愛くて満足できた。
まぁ、寝る前に如月を剥いていただいたのは言うまでもない。
シルファも含めて子供たちはとっくに眠ってしまっており、俺が一人ずつに心を籠めてキスして回ったのはきっと誰も気が付いていないだろう。
翌日も妻たちと子供たちは近所を散歩するようで、毎日の外出を楽しみにしているようだ。
俺はと言うと、今日も裏の庭園へと赴き、自宅警備中だ。
今朝もヘッセン子爵と一緒に居たのだが、自警団から呼び出されてそちらへと向かっていかれた。なんだろうね?
昨日とは別のメイドさんが側に控えているが、俺はまた植物をぼうっと眺めるだけになっている。
俺が言わない限りは紅茶を注ぎにはこないのに、視界に入らない場所でずっと一緒に景色を眺めているようだ。
「お館様、あそこにアサガオが咲いてますね。」
ふと視線を向けると紫と深い紺にも似た色合いのアサガオが咲いていた。
陽が上がり、眩しいと感じるまでアサガオの花を見ていた。
もう少し向こうに桔梗が咲いていると教えてくれる。
本当だ。あの花の紫は一段と蠱惑的だな。如月の髪の色に似ている。
突き抜けるような青空が視界一面に広がり、日に炙られるように夏の雲がポツリポツリと浮かんでいる。
「ん?」
暑さで蒸発してしまうんじゃないかと言う雲の下をかなりの速度で通過する黒い影が視界に入る。
デカいドラゴンだ。街の方に向かってるんじゃないか?急降下に近いダイブを見せている。
「おい!」
「はい!なんでしょう?」
急にきつい調子の声で怒鳴ったものだからメイドが飛び上がる。
「警報発令!ドラゴンだ!街に知らせろ、それと護衛班は妻たちの確保!いそげ!!」
「はいぃぃ!」
駆けだすメイドを見送ると間もなく警報が街全体に響き渡る。
黒く染めた翼を羽ばたくようにして、長い首が獲物を探すようにしている。
ギシャ―――!
「バハムートかよ!レネゲイド!!」
次元断層を突き破るように銀の巨人が現れる。すでに胸殻が開かれ、搭乗者を待っている状態だ。
「追撃戦に入ります。低高度戦闘になりますので高機動Gに注意してください。」
「ああ、右手ソニックソード、左手バニシングライフルいけ!」
「了解!」
轟然とダッシュするレネゲイドは瞬時に高度を200mにまで上げ、バハムートをレーダーで捕捉する。
バハムートも何かを探すような様子を見せながら高速で飛行しており、街道沿いをトサンに向けて相当の速度で飛翔している。
すぐにダイタクヤの領地を越え、トサンの南端へと入る。まだ緑の稲穂が敷き詰められたような穀倉地帯を飛ぶ。
ここは周囲に隠れる場所もない様な開けた場所となり、遠くに見える3両を連ねて走る馬車隊しか見えない。あれを追っていたのか?
横にロールしながら旋回してバハムートは高度を下げ始める。
「レネゲイド!低空からバニシングライフルで威嚇して上空に追い上げろ!」
「了解。」
レネゲイドも左にロールを決め、高度を一気に落とす。
地上すれすれを時速600kmで駆け抜けると腹の下にあった稲穂が吹き飛ばされるように舞い上がる。
ピピピピという電子音が照準を定めるとピーと鳴り、トリガーを自動的に引く。
左手のバニシングライフルが咆哮をあげ、バハムートの左の翼を掠めた。
キョワ――――!!?
瞬間に沈みこみ、急上昇を開始するバハムートに遅れず追従するレネゲイドはレティクルの中にバハムートを捉え続け、バニシングライフルを連続して斉射する。
長時間照射せずにバルカン砲のようにパルスレーザーを吐き出し続けると曳光弾がバハムートに吸い込まれるように弾丸を集中させる。
その硬い鱗を吹き飛ばしながら次々とヒットするレーザーに堪らずに咆哮を上げるが、撃ちこまれるレーザーは容赦なくドラゴンの体を削り、尾を吹き飛ばし、翼を粉々に打ち砕く。
よりトサンの市街地に近い場所まで来てしまったが、麦の刈入れが済んだ畑にバハムートを叩き落とすことができた。
深くまでめり込むように墜落したバハムートはもがくように身を捩りながら立ち上がり、こちらを認めるなりにブレスを発射する。
シールドを置いてきたレネゲイドで直撃は受けられない。
俺が魔法障壁を展開するとそれが当たり前とでもいうようにレネゲイドは避けようともしなかった。
どいつもこいつも俺に対する信頼が厚すぎるじゃないか。口の端が吊り上がるのが判る。
ディフェンスをオートにしていたので受けとめたブレスを反射するように撃ち返す。
もちろん3倍返しだ。
地獄の業火となって帰ってきたブレスと同じ炎はその色温度を上げて青から白になろうとしている。
風魔法を併用してどんどんと酸素を送り込むと恐ろしいまでの温度上昇が始まり、バハムートのブレスが1000℃を少し超えるくらいだったのに対して炎に包まれたバハムートは5000℃近い超高温に曝されている。
焼けると言うよりも瞬時に炭化していくようなバハムートはもんどりを打ってその身に纏った炎を消そうとしているが、俺がそれを許すはずもなく位置を特定し続けて炎獄を維持する。
消えない炎に業を煮やしたのかバハムートは再び起き上がり、俺たちへ吶喊を敢行する。
既に体表は熔け落ち、そうでない部分は炭化している。
骨さえも見え始めているが、構わずに近づいてくるバハムートを望み通りに迎え撃つ。
レネゲイドがソニックソードに魔力を籠めると唸りを上げ始め、下段に構える。
距離を測り、刀身の長さの3倍まで超音波ブレードが伸び、振り上げるとバハムートの右腕が根元から飛んだ。
返す刀で左腕も切り飛ばし、勢いで一回りしてから横薙ぎに首を跳ね飛ばす。
もう一回りで両足を切り落とすとその勢いは止まった。
しかし食べる所も売るようなところもなくなってしまったな。骨さえも一部が炭化しており、見るも無残と言うより見る所もないと言うべきか。
稲にも被害が無かった。この畑だけは荒らしてしまったが、麦の収穫の済んだ畑だったので持ち主にも被害は少なかったはずだと言い張ろうと思う。
そう言えばこのバハムートは馬車を狙っていたんだった。いきなり引きはがしてやったから忘れていたが、馬車は何だったんだ?
レネゲイドが街道を降りてくる馬車に向き直る。
レネゲイドを街道に上げて畑に土魔法を掛ける。バハムートの死骸を地中深くに埋め込むように攪拌し、肥料にすることにした。
今度から金になるように仕留めようと誓いながら、充分にミキシングしておいて何事もなかったことにする。
レネゲイドの足元にまでたどり着いた馬車の隊列は護衛の兵士を前に出して馬車を守る布陣を敷く。
誰が乗っているのかも判らないような馬車に隔意を抱くはずもなく、レネゲイドを降着状態へと跪かせ、兵たちの前に姿を見せた。
油断なく俺を牽制するようにしており、俺的には全くどうでもいいのだが、帰る挨拶だけはしておこうと思う。
「そちらがどういった方かは判りませんが、取り敢えずバハムートも討つことができたのでこれで失礼させていただきます。そちらも道中はお気を付け下さいね。」
いう事は言ったと俺は満足し、背中を向けてレネゲイドに乗り込もうとする。
「待ちなさい!その方に妾たちの護衛を命ずる。ありがたく拝命しなさい。」
「お断りします。」
俺は瞬殺で意味不明な命令を却下してレネゲイドに搭乗を済ませた。
「バカな!?ワタクシをダラゴナ侯爵家が長女、ヨランダ=ダラゴナと知っての軽口であればそなたが誰であろうとも赦しはしないぞ。」
「レネゲイド、外部拡声。」
「了解。どうぞ。」
「それは申し訳もありません。知らぬこととは言えお貴族様に失礼をいたしました。私も田舎貴族でして大身の貴族様に疎いのです。
お気を悪くなさいましたらお詫び申し上げます。」
「か、顔も見せずに済ますつもりですの。とんだ田舎者のようね。いいわ、後でご挨拶に伺いますので名前だけでも聞かせなさいな。」
ウンザリしてくるな。
「ダイタクヤの領主館におります。ソウタ=ヤマノベと申します。ご覧になっていらっしゃいますのは聖銀の巨人です。お帰りにはぜひお寄りください。」
「・・・ヤマノベ公爵様?」
既に護衛兵は全員が土下座モードに移行していたが、俺はこの侯爵息女を助けたつもりもないのでそのまま放置してレネゲイドに指示を出す。
「レネゲイド、お前を見て俺が誰だか判らないような奴は放置で良い。フィアたちのところへ帰ろうぜ。」
「了解。外部拡声がオンのままです。」
「いい。早くユイたちが無事か知りたいんだ。急いでくれ。」
そのままレネゲイドを宙に放り上げ、インパルスモーターに点火させる。
久しぶりになんかをやってヤッタ感があるな。
やっぱ、こんな仕事の方が似合ってる気がして仕方がない。
「ぐぬぬぬ!何よあいつ!なにがヤマノベ公爵よ!腹が立つぅー!!」
「お嬢様、おやめください。親王陛下に最も近いと言われている公爵様です。余計なことを考えますと一族だけでなく、係累の全てが血祭りになります。
”解放の光”や”黄泉越えの翼”をご存知ないのですか?一族はおろか関係者の全てが粛清されたのです。
ただお力のある公爵家ではないのですから、おかしなことはお考えになられませんように、ご自重ください。」
「許さないわ。ワタクシをバカにして。絶対に許さないんだから。」
ソウタはまだ心に折り合いがついていないようでございます。
新しく出てくるこのじゃじゃ馬侯爵息女はどのようなキャラなのでしょうね。
いえ、私は知りませんが?




