【第113話】成長?
いつもお読みくださって、ありがとうございます。
変化が起こりますと書きましたが、変化が起こるんです。
フィアのパラメーターが壊れたかと思ったが、俺のパラメーターも随分とおかしなことになっていた。
神が定めたというランクはその頂上が10のハズなのだが、フィアが21で俺が46になっていた。
身体的にも精神的にも何の変化もなくて、いつの間にかこんな風になってしまうと、なにが問題だったのかも判らなくなりそうだ。
フィアのレベルを覚えているだろうか?ランクがSIと言うのもどのように勘定したらいいのか判らないが、レベルが21という具体的な意味が分からない。
体力126,600
魔力900,000
器用431,000
敏捷976,700
筋力322,640
耐久551,100
レベル21のパラメーターがこんな風になっていたのだが、レベル46のパラメーターはもっと面白い。
体力”無限不朽”
魔力”無尽蔵”
器用”天元突破”
敏捷”概念無用”
筋力”無意味”
耐久”不朽不滅”
どう?解釈の余地もない。凄いという事は判るのだが、判断基準が無くなってしまっているのだ。これは「考えるだけムダ。」という意味にもとれる。
他に気が付いたことと言えばフィアの取得している魔法などが記されているパラメーターだ。
これまでには俺から取得した魔法などの全てが網羅されており、他には「貞淑」とか「一途」「奔放」「天然」などと言ったフィアの性格を象徴するような代名詞が並んでいたのだが、後の方に「成長」とか「高次元の探究者」「解放された世界」などといった、どう評価していいかも判らないようなフィアの在り様を再確認させる言葉が並んでいたのだ。
これがフィアが語り出した新しい言葉に繋がっているのだろうが、充当される知識や自らが発する言葉の意味などを考えると、この世界がどのように創生されてきたものか考えさせられる。
個人の成長にはパラメーターが与えられ、それを増大させることによってレベルやランクが上がる仕組みがある。
ランクはそれぞれの生きる道によって、評価の仕組みも違うし、それは各領域のギルドが公正に評価しているものではある。
しかし、その対存在であるレベルは、個人の持つ特徴や強さを目に見えない神の定めたルールによって数値化され、等しく優劣の判断基準によって目に見える形に評価されている。
万人が周知していたレベル上限の10という値も、本来それが上限ではなくてここまでが単なる限界だったのだろうと思わせられる。
あの日シロップやアニエス、娘たちを探して他人の次元断層内を渡り歩いた最中、かの魔法使いも途方もないレベルにあり、番となっているサキュバスも10ではなかったのだろうと今なら思える。
世界の仕組みを知り、問題点を明確に理解している風だったのも、今回のフィアのようにどこかの時点でレベル10を超え、新たに得た知識をもってして次の行動に活かしていたのだろうな。
サキュバスの存在意義を良く考えろと奴は言った。
それは15歳で成人し、人の精を受けなければ生きていけないとか、レベルが10に届き、契約者の魔法を行使するようになるとか表面的に認知されている特徴などを言っているのではなかったんだろう。
レベルが10を超えてから迷い人の俺たちが知らないこと、この世界の普通に暮らす人たちが知らないことを段階を追うごとに解放された知識として齎してくれ、その知識やチカラを次にどう使うかを俺たちに考えさせる。そんな役割を担っている種族なのかもしれない。
たくさんの情報が一夜にしてもたらされ、それを整理することも大変なことなんだが、シロップとアニエスには殊更に衝撃的な事だったと思う。
俺と契りを結んでしまい、俺の認めた伴侶となった瞬間に彼女たちにも永遠の時間が手に入ってしまった。
フィアと契りを交わし、血の契約を結んだ時には俺の頼もしい相棒になってくれて、その身に「不死」を勝ち取った。きっと、それからさしたる成長も無ければ契約主たる俺の寿命が来た時には俺と一緒に天寿を全うすることになったのだろう。
それまでは俺のために何があっても死ぬことが無く、側に居てくれたことだろう。
しかし、俺たちはその後も冒険を続け、仲間と共にこの世界に少なくない干渉を続けてきた。それは当たり前のことだが、俺たちを成長させていたのだろうし、気が付かないうちにレベル10を超えて蓄積され続けたのだろう。
例えば俺のレベルが40を超えた時、俺に「不滅」の加護が備わり、フィアのレベルが20を超えた時に知識が解放されたのだとすれば納得がいく。
その瞬間に永遠の時間という持ち札が俺たちに配られ、俺の認めた全ての家族にその影響が及んだのだとしたら。
今はそう思うしかないだろう。
如月はさっきから安堵の涙を流しており、俺にしがみついている。
「よかった。良かったの。私、貴方に会ってから。貴方に使ってもらえるようになってからずっと心に思っていたことが現実になったの。
離れたくない。貴方を失いたくないってずっと思ってたわ。
私を作った刀匠はそんなこと思いもしなかったでしょうが、形ある物でも失われないものもあるのよ?ただの刀であればいつかは折れるでしょうし、土に還る日が来るけれど、魔剣はその身に不死不滅の聖霊が入り込んでいるの。
だからずっと生き続けなきゃいけないのよ。
貴方に最初に手に取ってもらってから私はずっとそのことに怯えていたわ。いつか貴方が居なくなる日が来る。人の寿命なんて短いモノだもの。
せっかく心を通わせた人が、数十年で居なくなるなんて考えただけで気が狂いそうだったのよ?私を手に取ってそれでも平気で、とんでもない魔力を注いでくれるの。そして勇敢で逞しく、私が人の姿になっても愛してくれる。
私が産んだ子供にさえもたくさんの愛情を注いでくれて、慈しんでくれるの。
そんな人が目の前に居るのに、少しの時間で居なくなると思うと胸が張り裂けそうになることが何度もあったのよ。
あああ、良かった。
二度と失う事が無いってフィアちゃんに聞かせられて、どれだけ嬉しかったと思う?」
さっきまでフィアに助けろと騒ぎながら俺に愛されていた如月だったが、俺と共に満足を得た後に俺から離れようとしなくなってしまい、今も俺に抱き付いたまま少しの隙間もないようにと小さな体の全てを押し付けてくる。
フィアはそんな如月の気持ちが良く判ると言い、俺の隣で如月の髪を撫で続けているのだ。
嗚咽のような苦しそうな泣き方をする如月を見ていると、どれほどの不安を抱えながらいたのだろうと深く考えさせられた。
俺が如月を愛している最中に食堂の片づけを終えたアニエスとシロップが部屋に戻ってきたのだが、二人はベットに上がっては来ずに二人一緒のソファーに腰を下ろして俺たちの様子をずっと見ていた。
時々二人で会話をしながら手をつないで終わるのを待っていたようだった。
それからも如月がぐずるものだから話すきっかけを失っていたようだったが、フィアがそれに気が付いたようで俺に注意を促してくれた。
「ソウタさん、二人を抱き上げないとシロップちゃんもアニエスちゃんもベットに上がれませんよ?」
如月が真っ赤になった目で「ごめんなさい。」と謝るとシロップもアニエスも優しい微笑みをくれて、首を横に振った。
「私もシロップちゃんも如月ちゃんの気持ちは自分の事のように判るつもりです。如月ちゃんと同じようにソウタさんに認められ、愛してもらえた奇跡を大事にしてきました。
そうであれば、それが長く続く方が嬉しいに決まっています。さっき、シロップちゃんも言ってくれたんです。
”もうこれで離れないで済むならそんな幸せな話は無い。”って。私も同じ気持ちです。
フィアちゃんがそうであったように、ソウタさんはご自分の認めた相手を絶対に離そうとしませんし、暖かな、深い愛情を注いでくれるんです。ソウタさんが最初にお屋敷にいらした日、フィアちゃんを見てどんなにガッカリとしたか。
こんなきれいな人を妻にしてるんじゃ、私たちなんてどれだけ頑張ったところで目を掛けてもらえるわけなんてないと。
それでも自分の心は偽ることができませんでした。ソウタさんのような人なんてそれまでの短い人生でも出会ったことなんてありませんでした。
だから、どうしても側に居たかった。
そして誰とでも友達のように接してくれるフィアちゃんと過ごす時間が本当に楽しかったんです。人種のほんの短い人生の中でもその全てを掛けて隣に居たいと思うほどの人がいたんです。
それが、さっきフィアちゃんから聞いた通りであるならば、もう世界の終わる日まで、明日に怯えることなくソウタさんの隣に居られます。
ソウタさん。ソウタさんのご迷惑でなければ私たちもずっと側に居られることが嬉しくて仕方ありません。娘たちには娘たちの人生があります。
どこかの男性を選ぶなら、その時間を精一杯幸せに生きて欲しいと思いますし、ソウタさんを選ぶならそれを断らないでやってほしいのです。」
「ソウタさん、私からもお願いします。アニエスちゃんも私もフィアちゃんと出会い、如月ちゃんを妻と認めてもらってからずっと幸せです。カーリオも成長すれば自分でその手に幸せを掴もうとします。
その手がソウタさんに伸ばされたならその手を取ってやってくれませんか。
その時のカーリオは私たちの娘ではなく、一人の女としてソウタさんを選ぶでしょう。
私たちを選んでくれた時と同じようにカーリオの手を取ってやってください。
別の男性を愛したならばその時間をきっと満足のいくように使うと思うのです。私たちはそれを応援し、後悔のないようにしてやりたいと思います。
未来は様々な可能性をもってやって来るでしょうし、私たちはどんな未来も受け入れて行かねばなりませんが、時には自分たちの娘が私たちよりも先に逝ってしまう事もあるでしょう。でもそれは選び取った未来の結果なのです。
娘たちが死の床に就いた時に幸せだったというのであれば、それは良かったことだと思えます。
私たちのようにソウタさんを選んだならば、その子は私たちと同じ仲間です。
次の時間を紡ぎ出すために世界を見守ってくれるでしょう。
私たちをフィアちゃんと同じように愛してください。それだけで十分です。」
ベットで俺に抱き付いて離そうとしない如月と、俺に寄り添うように隣に居てくれて如月を慰めているフィア。その周囲にはユイがタオルケットにくるまって眠っており、睦月がユイとくっ付いて眠っている。
カーリオとクレイオも俺の背中側で二人並んで眠っており、ソファーからそれを楽しそうに眺めているアニエスとシロップが居る。
ジッと刺すような視線で見つめてくるのはフィアの隣に居るシルファだ。
「私はソウタパパの本当の子供じゃない。弥生と卯月を見て。この子たちはソウタパパと一緒の時間を生きられるのにゃ?私は同じだけ生きられないにゃ。」
思わずシルファの頭を撫でてしまう。
「シルファ、お前は間違っているよ。」
「そうです。シルファちゃんはすでに私たちの娘ですよ。」
フィアが俺の後を引き取ってシルファを諭す。
「シルファちゃんがもう少し大きくなってお婿さんを探す時にどんな出会いがあるかは判らないでしょう?ソウタパパよりも大切な人ができたなら、シルファちゃんはその人と一生を一緒に居たいと思いますよ。
そうなったときにはどれだけ幸せでしょうね。それともシルファちゃんはやっぱりソウタパパが一番大好きだとしたら、ソウタパパにお嫁さんにしてもらうといいんです。
それでシルファちゃんもソウタパパや私たちと一緒の時間を過ごすことになりますよ。
どんな未来もその手に掴むことができます。それはとても自由なことで、限りある時間を自分で選んだ大切な人と過ごすのも大事なことですし、ソウタパパにお嫁さんにしてもらうのもシルファちゃんの気持ちひとつなのです。
そう考えると自分だけが寂しいなんて思えますか?」
「ううん。フィアママの言う事が良く判るにゃ。私が選ぶことができるんでしょ。だったら、その時にどうしたいか考えるのも楽しいにゃ。
フィアママ、ありがとう。私がソウタパパを選んでもいいなんて考えても居なかったにゃ。
そうなったときもママたちは変わらないでいてくれるの?」
シルファにとってこれまでのフィアたちは信頼に値する頼もしい母親だった。
シルファが大きくなって、俺を選んだ時にフィアたちと立場が同じになってしまうのだろう。
それでもこれまでのように居てくれるのか?そう言う事を聞いているのだと思うが、俺の気持ちと言うのは誰か思いやってはくれないのかな。
「シルファがソウタパパを自分の大切な人だと選んだ時から、ママたちは”ママ”では居られなくなります。
その代わり、その時にはシルファちゃんは私たちと同じソウタさんの大事なお嫁さんですね。私たちと一緒にソウタさんを愛し続ける大事な仲間になるでしょう。」
事実そうなのだろうなとは思うが、それを聞いたシルファは安堵の表情を浮かべ、フィアにくっつくようにしていた。
自分の身を立てる術が自分にあると判ったからか、いずれ自分も俺を選んでいい立場にあったことに嬉しさを感じたのか、そのままスヤスヤと眠りに付いてしまった。
何度も言うが、俺の気持ちとか意見とかはこの大事な話の中に全く出てはこなかったのだがそれでいいのだろうか?
如月もいつの間にやら休んでしまっており、俺の膝に頭を乗せていい笑顔で眠っている。
そっと如月を膝から降ろし、フィアに見てもらいながら俺はシロップとアニエスを迎えに行く。
驚くようなことがあったハズにもかかわらず、二人は特に取り乱したりもせず、今もいつものようににこやかにしている。
「もう、ずいぶん遅い時間になってしまいましたね。ソウタさんもお疲れではありませんか?」
判って聞いているのだろうが、アニエスもいたずらっ子である。
「そうだな、眠くてアニエスを落っことすと危険だ。シロップは俺が責任を持ってベットまで運ぼう。」
「ああん!嫌です。私もちゃんと運んでほしいです。」
「アニエスちゃん。お先に。」
そう言ってシロップは俺に体を預けるようにする。俺を信じているからこそだろうが、確かめもせずに俺に寄り掛かるんだから、こっちがビックリするよ。
それでも、それを表情一つ変えずに受け取り、お姫様抱っこになったシロップをベットへと運んでやる。
うっとりと満足そうなシロップをベットに寝かせると、とても嬉しそうにキスをくれた。
振り返ってアニエスを見ると、少しいじけたような表情のまま、俺が帰ってきてくれるのを待っている。
すぐに抱き上げてもらえるようにこちらにお尻を向けてモジモジしているのがものすごく可愛い。
その期待を裏切らないようにアニエスを迎えに行くと自分だけがのけ者になるハズが無いと判っているくせにとても嬉しそうにするものだから、その場で一つキスしてあげた。
なぜだか真っ赤になって照れているのも可愛いが、そのまま俺に身を任せてくるアニエスがとにもかくにも可愛いのだった。
フィアや如月もそうだが、アニエスもシロップも俺に身を任せる時には、全く疑うことなく体を預けようとする。
それにビックリするときが多いのだが、それを裏切ったことは一度だってない。
だからこそこうした時に遠慮も警戒もなく身を任せられるのだろう。
その信頼を俺は心地よく思っているし、それに応えることでまた、信頼を積み重ねることができているのだろう。
幸せをかみしめる様な表情でお姫様抱っこされているアニエスもベットにたどり着くと俺にとても嬉しいキスをくれたのだ。
翌日の朝、アンニさんに話してユンカーさんと陛下に話ができるように図らってもらった。
夕べフィアから告げられたことは今後の陛下とのお付き合いにも影響があると考えた。
なにせ陛下やお妃様がお年寄りになっても、俺たちは今のままらしいのだからその辺に理解を得ておいてもらわなければいけないだろう。
家族全員でお城へと出かけることになり、仕立ての良い馬車に全員が乗り込んだ。
御者席には俺とユイとシルファが載り、昨夜の一件があってかシルファは俺の腕をずっと掴んで離そうとしなかった。
ユイはそれが何だかわからず、不思議そうにしている。
その様子を眺めているフィアたちは可笑しいと笑いながら眺めており、シルファも女の子なんだなと改めて認識させられたのだった。
「フィアさんが仰ったことが真のことだとすると、ご家族の皆さんが今後幾久しくの時間を共にお過ごしになられるというのですか。」
呆れたという表情のアマーリエ様が感想を述べられる。
「いつかに申し上げましたように、サキュバスを連れた男は1500年を過ごしていると言いましたし、それで積み上げた経験をもってして世界の綻びを閉じようとしてもまだ足りない部分を私たちに協力しろと言いました。
フィアの成長が世間一般に聞くレベル10を超え、それによって齎された知識によって初めて知り得たことではありますが、良くして頂いている皆様方にこの事実を知っていただき、私たちも改めて世界の綻びを閉じるために努力したいと思ったのです。」
先ほどから陛下はまったく口を開こうともせずに、俺たちの話を考え事をされながら聞いておられるようだ。
「フィアさんはレベルが21もあるのでしょう?ソウタさんは46?そのような話は初めてですね。それでシロップちゃんもアニエスちゃんもフィアさん、ソウタさんと1000年も10000年もご一緒されるのですか。
聞くと凄い話なのですが、皆さん大丈夫なのですか?」
「どうでしょうか。今はまだ実感がありませんので判りませんが、私とアニエスちゃんはとても喜びました。如月ちゃんもとても喜んでくれていますし、どれもフィアちゃんがソウタさんと交わした契によってもたらされたものなんです。」
アマーリエ様はみんなのことを少し遠くに行ってしまわれたようです。などと寂しそうに仰られたが、今はまだ昨日と何かが違う訳でもないだろう。
子供たちの話もして、ユイの事やシルファのことなどを間違いのないように伝えもした。
特にユイはゲオルク皇太子に嫁ぐことになっているうえに、特殊な事情があると困るだろう。その辺に誤解のないようにお伝えしたが、特に心配などしていないと仰られた。
そしてシルファのこと。
セントラルキャッスルでもアイドル的な立場に立つようになり、セーラー服で元気よく歩き回り、ネコミミと尻尾も愛らしいと隠れファンも多いと聞く。
クノエでもそうだったが、セントラルキャッスルにも獣人を蔑むような人達が居ないわけではないのだろうが、身近に接し、自分たちの肌でシルファを感じることで見方の変わっていった者も多かったのだろう。
シルファと会話を交わしたり、シルファの近くで食事を共にしたり。
そうした機会を得た者には自分たちと何が変わるわけでもないことに気が付き、俺の養子と言う特別な者だからと気を使っていたはずだが、人懐こい性格にいつの間にか引き込まれ、知らないうちにファンになっているらしいのだ。
いずれ俺がシルファを娶ると、恨みを買うのではないかとアマーリエ様は心配されたのだが、シルファは「パパのお嫁さんになりたいにゃ!」と言い切っている。
それも俺は、将来の事なんてまだわかりませんからね。
そう言うのだが、アマーリエ様はそれを「甘い」と仰られた。それについてはフィアも如月もうんうんと頷いている。
寛いだ空間にみんなでお茶などを頂きながらゆったりとしていたのだが、陛下とユンカーさんだけは全く言葉を発しておらず、ずっとそっちが気になってしょうがない。
「テオ?ずっと難しい顔をしていますが、どうされたのですか?」
ユンカーさんと目で何かの会話を交わした陛下は俺に向かってとんでもないことを言う。
「ソウタ殿、この国を背負ってみる気はないか。」
「はい?」
俺は驚いて変な返事をしてしまった。
俺の妻たちがギョッとしたように陛下を見る。
アマーリエ様はそれが当たり前と言った表情で、全く慌てた様子もない。
「へ、陛下。何を仰っておられるのですか?」
「ソウタ殿、ここで陛下とは呼ばないでほしいのだが。」
「そんなことを言っている場合ではありませんよ。私が神国を背負えるわけが無いじゃないですか。」
「なぜだ?ソウタ殿が国を背負って誰が困る?」
「誰って、ゲオルク皇太子もいらっしゃいます。その妻はユイです。先のお約束もしていただいているのになぜその様な事を?」
「ゲオはユイ殿と結ばれたら良いではないか。なにも親王をする必要はないと思うのだが。
それに今すぐ私と代わってくれという話ではないよ。
私の退位に併せて即位して欲しいんだ。その時にゲオの立場を保証してくれれば私たちに不満はないよ。」
そんな、もう決まったことのように言わないでほしいのだが。
俺の口から心臓が出てきそうだ。
「ソウタ殿、どこの国も安定で居られないのはその時々の世界情勢が様々に変わるからで、それはある程度仕方のないことだろう。
しかし、最も根深い原因と言えるのがその時の国の代表者がどのような者かという事なんだ。
私とて、すべての国民に満点を貰えるような政治を行っているかは判らないが、ヒトラーのような代表者が国を統べると国が亡ぶ可能性すらあるのは判るな。」
それについては俺にもわかる。今現在のゲーマニアンはチェコとフランソワに分割統治されることになり、国土の南北を違う国に治められているのだ。
ゲーマニアンと言う国としての機能はそのまま維持されているが、国を動かす政治を行えるものが居なくなっており、国としての統治機能を取り戻せるまで周辺国で支えて行くような形となっている。
議会制民主主義を周辺国同様に採用することにはなっているのだが、ヒトラー以前の政治経験者がすべてヒトラーに粛清されており、若い帝王学を学ぶような者たちが芽を伸ばしてくるのを待っている状態にある。
「判るかい?一番大事なのは優秀な指導者による継続した統治なんだ。私がこの国を支えられてもせいぜいがあと2~30年だよ。以降にゲオルクが指導者になって国を導いてもそこから50年だ。
貴方がこの国を導いてくれれば万年を超えて悠久の時間、神国は安定した繁栄を遂げることができるじゃないか。これを「継続性」と言わずして何というのだろうか。」
夕べから俺の意見が無視されることが仕様になってはいないか?
「テオバルト殿、私は爵位を頂くことさえ身に余る出来事でした。その際にも申し上げました通り、野心も何も持ちません。あの時はフィアさえ幸せでいてくれたらそれでいいのだと申し上げたはずです。
今はここに居てくれる妻と娘たちが幸せになれればそれ以上に何かを求めるつもりもありません。
陛下のお手伝いをさせていただくことはとても嬉しくもあり、それが私の考える世界と同じである以上、積極的に協力させていただきたいとも思っています。
ですが、陛下のようなお立場に立とうなどと考えたこともありません。」
「それを言うなら、私もその時にソウタ殿にお伝えしたはずです。”あなたのような方に国を治めてもらいたい。”と。国の単位が一領地から少し大きくなっただけではありませんか。」
少しって!?領民数万人と神国を一緒にしないでもらいたい。
俺の頭の中はどうやってこの状況から逃れようかと、それしか考えられなくなっているのだが、アマーリエ様はさっきからずっと上機嫌で陛下のアイディアに聞くまでもなく賛成していらっしゃるのだろう。
ユンカーさんを見ても陛下と考えが一緒であったらしく、自分たちの子供の将来をも見据えてそうして欲しいという顔をしている。
退路を断たれたような表情をしている俺に、誰か援護射撃は無いのか?
このままではなし崩し的に神国を擦り付けられそうだ。
「テオバルト様、ゲオルク様とユイの扱いはどのようになるのでしょうか。」
「フィア殿、私が退位するタイミングでゲオルクとユイ殿に爵位を用意していただきたい。私たちは大公と言う事になるでしょう。実効権は無くなりますから、ソウタ殿のお邪魔にはならないでしょう。
その息子という事で何某かの爵位を頂き、その務めを果たせればよいのではないかと思います。今からゲオルクに何が出来るのか見極めながら育てていきますよ。
なに、ユイ殿がいらっしゃるのですからどんな仕事も楽しくできるでしょう。」
フィア?なんでそんな実務面の詰めをしましょう。的な話になってるんだよ。それじゃコッチが了承したみたいでしょうに。
「判りました。テオバルト様のご期待に沿えるようにしてみます。」
「ま、まてフィア、なんでそんな簡単に受けられると思うんだよ。この国を預かるんだぞ!?俺たちの屋敷をもう一つ預かるみたいに言わないでくれよ。」
固い決意があるのだろう。振り返るフィアの表情は今までに見たことが無いほどに真剣だった。
「そうですか?ソウタさんなら新しい屋敷をもう一つ持つのと、国を預かることにそう違いはないと思いますが。
如月ちゃんや私たちが公社を預かっているのと大差ないと思います。それぞれに目を配り、互いの話を合わせれば難しいことではないと思うのですが、違いますか?」
俺ではなく、如月やアニエス、シロップに聞いている。
アニエスとシロップはどう答えていい物かも判らないという表情だが、如月は微笑みながら頷きを返している。
「フィアちゃんの言うとおりだわ。今のうちにテオバルト様に色々な事を学び、同じ目線で歩めるようにしたらいいのよ。その後で私たちと一緒にその道を守り続ければ、ソウタさんなら出来ないことじゃないわ。
テオバルト様に比べると、城に居ない時間がたぶん多いんでしょうけどね。」
陛下もアマーリエ様も「そうだろうね。」みたいなことを仰り、お二人が肩の荷を降ろしたような表情をされているのがものすごく納得がいかない。
自分の未来が全然自由になってない。
なぜ陛下の後を俺がやることになったんだ?
何の因果か、陛下の後を勤めることに?自分では納得など行かないらしいソウタですが、それはそうでしょう。




