【第109話】弥生と卯月
いつもお読みくださって、ありがとうございます。
ソウタが、バカでした。本当の意味でバカなんだと思います。
粛清してやってください。
イウロペを吹き荒れた嵐のような恐怖は、自らの無自覚な殺戮の手段の中で己をさえも破滅へと導いていくことになった。
しかし、残されたゲーマニアンとその周辺国への影響というのは今後、数十年という歳月の間に多くの不幸と後悔を生み続けることになるだろう。
惜しむらくはその責任を負わせるべきありとあらゆる軍属が居なくなってしまったことだろうか。兵卒という単位では軍人も数多存命してはいるが、所詮は使われる方の身。
責任を負わせるには十分とは言えない者たちばかりである。
ゲッペルズをはじめ、軍令部というメンバーのことごとくはレネゲイドの砲火によって命を散らしており、同盟を結んだような国さえもなく、責任者不在の終戦となった。
ロンドンでの終戦協議を経て、ヒトラーとその妻の遺体を引き渡した俺たちは、神国艦隊と共に帰国の途に就くことになる。
アイアメリカ艦隊、イングリーンランド海軍などにあからさまな偵察を受けながらも可能な限り戦力を秘匿し、代わりに目くらましの意味と真似様のない最先端科学を見せつけることで耳目を引き、昂暉などを見せないままにレネゲイドのカタパルト発進などをデモンストレーションして見せた。
神国の正規空母の運用などにも盛んに質問などが寄せられはしたが、いつかこの世から軍事力が必要でなくなった時にその全ての秘密を公表すると公約して守秘義務を果たすことができたのだった。
数日の雨天によって、死の灰はすっかり大気中から洗い流されたようで、レネゲイドもロンドンやパリにその影響はないと太鼓判を押してくれていた。
そうでなければ俺がフィアと如月を連れ歩くわけが無い。
帰国までの合間にトウトの屋敷や陛下らへの土産にダイタクヤの屋敷、シロップの実家にアニエスの実家への土産。
クレハさんにクノエ連邦などあちこちの自分にとって大事な人たちへ気に入ったものを贈るためにフィアと如月と忙しく走り回るのも楽しい時間だった。
如月に似合いそうなドレス。フィアに来てもらいたい普段着なども見て歩き、二人が選んだシロップやアニエスの余所行きのドレスなどを買い漁り、子供たちに着せたいというパーティードレスなども選びに選んで購入した。
観光と土産漁りに多くの時間を費やしたが、如月もフィアも始終楽しそうで、家族での海外旅行もいずれは果たしたいと誓いを新たにした。
帰りの船旅は、最後まで一般警戒のレベルを維持したままとなり、通常訓練のシフトが粛々と繰り返されるだけであった。
帰路は毎日お気に入りの紅茶を楽しむことができて、俺の機嫌も二人に判る程に良かったそうだ。
「あなたがその紅茶を飲むときってホントに幸せそうにするのよね。」
「そうですねぇ、ソウタさんは本当にその紅茶を好きですよね。」
改めて二人がそう言うくらいに俺が良く飲んでいたらしい。
というのも、いつもトウトのマーケットで入手していた紅茶の製造元へ行く機会があったからだ。
そこで茶葉を育成しているわけではなく、スリランカで収穫された茶葉を現地で乾燥まで行い、イングリーンランドでもうひと手間を加え、オリジナルのブレンドを作り上げていると教えてもらえた。
いつも好んで飲んでいる銘柄を伝えると工場長や経営者と言う方々に取り囲まれ、固い握手を交わすことができた。加えてブレンドの現場にも立ち会わせてもらえ、いつも俺が好んで止まないブレンドが出来上がる全てを見せてもらえたのだった。
その時に一言だけ言わせてもらったのだが、もうちょっと、あと少しだけ奥深い香りが欲しいと、トンだど素人が贅沢を言ってみたのだ。
俄かに表情が険しくなり、工場長やブレンデットマイスターと言われる香りを作る職人たちが集まり出した。
余計なことを言ってしまったと、恥ずかしくもあり、申し訳なくもあったので「気にしないでほしい。素人の言う事だから。」と伝えたのだが、始まってしまったミーティングは議論を増して俺にも帰るなと強い語気で念を押された。
かなりビビってしまっていたのだが、マイスターたちが試行錯誤する全てを味見させられ、いくようにも変わる香りに感心してしまったものだったのだ。
その中で強い香りを排除し、メインになる香りの茶葉の量を少しだけ増やしたものが思いもかけない芳醇な香りを立たせ、俺は満足感を伴った深いため息を漏らした。
成し遂げたという満足感を皺の刻まれた顔に満面に表したブレンデットマイスターから握手を求められた。
とても美味しいと伝えると「ソウタスペシャル」とだけ伝えられ、それが商品名だと後から知ることになったのだ。
手際よくブレンドされた「ソウタスペシャル」をたっぷりと四角い缶に詰め込まれ、頂いて帰ることができたのは、俺の土産としてとても貴重なものとなったのだ。
帰国後にマーケットに行くとすでに輸入されており、「ヤマノベ公爵家専用ブレンドができました。」とポップが添えられており、気恥ずかしいと言ったらないのだが、一番人気の商品になっていると聞かされ、嬉しいモノだった。
三か月の作戦行動を終えて、トウトの港に全ての艦が凱旋を果たした。
艦隊司令長官から陛下へ帰国の挨拶があり、戦闘詳報と今回のことの顛末の全てが伝えられると同時に、俺も事実の全てを伝えることになった。
速記士がそれぞれの会話の全てを書き留め、陛下の承認を受けてから各国語に翻訳され書簡として私掠免状を用意してくれた国々へと届けられる。
「ソウタ殿、今回のご活躍は特別なものだったと言えると思います。究極の純血主義に基づいた思想や主張がもたらした結末は何だったか。
そしてその対極に位置しているのがあなたです。
フィア殿がサキュバスであって、如月殿が魔剣であってもシロップ殿、アニエス殿と共にとても陸奥まじく、どこの貴族家よりも豊かで温かい家庭をお築きになっていらっしゃる。
ライカン族のご家族はクノエ連邦にも神国にも必要な頭脳でいらっしゃって、養女に迎えられたバステト族のご息女はこのセントラルキャッスルでは人気を独り占めされているのだよ。
あなたがあなたらしくしてくださると、どうやら世界が本当に落ち着きを取り戻すようです。」
そんなに褒められたって、何にも出ませんよ?とお伝えしたのだが、微笑みを漏らされて握手をすることになった。
慰労金として少なくない金額を支給され、今回の遠征は終わりとなった。
港に迎えに来てくれているシロップとアニエスをそれぞれ抱き上げて、健康状態を確かめる。
「どうですか?安定期になりましたし、そろそろ運動も始めているんですよ。」
「ああ、ちょうどいいと思う。シロップも二人目だから落ち着いてくれているようだね。でも無茶はダメなんだからな。」
「はい。」
「私も調子がいいんですよ。ですが、やっぱり悪阻が無くてこの子も女の子だと思うんです。シロップちゃんも同じで辛くないんで申し訳なく思ってます。」
下を向きながら伝えてくれるアニエスに上を向くように言って、キスを降らしてやる。
「バカなことを言わないでくれるか。シロップとアニエスの産んでくれる子は女の子でいいんだよ。俺がそれを望んでる。シロップの産んでくれる娘は可愛い娘がいいと思ってるし、アニエスの産んでくれる娘はうんと綺麗な子がいいと思ってる。
如月の産む子はまさに妖精のような子だろうし、フィアの産む子は将来その美しさで誰もがお嫁さんに欲しいと思うだろうさ。
男なんてその辺にいっぱいいるじゃないか、俺の娘たちは俺が気に入る良い奴を見つけてきてくれるさ。
俺が欲しいのは娘だ。
お前たちはいつも俺の期待に応えてくれているんだよ。
だから、そのお腹の子に元気に産まれてきてくれることをどんなに俺が待ちわびているか、ちゃんと伝えてやってほしいんだ。
二度と申し訳ないなんて考えを持たないでくれないかな。」
飛びついてくるシロップにもキスの雨を降らせてやる。
「ソウタさんがそう仰るのであれば、私たちももう男の子が欲しいなんて言いません。初めてハッキリと考えを伝えてくれましたが、ソウタさんは本当に私たちのことしか考えてないんですね。」
俺の頬に心からのキスをくれるフィアも愛おしくてならない。
「シロップとアニエスはきっと二人で9人の神話の女神を産んでくれる。如月は一人で11人くらい生んでくれるんじゃないかな。もう、名前を考えてあるからな。
フィアにはどれだけの娘が生まれるだろうか。
そのうちにシルファも良い旦那さんと巡り会うだろう。そしたらまた俺が嬉しくなるような娘を産んでくれて、俺をお爺ちゃんにしてくれるだろうさ。
今までに一度も息子が欲しいなんて思ったことは無いぞ。」
「あなたは嘘をつかないわ。だったら私たちはずっと娘を産み続けてみせる。覚悟しておきなさいよ?」
「ああ、覚悟はもうできてるからな。それよりも如月はちゃんと自分も含めて12か月分の家族を産んでくれるんだろうな?」
「ばっ、バカじゃないの!?そんなに産める訳ないでしょうに。」
「いいや、産んでくれるまで許さない。次の子の名前は”弥生”だ。さぁ、布団に行こうじゃないか。」
「や、弥生ってまだ産んでないわよ!」
如月の言葉はさっそう無視で、如月を小脇に抱いてみんなと一緒にベットへと向かう。
今日産んでくれるなら一晩付き合うと耳元に囁くと、俺の妻は真っ赤になってそっぽを向く。
ぎゅっと如月を抱きしめ、その形の良い唇を思う存分に頂くことにして、有無を言わさない抱擁と愛撫をプレゼントすると恥ずかしがりながらも大変な興奮をしてもらえたらしく、終いには「今日産んでも構わないの?」なんて嬉しい言葉を紡いでくれる。
「俺に任せてくれるかい。」
俺の返事を聞き、無言で頷いて見せる如月を更に可愛がってしまったのは仕方のないことだと思うのだ。
フィアも真剣な表情で俺にまさに頼み込むとでもいうのだろうか、それほどに真剣に愛情を求めて来てくれた。
「フィアも今日、子供が授かるといいな。今日じゃなくても毎日愛し合っているんだから、慌てる必要はないぞ。いつでも大歓迎だからな。」
「はい、慌ててるわけじゃないんです。でも、あっ、あああ。でも私もユイの妹を産んでやりたいと思います。」
「もちろんだ。ユイの妹と言えばシズだな。静かなという意味の名前を考えてあるから遠慮なく妊娠してくれていい。」
全てが許されていると、そんなことを理解してくれたフィアも注がれる愛情をこれ以上は無いという快感と共に受け取ってくれたようだ。
「ああああ!」一際昂った気持ちのままに満足してくれたようで、こちらが嬉しくなるような表情で休んでしまった。
ちゃんと子供が出来るといいね。
シロップとアニエスもまたいつもより何割か増しの美乳を俺に堪能させてくれて、お返しにたっぷりの愛撫と愛情を分けてあげることができただろうか。
俺の可愛い妻たちが俺とたくさんの愛情を確かめ合って、久しぶりの満足感に満ちた睡眠を得てくれたようだ。
如月は出産の準備と言い、剣の姿に戻って剣立てに休んでいる。
その出産は一瞬だと言うが、その後の子守りもあるだろうしと俺はフィアとシロップとアニエスをベットに寝かせ、如月の側に寄り添い、如月の出産を待った。
深夜になってもその気配がなく、実際のところ少し心配になってきたころ。
もう午前3時ごろになっている。
如月に変化が現れ始めた。燐光を纏うように如月が淡い光に包まれ始めた。
優し気な暖かそうな紫の光が如月を包んでいる。
それが少しずつ強さを増してきて、一際明るく光った時に如月に聞いた通りに雫が零れた。
一瞬の変化は確かに短い時間だったのだろうが、そこまでの待機時間と燐光の美しさ。零れた雫が瞬間、美しい鞘を持った小太刀となって実体化した。
将来はこんな美しい小太刀となって俺を守ってくれるのだろうと思わせる。睦月はどんな姿だったのだろうか。
見惚れる暇もなく小太刀は一人の赤ん坊になった。
むずがって泣くこともなく、俺に抱かれるとまだ産着も来ていないがキャッキャと笑い声をあげるのだ。
俺と如月の弥生。生まれてくれたことに感謝したくなる。
如月の子であると、フワフワとした紫髪が主張している。それさえも愛おしいと思える。
視線を感じて顔を上げると、涙を流している如月が居た。
「どうしたんだ!どこか具合が悪いのか?」
「あなたはいつもそう。私たちのことしか考えていないのね。弥生を見つめるあなたを見ているとどうしても涙が流れるの。
不思議よ。嬉しい筈なのに、嬉しいより、ありがとうと言う気持ちが先に沸いてくるの。私たちを愛してくれてありがとう。って、どうしてあなたはいつもそうでいられるの?
辛い時もあるんじゃなくって?悲しい時もあるでしょうに。」
「そりゃあるよ。辛い時も悲しい時も、悔しい時だってたくさんある。でもね、如月が居てくれてそれが癒されるんだよ。ああ、俺にはこんなにも愛おしく思える女がいるんだ。ってね。
俺は神でも何でもない。如月と同じように喜怒哀楽に感情を乱されているよ。でも、それを慰めてくれる女性が居てくれるんだ。
如月が居てくれれば倒れそうな時でも空元気でも立って見せられる。睦月や弥生が居てくれるから途中で投げ出したりしない。
娘たちが幸せを掴む瞬間を見ていたい。
俺にとっての生き甲斐なんだと思うよ。如月が怒ったり喜んだりしてくれる表情を見ているのが好きだ。如月を見ているととても幸せになれる。
だから、俺の方こそありがとうと伝えたいよ。」
如月は睦月がみんなと眠っているのを確かめて、随分伸びた睦月の髪を撫でてから俺のうえに背中を預けるように乗ってきた。
如月を抱きしめるように背中から支え、如月の抱く弥生を二人で愛でる。
東の空が少しだけ明るくなろうと言うときに、如月のおっぱいをたくさん飲んでくれた弥生も落ち着き、スヤスヤと寝息を立てている。
さすがに疲れたろう如月も舟をこぐように眠そうにしている。
「如月、お前たちを抱いているから少しお休み。」
「そうね、そうさせてもらうわ。でも、本当にありがとう。」
ようやくにそれだけ言うと、如月はすぐにも休んでしまった。
その小さな体を抱きしめ、離さないと誓った気持ちを新たにしながら俺も少しの睡眠を得る。
辺りが賑やかになり、俺の目が開くとシロップもアニエスも俺の前に立って如月の夕べ産んでくれた弥生を愛おしそうに見つめている。
フィアも二人の肩を抱きながら嬉しそうな表情で弥生を覗き込んでいるんだ。
如月はと見ると、まだ休んでいるようで起きる気配はなかったが、弥生は「うぶぁ、うにゅ。」と三人の妻たちに盛んにアピールを続けている。
三人の足元には睦月もユイも、カーリオもクレイオも集まって来ていて、話しかけるようにしている弥生に対して手を握ってみたり、頬を撫でてみたりとお姉さんぶりを発揮している。
その横でシルファが子供たちが思わぬ行動をしないようにとハラハラしながら番をしているような状態だった。
「シルファ、おはよう。すまないな、お姉さんに全部押し付けたみたいで。」
褒められたことが意外だったようで、照れたように笑いながらも「そんなことないにゃ。一番お姉さんだからにゃ。」なんて、生意気を言ってる。
髪と、耳を撫でて、ありがとうと伝えると俺の左腕に掴まってくる。
さすがにこれだけの注目を集める中で、安眠を貪るわけにもいかず、如月も目が開いてきた。
「ど!?どうしたのよみんな。」
随分と驚いたようで俺の腕の中に居ながら、慌てて立ち上がろうとした様だった。
きゅっと、如月を抱いて慌てた動作をさせなかったのだが、それで自分が弥生を抱いていたことを思い出したようで、体の力を抜いて俺に背中を預けてきた。
如月の髪に顔を埋めるようにして「大丈夫かい?」と尋ねると、如月は「ごめんなさい。」と自分が思わぬ行動をしようとしたことを謝ってきた。
「如月、おめでとうな。ようやく俺の二人目の娘を産んでくれたよな。」
「みんな、先に二人目を産ませてもらったの。弥生って名前を貰ったのでこれからよろしくお願いしたいわ。」
フィアたちにそう告げると如月はもう一度俺に体重を預けてきた。
「如月ちゃん、二人目をおめでとうです。私もアニエスちゃんもそんなに短い時間でソウタさんの娘を埋めません。ちょっと羨ましいです。きっと、フィアちゃんだって嬉しいって思ってると思います。」
「はい、如月ちゃんが羨ましいです。シロップちゃんもアニエスちゃんもソウタさんに愛されてて、ちゃんと二人目を授かっていますし、自分が思い通りにならないことがちょっとだけ悔しいですね。」
「おい、フィアには言っておいたと思うぞ。俺がとても、とても大事にしているお前たちには伝えきれないほどの感謝をしている。それなのにお前たちは俺を嬉しくさせるように娘たちを身籠ってくれているんだ。
それはとても貴重で、責任のあることだよ。
フィアにユイの妹がまだ生まれていないのは、もうちょっと待った方がいいからなんだと考えられないかな。
ユイにとって、フィアにとって一番いい時に必ずユイの妹が授かるから、その時に元気な娘を産んでくれればいいんだよ。」
わかってる。そう言う表情でフィアは俺の頬に手を添えてくれた。
「はい。勿論判っています。ですから、今日弥生ちゃんを迎えることができたことはヤマノベ家にとっても嬉しいことしかありません。
如月ちゃん、私にもユイの妹ができたら一緒に喜んでくれますか?」
如月は相変わらず俺に背中を預けてはいるが、フィアに手を伸ばししっかりと互いの手を握り合ってから、「もちろんじゃないの。喜ぶにきまってるわ。」そう答えてもう一度フィアの手を強く握っていた。
俺の妻たちが固い絆で結ばれていることを再確認した瞬間だった。
俺とフィアが陛下とお妃様に如月の出産を告げるとアマーリエ様は、そのあっという間の出産を羨ましいと仰られ、落ち着いたらセントラルキャッスルに連れてきてほしいと希望された。
それは俺にとっても望ましいことではあったし、アマーリエ様の産まれるだろう次のお子が男の子だったらどの妻の子を嫁に迎えようかと悩ましいのだと伝えてくれた。
陛下は、それぞれの妻たちの産んでくれた子を、自分たちの産む子に嫁がせて、フィアともシロップともアニエスとも、もちろん如月とも末の長い縁を築きたいのだと仰られた。
その場合は、もっと勢いよく男子を授かってほしいのだが。そう述べると、アマーリエ様は「任せてください。」と仰られ、テオバルト陛下はアマーリエ様を心配されて、「大丈夫なのかい?」と念を押すようにしておられた。
我が家でも如月が弥生を産んだ朝には朝食の時間に新しい家族が増えたことを告げると、アンニさんも自己申告でユンカーさんとの間に跡取りを授かったことを報告してくれた。
アマーリエ様の二人目のお子の誕生を控え、ほぼ同時期にシロップとアニエスにできた俺の子と、ユンカーさんとアンニさんに出来た子が産まれる予定が判り、華やかな様子に我が家の食堂が包まれた。
それからどれだけもしないうちにフィアにも子供ができたことが判り、フィアの喜びようも大変なものだったが、アマーリエ様がそれを喜ばれたのもとてもありがたかった。
フィアが真剣な表情で俺に子種を求めた日に、図らずも妊娠することができたようで、妻たちの間では妊娠するかしないかは「気合」だという結論を得たようだった。
俺としては毎度に気合の籠った睦み事と言うのも遠慮したいものだが、妊娠中のフィアとシロップとアニエスにも、弥生を一晩で産んで見せた如月にもそのように理解されてしまったのは、これからの夜の営みに多大な影響を与えるのではないかという恐怖にも似た俺の感想となった。
そして、妻たちの妊娠が重なると、その時にお腹の空いている者が割を喰う事になり、毎晩のように如月が俺のお相手をしなければならなくなってしまった。
「やっ!そんな、そんなにあああ!?突いちゃダメ!だめっていってるのにぃい!?」
弥生の世話もまだまだ大変なわけだし、体に不自由のない如月が孤軍奮闘しているというのに、フィアもシロップもアニエスも夜の生活が「まった!」の掛かった状態である故に俺の夜の発散もすべて如月が受けとめているような物だったのだ。
「お前も少しぐらい我慢しろよ!?」という意見もあるのだろうが、陛下や貴族様方の依頼による討伐や雑事全般をこなすと色々なストレスも溜まるんだよ。
中には得意な魔物退治だけじゃなくて、貴族様の係累で起こる様々な世代交代に起因するトラブルや、人間ドラマ的な許されざる恋であったり、不逞の調停であったりと、俺がやるべきではないだろうにと思わざるを得ないような些末な事もたくさんあったんだよ。
トウトの領地貴族の子爵家で、子爵様の奥さんがどこぞの男爵様と子を設けたとか。それを俺がどうできると思って依頼してきたのか?という事だ。
ここまでくると最早、何が問題なのかも俺自身には判らないぞ。
問題があることは当然わかるが、俺の解決するような問題なのか?が、判らないのだ。
こうしたことが俺のストレスになり、自重しようとは思うのだが、妻を愛して昼間の疲れを癒すことがやめられないのだった。
俺にハーレム体質がないことも災いして毎夜に如月が被害者となっている。
フィアたちにも全く公平に愛情を注いで入るが、現在妊娠中の妻たちと交わるわけにはいかないのでどうしても如月だけが俺との夜の生活を一手に引き受けざるを得なかったのは俺にも反省が求められるかもしれない。
結果、如月がどうなってしまったかというと、弥生を産んで一月もしないうちに次の子を産むことになったのだ。
さすがにこれには俺も驚いたが、如月が「ヤバいかもしれない」と自己申告してくれたおかげで、不義理をせずに済んだのは不幸中の幸いだったかもしれない。
まるで双子を産んだかのような状態になったが、弥生もまだ生まれて間もないというのに如月は俺の愛娘、「卯月」を産んでくれたのだった。
魔剣の夜の生活がどういった仕組みになっているかなんて当然誰にもわからない。
如月にもそれは判らないというのだから、よほど前例のない事なのだろう。
だって、一年は再び妊娠することは無いって本人が言っていたはずなのに、ひと月もしないうちにもう一人を産んでくれたんだから。
しかし、少しばかり自重することも必要なのかもしれないと誰にも言いはしなかったが、思わざるを得ないことになってしまった。
ついこの間に、弥生のことを祝ってくれた屋敷のメイドたちもさすがに立て続けに娘を授かったと申告しても、卯月を弥生と一緒に抱いた如月を見ても、素直に祝福してもいい物かという表情をしたメイドたちが如月のことを労わりつつ心配そうにしているのが心に刺さるのだった。
極めつけはアマーリエ様で、俺が如月がまた子を産んでくれたんですと告げると、何とも言えない半眼で、汚い物でも見るように俺をねめつけられたのだ。
「公爵様、私はそのような勢いで子を授かることは不可能です。少しばかりはご自愛されることも必要なのではございませんこと?」
などと鬼畜なの?バカなの?
そう言う意見を顔に張り付けたようなコメントをくださったのだ。
陛下は、「やっぱりな。」などと仰られ、セントラルキャッスルではヤマノベ公爵は野獣なのだと、誠に不本意なレッテルを頂戴することになった。
若いメイドなどは、俺と視線が合うと妊娠するかもしれないなどと囁き合っているそうで、アマーリエ様も気を付けなさいとしか言われなかったものだから、メイドたちに対して無実の罪を背負う事になってしまった。
もうちょっと考えながら生きることにしようと思うよ。
「や!あああん、ちょっ、ちょっと休ませて、やぁあああ、いいの!」
如月を愛しながら明日は如月を休ませないと。と、出来そうもない事を反省してみるのだった。
皆様方のお蔭でもって76,000PVを累計するまでになりました。
ちょっとした鬱展開を経て、まるでバカ話になってしまったことを深くお詫びします。
これほどに反動が大きいとは自分が驚いているのです。勘弁してやってください。




