【第108話】死の灰
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
定期的に更新すればいいのでしょうが、どうしてもこの話を終わらせたくて。
いつもの1.5倍マシです。
寄港するどこの国でも最大限の便宜が図られ、所々で陸に上がると兵士たちも俺たちも土地の旨い物を散々に振る舞ってもらえたり、いい宿を勧められたりとしたものだ。
戦闘艦の日常空間というのはほぼストレスとの戦いでしかないからか、こうして当たり前の宿に泊まらせてもらえたり、広い浴室を堪能出来たりと言う小さな幸せをかみしめながらの旅となった。
船で一番偉い艦長さんでさえも与えられる部屋と言うのは僅か畳一枚分にしかならない。その狭小空間を折り畳みの寝台が占め、申し訳程度の文机と壁に作りつけられた書棚。身だしなみを整える顔さえも映り切らない鏡と両手がはみ出してしまう洗面台でいっぱいだ。
それでもフィアには毎日同じベットに居てもらわなければならない。私掠免状を持つ身分と言う事と、サキュバスを妻にしているという事情を考慮されたからか、客室らしい場所があてがわれている。
お蔭さまで、畳二枚分の広い部屋に住まわせてもらっているのだ。
ベットさえ広ければそれでいいと割り切ることで船旅を続けられている。如月とフィアがコンパクトな体形であったことも幸いして、その僅か二畳の部屋でも意外にも快適に暮らせてはいる。
「あ、あん、ちょっとあなた、お隣もいるんだから、そ、そんなに突いちゃ、だ、だめなんだから!あああ!」
壁を這うように蒸気や様々な物が流れている配管が壁と壁の間、時には部屋の中を通っており、思ったよりもずっとうるさいのだ。
それが判ってからは夜の営みに遠慮が無くなり、自宅に居るように如月を愛している。
フィアも同じように愛してあげられ、二人にはあまりストレスがないようにしてもらえている。
「ソウタさん、あん、ひゃん!噛まないでくださいよぅ、やぁ、それだめです!」
二人がいつものようにしてくれることで俺もそれなりに発散はできている。それでも狭い空間で過ごせば寄港した時だけはと、広い宿を取って思う存分に可愛がることにしていて、二人にも広いお風呂と広いベットが何よりの楽しみになっていると聞いた。
日中は甲板に上がったり、食堂に居たりと色々な場所に居られるので、気分が滅入ることもないし、アスバルトさんを介してVF-40の航空戦隊やそのほかの搭乗者などとも親睦を深められ、楽しんでさえいられる。
ただ航行している最中でも、彼らは絶えず訓練を重ねており、体力づくりや戦術の勉強会、離発着の訓練に高空での戦闘訓練と、見ているとほとんど休んでいないように見える。
アスバルトさんに聞くと、「狭いなんて思う間もなく寝られますよ?」などと恐ろしいことを言うのだ。慣れとは怖い物である。
フィアは、「ソウタさんがパイロットじゃなくてよかったです。」などと心底安心していて、そうじゃなければ餓死しているかもしれないと白状していた。
如月もそれだと寂しすぎて死ぬと告白していたのが身につまされる。
聞くところによれば、やはり隊のほとんどのパイロットは独身で、フィアや如月の言う事が世の女性の共通した意見なのかもしれないと考えさせられた。
食事は最高に美味しくて、10日に一度のカレーは海軍の伝統だとかで、大人気メニューの一つだ。
俺はお節介を焼いたりしていないからね。
アカギだけ唐揚げ祭りをするわけにもいかないと思うんだよ、フィアは食べたがっていたけどね。
一度、赤道を超え、もう一度赤道をまたぐまでが長かった。
しかし、北上を続けるとアフリカ大陸を西側から回り込んでいることもそろそろ終わりとなり、ポルトガルが右舷に見えるころには哨戒機の数も増え始め、頻繁に離発着する昂暉が増えてきた。どれも雷装、爆装している機体ではなく哨戒と万が一の迎撃任務のために飛び立つ戦闘機ばかりだった。
赤いガルグイユを垂直尾翼に付けたヒメがカタパルトにフックを掛けると蒸気によって撃ちだされていった。
アスバルトさんも哨戒の任務があるのだ。
アカギ、カガの広い甲板に水蒸気がたなびき、対空電探が盛んに電波を出しているようだ。アンテナが回る仕草も忙しそうだ。
もうすぐ日も落ちようかという時刻になってから、東の空が昼間のように明るくなった。
ここから真東の方角になると思うが、今落ちた太陽がもう地球を一回りしたのかと勘違いするほどの明るい光が夜空を昼間に変えているように見える。
「なんだあれ?」
「さぁ、何でしょうか。太陽がもう一度上ったように見えますね。」
「こんなこと、初めてじゃなくって?嫌な予感がするわ。」
フィアと如月が俺の両脇にくっついて来て、シャツを掴んでいる。
甲板指揮官に今上がっている機体があるかと問うと、どの空母からも一機も上がっていないと言う。そうで有れば戦闘の光とも思えないが、如月ではないが言いようのない不安が胸に湧き上がることを止めようがなかった。
間もなく狂った太陽は登る時間を間違えたとでもいうように暗くなり、日暮れから夕闇へと時刻が映っているのは間違いが無いようであった。
フィアと如月にたっぷりの愛情を注ぎ、二人が休んですぐに非常警報が鳴り響いたのは、ちょうど日付が変わる時間と言ってもいい。
今の非常警報は「警戒体制維持」だ。つまり急いですることもないが、何か起こるかもしれないという状態だとでも思えばいい。
二人も一度目が開いたのだが、俺の顔を見てまた眠って行ってしまった。
そんなに呑気な顔をしてただろうか?
それからしばらく、俺は寝るでもなく起きるでもない状態が続き、二人を胸に乗せたまま幸せな気分に浸っていた。
ゴンゴンという無機質なノック音が響き、誰かが来たことが判る。
「なんでしょうか?」
「夜分失礼します。艦長がお呼びですので公爵様に艦橋までお越しいただけますでしょうか。」
やれやれだ。
如月とフィアを起こさないように胸から降ろし、着るモノを身に付けてから通路で待機してくれていた兵に礼を述べる。
「待たせて申し訳ない、案内をお願いできますか?」
無言で頷いた兵は俺の前を早い足取りで進んでいく。
隔壁扉はフィアが何度も頭をぶつけるほどに低く、気を付けながら潜らなければならない。如月が扉をまたいでも頭をぶつことは無く、フィアだと確実にヒットするという難儀な仕様になっている。
隔壁ごとに歩哨が立っており、非常時には問答無用で扉を閉じる体制になっている。
これは先ほどの警報で取られた体制だろう。
上への急こう配な階段もすでに随分と登っていると思うが、各階の床面を抜けるたびにそこにも兵たちが立っており、敬礼をくれるとすぐに隔壁を閉じて行った。
「随分と物々しいな。」
独り言だったのだが、先行する兵から「非常事態ですので。」とだけ返事が来た。
必要最低限の照明しか灯されていない艦橋に入ると、士官たちが集合している。
「ヤマノベ公爵、夜分に申し訳ないです。」
艦長が一言くれてから、海図の広げられたテーブルへと招かれた。
「アイアメリカの海軍から連絡が入りました。公爵も夕刻の異常な光はご覧になられましたな?」
「はい、気分のいいモノではなかったですが、ハッキリと視認しています。」
「結構。その光はゲーマニアンの首都、ベルリン上空で発生したものらしくですな、以降に地上軍との交信が途絶えているというのです。
ポートランド陸軍とローレシア陸軍にも同じような状況が起こっておりまして、アイアメリカの地上部隊とも連絡が取れないそうです。
また、レーダーにもジャミングが掛かっておりましてな、ベルリン方面はレーダーが真っ白になっておりますよ。」
「どういう事でしょう?」
「それは私どもにもわかりかねます。公爵であれば何か判るのではないかと思い、お越しいただいたわけです。」
「・・・」
強い光が発行し、レーダーが真っ白。そして無線が通じなくなるような状況とは?
電離層が地上に降りてきたとでもいうのだろうか。
まて、それならば向こうでそのような状況になる事象を知っている。
「艦隊はベルリンに向かっているのでしょうか。」
「いや、状況が確認できませんのでね、イングリーンランドの軍港へ寄港しようとしています。でもそれが?」
「レネゲイド、状況確認。ガイガーカウンターはどうなっている。」
「はいマスター、20分前より、大気中の放射線濃度が著しく上昇を始めています。あと30%上昇すると、長期的に人体に影響が出る可能性があります。
距離を置くか、放射線防護スーツを着ることを推奨します。」
スーツは無いが、距離を取ることは簡単だ。
次元断層の向こうでもサボらずに監視は続けていてくれるようだ。
「艦長、申し訳ないが180度回頭し離れて欲しいのです。私の考えに間違いがなければこのまま近づけば皆の体調に悪い影響が出るでしょう。急ぎましょう。」
何だかわからないという表情をして、副長や士官連中を見回している。
「早く!一刻も猶予はありません。」
俺の強い語気に全員が身を固くした。
「全艦に通達。直ちに180度回頭し、海域を離脱する。いそげ!」
発光信号が放たれ、了解を示す汽笛が各艦から返る。「フィーーー」と言う艦内警戒の警報が鳴り、アカギの巨体が旋回を開始した。
「面舵転舵180度、ヨーソロー」
「面舵転舵180度!ヨーソロー」
航海士と操縦士の間で命令の確認が行われ、舵輪を命一杯に時計回りに回している。
機関士が増速を指示され、「第一戦速上げ!」と叫んでいる。
深い場所でエンジンが唸りを上げ、俄かに速度が上がり始める。
「ヤマノベ公爵、これはどういったことでしょうか。」
艦長にしてみても状況が判らないでは済まされないだろうし、他の士官たちも不安そうにしている。
「夕刻に見ました光は信じがたいのですが、新型の爆弾だと思います。」
「爆弾。あのような閃光を放つのですか?」
「艦長は私が”迷い人”であることは承知していらっしゃいますか?」
「神国国民で、それを知らぬ者はいないと思いますが。」
こっちが知らなかったよ。
「私のいた世界に原子爆弾と言う決して使ってはいけないと言われる爆弾があったのです。それは高空(地上600m程度)で起爆されると強い閃光を放ち、超高温の衝撃波を生み出し、地上の全てを蒸発させてしまいます。鉄さえも消えて無くなる程の高温に曝されるために、生き物は瞬時に燃えだしてあまりに強い閃光に路面に人影が焼き付いたとも言います。
爆心地から半径3kmは全てが蒸発し、半径5kmの範囲では音速を越えた衝撃波によって人工物の全てが吹き飛んでしまいます。また爆発後に非常に強い放射線を残しますので、人体に様々な悪影響を与えられるのです。
これが非常に広範囲に及び、先ほど慌てたのもその放射線を聖銀の巨人が検出したからです。血液に異常が現れたり内臓に不治の病を発症します。
放射線自身は自然界にもあるので闇雲に恐れる必要はないのですが、この爆弾によって撒き散らされる”死の灰”と言うべき放射線を持った残滓は、あまりにも強い放射線を放つために絶対に避けなければならないのです。」
シンとした静寂に艦橋が包まれた。
「公爵殿、その爆弾がどうしてここにあるのです?ベルリンはどうなったと思われますか?」
俺が閉ざした口が全てを物語っているとばかりに、艦長は唇を戦慄かせているようだった。
「そんな、もう、もう誰も生きてはいないとでもいうのですか。」
「原子爆弾がどうしてここにあるかは判りません。しかし状況がそれを物語っていますから、俺たちがベルリンへ近づくわけにはいかないのです。
明日陽が上ってから聖銀の巨人で状況確認を行います。レネゲイドを使えば環境保護ができますから俺たちは放射線の影響を受けずに済みます。」
艦橋に居たみんなは俺に礼をするように頭を下げてくれた。しかし、戦地には神国の兵たちはいなかったはずなのだがな?
イングリーンランドの沖合西方に20km以上の距離を置いて一旦停泊とすることにした。
幸い、偏西風の関係で死の灰がこちらに来ることはなさそうで、レネゲイドのガイガーカウンターが上昇することは無いらしい。
夜が明け、8時ごろになった。
フィアと如月を起こして身支度を整えてから、士官食堂へと出かけて艦長らと朝食を取ったのだが、誰も昨夜のことを語ろうとはしなかったのだ。
俺はこの後のミッションのためにフィアと如月に詳細を伝えることを忘れなかった。
全く以って良い話ではないのだが、することに理解をしておいてもらわなければいけない重要事項をこの二人に秘密にするのは俺の主義ではない。
二人の朝食の様子を窺いながら、ほぼ食べ終わるころに話を始めた。
昨日の夕方の閃光が何であったか。それがどう言うモノだったか。
そして、それがもたらしたであろう結果と、これからそれを確認しなければならないこと。
想像からしか話せないが、多分どうなっているだろうかという予測。
真剣に二人は聞いてくれたが、楽しくない未来しか想像できないらしく熱い紅茶が冷めるまでカップを取ろうとはしなかった。
「二人に知っておいてほしいんだが、断罪を負わせる相手は自分のことを神か何かと勘違いしているようだ。しかし、その技量や持っている手札が必ずしもショボいとは限らない。
軽く見てるとこっちが怪我をするかもしれない相手だと思うよ。
フィア、魔力を限界まで引っ張り出すかもしれない。そん時は必ず守ってやるから気を失うまで力を貸してくれ。
如月、お前に突っ込む魔力、今まで以上になることもある。だが、絶対に折れるなよ。
お前が居なくなることを絶対に許さないからな。」
「はい、ソウタさんのためになら魔力の全部を差し上げます。お姫様抱っこで守ってもらえると嬉しいです。」
「判ってるわ。あなたがしっかり魔力を籠めれば大丈夫よ。何だって切り飛ばしてしまいなさい。」
「出撃だ。」
「「はい!」」
アカギの甲板にレネゲイドを召喚し、左右のカタパルトにそれぞれの足を載せる。
何かのアニメで見た一度やってみたかった発進シーンだ。
「公爵殿、出撃よろしいか?」
飛行甲板員の士官から無線が入る。
「いつでも!」
言うや否やレネゲイドを吹き飛ばすような加速が始まり、レネゲイドもインパルスモーターを始動する。
僅か30m足らずの加速で一気に空へ放り投げられた。
「マスター、このカタパルトは魔力の節約にとても役に立ちます。」
レネゲイドが言うように垂直離床はどのシーンよりもエネルギーを必要とするから、初期加速を得るのは稼働時間管理にも非常に有効なのだ。
しかも俺的にはかなりカッコいいと思うのだ。低く腰を落とし、前傾姿勢となったレネゲイドが前方を睨みつけると同時に加速し、飛行に入る。
癖になりそうだった。
妻たちには理解の外だったようだが。
艦隊から十分に距離を置いて、音速の壁を超える加速に入る。
バリバリと言う雷鳴のような空気の壁を割る音を残して加速に入り、スーパークルーズの状態に到達する。
マッハ10で巡航し、すぐにもゲーマニアンの上空に到達した。
その先に見える縦に伸びあがるような雲が風に流され始めているものの、それがキノコ雲であったことは間違いないであろう。
音速以下にまで速度を落とし、ベルリン上空に侵入した。
「レネゲイド、ガイガー数値は?」
「はい、外気はかなり危険な数値を計測しています。コクピット内は放射線の影響は皆無です。」
「常時監視していてくれるか。」
爆発の現場に立ち会ったわけではないが、高度600mから徐々に地表へと近づいていく。
「ソウタさん!地上に何にもありません。」
フィアの言うとおりに爆心地はすべての人工物が蒸発してしまったのだろうと思われる。数千度と言う人が作り得ない高温に曝され、木造建造物はもちろん、石造りの建物さえも灼熱に曝されて瞬時に蒸発してしまったのだろうと思われるのだ。
見渡す限りに一つの街が消えて無くなっていた。瓦礫の一つも残すことなく。
周辺部に目を向けると、自然環境も人工の建物なども放射状に薙ぎ払われ、礼拝堂か何かの建物前にある石段づくりの5段ほどの階段に幾人もの人がいたのだろうと思わせる影が焼き付けられていた。
そこに遺体は無く、人がいた形跡だけが形となって、色違いの模様のように石段に映りこんでいるのだ。
隣の席で地上を観察しているフィアも、俺の膝に掛けている如月も一言も発することなく生き物の痕跡を探そうとしているようだ。
さらに爆心地から外周部へと様子を探ると、見たくは無かったが真っ黒の炭で出来た人形の等身大の模型があちらこちらに転がっている。
フィアはもう見たくないと目を閉じており、如月も涙を流しながら空を睨みつけていた。
「なぜ、こんな兵器が存在するのかしら。この結果を見ればわかるわ。これは悪魔の兵器よ。人が人に向けて使うような物じゃないわ。」
拳を白く変えるほどに握りしめている如月を抱きしめ、その意見を肯定する。
「そうだ。これは人が使う物じゃないよ。向こうの世界の70年前の戦争当時にな、これと同じ爆弾がアイアメリカによって開発されて、終戦の引き金を引くためにと負けを認めようとしなかった日本に対して使われたんだ。
その瞬間に14万人を超える人が消えてなくなった。それ以降も放射線が元でたくさんの人達が病気にかかり、苦しみながら亡くなっていったんだ。俺が知る限り、その後も毎年のように爆弾によって引き起こされる病でたくさんの人が亡くなり続けたんだよ。
ゲーマニアンとその周辺各国では、こうなってしまった以上は日本と同じ道を辿ると思うな。」
「バカげてますよ。戦いでも何でもないじゃないですか。」
嗚咽を漏らすように涙を流しながらこの狂った世界を睨みつけていた。
俺は事前に得ていた情報に基づいてドレスデンへとレネゲイドを向かわせる。
地下神殿のあると言うこの街に対して新しく会得した魔法を広げて行く。
「ディープサーチ!」
探知魔法と併用しながらヒトラーを始めとした狂った連中を探し始める。
心を落ち着かせ、対象を選別しながら地下にあるハズの空洞、宮殿を探すのだ。
レネゲイドに確認すると、ドレスデンも死の灰が降り続けたせいか、外はかなりの放射線濃度になっているという。そうであれば、ここに暮らす人たちにもこれから多くの癌に苛まれる人達が現れてくるだろう。
ヒトラーの隠れ住むこの土地がこのようになってしまうと、天に唾するではないが、自業自得とも言えるようだ。
それでもまだ生きているらしいヒトラーを見つけた。
なだらかな丘陵地帯の地下深く100mほどに大きな空間があり、200人程の人を確認することができ、そこの空気が今だ正常に保たれていることに少し驚いてしまった。
「二人とも、ヒトラーの居場所を特定した。ここからが本番だ。如月、俺の剣帯へ。フィア、レネゲイドを次元断層経由で直接地下宮殿へと持って行く。
放射線の影響はないようだが、戦と関係ない人がいないか確かめてから完全に破壊するぞ。」
「ええ、判ったわ。」、「はい、任せてください。」
「レネゲイド、状況を常に監視。次元断層で地下100mへ移動する。」
「了解。」
レネゲイドの落ち着いた返答が俺たちを冷却してくれている。
「いくぞ!次元断層!!」
大気中に虹色のトンネルが発生し、地下100mと直接の接続口が出来上がった。
レネゲイドは躊躇なくその中に飛び込み、急制動を掛ける。
飛行形態から地上形態へ瞬時に変形し、宮殿とも神殿ともつかない広大な空間へと降り立つ。レネゲイドの双眸が蒼い閃光を放ち周辺をスキャニングしているようだ。
「マスター、建造物の多くが鉄筋コンクリート造りのようです。スキャンの結果、近辺に生命反応はありません。
隣接のエリアに軍属が185名、民間人と思しき者が15名ほど確認できます。」
俺のディープスキャンでも同じ結果だ。
しかし、まだディープスキャンは広く、深く探査を続けている。迷い人が居るのではないか、そう考えていたからだ。
原子爆弾がこちらの人間に発想できるとは思えないことが一つと、シンカタやトウトに地震を発生させたサキュバスとの番となっている者がいるのではないかなど外の世界からの干渉があるような気がしてならない。
シロップやアニエスを一時、次元断層に匿ったというサキュバスとの契約者もいた。
あいつがこんな悪意のあることをするとは思えないが、そうした表舞台に立たない奴らについても気を緩めるわけにはいかないと考えている。
「レネゲイド、外部環境は?」
「外気温18℃、湿度40%、放射線レベル正常、大気中の成分に異常はありません。」
ヒトラーの居場所は判った。
周辺に居る軍属をスキャンする。ゲッペルズ宣伝相もいるようだ。
民間人は居室のような場所にそれぞれに暮らしているような状態で、拘束されている様子はない。多分だが、軍属の妻や親しい間柄の者たちなのだろう。
地下基地全てを覆い尽くす範囲をスキャンして、西側にウランの濃縮工場と原爆製造のための設備のある場所を見つけた。俺たちがいる場所からは随分と距離があり、この地下空間が一体いつから用意されていたのかと思う。
ウラニウム製造に関する設備は今は稼働していない様子だが、工場全体にある各設備の温度が高いことから、原爆製造の直後に使用したのだろうことが判る。悪魔め。
「この神殿を調査してから破壊する。フィア、如月、降りるよ。」
「はい、レネゲイドさんモニターをお願いします。初撃はバニシングライフルで。」
「了解。」
(あなた、ムリはしないことよ。)
そうだな。如月を鞘の上から撫でて、返事を返す。
ギリシャかどこかで見たような石柱が中央に二列並び、その間に作られた回廊を進むと北側の突き当りに神殿が建っている。内部を覗くがご神体のような物も装置、設備のような者もなかった。
スキャン済みなので、さらに下に隠し部屋があるかも確かめてある。
この地下基地全体の間取りも完全に把握しているので、視界にオーバーレイしている探知魔法に全員がプロットされているうえに、構造も薄い色がついてマップのように表示されていて俺たちの行動に迷いが無い。
円形の地下神殿をくまなく探して回ったが、特に注目するような物は何も見つからず、天井になる岩肌にも注意は向けたが、仕掛けも何もなかった。
純粋に神聖な雰囲気を演出した空間でしかないのだろう。
一時間もかからずに探索を終え、レネゲイドへと戻るとレネゲイドが残念なお知らせを伝えてくれる。
「マスター、戦闘車輌がこちらに向かっています。探知数62機、それぞれに魔法を使用する無人車輌のようです。」
「無人車輌?誰も乗っていないのか。」
「レネゲイドさんが魔法を使うと言いましたよ。」
その時に空洞内に大声が満ちた。
「侵入者の諸君、どこから入ってきたかは聞くまい。ただし帰れるとは思わないでもらおう。見たところは神国の巨人だな。
搭乗者はヤマノベとか言う公爵か?そうであればサキュバスを連れておるのだろう。
私にそのサキュバスを差し出せば、わが国でも公爵として重用してやろうではないか。」
「外部拡声。」
「了解。どうぞ。」
「髭のチビか。お前は最も触れてはいけない俺の逆鱗に触れたな。俺は俺の妻に向けられる害意を知ると手加減ができなくなるんだ。
お前たち全員、ここで殺してやるから最後はちゃんと埋めておいてやるよ。髭でも剃って待ってろ。」
「予を愚弄するな!5等臣民風情が気でも狂ったか!!」
「レネゲイド、バカの相手はもういい、全ての施設を破壊する。人的被害は考慮するな。」
「お任せください。」
レネゲイドの双眸が強い蒼の閃光を放ち、両手に構えたバニシングライフルを建造物に的確に叩き込んでいく。進入路と思われる大扉から興味のある形をしたカニの戦車が現れたが、バスターランチャーが肩から発射され、その奥の通路までマグマのようになっている。
天井が持たなくなったらしく、岩つぶてが降って来始めた。
「デストロイウォール。」
ほぼほぼ何もまともなものが無くなった空間をデストロイウォールで保護された鬼神が歩き回り、肩からキャノン砲として撃ち放されるバスターランチャーは多くの施設を貫通し、ウラン濃縮工場も跡形もなく消し飛ばしてしまっている。
ヒトラーたちが居た、作戦指令室のような場所もバニシングライフルで蜂の巣のようになっており、探知魔法に輝点として残っている数は少ない。
居室の方はあえて攻撃していないが、ヒトラーがそちらに逃げていないからこそであり、断罪の対象が居れば遠慮なくバスターランチャーを撃ちこんでいた。
あいつらはなんだ?
最新鋭の高機動車輌を一瞬でマグマに変えた。
私が求めて止まないレーザー砲を思う存分に使いこなしており、瞬時に地下宮殿が瓦礫となってしまった。
戦前から開発を続けた新型爆弾ソルを製造する工場は奴らが現れた神殿と反対側に配置されているというのに、砲は易々と撃ち抜いて見せた。
ゲッペルズは私の目の前でレーザー砲に飲み込まれて消えてしまった。
二人の士官に私が突き飛ばされなければ、私も光矢に飲み込まれていたであろう。
腰が抜けようとする自分の足を叱咤しながら、廊下に飛び出て逃げる。
私が逃げるという事そのものが屈辱的ではあるが、私の言葉に過剰な反応をした巨人のパイロットによって、なす術がない。
聞く耳も失ったかのようで、こちらからの問いかけの一切が無視され、拡声装置など周辺の設備もろともマグマに変わってしまった。
私の可愛がっているエヴァを迎えに行き、連れだって身を隠そうと考えたのだが、寝室への道がマグマに埋め尽くされ、あきらめざるを得なかった。
私が発した一言で私の愛する者が奪われたのであれば、パイロットの気持ちも汲むべきだったのだろうか。自分の伴侶を奪われようとしたならそれは報復に正統性を与えたことになるのか?
照明のついていない隠し通路をひたすらに這うように進んでいった。
地上に逃れれば森に隠れながら距離を置くことができるかもしれない。ただそれだけを考えて無様に撤退を決める。あの者たちは私の言う神とは違う。
純粋な科学と魔法の融合を高い次元で成功させている。
長い調査の末に私たちがたどり着いた結論をすでに具現化させた姿だったのだろうと考えられる。
いつか、いつか私もあれほどの成果を得ることができるはずだ。目に見えない神に頼るのではなく、手にした魔法の理論と実証を重ねて理論を確かめた科学的な現象の全てを行使すればあのような巨人も手に入れることができるのだ。
人のように動き、神のように焼き尽くし、龍のように空を駆ける。
万能にして繊細。緻密にして強力。人に制御され、自律して行動し、美しい。
思考の海に没入し、足の疲労を忘れながら地上への階段を急いだ。
地下から殺戮の爆音とレーザーの熱と気圧変化がもたらす熱風が上がってくるのだ。足を止めることも忘れ、ひたすらに手すりに縋りつき、萎える足を進ませ、地上へと逃げることしかできなかった。
一時間も掛かったか、ようやくに内扉にたどり着き開錠の操作ももどかしく手順を思い出しながら扉を潜る。
兵たちの控室と雑庫があるばかりのここにも誰もいない様子だ。
さらに外へと通じる砦門を開ける。
こちらは閂があるだけで両開きの小さな出来栄えだ。すぐに外につながっており、一部の者しか知り得ない山間部へと出ることができる。
兵たちの控室に一度戻り、携帯できそうなカバンに食べられそうなものをあるだけ詰め込んで肩に掛けた。
4号線を西に逃れたとして次の街まで8kmほどあることが壁に貼られた地図から見て取れ、自分の足を信じても一日はかかるだろう。
壁からはぎ取った地図を乱暴に畳み、カバンに突っ込むと森へと歩み出た。
低木が少なく、針葉樹が高く伸びて陽の光を遮っている暗い森の中へ出る。
人の歩いた跡のない森の中を北側に向かって歩いていくが、鳥の声さえ聞こえない耳の痛くなるような静寂が森にはあった。
地下神殿はもうあきらめた。
あの巨人によって全てが破壊されただろう。
目の前で死んでいった者たちの代わりをどうするか、再起を図るための拠点をどうするかなど建設的な事も考えなければならない。
思索に溺れながら周りを見るでもなくただ下草を踏みしめて街道へとひたすらに歩き続けた。
そうしてどれだけ歩いただろうか時間など気にしていなかったが、少し暑くなってきた。
天気は森に囲まれてよくは判らないが、青空が出るような気候ではないようで秋から冬に向かおうという時期にもかかわらず、珍しいこともあるモノだ。
森の終りが見えてくると、自然と足が速くなり、一目散に街道を目指す。
神国の巨人に見つからないように移動しなければ、国際司法裁判所とやらのふざけた判決通りであれば私は殺されるだろうからな。
再起の果てにはその裁判所も血祭りにあげてやらねばなるまい。
それにしてもこの気温はどうだ。
すっかり暑くなってしまい、上着を脱いでいる。
用心深く街道の様子を確かめるが、通行する者はいないようで死んだ街のようだ。
空は厚い雲が覆っており、ゲーマニアンの冬の当たり前と思える様子なのだが、降る雪のような物が異質に見える。
この気温で雪が降るなどはあり得ないのだが、静かに全ての音を吸い込むように埃が舞い降りているようだった。路面に降り積もる埃を掬ってみると、重さも感じないような物で手に取れば崩れて舞い散る。
しかし、一面に降り積もるこの埃に熱がこもっているようで、僅かに暖かさを感じるのだ。
部下たちが居ればこの現象も確かめられるのだが。
まるで世界に居るのが私だけになったような目の前の開けた空間と、音のない世界。
「っ!」
いる、あの巨人が東の方に見える。
霊光を帯びたようにうっすらと光っているようだが、間違いなくあの巨人だ。
こちらはまだ見つかっていないのだろうか身じろぎもしない。
動くものが際立ってしまうだろうから、街道には出て行かずに森の外縁部を街道と並行に進むことにした。
目隠しにもなるだろうし、道を見失わないように進めばいいだろう。
歩き出して2時間ばかりが過ぎた。
いつ後ろを確かめても付かず離れずの距離で巨人が見えるのだが、遠くに見える巨人は近づいてくる気配は見せずただ離れないだけのようだ。
私を監視しているかのようだ。
前を見て進みだして1時間ぐらいだろうか。
息が苦しいのだが、追われているという認識もないし気が急くでもない。
しかし倦怠感と寒気、そして流れる汗が体の異常を訴えている。それが何を原因としたものかは判らない。
上着を脱ぎ捨て、シャツも着ていられない。肩に掛けたカバンがひどく重く感じる。
「なんだと言うのだ、私はどうしてしまった。」
また1時間歩いたが、もう、歩くこともままならない。足が上がらず、下草がまとわりつく。
街道に飛び出して、舗装された通りを歩くしかなかったが神国の巨人はずっと何かを待つように遠くから私を見ているようだ。
引きずっていた肩掛けのカバンもいつの間にか手を離れ、上半身は肌着一枚にも関わらず滝のように汗が流れて止まらない。
顔面を流れる汗を拭い去る。
ふと違和感を感じ、その腕を見るとべっとりと血が付いていた。
両手で確かめると鼻血だった。とめどなく流れる鼻血が。
貧血か、もう立っていられない。
さっきから30分しか経っていないが、鼻血が止まらずに眩暈がする。
神国の巨人が近づいて来ており、本当ならば森に逃げなければならないのだろうが私の体力はもはや尽きており、一歩も歩くことができそうにない。
すぐ側まで近づいてきた巨人はそれでも何かするわけではなく、ただ佇んでいるだけだ。
私を襲う出なく、見逃すわけでもない。ただ何かを待つように、私の命が尽きるのを待っているのだろうか。
降り積もる灰のような物が私の肩にも少しばかり乗っているにも拘らず、巨人が纏う霊光のような物のおかげか巨人には一片の灰も埃も着いてはいないようだ。
「総統閣下、自分の使った原子爆弾が降らしている死の灰を浴びながら、死んで行くお気持ちはいかがですか?」
「死の灰とは何だ?」
首を回すのも億劫なのだが、興味はある。
「ご存知なかったのですか?あなたが昨夜使った爆弾は数千度の高熱と膨大なエネルギーを伴った衝撃波によって地上にある全ての生きとし生けるものを奪い尽くしました。
そして残ったものは強烈な放射能を帯びたこの白い灰と、今後数十年にもわたって暮らす人たちが味わう体調異状による病。不治の病を発症する人が今後次々と現れます。
あなたの夢見た世界とはこんなものだったのですか?
ひたすらに恐怖を振り撒き、理不尽を押し付け、人の尊厳を踏みにじって得られる世界を求めて、終いには自分もその力で死んで行く。
バカな事を考えたモノですね。
今この辺りの放射線濃度は人が2時間と生きられないほどの強烈な数値になっているはずです。その中をよく今まで生きていられたものですね。業が深い者がなかなか死ねないとは言いますが、大したものですね。
最後まで側に居てあげますよ。
その亡骸を持って帰らないといけないんでね。」
そうだったのか、あの爆弾にこんな仕掛けがあったなんて知らなかった。
濃縮ウランを精製する際に次々と倒れた奴らと一緒だったんだな。
どこで間違ったのだろうか。
これが私の求めていた世界?人はおろか鳥さえも住めなくなる世界。
敵国に使ったとしてその国を利用できなくなる。それを自国に使ってしまい、自らもそのせいで生きていられなくなるなんて。
「あなた!あなた、しっかり。」
ハッとなった。
聞こえた声はエヴァの物だった。夢か?黄泉に旅立つ私の妄想なのかと思ったが、巨人の足元を抜けて私の妻が駆け寄ってくるのが見えた。
巨人が言ったではないか!ここは人の生きられる場所ではないと。
駆け寄り、私を抱きかかえるエヴァもすでに鼻血を出している。それをものともせずに私を掻き抱くように抱きしめてくれているこの美しい妻はもう、助からないのか?
「エヴァ、どうしてここに来たんだ。ここに居ればみんな死んでしまう。巨人に助けを求めなさい。」
「いやです。あなたのいないこの後の時間をどうやって生きていけと言われるのです。」
ああ、そうだな。
こんな世界でも私は少しは幸せだったのだろうか。
「エヴァ、すまなかったな。」
「ソウタさん、ソウタさんの世界にもこれと同じものがあったのですか。」
「ああ、数千発とあった。使えもしないモノを大量に所持して、互いに睨み合っていた時代があったんだ。そのうちに管理するのも面倒になってな、少しずつ数は減らしていたようだが、新しくそれを所持して大国の仲間入りを目論む国も後を絶たなかった。」
「これを見てもそれを持たないといけないって思う物なのかしら。」
剣帯から自分で抜け出て今は俺の膝の上に居る如月だが、ヒトラーとその妻エヴァの最期を看取り、複雑な心境に悩んでいるようだ。
小さく、高性能になり、より大量の人を効率よく殺せるように進化を続ける核兵器が向こうの世界ではまだ大国同士のバランスを保つために利用価値があり、小国が大国の脅威に飲まれないためにその所持を画策している。
向こうの世界ではそうであったが、こちらではただの一発が最初で最期の爆発とともに消えた。
二度とこの世界に生まれてはこないだろうが、残した爪痕は決してささやかなものではなかったと思う。
「さあ、帰ろうか。」
二人の遺体を次元断層に取り込んで真空洗浄を行う。
持って帰って確認した人たちが放射能汚染されるわけにもいかないのでこれは必要な処置だ。
次元断層の中に神国の艦隊が居る場所の空気を取り込み、大気解放を繰り返しながら徐々に真空にしていき、二人についている埃を吹き飛ばし、衣類に付着しているすべてを取り除く。
それでも完全ではないので最終的には純水で洗浄することになった。
レネゲイドに計測してもらいながら繰り返して洗浄した。どうにか自然放射能レベルにまで下げられて、その後に乾燥工程を経てから一人ずつを遺体搬送用の袋へと仕舞いこんで帰還準備をすます。
「レネゲイド、体表面の放射線量を計測。」
「マスター、異常はありません。機内放射能レベルもほぼゼロです。放射能汚染領域を抜け出るまで障壁保護をお願いできますか?」
「安心してくれ、アカギに帰るまでしっかり守ってやるから。潮風も嫌だろ?」
「申し訳ありません。正直、放射線より潮風の方が嫌いです。」
「レネゲイドさんは潮風が嫌いなのですか?それで分解整備する方が嫌いですか?」
「フィア様、分解整備は経験すればわかりますが、非常に調子のいいモノです。」
「フィアも今夜は分解整備しような?」
「ちょっと、フィアちゃんをバラしたりしないでしょうね。」
「二人とも着ている物がバラバラになるんだからな。」
「それは毎晩じゃないのよ。」
「そうですね、毎晩C整備してもらってますから、毎朝調子が抜群です。」
「よし、如月もC整備したいだろうし、急いで帰ろう。」
「お二人が羨ましいですね。」
「もぅ、なんで私たちの旦那様はこんなにエッチなのよ。」
次話からはまたバカ話に戻れると思います。
今度の週末は更新できるかな。




