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【第107話】国際私掠免状

作者は嘘をつきました。

ソウタもフィアもしばらくお休みだと。

そんな文章、書けるわけが無かったんです。ごめんなさい。

おかげで総統閣下の死期が一話分くらい早まっているかもしれません。

(ネタバレ上等!)

 陛下からの呼び出しがあったのは国貴族街の多くのお屋敷の建て直しが急ピッチで進められ、我が家が新しい屋敷の快適さを堪能し始めている天気の良い日だった。

 ダイタクヤと同じ大きさの寝室に、ダイタクヤで十分に味わった広大なベット。

 隅々まで寝返りを打って転げまわっている娘たちを口元を緩めながらながめ、髪に顔を埋めるように休む如月を感じ、左手を枕に抱き付いているシロップを確かめ、右手にしがみついてフヨフヨとしたオムネを押し付けてくるアニエスに感動しながら、俺の胸を涎まみれにするフィアに変わらない重みを感じながら目を覚ました朝だった。

 朝食の席で家族みんなで燻製のベーコンを使ったミルク粥の美味さに厨房への惜しみない称賛を贈ると、100人からの家族の尊敬を勝ち取った調理師の二人がガッツポーズを見せてくれた、そんな朝だった。


 ユンカーさんがアンニさんを連れて来て、また戻って来られたようなタイミングになっており、「行ってらっしゃいのキスを貰い忘れましたか?」とユンカーさんに聞くと、真っ赤になったアンニさんに背中を叩かれた。

 「それはもう済ませてます。」と聞き取れないほどの声でアンニさんが申告され、貴族を殴ると言う暴挙が許されたのは我が家では当たり前のことだが。

 どうにかユンカーさんも現世に帰っていらして、オホンと言う咳払いと共に再起動を果たしたようだ。

 「陛下よりお越しいただくように言付かっております。セントラルキャッスルに来客が見えられており、同席していただきたく、半刻ほどの間に登城していただきたいのです。」

 「来客ですか?判りました。それで伺う際は私だけで?」

 「いえ、ゲオルク様もお妃様も皆さんのお越しを楽しみにしておいでですので、ご家族でいらっしゃっていただけますとよろしいかと。」

 玄関を入ってすぐの応接間にユンカーさんと向かい合って腰を下ろし、アンニさんだけを従えて会談していたのだが、短い時間でユンカーさんは席を立たれた。

 見送りの際には俺は送りに出ずに、応接間から廊下まで送るに済ませた。

 アンニさんが自分の旦那さんを玄関まで送り出し、その背に自分の手を添えているのが微笑ましいと言うモノだ。フレンチキスの一つも見せてもらえるのかと期待もしていたのだが、大人の二人には外ではある程度の分別が重要なのだろう。

 ユンカーさんも馬車に乗るときにアンニさんの髪に一度触れただけで帰って行かれた。


 待たせるわけにもいかない用事ができたことを妻たちに告げ、娘たちの着替えも急がせることにしたが、ユイとシルファ、睦月はいそいそとセーラー服に着替え始め、スカートの丈の長さや履くソックスの色などをお互いに確かめ合っていた。

 それぞれが可愛いとしか言いようがないのだが、それぞれに確かめ合って同じようなコーディネートにならないようにチェックし合っているという訳だ。

 カーリオとクレイオも白に近い黄色のワンピースと薄い水色のノースリーブのワンピースに身を包み、可愛さを2倍増しにしているようだ。

 2歳を間近に控え、幼いながらにもオシャレ心を育てているようだからな。

 お姉さんたちに感化され、シルファなどに似合っているか聞いているのも楽しそうだ。

 妻たちの準備も済んだところで馬車を車宿りに準備してもらい、颯爽と全員が乗り込んだのがちょうど半刻を過ぎたタイミングだろうか。

 来客と聞いていたからには妻たちもそれなりに余所行きの出で立ちにしなければいけなかったし、化粧なども少ししていたようで時間がかかってしまった。

 シルファがしっかりしてきているので妻たちがそれぞれの娘のことで手を焼くこともないのだが、それなりに時間はかかってしまった。

 ウィングと旦那に引かれた黒塗りの馬車は足元をヤマノベ自動車公社で改造されて、まったく路面の振動を伝えないサスペンションを得た最高級仕様になったな。

 数分でセントラルキャッスルに到着し、ユンカーさんに案内されて城の中でもひときわ豪華な造りの謁見の間へと案内された。

 城のメイドたちが挨拶をくれながら大扉を開けて、招き入れてくれる。

 陛下とお妃様が来客と歓談しておられ、俺たちを認めると紹介を始められた。

 「ヤマノベ公爵、良くいらしてくれました。」

 そう言って目の前に居る外国の特使とでもいえばいいのだろう方々を紹介してくれた。

 「こちらはアイアメリカの国防総省で軍を統べていらっしゃるヘンリー=マックウェル国防長官だ。

 そして、こちらにいらっしゃるのはフランソワ共和国のマニュエル=ヴァルス首相でいらっしゃる。」

 凄いメンツが尋ねてきたものだ。

 片方はアイアメリカの軍事力全てを握る国防長官。もう一人はフランソワの首相だと言うではないか。

 そんな人たちが何用で神国を尋ねたのだろうか。

 「そしてお二方、こちらが神国のソウタ=ヤマノベ公爵である。皆さんが聞き及んでいるであろう数々の噂の張本人です。

 後ろにおられますのはヤマノベ公爵様の奥方様たちであり、至宝とも言うべきそのご息女方でいらっしゃいます。」

 互いを引き合わせるように紹介された陛下によって、直接挨拶を交わす。

 二人は俺の妻たちに見惚れるように感心しており、それぞれの前で膝をついて手の甲に挨拶のキスをして回っていた。

 妻たちも少しばかり驚いたようだったが、こうした世界の正式な挨拶だと聞かせると、悪くはない気がしたのか軽い会釈と共に挨拶を受け取っていた。

 「それで陛下、それぞれにただならぬお二方はどのような要件でいらしたのでしょう?」

 俺が疑問を口にすると、陛下はご自身の向こう側にあった文机のような台から書状を手に取り、俺へと差し出してきた。

 「まずは掛けてくれるか。うちのメイドたちがお茶を用意しているのに立ったままでは困っているよ。」

 陛下をお誕生席に、来客を上座に着席させ、俺とフィアがその向かい側に腰を下ろし、陛下の向かいに如月とアニエス、シロップが着席することになった。

 お妃様はゲオルク様とともに陛下の少し後ろに設えられた幅のあるソファーに腰を下ろされ、ユイたちも同じソファーへと着席することになった。

 城のメイドたちが手際よく紅茶を淹れ、客から順番に給仕をすると壁の方へと下がっていった。

 陛下に勧められるままに客たちは紅茶を雑談を交わしながら楽しみ、俺はフィアと共に書類に目を通し始める。

 縦長の書状は上下に三つ折りにされており、このフォーマットに見覚えがあると、緊張を新たにした。

 驚いたのはグリムリーパーのサイズ両側に描かれている色彩豊かなアイコンだ。

 先にリーパーサイズが箔押しされた私掠免状を見た際には、死神の鎌は神国の旭日旗の上に重なって有ったのだが、今回の書状はリーパーサイズの上段に左からユニオンジャックや星条旗にトリコロール(赤白青)、トリコローレ(緑白赤)その他にも見たことのある国旗がずらっと並んでいた。

 一番右側には上段から白青赤のローレシアの国旗さえある。

 「ヤマノベ公爵殿、イングリーンランドの発案によるゲーマニアンに対する制裁措置として、賛成をする国を取りまとめ、私掠免状を用意しました。

 参加38か国の総意を持ってゲーマニアンのヒトラーを討伐していただきたい。捕縛ではなく国際司法裁判所から死刑判決を取り付けておりますので、断罪をしていただきたいのです。

 神国陛下より直接に公爵殿に受諾を受けられれば、その任を神国が担っても良いとお言葉を頂くことができました。

 幾度と公爵殿の手を煩わせてしまいました我々がこのようなお願いをすることが、厚かましいことだとは存じてはおりますが、ヒトラー率いる新しい軍はもはや魔法とさえいえるかも判らないオカルトによって成っており、連合軍はおろか、ゲーマニアンの兵や民間人にさえその被害が及んでいるのです。

 どうか、公爵様があまねくを平穏に満ちた世界へお導きくださるお心があるのであれば、我らをお助けはいただけないでしょうか。」

 国防長官はそれだけの国々がまとまってなお手に負えないヒトラーを俺に始末して欲しいというのだ。

 そのオカルトと言う者がどのような物かは知れないが、聞いた皆が口を閉ざしてしまったのだった。

 「ソウタさん、今回のお話しはアニエスちゃんと私をお留守番にしていただけませんか。」

 シロップが突然に口を開いたのだが、俺はまだこの話を受けるとは言っていない。

 状況的には受けざるを得ないのだろうが、先手を取って意見してくる意味が分からなかった。

 「シロップ、理由を聞いてもいいかい。」

 アニエスがちょっと赤い顔をして俺を見つめ返してくる。

 「私たち、二人目を授かりました。ですので長期間の長旅にはご迷惑をお掛けするでしょう。シロップちゃんと無事のお帰りをお待ちすることにいたします。」

 「シロップちゃん、アニエスちゃん、本当ですか!?羨ましいです。私もユイの妹を生みたいです。」

 この場で交わす話ではないような気がするのだが、陛下もお妃様も祝福の言葉をくれ、如月も「そろそろどうしようかしら。」とか言い始め、真剣に悩み始めている。

 外交官のお二人は交わされる会話の意味が分かったのか、判っていないのかキョトンとしておられ、真意を測りかねているようだ。

 「国防長官、そしてフランソワの首相、公爵のふたりの奥方に子ができたそうですよ。ですのでお二人は公爵の遠征に同行できないと言っておられるのです。

 大きな戦力ダウンとはなりますが、それでもよろしいでしょうか?」

 何を言っているんだこの人は?

 「おめでとうを言わせていただきます。戻りましてから改めましてオランド大統領より正式な祝電を届けることになるでしょう。」

 「そうですな、アイアメリカ大統領よりも祝いの品と祝電を届けることになりましょう。勝利を確かなものにすることに、お二方の協力を頂けませんことは誠に残念なことではございますが、そうであれば公爵殿の遠征も短期間に済ませねばならず、獅子奮迅の働きをされることでしょう。」

 おい?何を良い事言ったみたいなドヤ顔をしてるんだよ。

 憮然とした俺の表情を見てか、お妃様が心配そうに話しかけられる。

 「ヤマノベ公爵様?表情がすぐれないようにお見かけしますがどうされましたか。」

 もういいや。

 ヒトラーとかは俺がやってやる。それよりももっと、重要なことがあるだろう?

 「シロップ、アニエス。妊娠を判っていながら夕べもしましたよね?あれほど危険な事はしないようにって言っただろう?

 今晩からは生まれるまでナシだからな!」

 「「ええ~!?つまんない!」」

 違うだろうが!



 国際私掠免状に基づいて神国の遠征派遣艦隊が編成され、アカギ、カガから成る1航戦とヒリュウ・ソウリュウから成る2航戦が戦時対応に当たり、弩級戦艦を中心に編成された水上打撃艦隊も遠征の準備を整えている。

 海上艦艇群がそれほど強力でもないゲーマニアン海軍よりも、正体不明な陸上戦力を警戒して、ミサイル巡洋艦による戦略級の打撃部隊も今回の遠征に参加している。

 各艦が61発の巡航ミサイルを装備し、空母から発艦する早期警戒機に導かれれば射程3,000kmを駆け抜け、誤差10mの範囲内で着弾する。

 マーク41VLS(垂直発射装置)から発射され、対地貫通能力を増した種類のバンカーバスターという爆弾にも似た徹甲弾と炸薬による特殊弾頭を持ったミサイルも準備したのだ。

 提供してもらった情報の中に地下神殿について詳しく調べられたものもあった。ゲーマニアンの首都から南方にドレスデンと言う山間地に設けられているらしいのだが、そこに集められた2等臣民や3等臣民の女性たちが辱めを受けたうえで、何らかの手段で呪詛を体内に植えつけられ、敵軍に拘束されると本人の意思とはかかわりなくむごたらしい自害を遂げたという報告があった。

 非人道的と言うより、もはや人の所業ではない。

 その様な儀式がヒトラーの何と関係する物かは判らないが、立て籠もり、そんなことをしているのであればバンカーバスターで地中を狙うこともあるのだろう。

 これを聞いた妻たちの反応もまた過剰で、決して許しはしないという固い決意を抱いたらしい。それについては俺にしたところで同様で、女性を蹂躙して戦争に役立てるなど、あってはならないとしか言いようがない。

 わずか一週間ほどで編成を終えた艦隊は、陛下の挨拶を頂く式典を持って出発となった。

 シロップとアニエスが娘たちと見送りに来てくれて、ユンカーさん、アンニさんにも留守を預けるお願いをすることができた。

 ユイや睦月たちも今回は留守番となるが、シロップとアニエスが居てくれることから寂しさも半減といった表情で、割と明るくしてくれている。

 しばらく顔を見られないという俺が、俺だけが涙を流して別れを惜しんでいた。

 シルファに至っては、抱き付かれたり耳を揉まれたりしたせいで、早く行け!という感じだったのだが、背を丸め、とぼとぼとアカギの乗船タラップまで歩く俺に哀れみを感じたのだろうか、もう一度耳を触らせるためにやって来てくれたのだった。

 グズグズ言いながら耳をちょっとだけ撫でて、もう一度抱きしめると「早く帰って来てにゃ?」と囁いてくれた。

 それでまた、俺が号泣してシルファがよしよしと俺の頭を撫でるという儀式のようなモノがあったりした。

 約一月にも及ぶ航海を経てヒトラーとまみえることになる。



 ブレーメンを出発した連合軍は27号線を南下し、2号線を東進して首都ベルリンを目指す。

 ポツダムを目前にしてまたもや素人戦車軍団に通りを遮られる。

 拘束すれば自動的に自害する。かと言ってこちらがやられる訳にもいかず、履帯や砲塔を破壊し、交戦能力を奪ったうえで自由にさせることにした。

 銃剣類を奪い、戦力とならない戦車に乗せておいても取り敢えずは自害しないで済む様で、それが判っただけでも私たちの精神衛生を守ることができる。

 後をついて来て、砲の壊れた戦車で挑んでくる者たちもいるが、それは無視だ。

 それよりは前方に居る車両を片付ける方に意識を向けなければならない。30両ほどの戦車と20両ほどの迫撃砲を担いだヤバそうなモノがいるのだ。

 「前衛、全速!」

 主力戦車40両を前衛に据え、速度を生かした戦いを挑む。

 ダッシュをかけ、素人の操車による砲の射線を躱し、側面から転輪や履帯を狙って射撃を加える。

 ほとんどの敵戦車を行動不能に陥れ、ポートランドから進行してきた増援のポートランド陸軍とローレシア陸軍の連合部隊が11号線を南下してベルリンに一足先に一撃目を加えるという連絡があり、同じように立ちふさがっていた女性たちの部隊を退けたと連絡があった。

 対処法が確立され、周知されたことで彼女たちを傷つけるまでもなく無力化できる専属の部隊を編成し、速やかに砲や機銃を無効化して身に付けた銃やナイフを取り上げることでしのいでいる。

 迫撃砲部隊はその撃ち方も知らなかったようで、無抵抗のうちに制圧することができた。

 彼女たちを横へ押しやり、全隊前進の号令を掛けようとした時に更なる敵車輌が周囲の針葉樹林の中から湧き出してきた。

 「カニでしょうか?」

 副長の言葉通りに見える戦闘車輌と思しきそれらは、甲羅から六本の節のある足を生やし、ハサミのような物はないものの胴には砲のような筒が見て取れる。

 しかし、見るからに貧弱なその砲から何を撃ちだそうというのか。主力戦車の方は鍛えられたはがねで造られ、砲身の肉厚はライフリングを除いても30mmもある。

 対して目前にぞろぞろと現れたカニの胴に乗っている砲は紙でも丸めて作った物ではないだろうかと言うほどに頼りない。

 拳銃の弾さえ撃ちだしたりできないだろうと思えるのだ。

 唯一気になるとすれば材質だろうか。

 白い金属でできている。ミスリルだろうか?

 ガシガシと見慣れない動きをしながら森の低木を乗り越え、街道へと歩み出てきた。

 見るからに踏破性は高いのだろう、履帯とは違う動きを見せる8両ほどのカニ。

 そのうちの1両が先鋒の我が隊の車両に近づく。砲が指向し、先手の砲撃を加えてきた。

 「なんだと!?」

 キーンという高い音と共に光が放たれ、信じがたいことだが我が方の戦車の装甲を貫通した。

 一気に火が上がり、敵に一番近かった車輌が燃え上がった。

 あの時に見た光の筒を彷彿とさせる、実弾ではない攻撃。

 後に聞いた「レーザー砲」というアレなのか!?

 「前衛射撃開始!集中斉射!!」

 前衛39両の一斉射撃が今ほどレーザー砲と思われる光線を発射した敵車輌に集中した。

 直径5インチ径の徹甲弾が集中的に浴びせられ、さすがに全てを耐えられるわけではなかったらしい。

 足を残して胴の部分は穴だらけになり、崩れ落ちた。

 次弾装填から自由砲撃となったが、前衛部隊は連携を心掛け、単一目標に攻撃を集中しつつ確実に撃破しながら8両のカニを仕留めた。この間にこちらも8両の主力戦車が攻撃を受けた。損耗比からすれば敵8両に対し味方損耗も8両とイーブンと言えるが、主兵装が違うことと、車体が履帯を持たずに足で歩くことが新しいと言えば新しい。

 しかし、敵の攻撃に対して高い威力はあったが、一つ気が付いたことがある。

 射程が極端に短いのだ。

 見た目だけの感想ではあるが、たぶん30mほどしか届かないのではないか。

 それ以上離れた車両には攻撃しようとせずに、自ら近づこうとしていたのが印象的だ。その様な行動を起こせば目立つことこの上なく、集中砲火を受けて穴だらけになってしまっていた。

 市街戦や密集した乱戦であれば活躍もできるのだろうが、この山岳地帯であってもわずか30mと言う至近距離での接敵は難しいと思われる。

 かの聖銀の巨人の砲は水平線の彼方に潜んでいた我が艦隊を殲滅せしめた。

 あれと比べればまだ実験兵器としての域を出ていないようでもある。ローレシア側からの援軍の方もカニに襲われたらしいが、1両を失ったものの、20両近くを優秀な戦車軍団はモノともしなかったそうだ。

 狭い街道での接敵だったとはいえ、こちらの方が損害が大きかったのは忸怩たる思いが無いではなかった。

 それからの進軍においても少女たちの戦車部隊とカニによる妨害を受けたものの、カニには完全なアウトレンジからの集中砲火を浴びせ、少女たちの舞台には接近戦で車輌のみを破壊しながら戦力を奪い、ベルリンを視界にとらえる所まで来た。

 北からのポートランド陸軍とローレシア陸軍もベルリンに到着し、すでに攻撃を開始している。砦門を突破するために水平射撃が盛んに行われ、絶え間ない砲撃の音が聞こえてきている。

 分厚い砦を抜くためにはあちらがそうであるように、相当に辛抱強い攻撃が必要になりそうであるし、本来の攻城兵器ではないので弾体の無駄遣いとも思われたのだ。

 それでこちらの方策として、精密射撃による門扉の破壊を試みた。

 外に向かって開く扉は重厚で、分厚い鋳鉄が貼ってあるし、ヒンジは向こう側にあるようでこちらからは見えないのだが、メンテナンスの際に射したであろう潤滑油の跡や門扉を支える門柱の構造などからその位置を推測し、徹甲弾を狙いすまして撃ちこんでいった。

 扉上部に集中した砲撃はわずか3発でヒンジを撃ち抜き、下側のヒンジだけで支えられるはずもない大扉が千切れるようにして倒れて行った。

 ほぼ同じタイミングでもう一方の扉も撃ち抜くことに成功した我々は、この点では向こうの援軍を一歩先んじることに成功したのだ。

 しかし、扉の向こうにはカニが犇めくように待ち構えており、容易に突破が図れそうもないと覚悟を決めさせられたものだ。

 「全軍水平射撃、てぃ!」

 自軍の車両を不用意に近づけないようにしながら主砲を本来の目的へと叩きつけるような戦闘が開始された。

 それでもカニたちは射程距離の制約からか、にじり寄るように前進しようとする。こちらは目標まで50m以上を空けており、向こうからの射撃がないことから分析の正しさを確信するに至った。

 ただ、やられるばかりではないとばかりに、カニが砦城壁を乗り越えてあちらこちらから外へと出ようとしている。腹を見せるカニたちに精密射撃を行い、後方支援と前方への補給のために控えていた戦車を投入して全周に監視の目を光らせて乗り越えようとする敵車輌を各個撃破しなければならなかった。

 あの機動性だけは羨ましくあるが、正体のしれない実験兵器としての主砲はいまのところ脅威でも何でもなかった。しかし、ゲーマニアンの先進的な科学力をもってすればいずれ聖銀の巨人のような圧倒的な兵器へと成長するのかもしれなかった。

 敵の防衛戦力を削ぎ落とし、主力戦車に弾薬の補充を済ませる間に迫撃砲部隊による総統官邸へ向けた長距離射撃を始めた。眼前の脅威は取り除いたものの、市街地にはまだカニの潜む可能性もあるし、政治の主要な中心への攻撃は手を抜く必要はない。

 国際司法裁判所から、ヒトラーには極刑が妥当との判決が出ており、選民思想と人種差別発言や他民族に対する凌辱。残忍極まりない所業の数々が明らかになり、人としての人権を認めることも必要ないとされることになった。

 宣伝相によれば、ヒトラーは人ではなく神であり、その存在さえも超越した遥かな高みに居る存在であるので、人などと同じに扱ってほしくはないと公式声明が出された。

 参加40か国近い連合によって、私掠免状が発布され、とうとう聖銀の巨人が討伐に乗り出すと聞いたのだが、あれこそが神をも超越した存在であり、こうなっては実験兵器しか作れないような「神モドキ」の命数も尽きたのではないかと確信を抱くしかなかった。

 その後にも加盟国が増え続け、すでに120か国を超える国々が神国の動きを助けようと有形、無形の援助を始めていると聞くし、アフリカの国という体裁を持たない民族と西華、北華以外の全ての国が他国への侵略と選民、差別の撲滅に取り組む宣言書を採択し、国の代表による署名も始まっているそうだ。

 図らずもゲーマニアンが反面教師となり、過ぎた矜持が引き起こす悲劇と言う物を身をもってすべての国が体験したことになる。

 白人優越主義もヒトラーとやっていることは同じと思われるようになった昨今では、それを口にすることが時代遅れで、危険思想の持ち主であるかのように言われるのも時間の問題であるだろう。

 恐怖で従えた周辺各国も今となっては連合の盟友となり、ヒトラーの退路を断つかのように全周囲からゲーマニアンへと進軍を始めている。

 チェコとゲーマニアンを隔てる山岳地帯からも軽量小型戦車38Tなどの高機動車輌が分け入っており、針の穴もないとはこのことである。


 「どいつもこいつも予を愚弄するかのような発言をしておるな。なにが連合か?何が平等だと言うのだ?世界の真実にも辿り着こうとせずに安寧を守るばかりではないか。

 ゲッペルズ!太陽管理局に下命せい、ソルの発動を急がせるのだ!」

 「閣下!?ソルを発動なさるので?」

 「何か問題でもあるのか?」

 「そうではありませんが、どこを狙えばよいのでしょうか。」

 「ベルリンしかあるまい?占拠し、浮かれておる奴らの頭上に太陽神を降臨させてやるんだよ。急げよ?予はそれほど我慢強くはないぞ。」

 「ベルリンを生贄に・・・判りました。ソルの発動を急ぎます。」

 気力を充溢させた総統閣下は、女性を喰う事にはもう飽きたのか新型兵器を次々と登場させ、その威力を検証することを楽しんでいるようだった。

 地下宮殿の西側に整備されているウラン濃縮工場では大量のウラニウムが精製され、ソルと呼ばれた魔法障壁で造られたクラインの壺の中へと注ぎ込まれ続けている。

 結晶化させたヒュージエクスプロージョンが起爆剤としてその周りを覆うようにキッチリと組み上げられており、爆発の中心となるクラインの壺の中の大量のウラニウムを反応させる仕組みとなっている。

 魔法で組み上げられた核分裂型原子爆弾がソルと呼ばれているようだ。

 ウラン濃縮工場で働く者たちは一様に皮膚がただれ、呻くようにしているが次々と新しい者たちが投入され、作業が続けられている。

 そのほとんどが民族衣装を着た南方の人達のようで、選民思想に寄れば5等臣民や6等と言う最底辺の人達なのだろう。互いの言葉さえ通じてはおらず、手当たり次第に現地人を徴用してきたと伺わせる。

 野に暮らす人たちは数も管理する政府もないことから、いくら居なくなっても判らないのであろう。そうした民族を放射能と隔てずに作業させているようで、一日と保たずに原爆症で無くなっていくのだ。

 それでも次々と投入される言葉さえ分からない者たちによって汲みだされ、満たされるウランは核分裂する時を待ってひたすらに濃く、重く、くらい色へと変質を遂げているのだった。

 総統閣下は、ベルリンの守備に使えなかった多脚砲台の主砲の改善に取り組んでいるようで、カートリッジに封入する凝縮された純粋魔法のアローを自分の手から紡ぎ出し、束ねて凝縮する作業を繰り返している。

 「こんな狭いところで検証したからあのような戯れな出来栄えになったのだろうよ。」

 独り言をつぶやきながら効果の持続時間などの調整を楽し気に行っているが、手元が光りながら行われる作業を灯りもついていない部屋で行っており、その相貌を下から照らすような効果でヒトラーの狂気さを一層印象的にしていた。

74,000PV突破しています。ちょっとファンタジーから横道にそれていますが、世界の裏側を知る今後のソウタたちには必要なことなんです。

たぶん。

それより、シロップとアニエスにまた子供ができたって!?

作者も知らないことをしないでほしい物です。とりあえず、おめでとう?

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