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【第103話】昇竜

いつもお読みくださってありがとうございます。

今回は随分と時間がかかりました。

出来たばかりでUPですので誤字脱字は後ほどという事で。

 「ソウタさん、エッチのあとにおでこにキスしてくれるの嬉しいです。今夜もお願いします。」


 ウィンドウィスパーが俺の脳裏に囁きかける。

 アニエスの心のこもった愛の囁きはその通り、今夜もアニエスのおでこに感謝を込めたキスを贈った後から届いたモノだったが、それを心地よく聞いている場合ではないのかもしれない。

 フィアが目を覚まさないようにそっと俺の上から降ろしたつもりだったのだが、フィアと目が合った。

 「ソウタさん、お一人でお出かけするのはあとから言い訳が大変ですよ。如月ちゃんと私には言っていただかないとできることも出来ないかもしれません。」

 「そうよ、あなたが私たちを大事に思うのとこれは別の話だわ。もしあなたが怪我でもしたら私たちは自分で自分を許せなくなるでしょうね。」

 「睦月ちゃんとユイちゃんは私たちにお任せください。如月ちゃん、ソウタさんを守って下さいね。」

 「フィアさん、私たちの元へ帰って来るためにソウタさんをよろしくお願いしますね。」

 「ええ、任せて。」「はい、必ず!」

 俺はもう、頭を掻くしかない。

 「お前たちは本当にたいしたチームワークだよ。寝てたはずじゃなかったのかよ。」

 「はい、ソウタさんからたっぷりの愛情を頂きましたから、ぐっすり眠れています。でも、ウィンドウィスパーはソウタさんにだけ聞こえているんじゃないんですよ?」

 「シロップちゃんの言う通りです。最初に聞こえたのが私の風魔石っていうのは羞恥プレイみたいなんですが、とても恥ずかしいです。」

 俯いてしまったアニエスに顎を摘まんで啄むキスをする。

 わたしも、わたしもとシロップがせがみに来て俺が唇を奪われた。

 フィアと如月は出撃準備を整えるために着替え始めており、アニエスとシロップは娘たちを確かめている。

 どの子もこの程度の騒ぎでは全く目も覚まさず、気持ちよさそうにお休み中だ。

 可愛そうなのはシルファだろうか。

 俺の上でフィアにくっついて安眠を保証されていたはずなのに、そっと布団に降ろされて居心地のいい場所を眠ったまま探し回っている。

 「アニエス、シロップ。すまないが娘たちを頼むよ。留守を預ける。」

 「「はい、いってらっしゃいませ。」」


 如月は魔剣の姿となり、俺の腰の剣帯にしっかりとつながれている。

 フィアは俺の隣の席で航法を担当しており、レネゲイドに指示を出し続けていて見ていて判るほどに忙しそうだ。

 剣帯の如月を鞘の上から撫でながら、前方を睨むと地を割るように水蒸気が吹きあがっている。

 暗闇の中で高温の水蒸気が大気に触れ、急激に温度を下げることで氷結し、白金のベールのような薄膜を形成しているようだ。

 新潟県北魚沼郡川口町。日本に居ればそんな住所なんだろう。長岡市だっけか?

 たどり着いたその場所は活断層が完全にずれているのだろう、地割れから噴き出した水蒸気が平時ならとても美しいはずな神秘的な景色を見せてはいるが、人為的な意思を持った断層のズレだと思うと呑気に構えている訳にはいかないだろう。

 俺の貴重な風魔石を回収し、アニエスの気持ちが込められた大事な宝物は無駄にならなかった。

 しかし、余裕をコイている場合でもないらしく、更に断層の亀裂が深くなり始めている。

 周辺への被害も馬鹿にならなくなってきていると思うが、備えができていたことだけが救いだ。

 住民の避難は済んでおり、周辺の田畑には大きな被害が見えるようだが、近くに一般の住居もなく、コンパクトな街づくりの効果が如実に表れていると言える。

 「フィア、周辺警戒を頼む。俺は断層の広がりを止められるか試してみたいんだ。」

 「はい、周辺警戒に入ります。有視界範囲で生命反応有りません。」

 とりあえずの安全は確保できているようで、少しくらい大変なことがあっても誰も傷ついたりはしないらしい。

 イメージする。平時のここの景色がどうだったか。ずれようとしている断層がずれなかったらどうだったか。

 いつならズレずに済んでいたのか。

 歪に溜まったエネルギーをどこへ放出したらいいか。

 呼び覚まされる俺の中の魔力をイメージする。解放と共に歪のエネルギーをどこへ飛ばすか。

 「次元修復!ディメンションリペア

 体内からごっそりと魔力が抜けて行った。体感的に7割ほども持って行かれたと思う。

 目の前の地割れが巻き戻されるように途方もないエネルギーが外部から加わったのだろう、ミシミシと言う歪みを捻じ伏せるような大地の悲鳴が聞こえてくる。

 解放しようとしていた歪が、それを許さないような外圧に曝されているのだろう。

 意識の中にどこからやって来た歪だったかが判る。

 元々ここに歪は無かった。

 ほんの半刻にも満たない直前に膨大なエネルギーが加えられ、無理矢理にも外部から与えられたエネルギーが地面を引き裂き、地殻を歪め、水脈に相当の圧力が加えられたのだろう。

 回収したエネルギーを俺自身の魔力補給にてるようにすると、新しいことが判った。

 エネルギーにメッセージめいた意志が残っているのだ。

 そして回収したエネルギーの総量に驚きを隠せなかった。

 俺が歪を巻き戻した時に放出した魔力量にほぼ近い量のエネルギーを得ることができたのだ。

 少なくとも、これまでに俺に匹敵するような魔力量を行使するような者を俺は知らない。

 ダイハンで西方部隊を殲滅した際には部隊は次元断層を渡って現れた。そうした事ができるような人物がこの世界には居る。

 同一の人物かどうかは判らないが、何某なにがしかの意志を持って世界が乱れることを欲しているのだろうか。

 俺の心情としてはこの人物を看過かんかすることは出来ないとしか思えない。

 大地が歪むほどのエネルギーを回収し、自分の身に取り込んでわかったという「意志」についてだが、ふざけているとしか言えない可笑おかしみを含んだものだったのだ。

 こうすることによって訪れる変化を楽しむような、確信に満ちた想いが籠っていたのが判る。

 嘆き、苦しむような外圧があったことを訴えてくる地殻が落ち着きを取り戻し、怒りを治めようとしている大地からの訴えは許せるものでもなかった。

 ただ、変化を求め、何が起こるかも判らないというのに。

 多くの人が明日からの暮らしに困ることが判っているというのに、そんなことよりもどうなるか判らない変化を希求する欲望のみが伝わってきたのだった。

 しかし、今回は間に合わせることができたのだ。

 大きく裂け目が広がり、暮らしの全てを飲み込んでなお、地を割き、天空を割るエネルギーが解放されれば時空さえも隔てていた壁が傷み、また俺のように絶望を味わう日本からの迷い人が召喚されてしまう。

 それが面白いことになるか、つまらないのか。

 そんな理由でこちらに暮らす人たちの多くが苦しみ、迷い人が生死を掛けて生きていかなければならないというのに、それが楽しいのだと言う期待に満ちた残留思念がありありと感じられたのだった。


 巻き戻されるように地割れの全てが収束に向かう。

 大地から噴出していた水蒸気も徐々に勢いを弱め始めており、もうわずかの時間で元通りとはいかないまでも被害のほとんどを回復することができそうだ。

 〔あなた、被害はどうなの?〕

 「うん、いい感じに収束できそうだ。今回、如月の言った雷も発生してないよ。」

 「そうですね、人の住むところまで地割れも届きませんでしたし、良かったです。」

 「・・・」

 〔どうしたのよ?〕

 残り僅かのエネルギーを回収し終えようというとき、最後の一滴に怒りがこみ上げる。

 『すごいねぇ。本番はトウトだよ。公爵には迷惑を掛けるようだけれど、なに、奥方様たちは怪我なんてさせないからさ。ゆっくり戻っておいでよ。』

 どういうことだ?

 ここが俺を釣るためのエサで、トウトが本番と言った。

 妻たちに何かしようと言うのだろうか?

 〔ちょっと!あなた、どうしたのよ?〕

 「シロップとアニエスが危ない!フィア、航法開始してくれ、戻るぞ!」

 「はい!レネゲイドさんトウトに戻ります。高度300mからマッハ15です。」

 「了解。マッハ15行きます。」


 トウト上空までの間にフィアと如月に事の次第を伝える。

 〔あなたをトウトから遠ざけるためのシンカタの地震だったっていうの?元々西から順に起こった地震だったはずじゃなかったかしら。〕

 「そうですよ。だからこそソウタさんがそれを知るために色々な仕掛けを作ったのに、それを利用したという事でしょうか。」

 「本当のところは判らないな。だが、シロップとアニエスに子供たちが心配だよ。」

 20分に満たない飛行時間の後に俺たちの目に入ったのは天に駆け上る昇竜。

 大気を切り裂き、天へ還る神獣がその身を翻しながら垂れ込めた雲を突き破るように見えた。

 爆音が少し遅れて鳴り響き、国貴族街に炎が上がっている光景が目に入る。

 セントラルキャッスルに被害はないようだが、トウトの領地貴族の方へと聳え立つ防護壁に崩落が見られ、すでに本震がトウトを襲った後だと思われる。

 領地貴族街にも崩落した屋敷などが見えるし、火が出ている屋敷もいくつも見える。

 国貴族街も同様らしく、一階部分が潰れている屋敷や屋根が崩れ落ちている屋敷も見える。

 途端に我が家が心配になる。

 妻たちや子供たちに被害が無いか、スタッフやメイドさんたちに怪我などは無いか。

 上空の垂れ込める雲を利用して、気象制御を行うと大粒の雨が辺りに降り始め、延焼を防いでくれる。

 火の勢いが弱まると同時にレネゲイドは庭に降り立つ。

 屋敷に崩落は見られないが、火が出たようで食堂のあたりから出火した炎が屋敷全体を包み込むように勢いを付けている。

 まさか自分の屋敷が燃えるとは思わなかったが、今はそれどころではない。

 庭に難を逃れたメイドさんたちがたくさん居るが、中には取り乱して涙を流したり、茫然と今日まで勤めた仕事場が燃える様子をただ眺めている者たちもいる。

 「マチルダ!」

 側に居るメイドたちにマチルダさんの所在を確かめる。

 スタッフもまだ全員の避難が済んでいないようで、シゲさんたちは確認できるが、サチさん、コウレイさん、タケヨシさんが見えない。

 護衛班がまだ屋敷の中に居るのだろう。

 そして妻たちも子供たちも庭には居なかった。

 マチルダさんら、数名のメイドもまだ屋敷の中だと言う。

 「あなた、子供たちが心配だわ。」

 魔剣から人の姿に戻った如月が、フィアと一緒に屋敷に突入しようとする。

 「だめだ!如月はここに居ろ。」

 「だめよ!睦月がまだ中に居るの。」

 「如月ちゃん、私とソウタさんに任せてください。魔法が使えなければこの炎の中では死んでしまいます。」

 「フィア、風障壁ウィンドシールド氷結魔法アイステンプを併用しろよ。いくぞ!」

 「はい!如月ちゃん、後をよろしくです。」

 日本でだったらバケツの水を被って火に飛び込むのだろうが、ここでは魔法で身を守ることも出来る。

 後何人中に居るのか尋ねると、結構な人数がまだ中に居るらしい。

 消火のために中に入った者や、救出のためにと水を被って入った者も居るというのだ。

 シゲさん、シノブさんに聞く限りでは、護衛班は妻たちを助けるためにと、一旦は外に逃れたのだが、再び中に飛び込んでいったというのだ。

 出火してからすでに10分以上経過しているという。

 馬番や調理師たちはバケツリレーをして少しでも消火しようというのか、必死の形相で水を掛け続けている。

 フィアと俺はウィンドシールドを展開し、炎から身を守る。そして併用するアイステンプで自分の周囲の温度を下げ、炎に突入した。

 「フィアは二階の捜索!人が居たら一か所に集めてウィンドシールドで囲って俺を待て。」

 「判りました。」

 素早い行動でフィアが二階へと駆けあがっていく。

 二階はメイドさんやスタッフの住居スペースが殆どで、俺たちが立ち入ることは無いスペースではあるが、フィアは生存者の捜索に走り回ってくれているだろう。

 俺は食堂や風呂、客間にゲスト用の部屋なども駆けまわり、自分たちの居住スペースまで捜索を続けた。

 見つけた家人は遠慮なく次元断層に放り込み、出た先の庭に面くらっていることだろう。

 食堂脇の厨房にメイドさんが三人、パニックになっていたがマチルダさんは居なかった。

 放り込まれたメイドさんが気が付いた時には既に庭に出ており、周りに居た者たちに助けられている。

 ゲスト用の入浴設備、ついこの間には陛下も入られた風呂も天井が崩落していたが、水を撒き、自分たちの身を守るようにしていたメイドさんが5人いた。当然だがそのまま庭に避難してもらう。

 そして俺たちの居室。

 庭に避難できていないシロップとアニエスにシルファ、ユイ、睦月とカーリオとクレイオが逃げ遅れているはずの場所。

 焼け落ちそうになっている入り口の重厚な両開きの扉を蹴り倒して入るが、そこに人がいるようには思えなかった。

 毎朝にアリスやキョウコさんが起こしに来てくれた寝室には誰もおらず、横にあるウォークインクローゼットも火に包まれ、妻たちがあちこちで手に入れた衣装に燃え移ってしまっていた。

 その向こうにある毎晩のように全員の髪を洗い、俺を癒そうと泡まみれにされた浴室へと向かう。

 デカいガラス扉も熱で割れており、その向こうには床に倒れている何人かの仲間たちが見える。

 護衛班にマチルダさんだろうか。

 サチさんとマチルダさんは意識を失っているようで、火傷の跡も痛々しいほどだ。

 コウレイさんとタケヨシさんは最悪、死んでいるのではと思うほどの火傷を負っている。

 「リジェネレーション!」

 四人まとめて俺のウィンドシールドに囲い入れ、四人もろともに回復を図る。

 男性陣は肺まで焼かれているようでヒールごときでは役に立ちそうになかったし、女性二人も今後嫁に行かなければいけないというのに、見える範囲全てがケロイド状に焼けただれていた。

 俺の探索した範囲内では重傷者ばかりだったが、リジェネレーションによってシミ一つ残さない美しい肌を取り戻していた。意識は戻っていないが、まとめて庭へと送り出す。

 妻たちが居ない。

 一階の捜索をほぼ終え、二階へと捜索範囲を移すと、フィアが10人ばかりのメイドとシルファを抱えて炎に耐えていた。

 メイドさんたちはフィアのヒールを受けたのだろう、怪我もない様子で怯えてはいたが、怪我などはないようだ。

 シルファは気を失っているようで、腕や足に酷い火傷を負っている。

 荒い息をしているところを見れば、命には別条ないのだろうが安心している場合でもない。

 「リジェネレーション!」

 メイドの中にも肺や顔に火傷を負った者たちもいた。

 シルファの肌が元に戻ったところで、フィアに付き添われ全員が庭へと非難した。

 俺だけがもう一度、駆けまわり生存者を探して回ったが、誰も居残っている者はいなかった。

 外で点呼を取ると、アンニさんを除く全員が確認できたが、ヒールやらリジェネレーションやらを散々に連発することになった。

 そして見つからなかったシロップとアニエスに子供たち。

 シルファが目覚めればどうしたのか判るだろうか。

 気が触れたようになっている如月をフィアが抱きしめているが、フィアだってユイが居ないことが心配でないはずがない。

 落ち着いた様子を見せてはいるが、目は不安に満ちているようだから。


 屋敷全体をデストロイウォールで囲み、中の空気を一気に引き抜いて火災を鎮火させる。

 水を掛けたところでもう、炎の勢いに勝てる状態ではなかったから真空にして火を消したのだ。

 厩舎や馬番小屋など、レネゲイドの整備用に建てたばかりの整備棟などは震災を免れており、一時的に雨を凌ぐには困らないだろう。

 妻たち以外の全員の無事も確認できた。

 火が消えた我が家の中をもう一度フィアと如月を連れて捜索した。

 手分けしてスタッフたちも捜索に参加してくれており、見るも無残としか言いようのない屋敷の中を探索した。

 しかし、どこにも妻たちや子供たちが居る様子もなく、そうであれば返って安心してもいいのだろうと思う事が出来る。

 焼け死んだのではなく、誘拐されたのだろうか。

 あのシンカタの地震をエサに俺をここから離れさせたというのだから、そうなのだろうとしか思えない。

 そのためだけにトウトにこれほどの被害を及ぼす必要があったのだろうか。

 我が家で命を落とした者はいないが、他ではどうかわからない。

 そうこうするうちにユンカーさんの手配でアンニさんが馬車に乗ってやって来て、ユンカーさんは城へと急いだ。

 アンニさんに状況を説明し、アンニさんから街の状況を聞いた。

 火災はどこも鎮火の方向に向かっているという事だが、大きな地震によって城壁や防護壁などのいたるところが崩壊しているうえに、倒壊した家屋もかなり多いらしく、死傷者の数は全く分からないと言う。

 護衛班やマチルダさんもまだ気が付かないだろうし、シルファも気を失ったままだから妻たちがどうなったかの状況は全く分からないのだ。

 地震は、唐突に起こり、突き上げるような衝撃が襲ってきたと言う。

 口々に報告しようとするメイドさんたちを宥め、アンニさんが俺への報告を一元化しようと躍起になっている。

 最初の縦に突き上げるような地震のすぐ後に、立っていられないほどの横揺れが襲い、その揺れは2分ほども続いたそうだ。

 アンニさんがユンカーさんと暮らしているお屋敷は築年数が非常に新しいことから、全く被害もなかったという事だったが、家財道具が倒れたり中は酷い有様だと言う。

 それでも、自分たちに大事なかったことから、取り急ぎ身支度をしてそれぞれの主家へと駆けつけたという事だった。

 「アンニさんすまない。シンカタの地震を治めている間にこちらがやられたんだ。まさか向こうの地震を出汁にして妻たちを狙うためだけにこんなことをするなんて。」

 「シロップやアニエスは見つかっていないのですか?ユイ様や睦月様、カーリオ様にクレイオ様も?おお?そんなお可哀想に。」

 手掛かりがない以上、探そうにも出かけることも出来ない。

 「フィア、如月、気持ちは分かるが今は嘆いている時間はない。全員を無事に手元へ取り戻すまで、気を抜かずにしなければいけないことも多い。

 日常の生活を普通に送れるようにかなりの作業が付きまとうだろう。

 領軍や神国軍の守りも薄くなっている今が一番危ないんだ。俺たちの家族全員に被害の及ぶことがないように気を配ってくれ。

 俺が俺のオンナに手を出されて黙っているわけが無い。

 この落とし前は必ず死をもって償わせてやることにする。」

 「ええ、そうね。そうよね。屋敷の中に居なかったのなら焼け死んだりなんかしていないのよね。」

 「はい、如月ちゃん。睦月ちゃんもきっとユイと一緒に居ます。ソウタさんがああ言っているんですから、必ず無事に帰って来ます。犯人は生きてはいけないでしょう。」

 「私が斬るわ。必ず全員を取り戻して見せるし、こんなことをした代償はその命で償わせてみせる。」

 「当たり前だ。俺が必ず殺す。」

 「だ、ダメにゃー!シロップママ!?」

 シルファの意識が戻ったようだが、いきなりパニックになっている。

 俺が抱きしめて髪を撫でる、それでもまだ状況がつかめていないのか腕の中から抜け出そうとしているようだ。

 全力でシルファを捕まえ、しっかりと抱き留めると周りを見渡そうとして俺と目が合う。

 「そ、ソウタパパにゃ!?パパ!怖かった。ママたちが、ユイや睦月が攫われた。」

 ただ、ただ、恐怖から逃れるようにしがみついてくるシルファをもう一度、大事な娘が一人でも無事だったことを喜んで抱きしめる。

 泣くばかりになってしまったシルファだったが、フィアや如月も居て、メイドさんたちもいることを確認してどうにか安心してくれた。

 「パパたちがレネゲイドで出かけてからしばらくして、地面が揺れたにゃ。最初はドンってなって、次にすぐグラグラと長く揺れたんだにゃ。

 最初は食堂の方から火事になったって。シロップママやアニエスママが様子を見に行って、馬番のお頭なんかが消そうとしたんだ。

 でも、火があちこちから上がって来てね、ママたちがユイや睦月とカーリオやクレイオを助けにいったんにゃ。」

 しゃくりあげながら喋るシルファの髪を撫で、背中を抱いてやりながら話を聞く。

 「火事がひどくなって庭に出なきゃって時になって、パパが帰ってきたって思ったにゃ。男が入ってきた後からついてきた女が背中に羽があって、フィアママかもって思ったから。

 そしたら二人とも見たことない人で、シロップママがすぐに気を失ったんだ。アニエスママがコウレイさんとかを呼んで来てって言って、おれが二階に走ったんにゃ。連れて戻ったらママたちもカーリオとクレイオも居なくなってて、羽の生えた女だけいたにゃ。

 サチねぇがシゲさんたちのところへ逃げなさいって。

 それからどうなったかわかんないのにゃ。パパ、ごめんなさい。ユイも睦月も助けられなかった。ごめんなさい。」

 「いい、いいんだ。シルファが無事でよかった。怖かったろう?熱かっただろう。もう大丈夫だ。怪我も治したから跡も残ってないぞ。

 側に居られなくてごめんな。もう怖いことなんてないからな。」

 しっかり抱きしめているがまだ震えている。

 男と一緒に居て翼の生えた女性。サキュバスだろうな。しかも契約済みでそれなりに戦闘がこなせるようだ。

 しかし、何があったかのおおよそは分かった。

 シロップやアニエスたちは先に居なくなった男に連れ去られたのだろう。

 娘たちも連れて行ったところを見ると次元断層にでも拉致したのだろうな。そうなるとダイハンで西方部隊を寄こした奴と関連があると思えてくる。

 少し前から俺に対して何某かの企てがあって色々と手を焼いていたのだろう。

 ここにきてこれだけの直接的な手段を取るからには、明確な意図があると言える。

 いいだろう。受けて立ってキッチリと責任を取らせてやろうじゃないか。一人でも傷ついていれば、サキュバスもろとも塵も残さないようにしてやるつもりだ。

 しかし、手掛かりのない状態でどうして捜索したらいいモノか。

 これが不本意ながらフィアだったら、すぐにも場所が判るのにと思うのはフィアに失礼だが、シロップとアニエスでは交感出来ないから故にその行方を知ることは出来ない。


 「にゃん!もう、カーリオもクレイオもおれの真似じゃにゃいか!」


 フィアも如月もハッとした表情でこちらを見る。

 俺は醜悪な顔をしていただろうか、口角が吊り上がるのを止められない。

 極悪な笑い顔を見せたまま、如月と口づけを交わす。

 フィアも呼び寄せ、熱いキスを交わさせてもらった。

 「フィア、今夜の食事の前にもうひと仕事頼むよ、如月いくよ。」

 「はい。帰ってからよろしくお願いします。ぺこぺこですよ。」

 「あなた、私を全力で使いなさいよ。手を抜いたりしたらあなたの首を飛ばしてやるんだから。」

 「任せろ!」

 最初から全力で行く。

 一切手加減なんて無しだ。

 理由も言い訳も必要ないだろう。

 一番やっちゃいけないことをしてくれた奴らには相応の礼をしなければならないからな。


 妻か娘の誰かがクレイオの音声を籠めた風魔石を持っていたらしい。

 いい仕事をしてくれるじゃないか。

 剣帯に如月をしっかりと留め、フィアを抱きしめてから、シルファに微笑んで見せる。

 「ちょっと待ってろよ。全員を連れてくるからな。」

面倒な展開で、書いてる方が混乱しています。


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