【第102話】走れ、走れ
遅くなりました。
いつもお読みくださって、ありがとうございます。
今話は完全にファンタジー世界と関係なくなってしまいました。
今頭の中であるミュージックが周りに回っている。
「いつまでも、いつまでも、走れ、走れ のトラック」
コーラスバージョンとオーケストラバージョンがぐるぐるとエンドレスだ。
まだ日本に居たころに食材流通の仕事柄、運送業者さんとはかなり親しくしていたものだったが、とある業者さんの停車中のトラックからその曲がずっと流れていたことがあった。
「CMでしか聞いたこと無かったっすね。フルコーラスあったなんて知りませんでしたよ。」
気安い50過ぎの運転手さんだったんだが、助手席に上げてくれてボリュームを大きくしてから、もう一度再生し直してくれた。
「このCDさ、モーターショーで配られてたんだよ。どうしても欲しくて並んだんだぜ。」
当たり前に一曲分あるなんて思いもしなかったが、CMのフレーズの部分だけでも好きな曲だった。
それから運転手さんと色々なバージョンを聞いて、話し合ったのを覚えている。
トラックドライバーになって30年以上も家族のためにと頑張ったことや、辛かったことを聞かせられて、この曲と相まって涙を流したもんだった。
その運転手さんが10年前に買ったんだと言うこのトラックは歌の通りISUZUのトラックだった。
なんでまた今この曲が回っているかというと、アスナが買い物の時に運転しているあの馬車がどうしても欲しい貴族様方がうるさくてもう、逃げられなくなっているからだ。
曲と関係ないと言えばそうなんだが、思い出してしまうともう止まらない。
前回は自家用として庭先で作っていたわけで、いくつも作るとなるとここが貴族街で一番広い敷地を誇っていたとしてもそれは無理だ。
陛下とこれについて相談したところ、国有企業として運営し、トウト郊外に工場を建築したらよいと仰られた訳だ。
かくして「ヤマノベ自動車公社」なる国有企業が創設されることになった。
事業の継続性を勘案して、如月を社長にし、俺は相談役と言うことにしたんだが、まぁ如月が嫌がった。
「なんで私が代表なのよ?どう考えたってソウタさんがやるべきでしょうに。それじゃなくたってフィアちゃんが順当でしょうが。」
「いや、良く考えてくれ。フィアにそんなことができると思っているのか?」
二人で思わずフィアを見てしまう。
フィアも急に話を振られ、こっちを見てる。
コテンと首をかしげる姿は本当に可愛いのだが、如月は大きなため息を吐いた。
「アニエスちゃんだってしっかりしてるじゃない。」
「どうしてシロップじゃなかった?」
如月が視線を逸らしやがる。
「呼びましたか?」
シロップがフィアの隣でこちらを向く。
如月と俺はシロップを見るが、フィアの隣で同じ方向に首をコテンと倒されて、如月が諦めた。シロップ可愛いな。
「もういいわ。それでいいわよ。何したらいいの?」
「いや、なんもないけど。」
「はぁ?そんな訳ないでしょう。会社の社長ってそんなんでいいの?」
「ああ、ゴメン。そうじゃなくて初めは見ててくれるだけで良いって事だ。で、俺が死んだらその後を頼む。って言いたかったんだよ。」
「あら?気の長い話なのね。」
気の長いという割には俺なんて後生きてもせいぜい60年も生きられれば、立派なお爺ちゃんだ。
フィアも一緒に死んじまうし、シロップもアニエスもそう長くは違わないだろう。
その後もこの会社が続くんだとしたら、1000年生きてまだ未成年な如月しかないだろう。
日本の場所で言うと埼玉県狭山市だったはずだ。
ここに陛下から広大な土地を移譲してもらうこととなった。
敷地面積はもう、どれだけあるのかも判らない。
将来設計を陛下と話し合う中で、国の基幹産業の一つとして「自動車」の製造と販売を国内だけではなく、海外も見据えて育てて行こうという事になった。
これは、俺が向こうに居る時のグローバルな世界観を話した時の、日本の役割を聞いたからであるが、高品質、低価格の様々な商品が世界を席巻した時代もあったという事を汲み取った形となる。
いずれは、中国などの台頭があるのだが、それまでの栄華を極めた時代のことを聞いて、始めることとなったのだ。
その後の苦境も当然話したのだが、常に先を見て模索しようという事に落ち着き、先ずは先手必勝とばかりに産業の活性化に取り組むことになったのだった。
工場建屋は5棟が先行して着手され、技術研究所。製作所。厚生設備等などが建ち並ぶこととなった。
事業拡大に連れて工場棟の増築などを行う事になり、我が家の馬車に用いられた構成部品の効率的な生産方法と生産設備が開発されていくことになる。
半年もしないうちに建物が出来上がり、その間にシシオさんにあげたクランクプレスと同様なプレス機や金型製作工場が稼働を開始する。
その他にも加工工具としてメタルソーやドリル、エンドミルという旋削工具に砥石などの研磨工具の開発も行われていった。
自然界から頂いた天然の砥粒が固まっただけの砥石ではなく、結合材や砥粒、空間などを研究した人造の砥石なども色々と開発され、穴をあけたり、横に平行な削り加工を行ったり、ネジを立てたり、限りなく平滑な面を作るための平面研削盤や芯なし円筒研削盤など現代日本にある加工設備が、拙いながらも手に入ることとなった。
ドワーフ種やライカン族と言う工業に特化した人種を大量に雇用して研究所に勤務させ、たくさんの人種を製作所に雇い入れた。
いま、製作しているのは馬車しかないが、これまでの馬車になかった四輪独立懸架がうちの会社の「ウリ」という訳だ。
上質な乗り心地と、引馬が一頭から複数立ての大型馬車までを規格化して生産しているのだ。
今の自動車メーカーと違う点としては、買ってくれる人のほとんどが貴族であり、エンブレムが一品一様であることと、内外装がほぼ全車両に於いて特注だという点だ。
エンブレムは板金に優れた技術者をドワーフ種の中から育成し、各貴族家のエンブレムを納車に合わせて叩き出して製作してくれるようになったし、外装の漆職人や彫金師、内装を任せられる人種の職人なども育成が捗っている。
嬉しかったのは鋼を魔術のように扱う石人族と懇意にできたことで、他所のファンタジー世界だと魔法使いが魔法で召喚して使役する石でできた人形であるのに対し、この世界では一つの種族として存在していることが驚きだった。
人種の派生した同族種ではなく、魔人族の石人族というカテゴリーに分類され、知能が高いばかりではなく、手先も器用だし知識も豊富だった。
この石人族がバネ鋼の扱いに優れており、コイルばねをいとも簡単に作って見せてくれたのだ。
男が抱き付いても嬉しくは無かっただろうが、思わず抱き付いてしまったものだ。
バネの強さを吟味するために線の太さや巻き取る回数に直径、熱処理の具合などすべてに任せて安心の職人たちだった。
「ヤマノベ螺子工業公社」も設立された。
ここは螺旋状の部品を製造する会社となり、主要製品はネジとバネだ。
もちろん社長は如月で、俺が相談役なわけだが、精密バネや様々なネジを製造販売する会社となるだろう。
ネジが手に入るようになると、馬車の車体製造や、シャシーの造りが大幅に高度に発達し、昂暉の機体構造にも変革が訪れることになった。
「ヤマノベ製鋼所」は、如月を社長に頂き、圧延鋼を始め色々な鉄を生産する一大企業となった。
高張力鋼という薄く、硬く、強靭な鉄が真っ先に生産され、これらを構造科学によって計算されつくした設計に基づいて鉄で昂暉の骨格を作れるようになったのだ。
これまでの昂暉と比較して、内部構造の強度が5倍以上となり、重量は半分になった。
そうするとどうなるかというと、同じエンジンを搭載して武装できる爆弾や魚雷の数が増えることになる。
爆撃機では爆弾は400kgが限界とされていたものが800kgまで増え、攻撃機の魚雷も一発しか搭載できなかったが、余裕で二発、または巡航ミサイル一発が搭載できるようになった。
戦闘機は搭載できる武装に変化は無かったが、航続距離、最高速度、旋回性能などが圧倒的に向上し、飛龍の戦闘機動ではまったく敵わないほどの純粋な格闘戦能力を持つまでになった。
エンジンの生産能力も高まり、精度も向上したことから、大規模改修が行われることになった。
全ての昂暉のエンジンがヤマノベ自動車公社で製作された工業製品レベルのエンジンに換装され、高精度に加工されたエンジンは出力が1.8倍にまで引き上げられ、それでいて燃費は4割ほど改善された。
その前に行われた機体の交換作業もあり、木製の昂暉はすべて退役となった。
主要な骨格が木で出来ていたことで廃棄品の全てが無駄にはならず、「ヤマノベパルプ工業公社」で画一的な紙として再生されていった。
学舎を中心に供給された紙でできたノートは勉学に励む学生たちに大変喜ばれた事は言うまでもない。
まるでウソのような産業革命が一気に加速され、多数の会社の社長に就任した(させられた?)如月はともすると俺よりも忙しい職業婦人となってしまっていた。
かなりのフラストレーションが溜まるらしく、夜の生活が異常な事になってしまった。
「はぁ、はぁ、もっとあなた、もっと。」
ストレスの全てを夜の生活で解消しようとしているようで、これまでに一度で満足して快眠を得ていたはずであったが、最近では一度で満足を得られなくなっているようなのだ。
仕事自身が忙しい訳ではないのだが、都度都度に人前に立ち、話すことが多くなったことでやはりストレスが掛かっているのだろうと考えられる。
かと言って、任せられる妻と言えばアニエスしかなく、アニエス自身も如月の様子を見て負担を分け合おうと言ってくれていることから「ヤマノベツールス公社」と、「ヤマノベ自動車公社」の代表取締役専務として就任してくれたのだ。
シロップとフィアは「ヤマノベ螺子工業公社」の名前だけ専務となり、オヤジギャグ同様の「なにも専務」となっている。
意外にもアニエスが辣腕を振るっており、ヤマノベツールス公社が急成長を遂げているのが面白い。
面白いというのは、アニエスが従業員に「何をしたいか?」と問うと、それぞれが様々な工具のアイディアを捻り出して来て、それを実現させようと後押しをするのだ。
失敗も多いのだが、その中から何かを掴んだ技術者が成長し、次には自動車製造に役に立つような工具をモノにしているのだ。
若い奴らが俺の作った加工設備を叩き台に、高精度、高速度、高機能な加工設備の製造にも挑戦し始めているようだ。
ヤマノベ自動車公社も如月とアニエスのお蔭で生産性を向上させるような工夫と改善をどんどんと行い、少しでも楽に、少しでも早く、少しでも安く貴族連中の馬車を作る努力を行った。
アニエスは農耕用の馬車などに使えるように、装飾や機能を徹底的に削ぎ落とすことで一頭の馬が最大限に活躍できる平ボディーの「荷車」を作って見せた。
低価格、高機能な農耕用の馬車は飛ぶように売れ、市場の大きさの違いをまざまざと見せつけたような結果になった。
シロップやフィアがほわんほわんしていたかというと、そうでもなく、バネやネジの規格化に精力的に取り組んでくれた。
なぜ規格統一に精力的だったのか、後になって判ったのだが、「覚えられないの。」というシロップの言葉がすべてだったのだ。
ネジの太さや長さをほんの数種類にしてしまうことで、自分たちが覚えられ、足りる、足りないなどの在庫管理もできるようになった。
長さの足りないものなどは特注品としてまとまった単位で受注することで、コストを抑えて売価を高く設定することも可能となったのだった。
これが功を奏し、ヤマノベ螺子工業公社も他に負けない成長を遂げている。
石人族が従業員の7割を占める世にも珍しい企業となっているが、シロップもフィアも俺の妻だけあって偏見も差別も無しだ。
従業員と一緒に食堂で昼ご飯を食べている姿を見ると、フィアがゴーレムの設計主任さんや製造部の石で出来た課長さんと唐揚げを奪い合ってる。
ゴーレムの食事が人と変わらないというのも一つの発見ではあったが、他の人種の従業員とも実にうまく溶け込んでいっているようだ。
ヤマノベツールス公社で開発された「転造機」が導入されてから、手作業だったネジの製造が自動化されて、製品単価が下がると共に流通量も豊富になったことで、神国各地にも工業化の波が押し寄せているという。
加工設備はヤマノベツールスのドル箱となり、その設備で使われるドリルや砥石も継続したビジネスになっている。
アニエスと如月による会社運営は非常に快調で、ヤマノベ製鋼所からは軍需用の鋼材に始まり、民生用の圧延鋼や棒材、果てはパイプまでも引き抜きと言う手法で製作し始めている。
シームレス鋼という継ぎ目のない鉄製のパイプは、クノエでシシオさんの奥さんのサツキさんが開発したという樹脂を内側に塗布した「ライニング管」という商品になり、フィアやシロップのお蔭で規格化されたネジと相まって上水道管として大ヒット商品となった。
ただの鉄管ではないので錆びに強く、長期間地面に埋めて使う事が出来るため、トウトでは一大水道事業が立ち上がり、セントラルキャッスルはじめ、貴族街を皮切りにどこの家庭にも蛇口をひねれば水が出る水道が整備され始めた。
ヤマノベ製鋼所が不眠不休でライニング管を増産し始めると、クノエからの樹脂の供給が間に合わなくなり、フィアズケミカルインダストリー株式会社と言う神国初の民間企業が旗揚げされた。
一般の人達から出資を募り、集めた資金を活用して工場や設備を用意する。
これらで得られた売り上げから一部を配当金として出資者に還元する仕組みができて来たのだ。
他人事のように言ってはいるが、その仕組みは向こうの世界の仕組みであり、ビジネスモデルとして構築するためにクノエで俺は缶詰になった。
うちに帰れない何かがあるときにはフィアを必ず同伴する。
クノエで何かのイベントや謀が興るたびにフィアの名前が使われるのはもう、仕様としか言いようがない。
フィアの名前を入れさえすれば成功するというジンクスのような物になりつつあると思うのだが、フィアはこれに関しては相変わらずアレルギーがあるらしく、「恥ずかしいから何とかしてください。」としか言わないのだが、クノエの連中はそれはムシの方向で一致しているようで、とにかく「フィア」と入れる。
この会社では化学製品が主要な生産品目となり、石油化学製品が目玉商品だ。
ライニング管の内側を保護する樹脂だけでなく、プラスチック製の容器や珍しい物ではまな板などの日用品まで樹脂で製造して販売している。
ゴやショウセン、キョクセンなどの軍事拠点に近い港湾地区では石油プラントも立ち上がっていると聞くし、ヤマノベ製鋼所公社やヤマノベパルプ工業公社などがある日本で言うところの川崎市界隈では火力発電設備が陛下肝いりの事業として準備されている。
発電は50万キロワットクラスのボイラーとタービンによる発電設備が4基建築中で、関東一円を賄う能力を見込んでいる。
一応断っておくが、「ヤマノベ何とか公社」は国有企業なので俺の妻たちが役員を務めているとはいえ、売り上げの全ては国庫金となり、妻たちや俺が得ている給金は自分たちの好きにしている訳ではないから。
陛下やユンカーさんと話し合って決めた完全月給制で、頑張ろうと鼻を穿って過ごそうと貰える額は変わらない。
まぁ、それでも頑張ってしまうのは悲しいかなサラリーマンの性だ。
アジア圏のほとんどが神国に資源協力し、神国から受ける様々な旨みに預かれるようになってからは「大アジア共栄圏」が本来の意味で回り始めているようである。
シーサーペントやリバイアサンによって封じ込められている西華は放置として、南シナ海を取り巻く諸国とは良好な関係が深まりつつある。
この関係にインディアも興味を深めており、ローレシアがイウロペと対峙する構図に変化が現れ始めているとも聞く。
インディーラがローレシアと距離を置こうとすると、インディーラに対するイウロペのゲーマニアンからの圧力が高まるし、ローレシアの凍える痩せた大地からの少ない恵みではローレシア自身が生きるに苦しくなる。
それぞれの勢力が思惑を持って絡み合っているのに対し、大アジア共栄圏は相互に互恵関係を深め、誰かが一人勝ちしないように常に話し合いの場が持たれており、各国が情報の共有を図っているために技術の神国と一次産業に特化した農耕立国、資源採掘に優れた国などが互いの利害を一致させるために本当に努力している。
資源を算出する国にはその活動を支えるために食料などが融通され、神国からは工業機械や日用品などがとても安価に卸されている。
農業国には資源産出国からエネルギーが安く供給され、神国からは科学飼料や農業機械が届いている。
恵んでくれた資材と食料は神国の民を飢えから救い、工業製品の生産性を向上させてくれている。
穏やかに絡み合うアジア各国は互いを隣人と認め、仲良くすることにとても積極的になった。おかげか、観光などの余暇に費やすお金なども各国の人の間に潤うようになったらしく、相互に観光に訪れることも多くなっているようだ。
恐怖に支配されるイウロペと、生き残りの手段が限られたローレシア、イウロペの猛威に晒されたイングリーンランドを創始国としたアイアメリカの大西洋戦略などアジア以外の列強各国がギスギスとしている中、俺たちだけが温かく発展を続けているわけである。
越国と西華との国境線にはTOW(Tube-launched Opticalliy-tracked Wire-guided)ミサイルを装備した部隊が展開され、ラオス、ミャンマー、バングラディッシュにも同様の部隊が睨みを利かせている。
TOWは筒に納められたミサイルを西華の地上軍に向かって撃つための装備だが、筒から発射されたミサイルは光学式の望遠鏡で狙いを定めた敵の元へワイヤーで操縦されて命中させることができる優れものだ。
FIM-92スティンガー短距離地対空ミサイルも同時に展開されたことで西華がアジア共栄圏へ進攻しようと目論むと、地上部隊は殺到するTOWミサイルによって、飛龍部隊はどこからともなくやって来るFIM-92スティンガーミサイルによって近づくことさえも困難になっている。
高価な戦車や、テイムしてからも長い時間をかけて育てた飛龍などが、次から次へとやられてしまう段には西華としても全く割が合わず、西方の守備に専念せざるを得なかった。
ゲリラ的に撃ち込まれるミサイルは避けることも難しく、ミサイルの安い単価と戦車や飛龍が被る被害が全く引き合わないのだ。
TOWやスティンガーミサイルは神国で開発された拠点防衛用の兵器ではあるが、西華にはとても有効に機能しているようだ。しかしながら、西華特有の飽和攻撃に対抗するには絶対数よりもそれを扱う砲兵が足りておらず、最悪の場合には数の暴力に蹂躙されてしまう場合もあると越国などが危惧していた。
これに対する手段として、CIWSファランクスシステムという自動反撃装置を国境に整備することになった。
神国の戦闘艦に装備されているレーダーをダウンサイジングした独立レーダーを搭載し、昂暉に搭載されている12mmバルカン砲とセットにしたモノなのだが、20基のCIWSが連携する能力を持ち、互いに目標を譲り合いながら個別にバルカン砲を浴びせ掛けるのだ。
兵を必要とせず、近づく脅威に対して完全自律した状態で連携攻撃を加えるため、側に居る兵は機関砲の弾を交換する仕事しかしなくてもいい。
西華の飛龍を自動追尾し、撃墜するまで手分けして狙い続けるのだからこちらとしては楽でしょうがないうえに、西華としては無慈悲な追撃になす術もないのである。
TOWと、スティンガー、CIWSが配備された国境には結果的に西華は近づきもしなくなってしまった。
大アジア共栄圏からはじき出されてしまった西華など、自業自得ではあるし俺たちの知ることではないが、あわよくばローレシアと共にイウロペに滅ぼされてしまっても構わない。
ブータンとネパールが大アジア共栄圏に参加し始める段になって、イウロペの侵攻も苛烈になってきており、西華は甚大な被害を被りつつあるが、ネパールは強力な防衛兵器のおかげかイウロペからの圧力のことごとくを跳ね返しているようだ。
インディーラも数に任せた防衛を行ってはいるが、ローレシアとの距離的な隔たりが足枷となり、効果的な防衛を行えてはいないようだ。
いくらの日も経たないうちにインディーラの特使と言う一団が共栄圏各国を訪問しているという。
神国だけは海を越えるというイベントがあるせいか、未だ訪問を受けてはいないが近いうちに親しい隣人として共に手を取り合ってくれるのかもしれない。
インディーラに供与が始まったTOWミサイルがいい仕事をしているという事だったが、半面、ゲーマニアンの兵器の進歩も侮れず、重戦車にはTOWミサイルでも歯が立たないという事だった。
一度は、フィアと現地に赴き、レネゲイドでゲーマニアンの地上軍全てを踏んで回ったのだが、いつも面倒を見れる訳でもないことと、フィアが暑さで長期滞在に向かないことが判った。
日中に外気温が50℃を超え、レネゲイドの中は空調も効いているので問題は無いのだが、屋外に出るとすぐに熱中症にかかり、夜の生活も何もなくなってしまったのだ。
おでこに氷嚢をあてがい、体を汗を拭い、経口補水液をちょっとずつ飲ませなければいけないのだが、申し訳ないと遠慮ばかりして返って治療に時間が掛かったりしたのも俺としてはいい思い出だ。
根本に魔力譲渡があるから、最悪の結果となることもないのだが、フィアにとっては随分と辛い目に遭うこととなってしまった。
インディーラと言う独特の地勢は大アジア共栄圏のまさに入り口と言え、ゲーマニアン主導の侵攻部隊とどうしても正面からやり合う形になるのだ。
陛下の意見としては陸軍などが正面を担えば楽に撃退できるのだろうが、それでは神国が掲げる専守防衛の規範に反することになるし、昂暉や旭北を配備すればいいのだろうが、万が一敵の手に渡ると、神国の優位性が一気に失われることになる。
これを避けるために貴族様たちとしては有効な手段を考えあぐねている状態なのだった。
俺としては一刻も早くフィアを神国に連れて帰り、辛い思いをしなくていいようにしてやりたいだけで、レネゲイドから夜しか出てこれないフィアが可愛そうでならない。
結果としてどうしたかと言うと、陸上戦艦を建造することにした。
ヤマノベ自動車公社の研究所で酷暑仕様のディーゼルエンジンを開発し、全長300m、全幅60mの地上を進む戦艦を不眠不休で設計した。46cm三連砲を艦首に4門、艦尾に4門搭載し、38cm副砲塔をぐるりと取り囲むように10問、CIWSバルカンファランクスを30門備えたハリネズミのようなキャタピラーで走る地上高40mもある巨大なカタマリとなった。
ハイテン鋼を竜骨や構造の随所に取り入れ、複合装甲を纏ったこの巨大な陸上戦艦は、見た目を裏切る軽量化が成されており、34,000馬力のディーゼルエンジンを2基搭載して時速50kmという俊足を誇る異様な地上兵器となった。
この陸上戦艦が稼働を開始し、インディーラに配備されたのはインディーラが大アジア共栄圏に参加して僅か3か月後と言う早い時期だったのだが、労働力を無尽蔵に得られるインディーラならではの成果と言えるだろうか。
俺の意見だけで「ガンダーラ」と名付けられた陸上戦艦は主要なゲーマニアンの部隊と正面衝突を繰り返し、その身にゲーマニアンの攻撃を一身に受けながら、それを全くものともせずに蹂躙を繰り返したのだった。
ゲーマニアンの飛龍部隊は三式弾に薙ぎ払われ、地上を埋め尽くすような戦車部隊はそれこそ踏まれ、撃ち抜かれ、38cm副砲塔の徹甲弾、榴弾に燃やし尽くされていた。
強行侵攻用の高速な飛龍もCIWSに対しては止まった蝿と変わらず、逃げ場もない弾幕に射撃訓練のように撃ち落されていった。
ゲーマニアンが構築した要塞じみたトーチカも豆腐を割るように46cm砲の餌食となり、自慢の列車砲さえも軌道毎踏み潰されていった。
ゲーマニアンの印派遣部隊は大部分が「ガンダーラ」の履帯に踏みしめられ、焼けた砂に飲み込まれていったが、恐怖でしか纏め上げることができないイウロペ連合軍は離反が相次ぎ、印派遣部隊の敗退が影響を色濃くしているらしい。
ローレシアへ向けた部隊も大半がガンダーラ討伐に駆り出されたものの、当たり前のように返り討ちとなり、ゲーマニアンの主導的な立場、求心力が大幅に失われ始めている。
地上戦力、航空戦力のほとんどが殲滅されてしまい、インディーラはおろか、トルコからギリシャまで押し戻され、イウロペとアフリカ大陸を死守することが命一杯の状況となっている。ローレシアや西華への圧力はまだ高いものの、南側からジリジリとした反抗があり、補給線の伸び切ったゲーマニアンとしては気が気ではない状況となっているようだ。
ギリシャ、ジョージア、カザフスタン、までが大アジア共栄圏の勢力圏となり、西華は結果的にその庇護に匿われているような状況となっている。西華人民代表大会は正式に神国に対し、謝罪と救済を求めて来て、東シナ海と南シナ海の全域での領有権を放棄して見せた。
欲を出すと全てを失いかねないという現在の情勢を鑑みて苦渋の決断という事だろう。
のど元過ぎれば熱さを忘れる国家だから、この間にアジア各国に拠点防衛に必要な軍事力を供与し、後から裏切るハズの西華に対して優位性を築いておくことも忘れなかった。
過去の歴史が西華の唯我独尊を証明しているし、端から誰も信じてなどいない。
西華とはそう言う国なのだ。
10億の民を抱えながら共産主義一党の独裁政権が永劫に渡って続いた国は、虚飾に塗れ、汚職に埋もれ、国民からさえも信用を失って久しい選ばれた者たちにとってだけ都合のいい演劇国家なんだろうな。
陸上戦艦2番艦「モスクワ」と3番艦「黒海」が就役し、黒海とカスピ海、地中海の間隙を完全に封鎖していることにより、イウロペにとってはいつ喉元に刃が突き立てられるのか判らないという緊張を強いられる状態になっている。
ゲーマニアンの地中海艦隊もガンダーラと黒海に陸上から攻撃され、補給艦を除く戦闘艦艇はいまは漁礁となっている。
装甲空母とやらも46cm砲の水平射撃で蜂の巣にされ、10分と持たなかったし、ゲーマニアンの威光とやらも地に落ち始めたようである。
嫌がらせのように飛来する巡航ミサイルは、当たり前のようにゲーマニアン本国を襲い、選ばれた民たちに驚愕を与えているらしい。
世界の頂点である一等臣民が、四等やら五等臣民らしい神国やインディーラの圧力を受け、本国さえもその攻撃圏内にあるという事が我慢ならないらしいのだが、チョビ髭の総統閣下がいらっしゃる総統府とやらも真っ先に巡航ミサイルの餌食となっていた。
その後も軍事施設を中心に連日のように巡航ミサイルが撃ち込まれ、空軍の飛行場の全てが穴だらけになり、海軍軍港の全てが炎に包まれ、陸上戦力の燃料基地のほとんどが大きな松明となって燃えてしまっている。
復興に取り掛かると飛んでくるミサイルに一等臣民の皆さまは恐怖に歪み、自分たちの考えが間違っているのではないかとさえ言い出す者も出始めているという事だ。
山間地や洞窟内に作られた秘密基地の類も熱源探知によって正確な場所を突き止められ、ミサイルに襲われている。
チョビ総統が生きているのか正確な情報は得られていないが、ゲーマニアンの国防戦力はほぼ壊滅し、ローレシア方面に派遣されている戦力は祖国へ帰ることができなくなっており、相当に厳しい持久戦を強いられている。
なにせ、帰ろうとすると陸上戦艦の餌食になるのだから、帰り路が無いのだ。
仏国やオーストリアなどがゲーマニアンに対して降伏を勧めているという事だが、チョビ総統の生死が不明では判断を着ける者がいないという事なんだろう。
伊国や周辺の諸国もすでに離反してしまっており、戦力なき扇動国家はゲッペルズ宣伝相による頑張りもむなしく、イウロペの中にあって孤立無援と言え、いまだ飛来する巡航ミサイルを防ぐ手立てもなくなっている。
首都でさえも空襲警報さえ鳴らず、ほとんどの機能が失われているという。
アイアメリカの遠英派遣艦隊は神国との安全保障を締結しており、大西洋側からイングリーンランド救援に駆け付けたものの、神国の陸上戦艦に震撼したという。
VLS(垂直発射装置)から撃ちだされる巡航ミサイルが容赦なく数千kmを飛翔し、正確に目標を射貫くその様を見て、無敵艦隊と言われた地中海艦隊さえもわずか二輌の陸上戦艦にあっという間に沈められ、隔世の感のある科学力に絶対に逆らうまいと考えを新たにしたと言う。
ヤマノベ自動車公社をはじめ、数々の企業の社長に就任した如月は、アニエスのサポートとシロップやフィアの思わぬ頑張りに助けられ、ようやくにも夜の生活が普段通りとなった。
俺としてはあんなに激しく求めてくれる如月も大好きだったのだが、迷惑を掛けた結果として一回で満足できないほどにフラストレーションを抱えたのだと思えば、元に戻った方が俺たちの為だったのだろうと思うことにした。
アニエスやシロップは普段通りの行為だけで済んでいたし、フィアもインディーラで体調を崩しはしたが、陸上戦艦のお蔭で神国に帰ることができ、すぐに体調も戻った。
「ソウタさん、エッチのあとにおでこにキスしてくれるの嬉しいです。今夜もお願いします。」
アニエスの愛を囁く言葉が脳裏に響き渡る。
俺の右腕に幸せな感触をくれているアニエスはもう、すっかり夢の中だというのに、俺の頭の中ではウィンドウィスパーによるアニエスの囁きが明瞭な警告となって意識を覚醒させようとしている。
やれやれだ。
ダイジェストのように目まぐるしい展開の今話でしたが、最終話が近いとかそう言う訳ではありません。
ただ、今後の展開の邪魔になりそうな部分を駆け足で片づけたような話です。




