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Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
ノブレス・オブリュージュの章
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【第99話】陛下の怒り

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

本日もお届けできます。

明日で連休も終わりと、気が重くなりますね。

 熱膨張率の低い物と言えば、植物由来の絹糸や麻を織った物か。

 では紫外線による劣化に強い物は。

 金属か鉱石に由来するような物だろうか。

 いや、どちらもセンサーの張り線には向いていないだろう。

 長期間放置しても劣化せず、季節や気温で収縮したり膨張したりしない。そんな目に見えないほどの糸を欲しいのだが。


 結局、悩み抜いて試行錯誤の末に手に入れたのはオリハルコンを紡いだ糸だった。

 オリハルコンはミスリルに倍して希少な金属鉱物だが、ミスリルのように鍛造するにもプラチナのように鋳造するにも癖がありすぎて向いていない。

 熱するのは容易いが、それを打って形を変えるには特殊な技術を要するんだ。

 ましてやそれを糸のように伸ばすためには。

 通常の空気を送り込む溶鉱炉ではせいぜいが2000℃前後。俺が作った溶鉱炉は6000℃まで昇温が可能になって、大量の酸素を燃焼させる超高温バーナーを用いた溶鉱炉は製鋼所のように引き抜きで溶解されたオリハルコンを巻き取ることができるように作った物だ。

 直径が1mmにも満たない針金のようで、目に映らないほどの澄んだ透明にも似た白金のったものでなく単線の糸ができた。

 5000℃を越えたオリハルコンはトロッとした粥状になり、強い粘りを示しながらほんの少しの温度変化で固体に戻ろうとする。

 この性質を利用して最初の一雫をリールに巻き上げて、その後は一気に巻き取るのだ。

 途中で速度を緩めず流路を空気バーナーで予熱し、高速で巻き取り続けると炉から出た瞬間からゆっくり固体に戻り始め、巻き取られる距離によって自重と加えられるテンションで細く、細く伸びてゆく。

 自然界の温度変化では計測することさえ不可能なほどしか伸縮せず、紫外線はおろか水分を与えても酸化しない強靭且つ柔軟な繊維が出来上がっていく。

 この糸を地質を読み、断層を見極めたその両側にクロスさせて張ることでどの方向への歪も見逃さずに察知することができるはずだ。

 センサーは光学式の光電センサーと言われる種類のモノを作ることができた。

 魔石の一つである光魔石。屋敷の照明にも使っている一般的なものだ。これを箱型の外光を遮るような容器に納め、一辺だけに灯り取の窓を空けてある。

 対になる容器には遠見の魔石を長方形の薄い短冊のように切り出して収めてある。

 向かい合わせにして間隙を1mmほど設けると、その間にオリハルコンの糸を通して結び目を向かい合う発光部と受光部の中央に調整する。

 遠見の魔石に結び目を認識させると、それが動いただけで驚いたような反応を示すようになるのだが、それをきっかけに回路を作動させるようにしてみたのだ。

 回路はANDにORにNOTなどの論理回路を組み合わせ、シーケンス回路を構成している。

 それぞれのセンサーを条件づけて単独で反応してもそれを無視し、いくつかのセンサーが連携して異常を感知した際には俺に知らせられるようにしたんだ。

 そうしなければ雨のしずくでも虫が留まっただけでも俺が呼び出されてしまうからな。

 確実性を増すために回路は複雑になり、量産するために大変な時間を要した。

 妻たちに遊びに連れて行けと叱られたり、娘たちにもっと遊べと駄々をこねられても理解を求め、宥めすかし、無視して量産を急いだ。

 シンカタに起こるであろう地震と次元の綻び。これを何とかしなければまた、災厄が次元を通って来てしまうかもしれない。

 もしかすればそれは心強い味方かもしれないが、善悪の判断は迷い人が来てみなければ判らないことなのだ。

 陛下と申し合わせた通りであれば、誰も来ない方が最善策となるし、いま準備を終えなければ次の機会がいつのことになるのかも判らないからな。

 娘たちが生きているうち、俺が死んでもういない時間にそれがあったとしたら。そう思うと手を止めることができなかった。

 だから食事を抜こうと、睡眠を忘れていようとも、妻たちや娘たちに寂しい思いをさせていたとしても、歯止めだけはしておかなければ安心もできはしない。

 そう思っているのに、妻たちは休めとしか言わない。

 終いには陛下のところにまで文句を言いに行く妻たちにほとほと困らされたが、息抜きを忘れた俺に陛下でさえも声を荒げることもあった。

 「直ちに開発を中止し、奥方様方を観光へいざなう事を厳命とし、明日中に出立のこととする。」

 意味が分からないんですけど。

 何のためにやっているのか?陛下にそう具申したのだが、一顧だにされなかった。

 「ソウタ殿、生き急いでも得られるものは多くは無いのだ。一つのことを成そうとするその意気込みは私たちにさえ畏敬の念を禁じ得ないが、人のいくる道は短辺急ではないのだ。

 時に立ち止まり、時に振り返りながら間違っていなかったか確かめることもまた、大事なものなのだよ。

 その時に自分の向かう方向が間違っていないか、何かを忘れていないか、誰かを悲しませてしまったりしていないか反省することができるのだ。

 フィア殿が、アニエス殿が、シロップ殿が、そして如月殿がそなたの身を案じているのだよ。アマーリエや私でも今のあなたには不安を抱いてしまうよ。

 私はあなたが居なくなることや、あなたがあなたでなくなることを望んではいない。そうまでして親王で居たいとは思いもしないよ。

 あなたがおかしくなったり、奥方様に何かがあった時には私は親王を辞去するよ。

 まさか、自分の友を失ってまでやり遂げる仕事などはこの世にないんだよ。それなのに自分の最愛の者をないがしろにしてすべきことなどあるはずがないであろう?

 私はあなたに甘えすぎていたのかもしれないね。

 こうして頭を下げるから、あなたはあなたで居て欲しい。」

 神国の親王陛下は私室でない、公衆の面前で、控えの間でさえない謁見の間の俺の目前で床に膝をつき、両手を地面について深い礼をされた。

 その場が凍り付き、幾人かの貴族と城に仕える家令やメイドたちが血の気を失ったように立ち尽くしている。

 時間が進むのを忘れたように地に臥す陛下とそれを見下ろしている俺が居た。

 「御前失礼。」

 ユンカーさんがそう呟き、陛下の身を起こされた。

 「ユンカー、余計なことをしないでくれ。これは必要なことなんだ。

 私は何がどうあってもソウタを失う訳にはいかないんだ。

 自分の立場なんてどうでもいい、それよりも失っちゃいけないモノがここにあって、私がそれを失いそうになっているんだ。

 だから!、だから私の邪魔をしないでくれ!」

 ユンカー子爵の手を払いのけ、俺を呼び捨てにしていても、周りに誰が居ても陛下には一切それを考慮するつもりも無いようで、また両手を床に着き伏せるように俺に懇願する。

 俺は何かを間違っていたのか。

 この世界にある綻びを閉じるのはみんなが望んだことではなかったのか?

 全員の耳に、俺がおかしくなれば、妻たちが害されれば陛下は陛下を辞めると言った言葉が届いてしまっていた。

 そして俺に根を詰めすぎるなと平伏してまで懇願する陛下。

 これ、なんだ?

 するとメイドさんの一人が膝を折って俺に向かって、祈るようにも見える土下座をした。

 会計局を預かる公爵が続いて俺に向かって膝を折った。

 皺の一つもない執事としての衣装を着こなしている家令たちもそのスーツがどうなろうと構わないと言うように同じように地に伏せてしまった。

 それから次々とその場に居た全ての者が俺に向かってこうべを下げ、ユンカー子爵も陛下の後ろでひれ伏してしまい、立っている者は俺とアマーリエ様だけになってしまった。

 アマーリエ様はものすごく不機嫌な表情をしておられ、俺に睨みつけるように鋭い視線を寄こし逸らそうともしない。

 「ソウタさん、最初で最期にあなたにこれだけは言っておきます。この世界はあなたのモノではありません。

 たくさんの人達がここで生まれ、ここで死んでいく私たちの世界なのです。

 そこに迷い込んでしまったあなたには同情を禁じ得ません。それでもあなたはすべてが良くなるようにと最善を尽くしてくれています。

 そこには感謝だけでは到底及ばない深い気持ちを現したいと思いますよ。

 ですが、あなたが娶ってしまったフィアさん、アニエスさんにシロップさん、剣なのにその身を捧げてくれた如月さんは私たちの世界に生きる命なのです。

 その命をあなただけのために燃やしてくれているその者たちを蔑ろにしてどうしますか?あなたがこの世界を作った訳でも、守ってくれと頼んだわけでもありません。

 ですが、私たちは余りにも無力すぎるのです。

 害する者、悪意を抱くものがあまりにも強すぎてどなたかに頼らざるを得なかったのです。

 それがソウタ=ヤマノベと言う人であっただけで、私たちはあなたを信ずるより外にありませんでした。

 あなたはそれに応え、私たち一人残らずを助けてくださいました。それ以上を望もうとする私たちはもしかすると、とんでもない我儘を申し上げているのかもしれません。

 それなのにそれに応えようとし、己と自分を支えてくれる者を忘れてしまったらあなたには何が残るのですか?」

 何も言い返せなかった。

 アマーリエ様が言ったことの全ては間違っちゃいない。

 しかし、俺はそんなにも独りよがりだっただろうか?フィアたちをかえりみもしなかったのか。

 周りを見回す限りはそうだったのだろうと思うしかないのかもしれない。


 深い息を吐きだし、膝をついて陛下の手を取る。

 「申し訳ない。」言いながら陛下は顔をお上げになり、俺の両肩を強く握って来られる。

 陛下をお妃様の横に立たせ、その御前に臣下の礼を示して膝まづく。

 「陛下に申し上げます。お許しいただけるならしばしのお暇を頂き、妻たちと物見に出掛けたいと思います。戻りました後にはシンカタで起こります世界の綻びを必ず閉じてご覧に入れます。」

 「休暇を許可する。また、世界の綻びを必ず閉じて見せよ。ヤマノベ公爵の働きに疑いもなく期待する。成功の報告のみをもって登城し報告せよ。それまで此処に近づくことを許さん。」

 「お気遣い感謝いたします。御前失礼。」

 もう、交わす言葉は無い。

 ゆっくり休んで、それから綻びを閉じて報告しに来ればいいんだから。

 「陛下から休暇を賜った。」

 そう言って、屋敷に帰ってから丸一日以上に渡って四人の妻たちに愛情を注ぎ続けた。

 それが罪滅ぼしとかそんな高尚な理由ではない。

 明日にすることが無いのだったら、限界まで妻たちを愛したいと思っただけだ。

 まるで欲望をぶつけるように四人を可愛がった。疲れて休もうが、寝ていようが構わずに繰り返し手当たり次第に捕まえては愛し合って、疲れれば惰眠を貪ったのだ。

 そこまでするとさすがに気が紛れたのか、俺も落ち着いてくる。

 「あなた、何度も言うけど無茶しないでちょうだい。」

 「ソウタさん、すっきりしましたね!」

 如月とフィアに叱られたんだか褒められたんだか判らない言葉を貰い、まだ休んでいるシロップとアニエスを膝枕して髪を撫でていると、肩に凝り固まっていた重い塊が全部なくなったような気がした。

 コツンと如月が俺の胸を殴り、泣きながらまた俺の胸を殴った。

 それからはポカポカとフィアのように繰り返して殴って来るのだが、それは心地よさしかなくて捕まえた如月を抱きしめるとまた、わんわんと泣き出してしまった。

 なんだか、如月を泣かせてばかりいる気がする。ちょっと胸の奥が痛くなったような気がする。

 「如月、俺はお前を悲しませてばかりいるんじゃないか?そうだとしたら俺は本当にどうしようもない奴だな。」

 「わ、わたしが、わたしがあなたを心配するのは、あなたを失いたくないから。私イヤなの。あなたが居なくなったりしたらまた鞘に籠って全てを見ないふり、聞こえないふりしなきゃいけないのよ?

 またあの闇の中に戻るくらいなら折れてしまった方が、死んでしまった方がいいの。そんなのもう、考えるのもイヤ!気が狂いそうよ。」

 俺の頭を抱え込んだ如月は胸に掻き抱くように俺を抱きしめて、嗚咽を漏らしている。

 背中からフィアがしがみついてくる。

 「ソウタさん、ソウタさんも私たちも今日で終わりという訳ではありません。明日シンカタで地震が起こったら次はどこですか?その時に備えてもきっと大丈夫です。

 ソウタさんが居る限り何があっても大丈夫です。私たちもいますからソウタさんも大丈夫ですよ。

 もっと余裕を持ってください。敵の全てが嫌になるくらいの余裕を!悪いことをしようとする人たちを、誰かを困らせようとする人たち全てを見下ろすように、その全てが無駄だとわかるようにしてくれたらいいんです。」

 「無茶言うなよ。それじゃ誰も叶わない悪魔みたいじゃないか。」

 「それでいいんです。そのくらいじゃないとまた誰かが悪いことを考えちゃうじゃないですか。」

 シロップとアニエスはまったく目を覚ます気配もないが、涙の跡をみてると申し訳ない気持ちになる。

 俺の膝で眠ってる二人の髪を梳くと、シロップもアニエスも笑顔で寝返りを打つ。

 いつもなら一回、二回でぐっすり眠ってしまうようなこの子たちを丸一日付き合わせてしまった。

 それでも最後まで全ての愛情を逃すまいと付き合ってくれたもんな。

 如月とフィアはまだ言い足りないとばかりに俺に絡みついてくるが、それも大事なんだろう。

 ちょっと慌てていたのかもしれない。

 フィアの言う通り、もっと余裕を持たなきゃだめだよな。

 俺の膝の二人はそのままに、フィアと如月を抱きしめて仰向けに倒れ込んだ。

 「なによ!」

 「ちょ?ソウタさん!?」

 「ちょっと休まないか?ちょっとだけだからさ。」

 俺の耳元で捕まえられたフィアと如月が何か言っているようだが、ちょっと眠らないと。


 どれだけ寝てたのかは判らないが、目を覚ますと完全に日が上っていた。

 自分の状態を確認すると、俺の上でフィアが涎を垂らしている。髪が重いのは如月の涎だろう。左腕にはシロップが腕枕をしており、右腕にはアニエスが絡みついてオムネが気持ちいい。

 いつもの朝が来たような、そんな状態だ。

 下の方を見るとフィアの隣にはシルファもいて、ユイも睦月もカーリオもクレイオも周りに自由な格好で寝転がっている。

 やっぱりいつもの朝のようだ。

 陛下に今日から旅行に行けと厳命されたんだった。

 「あのぅ、よろしいでしょうか?」

 恐る恐るとキョウコさんが部屋をのぞく。

 「ああキョウコさん、おはよう。」

 「はいっ!おはようございます。今朝は普通なんですね。」

 普通ってなんだよ?

 「昨日はお館様が怖くて誰も近づけませんでした。奥方様が皆さんとにかく大変でしたから。」

 そ、そうだよな。

 ちょっと鬼畜な状態だったかもしれない。

 周りを見回してもまだ、誰も目を開けていないし。

 「今日はみんなで出かけようと思ってるんだ。馬車の準備をしておいてもらえないかな。」

 「判りました。一輌でよろしいので?」

 「ああ、俺たちだけでいいよ。どのくらいかかる?」

 「すぐできますよ。朝食は召し上がられますか?」

 フィアの腹が鳴る。

 「じゃぁ、準備しておきますね。」

 俺の返事も待たずにフィアの腹に返事をしていってしまった。

 結局ポカポカと俺が殴られる訳だ。

 いつも言ってるが、俺の所為じゃないだろうに。


 次々と妻たちの目が開いたようで、ベットの上が騒がしくなる。

 娘たちも次々に起きだして、今朝は完全に平常運転だ。

 「ソウタパパ、今日はお出かけってホントにゃ?」

 「ああ、本当だよ。陛下から”遊びに行け!”って叱られちゃったんだ。」

 「何にゃソレ?」


 トウトの貴族街を出てまっすぐ南下すると日本で言うお台場海浜公園に行くことができる。

 遠浅に作られた半人工の海浜公園であり、秋晴れの今日であれば寒いという事もない。

 行き先を告げて準備したおかげで妻たちも今日は全員がパンツルックだ。

 フィアとシロップがホットパンツで、目のやり場に困るほどの生足を惜しげもなく披露しており、アニエスと如月は膝くらいのパンツだが脚線美の優劣は四人ともに付けられそうにない。

 日よけの帽子もちゃんと用意したようで、みんなばっちりだ。

 娘たちは転んでもなんでも大丈夫な様に体操服にしてある。こちらにある訳ではないがオウスガの例の店でリクエストしたらあっという間に作ってくれた。

 娘たちの分と妻たちの分。

 妻たちの分は当然だが、部屋でしか着ないよ。誰に見せるもんかって。

 娘たちは動きやすいこの服を気に入っており、シルファも半袖、半ズボンが似合ってる。

 妻たちはブルマーだが、娘たちは外にも出るからそう言うわけにもいかず。しかし、みんな良く似合ってるし、可愛い。


 馬車を停める駐車場に入ると係りの者だろうか、慌てて駆け寄ってきた。

 「待ってください!こちらは貴族様でしょうか?」

 「はい、ヤマノベと言います。でも、なにか?」

 「な!?ヤマノベ公爵様でいらっしゃいますか?本日はどのようなご用件で?」

 要件と言われても、ここにきて潮干狩りしなかったら、何しに来たんだよ。

 「家族で潮干狩りですよ。」

 凄く困った顔をする係りの人に、何に困っているのかと尋ねると、普通は貴族が来ると護衛や取り巻きで数十人も干潟に入り、他の客が迷惑するので暗黙の了解と言う奴で貴族の来る日は事前に調整することになっているのだと言う。

 「話は良く判ったのですが、私たちは家族しかいませんよ?」

 「ええ!?護衛の方たちはいらっしゃらないのですか?」

 「護衛を連れて来て何かあったら、護衛を守らなきゃいけなくなりますから。」

 キョトンとされてしまったが、本当のことなんだもん。

 この人は一体何を言ってるんだ?的な表情をしているが実際にそうなんだからしようがない。

 「で、ではこの馬車にお乗りの方だけの入場ということですか?」

 「もちろんそうです。私と妻が四人に子供が五人です。それ以上はおりません。」

 護衛もつけずに大丈夫なんだろうかという表情がアリアリだが、戦略級の兵器が二人と最高の魔剣が居るから、国家規模で攻撃されても跳ね返せるよ。

 「で、では受付で入場料をお支払いいただき、お楽しみください。」

 全然納得していないような表情ではあるが、10人程度ならと先へ入れてくれた。

 車宿りに馬車をつけると、専用の馬番たちが俺たちが楽しんでいる間の馬の世話をしてくれるのだが、観光地価格なのか結構お高い。

 最初から分かっていることなので釣りのないように渡し、それぞれに心付けも渡してやった。

 ぞろぞろと馬車から降りる妻たちを見てあっけに取られていたんだが、フィアやシロップの足を見たらカネ取るぞ。

 シルファやユイは、バケツと熊手のようなアサリを掘る道具を他の娘たちの分も持っており、さっそくお姉さんをやっている。

 干潟を見ると秋の始まりには早いが、夏の終わりに間違いないという季節からか、そう多くは人がいない。

 この分なら、そうそう迷惑を掛けることもないのではないだろうか。

 全員が俺の前を早く早くと急いでおり、シルファが干潟に出るやアサリの居そうな場所を探し始めている。目を見ればわかるが、瞳孔が全開になってるからね。

 全員にビーチサンダルを履かせ、足の裏を怪我したりしないようにさせたが、シルファは完全に四つん這いで手袋も必要だったかと、反省させられた。

 小さな気泡を探しているらしく、それを見つけては他の子に掘らせている。

 見本を見せて、出てきた貝を見せるとカーリオもクレイオも感心していた。それからもシルファは砂浜に指で丸を書き続け、フィアが掘っても出てくるし、睦月が掘っても出てきた。

 「シルファ、凄いな。本当に判るんだな。」

 「にゃはは、簡単だにゃ。」

 頭を目一杯撫でて褒めると、照れながらちょっと自慢げだ。

 段々広がっていくをひもで手繰るように如月に声を掛けたり、アニエスにクレイオを連れ戻させたりと自分が鵜飼いになった気分だ。

 ユイが俺の足元にうずくまり、気泡を探している。

 フィアは?と探すとずいぶん遠くの方におり、シルファに付き添っているようだ。

 シルファの籠もかなり大量と見えて、それを持つフィアも重そうだ。

 しかし、楽しそうに二人で地面を掻く姿はそれなりに微笑ましい。

 足元の方も大量のようで、一人で黙々とアサリを掘り出している。

 「なんか、掘るところが判ったかも!」

 自分の努力に結果がついてくると、自信を深めたようでいい笑顔で見上げてくる。

 「そうか、ユイも大したものだな。シルファに負けてないじゃないか。」

 「シルファねぇが上手な探し方を教えてくれたの。」

 また真剣な表情でアサリを探し始めた。

 シロップとカーリオもずいぶん遠くに行っており、声を掛けて戻らせた。

 カーリオの手を引いてやって来たシロップのバケツも大量だ。

 「見て、凄いでしょう。」

 「ああ、そんなにとってどうして食べようか?一度こっちの大きなバケツに移すといいよ。あと、あんまり離れないでね。」

 「ごめんなさい、つい夢中になっちゃって。またここから探してみる。」

 山菜を取りに行って遭難する典型的なパターンだ。

 そんなことを思いながら他の妻たちにも目を配る。

 如月と睦月はすぐ側におり、バケツに半分ほどだろうか。慌てずじっくり型の二人らしい。

 アニエスとクレイオはこちらに戻りながらアサリを探しているようだ。

 ユイはここに居るからいいとして、フィアとシルファの方を見ると若い男二人にナンパされているらしく、良くない雰囲気だ。

 しばらく様子を見て、ナンパ師を助けないと戦略兵器に何をされるか判らないからな。

 言うよりも早く、二人の男が麻痺を喰らったらしく盛大に吹っ飛んだ上に動かなくなってしまった。

 「ぷっ、言わんこっちゃない。」

 「ママ、すごいねぇ。」

 「やっぱりフィアちゃん、すごいですよね。」

 シロップもカーリオとしゃがんだばかりだったが、目に入ったのだろう。

 ユイと俺のこぼした声に相槌を打っていた。

 シロップにこの場を任せ、フィアの所まで行くとジト目のフィアにナンパ師の二人が見下ろされていた。

 「大丈夫かい?って痺れて喋れないか。この子は見かけは可愛いんだが、冒険者ランクがSで、レベルが10あるよ。この世界すべての魔法も使うから、気を付けないと二度と明日が来なくなるよ。」

 「ソウタさん、変な言い方しないでください。私が変なふうに誤解されちゃうじゃないですか。」

 「でも、正しく理解しておいてもらわないと。フィアが神国貴族のヤマノベ公爵夫人で、お妃様の友人だから、間違いでもあったら大変だろう?」

 話が耳に入っているのだろう、二人とも顔面が蒼白と言うか、土気色になってる。

 話しながら俺がピラピラと胸から取り出した冒険者カードと、フィアの胸に手を突っ込んで取り出した冒険者カードを見てどっちも泣き出してしまった。

 フィアのカードを取り出す時に「やん!」と可愛らしい声を出したが、はにかんだ表情はもう、最高に可愛い。

 すぐ抱き寄せて舌も入るキスを交わしてしまったじゃないか。

 足元の二人はなんか、気を失っているらしいが。蹴っても反応しないよ。


 二人を放置して帰ると、他の妻たちも物見雄山のように集まって俺たちのやり取りを見ていたらしい。

 「ソウタパパがちょっと怖かった。フィアママはもっと怖かったけど。」

 皆の元に戻ったシルファが感想を伝えていた。

 「だから、ママたちは安心していられるのよ。ソウタパパが怒ったらフィアママどころじゃないわよ?」

 「おれ、ソウタパパの怒ったところ見たことないけど、見たく無いにゃ。」

 「さぁ、みんな、一度バケツを空けてこっちに移すといいよ。」

 何食わぬ顔で俺はみんなのバケツを回収して大きな容器に入れ直す。

 みんなはまた空になったバケツを持って近くを掘り始めるが、俺は二人の男が大丈夫か時々見てやっている。

 一向に動かないところを見るとまだ気を失っているらしい。

 パトロールに来た職員が、二人を見つけたようで走って行ったが、どうやら有名なごろつきらしく警棒でつつかれた上に縄を掛けられ、引きずられていった。

 満潮になっても溺れることは無さそうでよかったよ。

 フィアが泥まみれになって引きずられていく二人を見て「ふんっ」と鼻を鳴らして気を抜いていた。

 まだ、麻痺魔法が継続中だったらしい。怖いよこの子。


 夕方前に全員にキャンプの準備をすると声を掛け、すぐ近所のキャンプ場へ移動した。

 馬車ごと乗り入れて、馬車の側で煮炊きしてもいいように設備が充実しており、貴族がよく遊びに来るというのもうなずける。

 周囲に警ら巡回している衛兵もいるため、セキュリティーも高いらしい。

 寝るときにはレネゲイドも監視してくれるので、俺たちの守りはそれどころではないが。

 今日の成果をみんなで改めて確認してから、真水で砂を落とし、二重になっているパスタ鍋のデカいのに水を張って次元断層に仕舞った。

 いま仕舞った場所は通常の10倍速で時間が経過する場所なので、20分ほども入れておけば数時間砂を吐かせたことになる。

 「便利なものよねぇ。」

 如月が呆れているが、もうそろそろ、その辺には慣れてもらえないだろうか。

 「あなたの次元断層って、いくつ部屋があるのよ?」

 「え?いくらでも増やせるよ。時間の止まったところ、遅いところに普通に時間が過ぎるレネゲイドのお部屋と何倍にでも早くできる部屋もあるし、管理できれば幾つだって増やせるけど?」

 「もういいわ。ありがとう。」

 また桁違いとか思ってるんだろう。

 話しているうちに砂抜きも済んで、アサリ三昧ざんまいのスタートだ。

 アサリの炊き込みご飯と合わせて潮汁うしおじる。たっぷりのアサリを使ったシーフードパスタ。

 アサリと野菜のかき揚げに大きめのアサリの酒蒸し。

 フィアとシルファがナンパに負けずに収穫した少し沖の大型のアサリは網焼きに。

 シルファも大満足していたが、カーリオもクレイオもどれも美味しそうに食べていた。

 「シロップ、カーリオはもう食べて大丈夫なの?アニエスもクレイオに網焼き食べさせていただろう?」

 「でも、前歯も生えてきててこういうの食べたがるんですよ。」

 「そうなの、クレイオも食感のある物が欲しいらしくて喜ぶのよ。」

 そう言えばもう離乳時期も過ぎてるもんな。

 「クレイオ、あーんしてごらん。」

 素直に口を開けるクレイオのお口の中をのぞくと上の前歯が二本と、下の前歯もちゃんと出てきている。

 これなら俺たちと一緒の物を食べても大丈夫だ。

 そう思うと、娘たちの成長って早いな。

 カーリオはアサリご飯が気に入ったらしく、拙いながらもスプーンでご飯を掬って食べている。

 クレイオは網焼きの香ばしさにハマっているらしい。

 睦月を見ると潮汁のアサリから上手に身を取って口へと運んでいる。まだ箸を仕えるほどではないが小さなフォークとスプーンを器用に使っているのがまた可愛い。

 「如月、茹でたのは冷めると生臭くなるから気を付けて。これで嫌いになられちゃもったいないからね。」

 「ええ、判ったわ。」

 ユイは2歳を過ぎて手先も器用になってきており、アサリのスープパスタを器用に大人のフォークで絡めとって口へ運んでいる。すごいな。

 「ユイ、それ美味しいか?」

 「パパの作るのに美味しいのしかないよ?これ凄く好き。」

 褒めてくれたお礼にとユイのほっぺにキスをしておいた。

 我が家の娘たちは今のところ好き嫌いもなく、なんでも美味しそうに食べる。

 妻たちにも好き嫌いが無いお蔭で調理の時にも気兼ねなくなんでも使えるのが嬉しいじゃないか。

 ユイがほっぺにキスを貰ったのを見て、睦月も「美味しい」と言うのだが、ほっぺをこちらに向けて言うんだ。

 ありがとうと睦月に礼を言ってほっぺにキスをさせてもらった。

 かき揚げを炊き込みご飯の上に乗せてオリジナル丼にしているシルファは猛烈な勢いで掻き込んでから「美味しいにゃ!」とアピールしてくる。

 「そうか、美味しかったか。」

 髪を撫で、耳をひと撫でしてからほっぺにキスをさせてもらったら、満面の笑みをくれて、俺の頬にもキスを返してくれた。

 俺を篭絡しないでくれ。

 真似し始めたカーリオとクレイオが「んま!」「キス!」なんて騒いでいるのが可愛い。

 二人をキス攻めにしてやるとキャッキャ言いながら喜んでいた。

 妻たちが全く冷静なのが不安だったのだが、フィアに聞くと「私たちは大人ですから。」と、えらく落ち着いている。

 いつもなら子供たちに平気で対抗してくるのにと思うのだが、耳打ちしてくれる如月によると、子供たちがこんなにたくさん遊んだのだから、今晩はすぐに寝るだろうと。

 それからが本番なのだと言うのだ。

 「昨日、あんな目に遭わせちゃったのにみんな大丈夫なの?」

 「みんなあなたの妻よ。あれはあれで良いイベントだったわ。」

 「今日は今日でまた楽しみです。」

 「はい、今夜も愛情たっぷりでお願いします。」

 「気持ちいいのは、別腹です!」

 フィア、別腹って・・・

何事もやりすぎは良くないと。一歩引いて見ることも大事なんだと陛下よりお叱りを頂きました。

すぐあとに別なやりすぎもありましたが、フィア曰くは「別腹」だそうです。

どっちなんだよ?ってことです。

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