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【第10話】ドラゴン種

 昨夜はフィアの心の重荷を取り除くためとはいえ、羽目を外しすぎたかもしれない。

 多少の気恥ずかしさもあるため、目が覚め予想通りにフィアが俺の上に載っていることに不思議な安堵を覚える。

 憑き物が落ちた表情をしている少女を確認し、起こしてしまわないようにそっと髪をなでてみる。

 双眸がゆっくりと開き、ルビーレッドの瞳が嬉しそうに俺を見上げてきた。

 「おはようフィア。なんだ、もう起きていたのか。」

 「おはようございます。早く目が覚めたのですが、こうしているのが心地よくてずっとソウタさんの心音を聞いておりました。」

 また目を閉じ、耳を俺の胸に当てて本当に幸せそうにしている。

 今日はこの街を出て、さらに西に向かうことになる。

 どの辺りまで進めるだろうか、また、どのような旨いものがあるかなど旅の醍醐味もフィアと共に経験を積んでいければよいと思う。


 半刻ほどもゆっくりと、言葉を交わすこともなくそのままにしていたが、どちらからともなく起き出し身支度を済ませ、食堂へと向かった。

 「おはようございます。本日ご出立でしたね。」

 昨日も話しかけてきた給仕の女性が俺たちを席へと通し、すぐにも膳を運んできてくれた。

 聞いた通りであったが、今朝は冒険者らしいボリュームとメニューでたらふくな朝食を準備してくれていた。

 ゆっくりと味わいながらいただき、十分に満足したところで荷物の最終確認を済ませ、宿の表へと出てきた。

 馬屋で十分休憩を取ったようで、俺たちの馬車が表に出されており、栗毛色の相棒は手入れもしてもらったのかたてがみもつやつやとしている。

 「おう、相棒。オシャレしてもらったのか?綺麗になってよかったな。」

 「ぶるるる。」

 自慢げに見える馬は充実した休暇を過ごせたようである。

 「ウィング!よかったね。」

 フィアは馬をウィングと呼び、長い顔を撫でている。

 「ウィング?」

 「はい。この子と会ってすぐにこの名前がいいなと思ったんですよ。私はずっとそう呼んでいますが、ソウタさんはずっと“馬”と。」

 フィアとウィングの間ではとうに話がついていたようで、「ふん。」とウィングは一言だけ嘶き、俺を睥睨しやがった。

 「そ、そうか。じゃあ俺も今日からウィングと呼ばせてもらうことにするよ。今日もよろしくなウィング。」

 「任せてもらおう。」そう言っているようにも聞こえる「ぶるるん。」という鼻息も荒い嘶きと共に前を見据えた。


 「目覚める季節」の後ろの月に入り、気候も安定していることから清々しいまでの青空に恵まれ、馬車による旅はとても気分がいい。

 この世界での一年は地球と同じ365日。暦は“週”の概念はなくひと月は30日ほど。

 ひどく地球の暦に酷似しているのだが、春夏秋冬では現さず「しもの季節」「目覚める季節」「芽吹く季節」「天照あまてらす季節」「穂垂ほたる季節」「返納の季節」と言う。

 「目覚める季節」は地球の3月と4月に当たり、後ろの月は4月のことを言うのである。

 12か月を六つの季節に区切り、二か月ずつを前と後ろで表現する。また、ひと月を前、中、後ろで大雑把に区別しており、商売人や各種ギルドでは正確に日を特定しているが、農民や職人にはそこまで厳密なものは必要ないらしい。

 かっぽかっぽと馬車は軽快に走り、段々とセキセンの都市部から郊外へと景色も変わり、ここしばらくは田園風景が馬車の両側を流れていく。

 近辺でも有名な温泉療養施設の集まる地を抜け、領軍ではなく国軍の飛龍育成を行っているという地域に差し掛かった。

 国軍は国内の暴動鎮圧や冒険者ギルドで対処できないような魔物の大規模侵攻が起こった時に派兵され戦闘行為を行うほかに、海を挟んだ対岸に位置する異国、北華からの侵攻があった場合などにも国土防衛の要として出動し、専守防衛を堅持しつつも非常に強力な軍事力としてこれまでに幾多あったという侵略を一度たりとも許してはいない。

 この地に駐屯しているのは空軍と言われる軍隊で、飛龍をテイムしてこれに龍騎兵が騎乗し、ブレス攻撃や爆裂魔石の投下などの攻撃を行ったり、陸路からの救援が不可能な場所への救出活動や遠方への物資輸送など多彩な任務をこなしている。

 こうした様々な活動を支えるための訓練や、新たな飛龍の育成などをここで行っているという事だった。

 もっと北へ行くと陸軍が駐屯するところもあるという。

 陸軍は万が一の本土上陸があった場合に敵対勢力を勇猛果敢な兵士が地竜とともに粉砕していくという。

 南に行くと海軍の鎮守府があり、軍の中でも海軍は最大規模を誇るという。

 鉄の船と海竜を従え、遠洋まで哨戒任務を行い、北華の侵攻に対する主力となってくれているのだという事だ。

 俺たちの馬車の右手には先ほどからずっと高い柵が設けられており、街道に沿ってまだまだその柵は続いている。

 向こう側が見えないわけではなく、高い柵ではあるが目隠しの板もなく3mほどの高さの間に3本の横杭が渡されているだけである。

 ゆっくりと馬車を進めながら柵の中を見学する。

 飛龍が二頭並んで飛び立っていく。

 彼方から低い高度を滑空するように別の飛龍がやってくると、滑るように降り立った。

 手前の方では新人の龍騎兵が飛龍に騎乗する際に使用する鞍やあぶみなどの装具取り付けの訓練をしているらしい。

 教官の指導を受けながら手早く取り付け、成果を添削されると素早く取り外すという反復訓練を行って練度を高めているのだろう。

 「ここにはたくさんの飛龍がいるみたいですね。」

 興味津々と言った表情でフィアは飛行訓練を見つめている。

 ウィングは若干引いているような気配だ。元来、龍と言うのは人に懐いたりしない上に家畜を襲うものである。

 馬は牛と並んで龍には人気のごちそうであり、その天敵がわんさかと柵の向こう側にいるのだから気分のいいはずがないであろう。

 そういう時に限ってウィングの肝を冷やす出来事が起こる。

 急に周囲に影が落ちたと思った瞬間、甲高い雄叫びが響き、空気が動いた。

 羽ばたく音と共に柵のすぐ向こう側に一頭の飛龍が落ちてきた。

 落ちてきたと表現するのが適切である。まっすぐに舞い降りてきたソレは頭までは3m。

両翼はその倍の6mはあろうかと言う大きさの立派な龍だった。

 柵の間からヌッと顔をのぞかせ、ウィングをねめ回す。

 人ならばホンの一口という大きな咢からは鋭い歯が覗き、涎がダラダラと垂れている。

 俺も驚いたが、ウィングは完全に固まっている。目を合わせないようにし、呼吸が異常に早いようだ。

 フィアも御者台の俺の横でのけ反ったまま固まっていたが、ウィングの様子を見て再起動したようで、大剣に手を掛けいつでも抜剣できるようにしていた。

 「いやあ、すまんな。ドーラ、いたずらしちゃいかんだろ。」

 ドーラと呼ばれた飛龍は、搭乗している龍騎兵にたしなめられ、悪びれた様子もないのだがその首を柵の向こうに引こうとした。

 その動作の途中に視界にフィアをとらえたドーラは、ピタと動作を止め再び首を伸ばしてきた。今度はフィアに向かって近づいてくる。

 先ほどと違うのはからかうような気配ではなく、真剣にフィアを見つめていることだ。

 どんどんと近づいた飛龍は、目と鼻の先まで首を伸ばし、じっとしている。

 「お嬢ちゃん、悪いんだがそいつを撫でてやってくれるか?どうやら気に入っちまったらしいんでなぁ。」

 「ひゃう?」

 真剣な顔をしている割には実は女好きな龍のようであった。

 恐る恐る手を伸ばしたフィアをじっと待ち、鼻先に触れると低く唸るような音が聞こえ始めた。猫のゴロゴロと言うアレらしい。

 つぶらに見えないこともない瞳を閉じ、触れられるがままにされている飛龍に少し緊張を解いたフィアは触れるだけではなく、深い緑の鱗を撫でてやる。

 ゆらゆらと一層気持ちよさげにしている飛龍を龍騎兵は呆れた表情で見ていた。

 「お前はそのお嬢ちゃんを随分と気に入ったんじゃな。はっはっは。」

 豪快に笑って見せる龍騎兵はそれでも俺に対しては頭を下げ、礼を失することもなかった。

 「そのサキュバスのお嬢ちゃんは龍使いの才能でもあるのかの。」

 「さあ、それは分かりませんが飛龍にエサだと思われたら困ってしまいましたよ。」

 意味のない会話を交わしつつ、飛龍との触れ合いをしばし楽しんだ俺たちは龍騎兵と別れ、先を急ぐことにした。

 名残惜しいと思っているのは飛龍だけで、フィアも初めての龍との触れ合いに満足しているようだった。

 印象的だったのはその場を離れた時のウィングの心底安心したような深い溜息だった。

 馬の溜息って初めて聞いたぞ。


 ただ、良い情報が一つ得られた。

 フセイへの道中に出没するというドラゴン種はどうやらヒドラらしく、空軍も相当に手を焼いているという事だった。

 巣が特定できていないために被害の報告を受けてから急行しても、すべてが後手に回るため追跡もままならず、被害ばかりが増えているのだという事だ。

 ヒドラはドラゴンの近似種で、正確にはドラゴンではないのだが、九つの頭を持ち非常に好戦的な性格を持つ。

 ドラゴンでない証拠にブレスで炎を吐かず、毒の霧を吐き出す。

 強烈な力を持つ太い尾はその先端1mほどに骨が露出している部分があり、その部分はかなり鋭利な刃物になっている。一説では鉄や銅の剣が切り飛ばされたという話もあるくらいだ。

 飛龍との触れ合いタイムのお蔭で今日中に問題のフセイ国境へはたどり着きそうもないので、早々に手前の町で宿を探すことにした。

 それでも決して早い時間ではないので真剣に探した方がいいかもしれない。


 半刻ほど馬車を進めたところで、ゆるい丘陵の向こう側から黒煙が幾筋も立ち上っているのが見て取れる。

 火災でもあったのだろうか。


 丘陵を超え、黒煙のたなびく町を見下ろす形になった俺たちはその光景に息をのんだ。

 大きな町ではないが、数百世帯が寄り添う町ではあるだろう。

 その大半の建築物よりも背の高い、見るからに邪悪な九頭の魔物が怪獣映画のように街並みを蹴散らし、特異な形状をした尾を振り回し、破壊の限りを尽くしていた。

 「ソウタさん、あれは話に聞いていたヒドラではありませんか?この分だと、相当の被害が出ていると思われますが。」

 「ああ、これじゃ人の住める状態じゃなくなりそうだな。まだ、毒霧を吐いていないのが救いかもしれないが。」

 俺たちは迎撃が可能か見定める。

 冒険者ランクは厳密に、屠ることのできる魔物をギルドが経験則の蓄積で定めている。

 フィアはEランク、俺はCランクである。

 このレベルでヒドラは荷が勝ちすぎているが、フィアのEランクは二子山での実績に基づいており、出会ったころのオログ=ハイをわずか一人で切り伏せたことなどは未反映の実績である。

 これを反映するなら、すでにCランクはクリアできるはずである。

俺も実のところ使える魔法のレベルも種類も大分充実してきているので、見合った獲物を討伐できていればBランクの要件は満たせる自負がある。

 「やってみるか?」

 「はい、四つまでは確実にあの首を落として見せます。」

 「ほほう、俺は五つ分でいいのか、フィアはやさしいなぁ。」

 ウィングに速足での前進を命じ、俺たちは自分の得物を確かめる。

 フィアはすでに抜剣しており、その大剣は傾き始めた陽の光でさえも盛大に輝きを放ち始めている。

 俺もバスタードソードを鞘から抜き、更にウィングの足を速くする。

 馬車はもう、弾丸のように街道を駆け抜け、既に人々が逃げ惑う町に突入していた。

 「うわあ!」

 ヒドラから逃げるように慌てる人々に突っ込むように背後から迫りくる暴走馬車に新たな悲鳴を上げる。

 「いくぞ!」

 「はい!」

 俺たちは馬車の速度を利用して、カタパルトから打ち出されるように平屋の屋根を蹴り飛ばし、二階建ての民家の屋根を足掛かりに平地を疾走するかのようにヒドラに迫る。

 ウィングは広い交差点を利用して見事に旋回を決め、ヒドラから遠ざかるように走り去っている。

 50mほど前方にヒドラをとらえ、フィアは俺とは別行動に移る。

 俺はヒドラが闊歩する進行方向に対し、右横から突入を図る。

 フィアは、回り込むように背後から迫る。

 その姿を視界に捕えながら、回り込んでいるにも拘らず同着となりそうな勢いで大剣を振りかぶっている。

 ヒドラはまだ俺たちには気づいていないようで、すべての首が進行方向に向けられている。

 一番槍はフィアだった。

 俺の交戦域を考慮してか、ヒドラの一番左側の首から刈り取りにかかった。

 大剣が残像のみになって一つ目の首が頭から僅か下方で切り取られた。

 「がぁ!?」

 ヒドラのどの首かは判らないが、苦悶を上げる。

 左から二番目の首が振り返る矢先に顔面をフィアに踏みつけられ、三番目の首がまた、頭を失った。

 ようやく追いついた俺は自分の剣に魔力を籠める。

 火属性の魔力が充溢し、バスタードソードが赤と黄色の光を纏い始める。

 俺から一番近い首がこの光に気づいたようで、咄嗟に咢を開きながら振り向いた。

 「そらよ!」

 横に薙いだ剣によって上あごと下あごがきれいに離ればなれになり、残った下あごを踏み台にして次の首に取り掛かる。

 右半身は俺の対応に、左半身はフィアへの攻撃をと、器用に意識を割いているように見える。まぁ、それぞれの頭に脳があるのかは知らないが。

 手早く済まさなければそのうちどの首かが毒霧を吐くかもしれない。

 二番目の首はまだ振り向いていない。好機と踏んだのだが、その向こうからもう一つの首が飛び越すように現れた。

 踏み込んだ勢いを殺さずに軌道修正を図る。

 目が合ったような気がしたが、無視していったん飛び越すようにした。四本目の首を横から蹴り飛ばし、元へと戻りざまに斜め下へ切りつける。

 三番目の首は切断部分からずれ始め、首の半ばから足元に落ちていった。

 残した二番目の首が落ちていく首に気を取られたのを確認し、更に高度を下げ、二番目の首の付け根を切り払った。

 バスタードソードは首の皮一枚を残してしまったが、ゆっくりと倒れていく二番目の首は既に生命活動をしていない。

 と、同時に左から二番目の首も地面に落ちていった。

 フィアも順調に仕事をこなしているようだ。

 「残りは三つか。」

 独り言だったが、四つ目の首に聞かれたようで、見下ろすように襲い掛かってきた。

 中央の首もタイミングを合わせて前から回り込むように襲い掛かる。

 背中側がお留守になったのを見て、思わず顔がゆるむ。

 剣を振り子のように大きく回し、振り向きざまに中央の首の付け根に迫る。

 しっかりとバスタードソードを喰いこませ、中央の首を頂くことに成功した。

 中央の首は四番目の首に絡むような状態であり、四番目の首が自由を奪われている。

 余裕をもって四番目の首に刃を潜り込ませ、そのまま胴と切り離してやった。

 このタイミングに合わせるように、左から四番目の首も大樹が切り倒されたように背後に向かってゆっくりと傾いでいった。


 幸いにもどの首も毒霧を吐く前に狩ることができ、俺たちに被害はない。

 フィアが唐突に俺の隣に現れ、ちょっとびっくりしたが、顔を見合わせてからハイタッチを交わす。

 「よ、おつかれ。」

 「はい、ソウタさんもお約束通りに5本狩られましたね。」

 首が全部なくなったヒドラの胴の上で話し込む俺たちだったが、それは死体であるはずでいつまでも直立不動のはずもない。

 首や頭が散乱している前方にうつぶせに倒れ込み始め、フィアをお姫様抱っこすると手近の屋根に飛び移る。

 「私、お姫様抱っこ、夢だったんですよ。」

 とても楽しそうである。

 そう言えば、フィアも息一つ乱れていないのはさすがと言うよりない。

 砂煙を巻き上げ、ヒドラの胴も地に伏せたころ、またもや俺たちの上に影が落ちた。

 「クエエエ」

 甲高い声が響き、飛龍が二階建ての屋根の高さにまで降りてきた。

 よく見るとドーラだ。

 そのほかにも数匹の飛龍が上空を飛び回っているのが見える。

 「ほう、お前さんたちだったか。二人でヒドラを討ったのかい、大したものだな。」

 「ああ、さっきの。」

 「知らせが入って、急行したんだが出る幕もなかったようだな。」

 いい笑顔で空地を探し、飛龍を降ろすようだ。

 「改めて礼を言う。ヒドラを倒してくれて大変助かった。ありがとう。」

 龍騎兵のオッサンは俺たちを前に深々と頭を下げた。

 「いや、ちょうど目指してた町がこんなことになってたんで、必要に迫られてというか放っておくわけにはいかないというか、そういう事だから改まられるとどうしていいかわかんないんだよね。」

 「そうか、ははは。俺は空軍3番隊隊長のオーフェンと言う。よろしくな。」

 「俺はソウタ。こっちはフィアだ。トサンから来たんだ。」

 互いに自己紹介も済んだところでオーフェンから食事に誘われる。

 ドーラはめったなことでは他人様に興味を示したりしない飛龍らしく、そのドーラが興味を示した俺たちとお近づきになりたいという興味本位山盛りの3番隊の皆様に誘われたのだ。

 町がこの有様でどうするのかという事なのだが、実際に被害の集中した場所は町の中央に位置する市場の立つあたりだけらしく、神官位を持った騎士たちや飛龍隊2番隊や1番隊の兵士たちが避難誘導やけがをした人たちの救護にあたっており、大きな混乱などは見られないようだ。

 それよりも町の中心から北に外れた夜のお店の集まる区画は、3番隊のお蔭で大混乱となっていた。

 「きゃー!?あたしの店が?」

 飛龍が我が物顔で繁華街の店に首を突っ込むやら、客引きの女性を涎まみれにするやらヒドラの襲撃と大差ないことになっているらしい。

 俺たちは龍騎兵たちと店構えの大きな、きれいな女性たちが酒を振る舞う店に押しかけていた。

 「おう、ねぇーちゃんもっとうまい酒をもってこねぇか!」

 「はいぃ!」

 店の中にも飛龍が数頭いるような状態になっており、入店から20分ほどで空のボトルが床に何本も転がっている。

 粗野なように見えて、龍騎兵たちはまだ酔っているようにも見えないことから、通常の状態がこんなものなのだろうと推察できる。

 「フィアちゃん!本当にかわいいね。」

 「ひあ?」

 フィアは先ほどからの狂乱状態にビビりまくっている。

 「おい、店の女じゃないんだからな?」

 オーフェンは副隊長と言う若い龍騎兵との間にフィアを確保し、俺はテーブルの向かいに放置されている。

 「判ってるよ。保護者はそこで不味い酒でものんでろ!」

 こいつら一度燃やしてやろうか?

 「ソウタだったか?お前、随分と腕が立つようだがギルドランクはいくつだ?」

 唐突な質問に気も殺がれた。

 「なんだ?今はCランクだがそれがどうした?」

 「ああ?Cランクだと!?そんなわけはあるまい、あれだけの技量でCランクの訳はねぇ。悪くてBランク。Aランクと言われても疑わねぇぜ。」

 「いや、そうじゃないんだ。俺はあんたたちの言うところの“迷い人”なんだ。どういうわけだか魔力量も多いようだし、剣技は元の世界でも鍛えていたんで冒険者カードに記録される討伐記録よりは実践の期間が長いことがあってそんな風に見えるんだろうな。」

 数人の龍騎兵の興味があります。という視線にさらされたが、悪意のようなものはなかった。

 「そうか、お前さんが最近あらわれたという迷い人だったか。ギルドの連中が噂しているのを聞いたことがあるぜ。クノエに行くんだろ?やはり聖銀の巨人が目的なのか?」

 「聖銀の巨人?」

 聞いたことのない単語が出てきた。

 お父様から聞いた話では「比翼の鎧」と言うモノだったはずだ。

 「俺は“比翼の鎧”と聞いたが、一緒の物なのだろうか?」

 「ああ、それなら同じものだ。この国の中枢では“聖銀の巨人”と言われているが、その巨人は人にあるまじき大きさの鎧であり、どうやって使う物かもわからん。しかし、その鎧を守護するアマクサの国の連中は別の見解を持っており、その者たちの話では二人で乗り込んで操る外装騎兵という兵器なのだというのだ。数多の訓練を積んだ兵士らが二人で乗り込んでもいまだかつてそれは一度たりとも動いたことがないんだがな。」

 また新しい言葉が出てきた。

 「外装騎兵」という言葉から推測するにオーフェンの話も合わせると、いかにもロボットのようにも聞こえるし、そうでないとしてもこの世界観とはかけ離れた存在のようだ。

 「誰も動かせないのか?」

 テーブルに沈黙が漂っている。

 それぞれが勝手な想像力を働かせているようで、一様に考え込むような表情をしている。

 「カリッ」

 固いものが齧られ、小気味いい音が響いた。

 一斉に視線のむけられた先には、リスのように両手で果物を持ち、小さく一口齧ったところで固まってしまったフィアが居た。

 羞恥で真っ赤になっているが、静かに咀嚼することをやめない辺りはちょっとかわいい。

 「嬢ちゃん、すまなかったな。腹が減る時間だろう?旨いものを出してもらおう。」

 涙目で首をふるふると横に振ってはいるのだが、そんなものは誰も見ちゃいない。何人かの龍騎兵が店の奥へと行き、大声で料理を注文しているようだ。

 腹ペコキャラは健在なようで何よりである。


 テーブルに乗りきらない量の豪勢な料理が運ばれ、若い龍騎兵が取り皿に色々なものを盛り付け、フィアに食べさせようとする。

 別の兵も負けじと菓子や果物などの甘みを集め、フィアへと食べさせようとする。

 「フィアさん、こちらを召し上がってください。この地方の宮廷料理なんですよ。」

 「ええ?」

 「嬢ちゃん、この菓子はそんじょじゃ手に入らねぇ一品なんだ。食べてみてくれよ。」

 「ふええ?」

 オーフェンと俺は堅い話の途中だったのだが、フィアを囲む連中のお蔭でそんな雰囲気ではなくなってしまった。」

 「おまえら、フィアにちょっかい掛けんじゃねぇ。」

 そこからはフィアに気に入られたいバカどもの相手で狂乱状態になってしまった。


 半刻ののちようやくオーフェンたちから解放された俺たちは精も根も尽き果てていた。

 「宿の場所は聞いてきたから、そこまではがんばろうな。」

 ぐったりと俺の肩に頭を預け、意識も虚ろになっているフィアだが小さくうなずくところを見るとまだ眠ってはいないようだ。

 北の方から戻り、まだ片付けの続いてる中央を抜け、西に向きを変え馬車を進ませる。

 15分ほどゆっくりと進むとフセイ国境まではまだ少しあるが、小さな宿が集まる場所にたどり着いた。

 伝書用の小型の飛龍が一軒の宿前にたたずんでおり、そこがオーフェンたちが紹介してくれた宿だと判る。

 人の半分ほどの背丈の飛龍は、俺が出合った時の合図にと持たされた黄色いチーズの様な塊を渡すと、器用に口にくわえて「クル」と一言だけ鳴いて飛び立っていった。

 「いらっしゃいませ。龍騎兵の方の紹介でいらっしゃったお客さんですね。」

 そう言って出迎えてくれたのは10歳くらいの少女だった。

 「ああ、今の飛龍がそうなのか?」

 「はい。龍騎兵の方々がお知り合いを紹介してくださるときはいつもあの飛龍が先触れとしてくるんです。」

 「それではよろしく頼む。」

 フィアはいつの間にか浅い眠りについていたようで、おでこをつつくと目を開けた。

 「ソウタさん、ごめんなさい。私だけ眠ってしまっていたようです。」

 「ああ、構わないよ。宿に着いたからな。部屋に入ってゆっくり休むといい。」

 手を取ってやり、馬車からフィアを降ろす。

 下働きの男がやってきて、ウィングを厩舎へと連れていくようだ。

 「ウィング、今日は大変だった。かっこよかったぞ!」

 本当に大活躍だったと思うウィングを褒めてやる。

 「ぶるるる」

 嬉しそうに嘶き、飼い葉を求めて連れられて行った。

 フィアと荷物を抱え、宿の女将に冒険者カードを確認してもらい、部屋の鍵を受け取る。

 先ほどの少女が、荷物を持ってくれ部屋へと案内してくれた。

 「明日は、少し遅い時間に朝食を頂くよ。それでも大丈夫かな?」

 朝は惰眠を十分に貪りたい気分だ。

 「はい。大丈夫です。厨房にも話はしておきますので、ごゆっくりお寛ぎください。」

 しっかりとした物言いの少女に礼を言い、部屋へと入らせてもらう。

 「フィア、風呂はどうするんだ?」

 「入りまふぅ。」

 もそもそと緩慢に動きながら、着ているものを床へと放りはじめた。

 「ま、まて。まだ湯船も見てないのに脱ぐんじゃない。」

 慌てる俺を構いもせず、入浴準備だけが完了する。

 フィアをベットに腰掛けさせ、大急ぎで風呂場へ駆け込んだ。

 浴槽を確かめ、魔力装置に魔力を籠める。

 低い唸りと共に湯が出始め、水との割合を手で確認し、浴槽に湯がたまりはじめるのを確認した俺は、取って返してフィアを回収する。

 そのまま浴槽に放り込み、繊維で織ったスポンジのような塊に石鹸を溶かしてゆく。

 泡が勢いよく立ち、十分に泡立ったところでフィアを洗い倒す。

 いつもなら恥ずかしがるのだが、よほど疲れているのかされるがままになっている。

 ときどき寝ぼけたまま抱き付いてくるものだから、俺は着衣のまま泡まみれだ。

 「子供か?」と言いそうになったが、15歳の今まで頼る者が居なかったという事なら、今こうであっても責めるのも違うだろう。

 どうにかフィアを頭から足までちゃんと洗い、ずぶ濡れついでに自分も衣服をすべて脱ぎ、体を洗うことにした。

 浴槽には浸からなかったが、ヒドラとの戦いで埃にまみれた訳だからこれだけでも随分とすっきりした。

 フィアをどうにかタオルで拭き上げ、お姫様抱っこでベットへと運んだ。

 シーツの間に潜り込ませ、自分も隣のベットに横になると、ようやく人心地ついたように思う。

 魔力灯の灯りを暗くすると、自然と睡魔も襲ってくる。

 ―――今夜は大人しく眠ってしまったようだが、フィアは今夜しなくても大丈夫なのだろうか。

 いや、自分が期待しているわけじゃない。本来の食事としてのエネルギーの補給はしていないので、どうなのだろうかと心配しただけだ。

 やましい気持ちなどありはしない。

 自分で自分に言い訳するほど滑稽なものもないのだが、一人芝居中にふと、フィアと視線が交わった。

 「のわ!?いつからそこに居たんだ?」

 俺の上に覆いかぶさるようにフィアが乗っかっており、キラキラの目で俺のことを見つめていた。

 「ソウタさん、お忘れじゃないですよね?」

 「おま、寝てたじゃないかよ。」

 「そんなフィアに情けをかけるのもまた、いいのでは?」

 何を言っているんだこのイキモノは?

今回、説明ばかりで戦闘シーンが難しいという事に気が付きました。

精進が足りません。

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