【第1話】ついに契約(習作につき、次話からお読みください。)
本編ダイジェストのいいところだけと思って書いてみた第1話ですが、実際の内容とひどく違ってしまいましたのでいずれ改稿したいと思います。
第1話は第23話と今から見ると大きく違ってしまっています。
できればお読みいただく際には第2話からの方が時系列も正しいのでお勧めいたします。
「こんなバカなことがあっていいのかよ!」
左手首から大量に血液が吹きだしていく。
ハリケーンのような強風が渦を巻き、大気が切り裂かれるように荒れ狂っている。
教会の高い天井まで風に乗った血液が舞い上がり、赤い霧状と化した暴風は獲物を求めてのたうつドラゴンのようになっていた。
豪奢なステンドグラスもすべて砕け散り、気圧の下がった教会堂の中へと降り注ぎ、強風に巻き込まれて凶器と化したようだ。
「お願いです。この契約を最後までやり遂げたいのです。」
今まさに血のドラゴンに飲み込まれるかのように身廊にたたずむ少女へと荒れ狂う血とガラス片が襲い掛かっていく。
「フィア、逃げろ!」
あのサキュバスは何をやってるんだ。あの風に巻き込まれでもしたら生きていられるわけがない。
なぜこうなった?あいつは、フィアは出会ってまだ3か月、一緒に冒険者としてやってきた相棒に過ぎない。
俺が冒険者ギルドから受託した依頼に転がり込んできて魔法剣士として前衛をやらせろと大見栄を切った。
腕は確かだった。刃幅のある大ぶりな両手剣をレイピアのように軽々と振り回し、それってタンク?と思わせる戦いぶりだったのだ。まあ、グレートビーの巣を狩るだけの簡単なお仕事だったのだが、あれではオーバーキルも甚だしい。体長が2メートル近いスズメバチが野菜の細切れを作るように輪切りにされ、バラバラに解体されていたのだから。
やばい、邂逅している場合じゃなかったんだ、「おい、フィア!身を低くするんだ、死んじまうぞ。」
「ちがいます。これは必要なことなんです。ソウタの血と私の血を併せることで契約が完了し、ソウタがより私を有効に使うことができるようになります。心配ありません。また、種族特性で私にかけられている制限も解除されますので、きっとお役に立てます。」
フィアが言っている意味が分からない。
血と血を併せる?・・・そういえば貧血で立ち眩み、じゃ済まないような量の出血量のはずにもかかわらず、自分の体はどうともない。
「きゃあ!」
「フィアっ!」
左手から流れ出続ける自分の血液を見ているあいだにフィアが赤い竜巻に巻き込まれた。
強風に含まれた俺の血液が霧状になっており、フィアを確認することができない。
こちらから近づこうにも自分の足がどうなったのか一歩も前へ進むことができない。
ただ、相変わらず流れ出ているであろう血液からフィアがどうなっているのか僅かばかりではあるが伝わるものがある。
ステンドグラスの破片で傷ついたであろうフィアからも出血が起こっているのだろう。自分の血液に何か別のものが侵入を試みていることが判るのだ。
ただし、それはこの荒れ狂う風から暴力的に伝わるものではなく、試すようにまた、伺うように恐る恐る近づいてくるような気配だ。
攪拌というのもいうのもおこがましいまでの暴力が渦巻いている最中にあるにもかからわずフィアの血と俺の血は寄り添うように隣り合い、並び、上になり下になりながら混じり合うタイミングを見計らっているようでもあった。
たぶん、許しを求めているのはフィアだろう。俺の血液を受け入れたい。許されたいと思う心と、俺に血液を混ぜ込んでしまう事への逡巡。鬩ぎ合いながらもそうしたいという欲求が先にもすすめず、離れることもかなわず今のような状態のなのであろう。
「フィア!契約はまだか!?お前、いつまでももたないだろう?」
「でも、でももう戻れなくなるのです。」
ここまでしておいてこいつは何を言ってやがる。
「フィア、命令だ!契約を完了させろ。俺はお前を失うわけにはいかないんだ。俺の血でいいならいくらでもくれてやる。お前の血を全部寄こせ!」
「イエス・マスター、あなたの命が尽きるまで私を存分にお使いください。コントラクト!」
フィアが契約を受領した。
その瞬間、体を流れる血液が沸騰したかのように沸き立った。そして、処理の限界をはるかに超えたような情報が交換される。
「なんじゃこれはぁ、フィア!お前大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です。マスターは大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇ!いつまで続くんだよこれわぁ!」
終わりは唐突に訪れた。
まるで時間が巻き戻るように血液が戻ってくる。
ただしそれは流れ出た時とは別のものだろう。フィアがこれまでに過ごした時間と経験と記憶のすべてが記録されたものだ。
そしてフィアに流れ込んでいる血液は俺のそうしたものが記録されたものだろう。
情報とは、そうしたものだけではないようだ。フィアの俺に対する気持ちというか思慕、想念といったすべての感情が含まれているようだ。
つまりは俺のそうした感情めいたものもフィアには分かってしまう事だろう。
あれほどに吹き荒んでいた強風も唐突に止み、教会堂の中には差し込んでくる陽光に舞い降りてくる塵、埃が目に見えるほどに穏やかな気配が満ちていた。
「マスター、契約をしてくださってありがとうございます。マスターの命が尽きるまで契約は破棄されません。私のことを忌み嫌うことになったとしてもマスターの命脈は私とつながり、地の果てに離れていようとも呼び出すことが可能となります。」
淡々と話すフィアはまるで別人のような容貌に変化していた。
サキュバス特有のルビーのようだった双眸は右目だけ朱金色に変わっており、黒に近い滑らかな茶色だった髪は肩までしかなかったはずが腰にまで届くような銀の髪に変わっていた。
しかし、小さい背丈と慎ましやかな体格には変化はないようだ。
「だ?」
背中に羽が生えてる。夜になるとお飾りのような羽が背中にあったのは何度となく見てはいたが、今フィアの背中にある羽は蝙蝠のそれであり、十分に自身を支えて飛翔できるだろうと思わせるサイズになっている。
「おま、その背中大丈夫なのか?他に痛いところはないか?」
「わたし、やっとサキュバスとしての本来の姿になることができました。幾久しくお供させていただきます。嬉しいです。いつも私のことばっかりなんですね。マスターは痛いところなどございませんか?」
「ああ、俺はどこも痛くない。なんかあれだが、幾久しくというんだったら俺の世界ではこういうんだった。病める時も健やかなる時も、富める時も貧しい時もお前を大事にすることを誓うよ。フィア、よろしくな。」
「はい。はい、すみませんなぜだか胸がつかえます。これは何の呪文でしょうか?」
とめどなく溢れ出る涙がどうしても止まらない。
信じられないような呪文に捕えられているようだ。でもいい。この呪文はできるならこの命が尽きる時まで解けないでほしい。
「おいおい、フィアさんよ。一人で物語も終わりに近づいてる感出してくれてますが、やらなきゃいけないことのほとんどが終わってないんですよ。」
「そ、そうでしたね。じゃ、じゃぁそろそろ行きましょうか?」
「どこへ?」
「え?」
「いやいや、今契約ができましたと。次は何をしたらいいんでしょうね?」
「・・・とりあえずおうちに帰りませんか?私、魔力がほ、ほ、ほとんど残っていません。マスターがよろしければですが、そ、そ、そ、その、・・・」
「ああ、それがいいかもね。まずはベットで相談と行きましょう。」
「・・・・・・・・・はい。」
俺たちはお互いの瞳を見つめ合ったままではあったが、差し伸べた手をお互いに取り合い、指と指とを絡めながら我が家へと歩くのだった。
二つあったベットは今度引き取ってもらおう。
その代わりに大きめのベットがいるだろう。
離れて眠る意味も、もうないと思わせられるのだ。
6月20日に若干の追補を実施。
読み返すたびに誤字脱字に表現のおかしいところを発見し、ついぞ続きを書く暇がない。