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武器を探しに(4)

「さぁ…槍はこの中よ」

「うん」


山の中腹あたりに開いた大きな岩穴、彼女はそこに彼を誘導する。

どうにか日が沈む前に辿り着く事が出来た、これで万が一の雨風を凌ぐことができる。

洞窟にはヒカリゴケがびっしりと生えていたため、うっすらとだが肉眼での移動が可能だった。


「ウォル、手を繋ぎましょう。転んだら危ないわ」

「キナ、俺はそこまでガキじゃないよ」

「だーめ、キナが心配なの」

「…本当に姉ができたみたいだ


そう言って彼の手を取る、さすがに心配のし過ぎだろうかと彼女は心配になる。

だが念には念をという言葉もある、やり過ぎなぐらいが彼には丁度いいとも思っていた。


「足元気を付けなさいよ?」

「わかってるよ」


彼も言っていたが、こうしているとなんだか本当の姉弟になったみたいと彼女は考えていた。

彼女はふと思った、自分は本当はこんなにも世話好きじゃなかったはずだし、どちらかと言えば自分本位な性格のはずだったと。

彼の赤ん坊の時を見ていて、かつ自分より弱いからなのだろうか?

どうしてもほっとけないし、なんでもかんでも教えてあげたい。

以前彼には竜騎士の心構えを教える、と言ったことを思い出す。

正直な事を言えばそんなものは無かった、彼女が彼に教えられることと言えばこれまでの経験とそれを根幹とした善悪の判断位だ。

その経験や善悪の価値観に疑いは無い、他者と相いれない事もあるだろうが少なくとも自分の考えを間違っているとは思わない。

故に彼にも同じ道を歩んでもらいたい、そうすれば何かあった時にはすぐに助ける事が出来る。

逆に違う善悪の価値観を持たれれば、それはいさかいの火種になってしまう。

それは避けたい、それ故に彼には私の色に染まってもらいたい。


こんな事を考えるのも、これから彼に伝えなければいけない私たちが竜騎士と契約するもう一つの理由が原因なんだろうな。


そんなことを考えていると、いつの間にか目的地にたどり着いていた。

遂に来てしまったか、彼女は胸いっぱいにそんな気持ちを抱いていた。


ヒカリゴケに照らされた洞窟を抜けたそこには、また別の光が指していた。

開けたこの空間の頭上には星々が輝き、月が照らす彼女達を照らす。

そしてその空間の中心、そこに刺さっている一本の槍。


「キナ…あれが?」

「えぇ…幻槍フォスキーア、魔槍よ」


そう説明すると彼はまるで素晴らしいおもちゃを見つけたような、こちらとしては中々に不本意な表情をした。

まぁ竜騎士の血を継いでいるのならば無理のないことだが。

彼がそうしているのではない、彼の流れる血がそうさせているのだ。

それを思うと伝説の竜騎士を忌々しく思った。


「ウォル、槍もいいけどキナの話を聞いてくれないかしら」

「え?早く槍を抜こうよ?」

「いいから聞きなさい!!」

「!」


こちらに来てから、彼女は初めて本気で怒鳴った。

だからだろう、彼もすごく驚いている。


「魔剣や魔槍っていうのはね、そこらの武器とはわけが違うの」

「…」

「あの武器はね契約を結んで初めて使えるものなの、いいえ契約なんてものじゃない!それはもう呪いと言っても過言じゃないわ」

「その呪いを一身に受ける覚悟があなたにある?」


彼女の言葉を聞いてウォルは黙り込む、何を思っているのかはわからない。

そんな彼に彼女はさらに追撃をかける。


「歴代の竜騎士はその槍を手に勇敢に戦い、呪いに蝕まれていったわ」

「ねぇウォル?あなたがそんなことできる?」


そう言って彼の腕ごと腕輪を握る、こうすることでオルドルはこちらに来ることができなくなるのだ。

いま彼に来られるのは少々厄介であった、彼ならば彼女のすることを予想し止めると思ったからだ。

しきりに腕輪が光るのは彼がこちらに来ようとしている証拠、それを彼女が邪魔している形になっている。


「このままどこかの国に旅に出るって手もあるんじゃないかしら?何もこの国だけが貴方の居場所じゃないわ」

「私もついていくから、ね?竜騎士の事なんて忘れましょ?」


そう言うと彼は私と目を合わせてゆっくりと語った。


「それは…できない」

「どうして?」

「ミスティおじさんが言っていた・・・じきに大きな戦いが起こるって」

「戦争は沢山の人が死ぬ、それは…見過ごせない。俺が竜騎士の子孫だっていうなら、未熟でも…誰かの力になりたい」


もしかしたらそれは彼なりの祈りであったのかもしれない、彼女はそう感じた。

幼くして母を亡くし、数年前に父を亡くした彼なりの願い。

戦争で自分のような境遇の人間が出るかもしれないという心配から生まれた、彼の祈り。

平和であってほしいという尊い願い。

だがそれでも、それは彼が苦しむことを肯定する理由にはならない。


「貴方が苦しむことは無いじゃない」

「それでも…」


彼の彼女の目を見つめる力が強くなった、確かな決意の表れなのか、それとも良い意味での諦めなのか。

私にはわからない、しかしその目は間違いなく強い意志を感じさせるものであった。


「キナや…オルドルと一緒なら、きっと楽しい。」

「…まぁ……」


彼女は驚いた、頑張るでもなく助けてでもなく楽しいと言うのかと驚いた。

彼は竜騎士としての未来に何を描いているのだろうか?

どういった意味で楽しいと言ったのかを完璧に理解することはできない。

ただ平和を祈る反面、自らが歩んでいく道を楽しいと形容した彼。

果たして彼はどちらに傾くのだろうか、それを見届けるのもありかもしれないと彼女は考えた。


≪その辺にしておいたらどうだ、ビリキナータ≫


その声と共に赤い龍、オルドルが現れる。

やはりこいつは体力バカだ、強引に押さえつけてもでてくるんだからやはりその認識は間違っていないと確信した。


≪ウォルト・クレスリー、悪く思うなよ、こやつ…存外にうぬを愛しておるのだ≫

「何よ、悪い?私の弟よ?壊れるほど愛しているわ」

「愛してるって…キナ…」


オルドルは大きな口で笑い、彼に彼女の事を話した。


≪こやつ、お前を初めて見た時に弟にすると言っておった。孤独な奴でな…家族がおらんのだ…ビリキナータには≫

「失礼ね、育ての親がたくさんいるわよ!」

≪照れるでない、だからうぬを危険が伴う竜騎士にしたく無かった。それ故に一芝居うったのだ≫

「芝居?」


そこまでばらすかとどこか恥ずかしくなった。

こうなってしまっては仕方がない…すべてを話すしかないのだろう。

彼女はその場に座り込み、できる事なら話したくなかった話をする。


「キナ達はね、竜騎士の助けとなるほかにもう一つ仕事があるの」

「ほぅ…」

「貴方を殺す事よ」

「え」


ウォルトの顔がこわばる、冗談だろという顔で周りを見渡すが。


≪事実だ、場合によってはお前を殺さねばならん≫


その言葉に彼はまたも固まる。

仕方がないだろう、おそらく初めてできた友人に殺害予告をされているのだから。


「実行するのはオルドルだけどね…」

「竜騎士は一騎当千の戦士、それ故に力に溺れることも少なくない」

「そのストッパーが私たちってことよ」

「あぁ…そういうこと…」


彼はホッとした表情でなるほどなぁと感心している、ここら辺の受け入れの速さは驚くべきものだ。

こちらとしては怯えて竜騎士の事など忘れてほしいのだが、これもきっと一族の生来の性格というものだろう。

死というものによく言えば寛容、悪く言えば軽薄なのだ。


「一応聞くけど…本当に竜騎士を目指すの?」


彼女は改めて真剣な表情で彼に問いかける、彼もまた真剣な表情で私を見つめる。


「もちろん、俺を立派な竜騎士にしてください」


そう言いながら頭を下げる。


「わかった…ただ一つ条件があるわ」

「条件?」

「貴方に呪いをかけさせてもらう」

「え」

「大丈夫、すぐ終わるから」


自分の中ではずっと赤ん坊のままだったウォルト、随分と大きくなったものだと懐かしむ。

ずっと赤ちゃんのままだったらよかったのにと、叶わぬ願いを頭の隅に追いやる。


彼女は自分の右手の全ての指をナイフで切った。


「キナ!?何を」

「動かないの」


そうして彼の首筋に指をあて、彼女は呪いの詠唱を始める。



「我は剣となりて常世の道を開く者なり」

「我は盾となりて常世の悪から護る者なり」

「善を為そうと、悪に墜ちようと」

「我は認め、我は許し、我は肯定す」

「魂さえも束縛する鎖で我を縛りたまえ」

「未来永劫解くこと無かれ」

「我、ビリキナータがここに誓う」

「彼の者、ウォルト・クレスリーを主と認め」

「守り人の誓いをここに」


守護誓約シュガイストブローヴン


契約はここに結ばれた。


「キナ…なにしたの?」


懐疑そうに首のあたりを撫でる彼、そんな顔しなくてもいいじゃないと彼女は頬を膨らませた。

彼女が説明しようとする前にオルドルが口を出した。


≪守護の誓い…ビリキナータ、貴様思い切ったな≫

「キナは信じているのよ、ウォルトをね」

「…その誓いって…なに?」

≪先ほど殺すと言ったな…あれはうぬが悪の道に墜ちれば殺すという意味だ。そして守護の誓い、これは誓いというより呪いだな…≫

≪簡単に言えば、我が貴様を殺そうとするとき、まずはそやつを殺さねばならぬという事だ≫

「は?」

≪詳しくは後でそやつに聞け、我はもう知らぬ≫


そう言ってオルドルは元の場所に帰っていく、ウォルはなんだか出来の悪いゴーレムのような動きでこっちを見た。


「単純よ、ウォルが死ねば私も死ぬ。逆に私が死なない限りウォルは死なない。そういう呪い」

「幸せでしょ?これで一蓮托生よ?」


最大級の笑顔で言い放つ。

彼は口をパクパクさせながら、うなだれる。


だから竜騎士なんて忘れて旅でもすればよかったのに。


「ウォルってバカねまったく…出来の悪い弟を持つと苦労するわね」


なんて


そんなことを思いながら半ば放心状態の彼を手ごろな岩に座らせ、自らもとなりに腰を掛け、月を眺める。

あっちの月もこっちの月も、大変美しいですなぁ。

彼女は月への感想を述べる。




「…キナァ!!どういう事だよ!!」

「うるさいわウォル」

「あ、ごめん…」












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