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武器を探しに(1)

「んがっ!」

「あら、やっとお目覚め?」


彼は夢を見ていた。

オルドルの体に思い切り顔をぶつけた夢だ、彼の夢は丁度オルドルにぶつかるぞっ!と言うあたりで終わった。

変な声で飛び上がり、べちゃっという感覚と共に太ももあたりに何かが落ちた、それは水にぬらされたタオルであった。


「あんまり起きないんだもの…少しだけ罪悪感を抱いたわ」


少しだけね、そう言って少女は彼の隣に腰を下ろした。

彼はその少女に少しの間目を奪われた。

深緑の軍服に黄緑色の髪が良く映える見目麗しい少女、その髪の毛には覚えがあった。

幼いころに知らぬ間に彼と契約を果たし、最近再開した緑の長い髪の妖精、ビリキナータ。

目の前の少女は彼女にとても良く似ていた。


「何よ…キナの顔に何かついてるわけ?」

「キナって…ビリキナータ?」

「そうよ…あぁ…この姿は初めてね、そう言えば」


そう言って胸に手を当てる少女、コホンと一息ついた後に緑色の瞳が俺を見つめた。


「改めて自己紹介させてもらうわ。生命の精霊、ビリキナータよ。治癒魔法や生命感知魔法なんかが得意よ」

「改めてよろしくね、ウォルト」


おかしな話だと彼は思った、彼の知ってるキナは手のひらに乗るぐらいの小さな妖精であった。

だが目の前の少女はどうだ?

おそらく彼よりも少し小さい、160センチはあるだろう。

彼女が着ていた白いドレスの代わりに深緑の軍服を纏っている。

本来ならもっと取り乱す自信が彼にはあったが、今は何故か酷く疲れてた。


「混乱しているようね、無理もないわ。とりあえずキナの状態からゆっくりと説明しようかしらね」


そうしてキナはゆっくりと語りだした。


「勘違いしないで欲しいんだけどウォルに呼び出される前、つまりキナが元々いた所では普段からこの姿よ」

「じゃあなんで小さかったかのかって話なんだけど、単純に疲れるのよ」


疲れる?

彼がそう聞き返すと彼女はうなずく。


「普段心臓が疲れるなんてことは無いでしょう?」

「でもキナ達にはそれがあるの、呼吸することも、更には話すことにすら体力を使うわ」


オルドルはまた別なんだけどね、あれは体力バカだから。

忌々しげに彼女はつぶやいた。


「でもそれもね、こっちにいれば慣れるのよ。いずれ向こうにいた頃と同じように生活を送れる、大体一週間もすれば慣れるわ」

「ただ今回は君がオルドルから落ちそうになって、慌てて抑えようとしたら…ね?」


あれは本当にあったことだったんだ、彼は先ほど夢だと思っていた出来事が現実であったことを知る。

渇いた笑いが出た、キナはわざとじゃないんだと言いたげに笑う。


「まぁキナの姿はそういう事だから。言語も同じ理由よ」

「疲れるから話はしなかった、キナとウォルトは種族が違うからコミュニティで話すこともできた。これがタネ、どう?何か疑問はある?」


簡潔に現状を話してくれた彼女。


「そう言えば…キナはどこから来るの?」


彼は彼女の故郷については聞いた事が無かった。

些細な質問である、だが山しか知らない彼には他の人の故郷がどんなところなのかが気になった。


「パス」

「え?」


素っ頓狂な声が出てしまった。

まさか、まさかパスされるとは思わなかったのだろう。


「まぁ…キナがどこから来たのかはまだ知らなくていいわ」

「別に故郷ぐらいは知ってもいいんじゃないの?」


そう言う俺にキナはピシッと人差し指を突き立てる。


「いいことウォルト、知るべき事と知らぬべきである事、これらを嗅ぎ分ける鼻っていうのは、生きていくうえで重要なの。踏み込み過ぎるのが吉と出るか凶と出るか、それは結果論じゃいけないのよ?信頼っていうのは築きがたい反面、驚くほど脆いの、だからこれは本当に聞いていいのか?聞かなくていいのか?良く考えて発言しなさい。沈黙は金で雄弁は銀よ、覚えておきなさい。わかった?」


よくもまぁ噛まずにここまで長く話ができるモノだ、彼は彼女の滑舌の良さに感心した。

そしてキナの故郷については聞かない方がいい、それがよくわかった。

わかったところで彼は素直に返事を返す。



「よろしい、他には?」

「…」

「ないの?」

「…」

「ねぇ」

「…」

「生命の精霊ってなに?」


うむっと言いそうな勢いで彼女は頷く。

きっと教えたがりなのだろう、そう思うと彼女のたびたびの教訓というか…そう言う類の忠言も彼を思っての発言なのだろう。


「キナ達を精霊ってひとくくりにした後、その精霊を細分化すると自分が使える魔法を概念化した言語を精霊の上に付ける事が多いわ」

「例えば何かを燃やせる精霊は燃焼の精霊だとか、凍らせられるのであれば凍結の精霊だとか、キナは命に関わるから生命っていう風にね」

「ただすべて同じ魔法を使うかと言えばそうではなくて、キナみたいに治癒できる精霊もいればもう生命自体を蘇らせちゃう精霊もいるってわけ」


キナは傷を治す事が出来るが、命を蘇らせることはできない。

彼は思った、それはつまり。


「キナってすごくないんだね?」

「あ゛?」

「ヒッ…」


キナの顔が一気に変わった。

凄い目が怖い、一気に印象が美少女からトラになったと彼は感じた。


「あのね!生命の精霊は少ないの!全体で言えば1割にも満たないの!もうその存在自体が貴重なの!宝石なの!」

「痛い痛い!耳は!痛いって!」

「だったら何か言う事があるでしょうが!」

「悪かったよ!悪かったって!」

「ふんっ!失礼ねホントに!」


そういって彼は解放される。

キナは誇り高い、それ故に貶されるのを酷く嫌う。

冗談は通じるし優しさもあるけど、自らの価値を貶めるような発言には容赦がない。

まるで武人のような性格だなと彼は感じた。


「さて…そろそろ出かけるわよ」

「出かけるってどこへ?そもそもここはどこ?」

「ハップルペンデット山脈よ」

「ハップルペンデット?…俺が住んでたところじゃないか」

「ウォルトの家なんてもう遥か北よ」

「ほぁ…」


ハップルペンデット山脈。

冬の気温はどこでも―60度まで下回る極寒の山脈。

レイシア帝国の東に位置するイスラ共和国との国境である。

基本的にこの山脈は両国のイスラ共和国の管理地帯であるが、レイシア帝国の人間でも入山は可能である。

ただし足場は悪く傾斜も急なこの山脈を横断するには、イスラ側が整えた歩道を通らなければ危険である。

それ故にレイシアとイスラは、商業条約をはじめとする平和条約によって友好関係にある。


「こんなところに武器を探しに!?どこに武器屋があるってんだ」

「あら?言わなかったかしら?取りに行くのよ、一流の槍を」

「さぁいつまでも座り込んでないで出発よ!」


キナは俺の手を取ると思いっきり引っ張り上げる。

その手は暖かく柔らかかった。

初めて握る女性の手に、彼は少しだけ戸惑った。

そんな彼の顔を不思議そうに見るキナ、だがすぐに思い出したような顔でポッケを手でまさぐる。

何かを手にして、彼の顔に手を伸ばした。


「それと…」

「いて!」

「動いちゃ駄目よ」


ウォルトはキナに耳たぶのあたりを触られた、その瞬間彼の耳に針で刺されたような痛みが走った。


「よし…これで大丈夫ね…」


痛みの後に冷たい感触。

そのあたりを触ると何か堅い感触を感じた。


「これは?」

「ピアスよ、ほらこんな奴。お揃いなの」


長い髪をかき上げ自らの耳を見せてくる。

そこには緑色の宝石のついたピアスが確かについていた。


「契約石の理屈はね、一つのものを二つに分けてもう一方が念じればもう一方のある方に瞬間移動するってことなの」

「でもあんな石いちいち手にとってらんないし落としたら困るでしょ?だから装飾物に加工したの」

「つまり…こっちでもお互いに離れた所にいても一瞬で合流できるってことか?」

「そういう事よ、まぁ…念の為ね。これはオルドルのよ」


彼女は少年の手首に腕輪を巻きつけた、そしてそこにはオルドルの契約石が埋め込まれている。


「これらは俺が寝てる時に?」

「まさか、前から作っておいたのよ」

「へぇ…」

「愛情込めた手作りよ?大事にしなさい」

「そうさせてもらうよ」

「うん、結構」


そういうとキナは周りを見渡し、腰につけてあるポーチから何か地図のようなものを取り出した。

それを広げて方位磁針で方角を確認し、彼の方に向き直る。


「それじゃあ行きましょうか」

「ちなみにさ、どんな武器を取りに行くの?」

「正直槍以外は自信が無いんだけど…」


そう言うとキナはニコリと笑う。

それは予想していたよと言いたげな表情、実際に彼の不安そうな顔を見て彼女は微笑ましく感じたのだ。


「心配しなくても槍よ、やーり」

「幻槍フォスキーア、フォスキーアっていうのは陽炎という意味よ」

「幻想?」

「文字に起こさないとわからないけど、きっと間違ってるわね」

「幻の槍と書いて幻槍」

「こいつはね…刃が揺れるのよ……」

「…は?」


刃が揺れる、彼はその言葉をどうにも理解できなかった。

というか突くための穂先がグラグラしてたら…致命的じゃないかな?

そう考えていたのだ。


「刃だけにはってことかしら、そういうのキナ好きよ」

「うん?」


彼はまたしても理解できなかったが、すぐに察した。

彼女はシャレを言ったのだという事を。


「…ごめんなさい、忘れて頂戴」

「…うん」


まぁ楽しみにしていなさいと言って歩き出すキナ。

刃が揺れる…いったいどういう事なのだろうか、彼は笑みを浮かべながら彼女について行った。


こうして彼は大きくなったキナと共に、怪しげな槍を探しに山に入って行った。

ミスティに軍人になれと言われ、キナとオルドルが現れて、そして次は宝探しときた。

めまぐるしく動き出した自分の生活、下山した後にはキナやオルドルとゆっくり話す時間はあるだろうか。

打ち解けてはいるが、彼は二人の事をよく知らなかった。

それ故に早くいろいろ話したいと思っていた。


「ウォルー?置いてっちゃうわよー?」

「今いくよー?」


そんなことを考えながら、彼はキナの後を追った。



1部と2部を改訂しました

前に読んだことがあるよという方は、僭越ながらもう一度読み直す事をお勧めさせていただきます

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