「おいしい春」
本日より四日連続で午前10時に投稿します。
「今年は、お花見できなかったわねえ」
キッチンで夕ご飯の用意をしていたお母さんの、何だかしょんぼりした声が聞こえてきた。
「でもさ、あれは楽しかったじゃん!」
「おいしかったしね!」
カイとぼくはリビングでテレビをみていたんだけど、楽しかった春休みを思い出しながら、お母さんにも思い出してもらったんだ。
「そうねえ。ちい先生もびっくりしてたものね? 作せん大せいこうだったわねえ!」
お母さんのクスクス笑う声が聞こえてきた。
ぼくもカイも一つ学年が上がって、ようち園だったゆうすけ君も小学生になったよ。なんだかね、ピカピカのランドセルに、黄色い交通安全のランドセルカバーをつけたゆうすけ君を見ていたら、ぼくもカイもお兄ちゃんになったような、はずかしいような、うれしいような気分がしたんだ。もちろんゆうすけ君にはぼくたちと同じ学年のようすけ君っていうお兄ちゃんがいるけどさ、ぼくたちのことも、カイ兄ちゃん、ソラ兄ちゃんなんてよんでくれるんだよ。危ないこととかないように、見ていてあげなくちゃって思うよね。
そうそう、春休みの事だったね。あのね、春休みに入ってさいしょの土曜日に、ぼくたち家族とちいばあちゃんでね、ちいばあちゃんのかりている畑に行ったんだ。
ちいばあちゃんは、「市民のう園」っていう畑をかりていて、そこで色んな野菜を育てていたんだ。でもさ、足をケガしちゃったでしょ? だからぼくたちで、ちいばあちゃんの代わりに、畑のめんどうをみていたんだよ。
ちょうどちいばあちゃんの畑のおとなりに、今年からぼくたちも畑をかりれたから、いっしょに夏に食べる野菜のじゅんびをやりに行ったんだ。
ちいばあちゃんはすっかり元気だし、退院してからすぐにでも畑に行きたがったんだけどね、ちょうどちいばあちゃんがケガをした頃に、ぼくとカイとお母さんで、ちいばあちゃんの畑にあるものを植えておいたんだよ。せっかくだから、びっくりさせようと思ってさ、
「ちいばあちゃんはあったかくなるまで畑はダメだからね!」
って、大変だったよ。ちいばあちゃんを止めるのって。だってさ、
「おまえたち、何かかくしてるんじゃあないかい?」
なんて言うしね。ばれちゃうんじゃないかって、みんなで冬の間、ハラハラドキドキだったんだ。
春休みのさいしょの土曜日は、ポカポカしたあたたかいよく晴れた日でね、みんなで思わずう~んと伸びをして、これから植える野菜のなえや、肥料や、道具をお父さんの車につみこんで、家族全員そろったら、さあ出発!
30分くらい走ったところにある畑を見たちいばあちゃん。
「おやまあ、まあまあ、あれまあ」
って大きな声でさけんでたっけ。
お父さんとお母さん、そしてカイとぼくは声をそろえて言っちゃった。
「「「「やったね! 作せん 大成功!!!!」」」」
ちいばあちゃんは
「ウ~ン、やられた~」
って言ってから、わっはっはっておおわらい。ぼくたちみんなで思わずハイタッチしちゃったよ。
でもお楽しみはこれからだもんね~。お父さんの、
「よーし、みんなで、いもほり始め!」
のかけ声に、いっせいにくきを引っ張って、その先っぽには根っこと小さなまあるいちびポテト!
お父さんとぼくとカイが引っ張って、お母さんとちいばあちゃんがちびポテトを集めてね、スーパーのレジぶくろいっぱいになるくらいにとれたんだよ。
そのあと、夏野菜のトマトやキュウリ、とうもろこし、ピーマン、えだまめを二つの畑に分けて植えたよ。そうそう、秋用に、少しだけじゃがいもも残しておいたんだよ。大きくなったデカポテトもおいしいもんねえ。
どろだらけになった服を着替えて、帰ってきてから、ぼくたちの家でちびポテトパーティー。ゆでたてのちびポテトにバターをぬって、お父さんやちいばあちゃんはめんたいマヨネーズをのせて、せ~の
「「いっただっきま~す!!」」
「ねえ、カイ。夏休みが楽しみだねえ! 焼きとうもろこしできるかな?」
「ぼくさあ、スイカを植えたかったんだよねえ」
「まだ言ってんの? 畑が小さいからむりって言われたじゃん」
「ぶどうも良いよね~」
「お~い、カイ! 聞こえてる~?」
*「おいしい春」おわり*