「ピーちゃん大作戦」
明日ね、やっとちいばあちゃんが帰ってくるんだ! もう歩けるんだけど、ずうっと歩かなかったからさ、リハビリっていうのをやって、走れるくらいになっちゃうんだって、なかなか帰って来られなかったんだよ。
もう! ますます元気になっちゃうじゃんね! うれしいけどさ、やっぱり心配だよ。ひょいひょいってどっか行っちゃって、ケガとかしてたらまた会えなくなっちゃうじゃん? いつでも近くにいてくれなくちゃ。ぼくとソラの作せんだって聞いてほしいんだもん。
でもね、今の作せんは、ちいばあちゃんにはないしょなんだよ。びっくりしてくれるかなあ。あと少しなんだけど。ぼくもソラもがんばったんだけど……。
ピンポ~ン。
「はーい」
だれだろう。たつやくん達かなあ。今日は遊べないよって言ったんだけど。ソラと二人でお母さんが向かったげんかんの方を見ていたら、
「え。ししょう!?」
って、お母さんの大きな声が聞こえて来て、ぼくとソラもびっくりして、げんかんに走ったよ。
「「ちいばあちゃん!!」」
げんかんを入ったところに、ピンピンしたちいばあちゃんが立っていたんだ。
「「なんでいるの? 明日じゃないの?」」
びっくりして、思わずソラとハモっちゃったよ。
ちいばあちゃんはぼくたちを見て、ニヤァって笑ってさ、
「ただいま。どうしたんだい? 二人とも、まんまるの目をしてさ。ワハハ、作せん大成こうだねぇ」
「「ええ~。ちいばあちゃん、作せんって何!?」」
びっくりしてだまっていたお母さんが、やっと動き出して、ちいばあちゃんのスリッパをならべてね、
「外は寒かったでしょうに。さあさあどうぞ」
「ありがとうね。愛ちゃん。ちょっとおじゃまするよ。ああ、これはお礼のケーキだよ」
そうして、リビングのソファーにちょこんと座ったちいばあちゃん。ぼくたちは、ちいばあちゃんがにげられないように、ちいばあちゃんの右うでと左うでに抱きついて、ならんで座って、しつもん開始。
「どうして明日じゃなかったの?」
「一人で帰って来たの?」
「「さっきの作せんって何?」」
「ああ、今日のしんさつが最後だったからさ、もう帰って良いだろう? って、サッサと帰ってきたんだよ」
「「むかえに行くって言ったじゃん!!」」
「だってねえ、カイやソラに早く会いたかったしね。もういつも通りなんだから、とっとと帰りたかったんだよ。だから一日早く帰ってきたんだ。びっくりしたかい? 作せん大成功だ」
もお~。そんな事言われたら、ぼくもソラもうれしいじゃん。それに、大事な事を言ってなかったよ。
「「おかえりなさい! ちいばあちゃん!」」
お母さんが、もらったケーキと紅茶を運んできて、みんなで食べてから、ちいばあちゃんと話し始めたから、ぼくはソラとぼくたちの部屋にそうっともどってきたんだ。お母さんとちいばあちゃんの話は、いつもすんごく長いからね。
「ねえ、カイ。ピーちゃんだいじょうぶかなあ」
ソラがちょっと心配そうにピーちゃんを見ると、ピーちゃんもソラを見てるみたいだった。いつもはリビングにいるピーちゃんだけど、作せんの練習があったから、ぼくたちの部屋に連れて来ていたんだ。
「たぶんだいじょうぶだよ。ねえ、ピーちゃん?」
ピーちゃんは、クルッと頭を背中の方へ向けて、くちばしを背中にうずめて寝ちゃったみたい。
「「ピーちゃん!!」」
もう。この作せんは、ピーちゃんが、がんばってくれなくちゃ。それからよばれるまで、ぼくたちとピーちゃんは、最後のとっくんをがんばった。ああもう。あと一日あると思ってたのに。
「カイ? ソラ? お父さん帰ってきたし、みんなでご飯よ」
お父さんは、あわてたお母さんからの連絡で、急いで帰ってきたんだって。ちいばあちゃんに「心配しましたよ。ちい先生」なんて言ってたけど、すごくうれしそうだったよ。
テーブルの上には、おスシとかから揚げとか、ごちそうがいっぱいだった。ぼくもソラも、お父さんやお母さん、そしてちいばあちゃんも、みんなでおしゃべりしながら、ニコニコしていて、ご飯もおいしくて。ちいばあちゃんが帰ってきたんだって、すごくすごく思ったんだ。
夕ご飯のあと、
「今日はごちそうさま。いろいろと世話になったねえ。じゃあ、ピーちゃん連れて帰るよ」
って、立ち上がったちいばあちゃん。ぼくたちは、
「「ちょっと待ってて!!」」
そう言って、部屋にもどってピーちゃんを連れてきた。ピーちゃん、ねてたみたいだけど、明るい部屋にびっくりして起きたみたい。チュクチュクとなにかしゃべってたピーちゃんだったんだけど、ちいばあちゃんを見つけて
『ピーチャン!』
ああもう。やっぱり失敗しちゃったよ。ぼくとソラはがっかりした。ちいばあちゃんをびっくりさせようって、がんばったのに。
「おやまあ、ピーちゃん。しゃべれるようになったのかい。すごいねえ。カイとソラに教わったのかい?」
ピーちゃんは、首をひょこひょこ動かして、
『カイ、ソラ、イケマセン!』
うわあ。お母さんそっくり。こんなの教えてないのにさ。いつ覚えたんだろう。ぼくもソラも、がっかりどころかびっくりだよ。
「「ピーちゃん!!」」
ゲラゲラ笑っているちいばあちゃんやお父さん。お母さんもまっ赤な顔して、後ろ向いてるけどさ、絶対笑ってるよね。こんな大失敗は、久しぶりだよ。ぼくとソラが大きな大きなため息をついた時だった。
『チーチャン! チーチャン!』
ちいばあちゃんは、笑うのをやめて、ピーちゃんをじいっと見てね、
「ピーちゃん、今チーチャンって言った?」
『チーチャン! チーチャン!』
ちいばあちゃんの目から、笑いすぎてたまってたなみだがポロンって落ちて、クルッとぼくたちの方を向いてね、
「カイ、ソラ。すごいねえ。ピーちゃんからチーチャンってよばれちゃったよ。教えてくれたんだろう? うれしいよ。名前をよばれるって、本当にうれしいねえ。すごいプレゼントをありがとうね!」
ダメだって思っていたのに、ピーちゃんの大ぎゃくてん!
それからちいばあちゃんは、ピーちゃんのカゴを大事そうにかかえて、おとなりに帰っていったんだ。ちょっと失敗もしたけどさ、喜んでくれたから、まあいっか。ね、ソラ!
「「おかえりなさい! ちいばあちゃん!」」
*「ピーちゃん大作戦」おわり*
大変長らくお待たせして申し訳ありませんm(__)m
お楽しみ頂けたら嬉しいです。