「雪の朝その1」
「ねえ、カイ。カイってば~、起きて! 早く起きてよ~」
「なんだよ、ソラ。今日は休みなんだから、もう少しねていたいよ~」
「いいから、起きて! すごいんだから~」
ふとんごと、ゆさゆさとゆさぶられて、しょうがなく目を開けてびっくり。なんだかものすごく部屋の中がまぶしいんだ。ええ~、もうお昼なの?
あわててとび起きたぼくは、カーテンを開けてにこにこしているソラの方を見て、もっとびっくりしちゃったんだ。ぼくもベッドをとびだして、まどのところでまっているソラのとなりにならんでね、ペトッと手のひらをまどにくっつけて外を見たんだ。
「ね、すごいでしょう?」
「うん、すごいね。うわあ~、すごいよ、ソラ!」
まどの外は、まっ白かったんだ。木もどうろもお家のやねも。みんなみんな白くてキラキラしていたんだよ。それにね、ものすごくしずかだったんだ。音がなくなちゃったみたいでね、いつもは聞こえる車の音も聞こえてこなかったんだよ。だからね、ぼくたちも小さな小さな声で話したよ。
「白いね」
「雪だね」
「行く?」
「もちろん!」
ぼくたちが回れ右して部屋のドアを開けて、またまたびっくり。そこにお母さんが立っていてね、
「着がえてから、行きなさい!」
と、もう一度クルッと回れ右させられちゃった。言われるまで気がつかなかったんだけど、ぼくたちのつくえの上にはセーターとかズボンとかマフラーやくつ下や手ぶくろまで、ズンズンとつんであったんだよ。お母さんいつのまに用意したんだろう。まほうつかいみたいだよね。
ぼくたちは、パパッとパジャマをぬいで、大急ぎでセーターとズボンをはいたんだ。だってすごくさむかったんだもん。くつ下をはいて、やっとあったまって、二人で笑っちゃった。それからはゆっくりとジャンパーを着て、あとはマフラーと手ぶくろと、毛糸でできたぼうし。
このマフラーとぼうしは、おとなりのおばあちゃんが作ってくれたお気に入りなんだ。すごくあったかいんだよ。もちろんぼくたちの色なんだ。ぼくは緑、ソラは青。
緑と青になったぼくたちは部屋を出て、お母さんがいるキッチンに行って、行ってきますをしようとして、またまたまたびっくり。お母さんは、だまったまま時計を指さしていたんだよ。
なんだろう、ぼくたちもかべにかかった時計を見て、もう一つびっくりしちゃった。まだ7時になっていなかったんだ。
「朝ごはんができるまでだからね? まだ早いから、そうっとね?」
ぼくたちはお母さんに、はーいとこっそり返事をして、長ぐつをはいて、げんかんのドアを開けて白い中にとびだしたんだ。
げんかんの外も、白かった。ぼくたちは、その白い雪の上にそうっと足をのせてみたんだ。スコッと長ぐつが雪の中に入って、もうかたほうも入れてみたよ。またスコッ。スコッ、スコッ。ふりかえったぼくたちの後ろに足あとのみちができていたよ。
もう楽しくって、うれしくって、エレベーターにのったぼくたちは、雪みたいな白いいきをハアハアさせて、笑っちゃった。
エレベーターをおりて、マンションのとなりにある小さな公園にザクザク歩いて行ったんだけど、そこもぜんぶ白かったんだ。ブランコもてつぼうにも雪がつもっていたし、すなばはどこにあるのかわからない。
ぼくたちは、足あとのない白い公園で、あるものをいっしょうけんめいに作ったんだ。あとであそぼうと思ってね、ソラとそうだんしてきめたんだよ。
「手袋もびしょびしょだし、おなかもすいたし、お家に帰ろう。ごはん食べたらもう一回来ようよ。」
「そうだね。とけないかな?」
「だいじょうぶだよ! いそいでごはんを食べてこよう」
ぼくたちのほっぺたは、まっ赤だったみたい。二人ともりんごみたいね、ってお母さんが笑って言ってたよ。いいにおいのするキッチンにかけこんで、ぼうしとマフラーとジャンパーをリビングのソファーにポンポンっとなげて、びしょびしょの手ぶくろはお母さんに。ああ、おなかすいちゃったよ。
「「いっただっきまーす!」」
その2に続きます。