「お兄ちゃんになりました!」
まどの外からチュンチュンと聞こえる小鳥達の声でぼくたちはとび起きた。カーテンのすき間から見える空は明るくて、あわてておふとんからぬけ出したぼくたち。ちょっと前までは寒くておふとんから出たくなかったのに、今はぜんぜん平気で起きられちゃう。もうすっかり春になったんだね!
「おはよ! カイ」
「おはよ~! あ、早く行こう! ソラ」
ソラに返事をしながら、ぼくたちはパジャマのまま部屋を出てかいだんをかけおりた。
「「産まれた?!」」
リビングにいたのはちょっぴりねむそうな顔をしたグランマ。ずっと起きてたのかな?
「おはよう。まだもうちょっとかかるみたいよ?」
「「ええ~! まだなの~!!」」
昨日の夜病院から電話がかかってきて、「そろそろですよ」って言われてお父さんがあわてて病院に行ったんだ。そのあとお父さんから電話があって、「たぶん朝になるから、のんびりねてなさい」なんて言われてさ。
ぼくもソラもドキドキしちゃって、ちっともねむれなくてさ、ベッドの中でずっと二人で話してたんだけど、いつの間にか、ねちゃってたから朝になっててビックリして起きたのに!
「だいじょうぶかな、お母さん」
ソラの心配そうな声に、ぼくまでだんだん心配になってきた。
「だいじょうぶよ! お母さんう~んとがんばってるわよ!」
ニッコリしながらぼくたちにグランマが言った時、リビングにある電話が鳴り出した。
「はい、広井です。あっ、ユウちゃん? お疲れ様。それで? あらまあ! 良かったわね~! みんな元気なの? ええ。ああ良かった! おめでとう! ええ。カイもソラも起きてるわよ。ちょっと待ってね」
『……お願いします。……カイ? ソラ?』
受話器を受け取ったぼくの耳にお父さんの声が届いた。ぼくにピッタリくっついてるソラの耳にもきっと届いてる。
「「お父さん?」」
なんだろう。ドキドキが止まらない。ソラといっしょによびかけた声がふるえてるような気がした。
『カイ、ソラ、おはよう! 二人とも、お兄ちゃんになったぞ! お母さん、ものすごくがんばったよ! グランマとちいばあちゃんと会いにおいで! 待ってるから』
「「うん!!」」
グランマに受話器をわたしたぼくの手がプルプルふるえてて、そっとソラの顔を見たら、まっ赤なほっぺたになって、まんまるに開いた目から今にもなみだが落っこちそうになってた。きっとぼくの顔も同じなのかな。
「……ソラ」
「カイ」
なんとなくよび合った声がかすれてて、ぎゅうっとソラとだきあったんだ。ああソラはおんなじだって思った。何も言わなくても、今おんなじ気持ちなんだって思ったんだ。
そうやってだき合ってたら、なんだか足の方からジワジワとくすぐったいようななにかが上がってきて、二人でいっしょにさけんじゃった。
「「やったぁ~!! お兄ちゃんだ~!!」」
ピョンピョンととびはねたぼくたちの上から、グランマの声が聞こえてきた。
「シーッ! まだ朝早いのよ!」
☆★☆
グランマとちいばあちゃんといっしょに病院に着いたころから、ぼくもソラもロボットみたいな歩き方になっちゃって、ちいばあちゃんからは
「なんだい、お前達。へんてこな歩き方してさ。おやまあ、きんちょうしてるんだね? いよいよお兄ちゃんとしてご対面だものねえ~」
なんて言われちゃうし、グランマはさっきからクスクス笑ってるし。ほっといてよ! しっかりマスクをしたぼくたちは、お母さんの病室の前で手をアルコールしょうどくしてから大きくしんこきゅう。
「行くよ! ソラ」
「うん。行こう! カイ」
トントンとノックしたら、中から「はい、ど~ぞ」って、お母さんの声がした。
土曜日だった昨日もおみまいに来たのに、なんだろう。とっても久しぶりにお母さんの声を聞いたような気がする。ドキドキしながらドアをヨイショと横に開いたら、大きなまどからお日さまの光が部屋の中を照らしていて、ベッドに座ったお母さんとそのすぐ横に立ったお父さんが見えた。二人とも何かをかかえているみたいだ。
まぶしいくらいの光の中で、お母さんやお父さんがどんな顔をしているのかわからなかったけれど、きっとニコニコしてるんだろうなって思った。
ドアの前で立ち止まったぼくとソラ。いつの間にか二人で手をつないでたんだ。
「カイ、ソラ? おいで!」
お父さんの声で、止まっていた足がちょっとずつ動いてくれて、ロボットぼくとロボットソラがちょっとずつお父さんとお母さんに近づいていく。
ワクワクとドキドキが口からとび出しそうになった時、お父さんやお母さんがかかえているのが赤ちゃんだってわかった。まっしろなタオルにくるまれた赤ちゃん達。
う~ん。顔が見えないよ。ぼくの目はお母さんがだいている赤ちゃんだけを見ていて、後で聞いたらソラはお父さんがだいている赤ちゃんが気になったんだって。
ぼくたちがお母さんのベッドのすぐそばで立ち止まった時、お父さんがちょっとしゃがんで、お母さんもうでをのばして赤ちゃん達をそっとならべてくれた。
ふわふわのタオルからちょっぴりのぞいた小さな二つの顔。ムグムグと動いている口と、ぎゅうっととじた目。
「「うわぁ……」」
「ねえソラ、ちっちゃいね」
「見てカイ、手が出てきたよ! あ、ちゃんとツメがある!」
「かわいいねぇ」
「ホンッとかわいい~!」
「「あれっ? でもあんまりにてないよ?」」
お母さんがだいていた方の赤ちゃんは、もう一人よりもちょっとだけ大きくて、まゆげとかお父さんそっくり。お父さんがだいていた赤ちゃんは、なんだかお母さんににてる気がする。うす茶色のふわふわしたかみの毛も、ムグムグしている口のあたりもお母さんそっくりだ。
「双子だよねぇ」
「双子だよね~?」
お父さんとお母さん、そしてぼくたちの後ろから、グランマとちいばあちゃんの笑い声が聞こえてきた。
「どれ。だいてみるか?」
お父さんはそういうとお母さんに一人わたして、もう一人をだき上げた。そして、
「ほら二人ともベッドにすわってごらん」
ヨイショっとならんですわったぼく達。お父さんはぼくにだいていた赤ちゃんをわたして言ったんだ。
「カイ、お前達の弟だよ!」
うでをわっかにした上に、あったかな赤ちゃん。うわぁ、弟か~! ほしかったんだよね~弟!
「はじめまして。カイ兄ちゃんだよ! よろしくね!」
「ぼくはソラ兄ちゃんだよ! いっしょにあそぼうね!」
となりからのぞきこんで、ソラも声をかける。そんなソラにお父さんが
「ソラ、こっちはお前達の妹だぞ!」
ん?! 妹?! 妹っていもうと? 双子なのに弟と妹がいっぺんにできちゃったの~?!
「「えええ~!」」
「ふえっ」
思わず出しちゃった声にビックリしたのか、手をぴょんとバンザイさせた赤ちゃん。お父さんがヨシヨシとおしりをとんとんすると、またねちゃったみたい。そしてソラにそおっとだっこさせた。
「はじめまして。ソラ兄ちゃんだよ! 君が来るのを待ってたよ!」
「ぼくはカイ兄ちゃんだよ! よろしく!」
そんなぼくたちをグランマがニコニコしながらビデオカメラでとってるし、ちいばあちゃんもカメラでなんまいも写してるみたい。
ぼくもソラも、うでの中にいる小さな赤ちゃん達がうれしくて、ちっちゃいのに、思ったよりも重いのにビックリしたり、きのうまでお母さんのおなかにいたのがふしぎだったり。いくら見ても足りないくらいだったんだけど、グランマとちいばあちゃんが声をそろえて言ったんだ。
「そろそろグランマにもだかせてちょうだい!」
「ばあちゃんにもだかせておくれよ!」
ひょいと取り上げられたけど、ニコニコうれしそうなグランマとちいばあちゃんを見てたら、仕方ないよね~と、ソラと二人で笑っちゃった。そして、二人でわすれてた言葉を思い出したんだ。
「「お母さん、赤ちゃんを産んでくれてありがとう!!」」
おいでおいでされたぼくたちをぎゅうっとだきしめて、お母さんの目からポロンとなみだがこぼれ落ちた。
「カイ、ソラも。長い間いなくてゴメンね。これからもいろいろ助けてね!」
「「もちろん!!」」
お父さんはお母さんの頭をなでながら、しみじみとした声で言ったんだ。
「すごい大家族になったなぁ! 父さん、本当にうれしいよ」
☆★☆
「もう少しのんびりしていくわ」っていうグランマやちいばあちゃんを残して、きのうからねていないお父さんといっしょに家に帰ってきたぼくたち。
お父さんは車をおりて、う~んとのびをしてから庭をまぶしそうに見てね。
「うん。決めた!」
「「何なに~?」」
「お前達の弟の名前は『陸』、妹の名前は『杏』にしよう!」
「「りくとあん?」」
「うん。ほら、お前達は空と海だろう? 次は陸だよな~、やっぱり」
ぼくもソラもなんだか力がぬけちゃった感じがした。あれ? でもアンってどこからだろう?
そんなぼくたちのふしぎそうな顔を見たお父さんは庭を指さして
「ほらあそこ。あんずの花が見事にさいてる。父さんも母さんも、ここの庭で一番好きな花なんだよ。だからね、あんずと書いて、アンだ!」
「「なるほど~!!」」
リクとアンかぁ~。良いね! ぼくはソラを見た。うん。良いね! ソラもニッコリ笑った。そしてパーンとハイタッチ! お父さんともハイタッチ!
「さあこれからいそがしくなるぞ~? カイ、ソラ。リクとアンを守ってくれよ?」
「「まかせて!!」」
ポカポカの春のやさしいお日さまの光の中で、ぼくたちはお父さんにやくそくしたよ!
リク、アン。ぼくたちはずっとずっとお兄ちゃんだからね!
ずっとずっと守っていくからね!
だから早くお家においで! カイ兄ちゃんもソラ兄ちゃんも、そしてぼくたちが植えたお花達も待ってるよ~!
*「お兄ちゃんになりました!」おしまい*
エピローグにつづく
お読み下さってありがとうございます!
本日午後3時にエピローグがあります。