「新しい年のスタートは」後編
まだ頭の中がごちゃごちゃしたまんま、ぼくとカイは子ども部屋にもどって、二人して二だんベッドの下のベッドにねころんだ。ここは二人でそうだんする時の場所なんだ。
「「はあぁぁぁ~」」
思わずいっしょに出ちゃったため息に、カイがクスクスと笑って。それにつられてぼくもクスクスと笑ったら、むねの辺にあった重い何かがどっかに消えてった気がしたよ。
「お父さんが、ぼくたちの意見を聞いてくれたのはうれしかったよね」
笑いがおさまったカイがつぶやいた。
「うん。それはうれしかったけどね。でも……」
「まあね。こんな事なんて思わなかったよね」
「ぼく、頭の中がごちゃごちゃなんだけど」
ぼくがそう言ったら、カイも同じだよってちょっと笑ってた。その後カイが言ったんだよ。
「ねえ、ソラ。引っ越して良い事といやな事と出してみようよ!」
それからぼくとカイは良い事といやな事を口に出してみた。
「転校がないのは良いよね」
とカイ。
「グランパとグランマが帰って来ていつでも会えるのもうれしいよね!」
とぼく。
「お庭が出来るのも楽しそうだよね!」
「部屋がふえるって、ぼくたちのお部屋も別べつになるって事?」
「ええっ。それはいやだなぁ。でも大きくなったら、せまくなるかも」
「うん。ぼくもまだいっしょが良いな! せまくなった時ってまだ考えられないんだもん」
「だよねぇ。だけどお父さん達には分かってるのかもね」
「でもさ、それでもお部屋がありすぎな気がするよ?」
「誠ちゃんがお泊りできる!」
そうなんだよね。こないだ帰って来た時、誠ちゃんのねる場所がなくって、誠ちゃんってば、ちいばあちゃんちに泊まったんだよ。物置みたいになってるお部屋にお父さんがねて、ぼくたちが二だんベッドの上にねて、お母さんが二だんベッドの下にねて……うん。たしかにせまいかも。
「よし。じゃあ次はいやな事だね」
そう言ったカイだけど、思ってたのは同じだった。
「「ちいばあちゃんとはなれちゃう!!」」
そりゃあね、いつだって会いに来れるけどさ、だけどおとなりじゃあない! いつだってぼくたちの味方で、いつだって話しを聞いてくれて。これからだって、ずっとおとなりさんだって思ってた。ちいばあちゃんって元気いっぱいだから、ひょいひょい旅行とか行っちゃうし、昼間だっていそがしくしてるの知ってるんだけど。これからだって、ぼくにテニスを教えてくれるって分かってるんだけど。
なんだかとってもちいばあちゃんに会いたくなったぼくたちは、ちょっと会いに行こうと思った。
「おい、どこ行くんだ?」
げんかんでクツをはいてたら、お父さんに聞かれて、そういえばだまって来ちゃったねって、カイもぼくも顔を見合わせて
「「ちいばあちゃんち。行ってきます!!」」
なんとなく、まだ決まってないのにお父さんに話すのはいやだなって思って、それだけ言ってげんかんを出て。
ブザーの音に答えて出てきたちいばあちゃんのいつもと同じ顔を見たら、ぼくもカイもたまらなくなっちゃった。
二人でちいばあちゃんにだきついて、ギュッっとしたら、ちいばあちゃんもだまってギュッっとしてくれたんだ。ちいばあちゃんはいつもと同じお花みたいなにおいがした。
それから二人で引っ越しの事を話したんだけど。
「ああ! うん。ユウちゃんにもそうだんされたんだよ」
ええっ! お父さんったら、いつの間に! ぼくとカイがびっくりしてたら、ちいばあちゃんが言ったんだ。
「カイ、ソラ。おとなりじゃなくちゃ来てくれないのかい?」
「「そんな事ないもん!!」」
「そうだろう? 良いおさんぽになるじゃないか!」
「「そうだけど……」」
「何にも心配しなくてだいじょうぶさ! お前達のグランマとはユウちゃんやアイちゃんが産まれる前からの友だちだしね、これから楽しみにしてるんだよ。お前達だってそうだろう? いつだって会えるし、また作せんだって聞かせておくれよ!」
「「うん……」」
「ほらほら、元気をお出し! これから引っ越しのじゅんびだってあるし、お兄ちゃんになるのにお母さんを心配させたらダメだろう?」
ちいばあちゃんはそう言うと、もう一度ぼくたちをぎゅうっとしてから、頭をなでてくれたんだ。
「ねえ、ソラ」
「うん。カイ」
なんにも言わなくても、カイの言いたい事が分かった。ぼくと同じように、カイもきっと決めたんだ。こういうのは双子だからなのかなって、ちょっと思った。
ちいばあちゃんに「聞いてくれてありがとう」って言ったら、なんでかピーちゃんが
『カイ、ソラ、イケマセン!』
もう! ピーちゃんってば! まだおぼえてるなんて!
ぼくもカイも笑いながら、ちいばあちゃんのお家から帰って来た。おかしいなあ。空港から帰って来た時とちがって、いつものげんかんで、いつものリビングに見えた。カイもそうだったみたいで、二人でクスクス笑っちゃった。
そして、リビングに入ってお父さんに伝えたんだ。
「「ただいま! お父さん、引っ越し、がんばろうね!!」」
お父さんはぼくたちの頭をガシガシなでながら、
「そうだな。お母さんの事を考えたら、なるべく早い方が良いと思うんだ。引っ越し屋さんとそうだんだけど、今月中には終わらせよう。 ぜ~んぶ、おまかせで!」
「「りょうかい!!」」
☆★☆
こうしてぼくたちは、新しいお家に住む事になった。一かいにお父さんとお母さん、そして赤ちゃんのためのお部屋。ぼくたちは二かいのお部屋。
やっぱり二人いっしょが良いよって、カイといっしょのお部屋だけど、二つつながってるお部屋だから、すごく広い。二だんベッドを二つに分けて置いても、遊ぶ場所がいっぱいあるんだ。すごいよね。
グランマは、赤ちゃんが産まれるまでは、ぼくたちのおとなりのお部屋。これからぼくたちが住んでたお家に通って、グランパが来るまでゆっくりじゅんびするんだって、はりきってた。
引っ越し屋さんがぜんぶにもつをまとめて、あっという間にトラックにつみこんで。ガランとなったぼくたちの家を見た時は、なんだかとってもさびしくなっちゃったけど。このお家で色んな事があったよねって、カイと二人でしんみりしちゃったよ。
車で先に行ったお父さんやお母さん、グランマを見送って、ぼくたちはちいばあちゃんといっしょに商店がいをぬけて、歩いて新しいお家に行ったんだ。ちいばあちゃんの手を両方からギュッとつないで。
歩いている時に、ちいばあちゃんが言ったんだ。
「これから新しいお家でお父さんやお母さんのお手伝いして、がんばるんだよ! いつだってばあちゃん見てるからね!」
ぼくたちも元気に返事をしたよ!
「「もちろん!! だってもうすぐお兄ちゃんだもん!!」」
ちいばあちゃんはアハハって笑って、
「いつでも遊びにおいで!」
「「もちろん行っちゃうよ!!」」
すぐに終わった引っ越しのあと、みんなで出前のおそばを食べて、ちいばあちゃんを送りに商店がいをまた歩いて。そうしてぼくたちは新しいお家に帰って来た。
「「ただいま~!!」」
*「新しい年のスタートは」おしまい*