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カイとソラ  作者: 神 雪
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「男だけの忘年会」

「い~い? ろうかは走っちゃダメよ! それと、とびこんだり、泳いじゃダメだからね? それから……」


「「分かってるって!! だってぼくたちお兄ちゃんだもんね~!!」」


 ぼくとソラは11月よりもずっと大きくなった、お母さんのおなかをスリスリなでなで。


「「お母さんも楽しんできてね。じゃあ、行ってきま~す!!」」


「行ってらっしゃい!」



 今日はこれから男だけの「ボウネンカイ」なんだ。温泉っていう大きなおふろがあるところに行くんだよ!


 行くのはね、ぼくとソラでしょ、それからお父さんとグランパと(せい)ちゃん。グランパはお母さんのお父さん、誠ちゃんはお母さんのお兄さん。いつもはみんな海の向こうにいるんだけど、「今年はバッチリクリスマスのお休みが取れたんだ」って、グランマと三人で日本に帰ってきてるんだ。


 グランマはお母さんのお母さん。つまりおばあちゃんなんだけど、なんでだろう? ちっちゃい時からおじいちゃん、おばあちゃんのことをグランパ、グランマってぼくもソラもよんでるんだよね。誠ちゃんもおじさんなんだけど、「オレみたいにカッコイイドクシンキゾクをおじさんなんてよぶな! 誠とよべ!」って言われてさ、「誠おじちゃん」ってソラが小さな声で言ったら「"おじ"はいらねぇ。"おじ"は!」だって。それからずっと誠ちゃんってよんでるんだ。誠ちゃんはお父さんの小学校からの友だちだったんだって。だからお父さんとは今でもすごいなか良しなんだよ。


 そういえばドクシンキゾクってなんだろう? 今度誠ちゃんに聞いてみよう。


 それでね、グランパが冬休みに入ったばかりのぼくたちの部屋に来て、大きなおふろの写真があるパンフレットとかっていうのを開いてね、


「今年のクリスマスプレゼントはこれだ! 今度の週末に行く、(だい)して"男の忘年会(ボウネンカイ)!"」


「え? だけどグランパからクリスマスプレゼントもらったよ?」

「そうだよ。ぼくにシャトルのもけい、カイに大リーガーのサインボールくれたじゃん?」


 ってぼくたちが言ったら、


「あれは誠からだ。クリスマスに間に合わないかもってあずかっていたんだよ」

「「そ~なんだ!!」」

「それでだな、誠も明日くるし、グランパとお父さんとお前たちの五人で温泉旅行をしようと思う」

「「旅行!? 男だけで?」」

「うん。お母さんも冬休みがほしいだろう? だからお母さんとグランマとちいばあちゃんには近くのホテルで楽しんでもらおう」

「「うわあ~。それ、いいねえ!!」」


 ぼくたちは思わずコクコクとうなずいた。だって最近お母さん、こしをトントンたたいたりソファーでうとうとしてたり。なんだかつかれているのかなって、ぼくもソラも心配だったんだ。12月になってスーパーのお仕事はやめたけど、お母さんにはお休みないもんね。ぼくたちもお手伝いはしてるけど、ごはんは作れないからなあ。ちいばあちゃんも時どき、さし入れだよって、おかずを持ってきてくれてるんだけど。


「それにな、あかんぼうが産まれたら、またしばらく出かけるどこじゃなくなるだろうし……」

「「そうなの?」」

「そうだよ? お父さんだってそうだろうさ。だからお母さんにもお父さんにもお休みをあげよう!」

「「りょうかい!! ありがとうグランパ!!」」



◇◆◇◆


 

 誠ちゃんの運転で着いたところは、温泉旅館ってよばれるところだった。ぼくたちの住んでいるおとなりの県にあるのに、目の前には青い海。後ろには白い雪をかぶった富士山! 旅館の横にあるちゅう車場に車を()めて、みんなで両手を上げてノビ~っとして。旅館の人がそんなぼくたちをニコニコしながらお部屋に案内してくれた。なんだかドキドキしたぼくとソラは両方からグランパの手をギュッっとにぎって、長いろうかをちゃんと歩いたよ。


「なんでお母さんが走っちゃダメよ! って言ったか分かったよ!」

「だよねえ、カイ。ちょっと走りたくなっちゃうよね!」


 歩きながら、ぼくとソラが話してたら、後ろを歩いてた誠ちゃんがクスクス笑いながら、


「オレ、むかし走ったもんね~!」

「え?、誠ちゃんおこられなかったの?」

「あ~、ええとオフクロとなんでだかアイにすげぇしかられたっけ」

「「ああ~。だよね~!! そんなむかしからこわかったんだ。やっぱり正座のけい?」」

「正座のけい?」


 あれ? 正座はなかったのかな。なんてうらやましい。……なんて思ってたらお父さんが誠ちゃんに


「あれだよ、セイ。ちい先生の影響(えいきょう)。しかもそっくりなんだよ、言い方が」

「あれかぁ。あれは()くよな~!」

「だろう? カイとソラに言ってるって分かってたって、いまだにおれもビクッってするもんな」


 そうなんだ? お父さんもしかられてる気分になるのかな。なんだか誠ちゃんといるお父さんは、いつも家で見てるお父さんとは少しちがってて、おもしろかった。


「ハハハ。父ちゃんの威厳形無(いげんかたな)しだなぁ、ユウ。ま、今日は飲もうぜ!」

「おう!」


 

 「まずはふろだな!」


 お部屋に着いたとたんにグランパが言った。


「え? もうおふろなの?」


 ソラがびっくりして聞いたら


「「これが楽しみで日本に帰って来たようなもんだ!」」


 うわあ~。グランパと誠ちゃんの声がそろっちゃったよ。でも大きいおふろは初めてだし、温泉っていうのも初めてだから、ぼくもソラもすごく楽しみだったんだよね!


 五人そろって着いた大浴場。大きなおふろと広い洗い場。プラスチックじゃない木のセンメンキ! それにブクブクしている小さめのおふろと外にもおふろがあるみたい。その外のおふろの向こうには海! 夕方になろうとしている海はキラキラと水面が光ってて、その向こうには何にも見えなくて。いつも見るぼくたちの家の近くの海と同じはずなのに、どこまでも広がってるみたいに見える海は、なんだかとってもスゴイって思った。ちがうかもしれないけど、ソラが星を見たときって、こんな気持ちだったのかなって、ちょっと思ったりもしたんだ。



 いつもはソラとあらいっこしてるんだけど、今日は特別。お父さんのせなかをぼくが、グランパのせなかをソラがゴシゴシ。「大きいなあ~」ってソラと笑ってたら、


「おい、双子! オレのせなかもあらってくれよ! 誠ちゃん泣いちゃうぞ?」


 なんて声が聞こえてきて、みんなで大笑い。


「なんだよ。あ、ほら。カイ、ソラ、だれもいないから泳げるぞ?」

「「え? いいの?」」


 思わず二人でお父さんの顔を見たんだけど、なんでだろう。お父さんの後ろに、お母さんがこしに手をあてて立ってるのが見えた気がしたんだ。


「ねえ、ソラ」

「うん。見えちゃった」

「「……泳ぐのはヤメテオキマス」」


 ぼくたちしかいない広いおふろ場に、また大きな笑い声がひびいたよ!

 みんなで入るおふろって、楽しいね、ソラ!



 大きなおふろで「はあぁ~」ってして、ポカポカになったぼくたち。タタミの上でゴロゴロしてたら、あっという間に夕ごはん。


「今年一年、おつかれさん! じゃあカンパイ!」

「「「カンパーイ!!」」」


 グランパのかけ声に、お父さんたちはビール、ぼくたちはジュースのグラスをコッチン。ぼくたちも大人のなかま入りしたみたいで、なんだかむねのところがくすぐったかった。


 お魚がいっぱいのごはんを食べて、こんな事があったね、あんな事もあったよねって、いっぱいいっぱい今年あった事を話してたら、いつの間にか、ねちゃってたみたい。気がついたら朝になってたよ。「さあ、朝ぶろだぞ!」って言うグランパについて行きながら、ぼくは思ったんだ。


 ──ねえ、ソラ。お正月に初日の出を見てから、本当にいろいろあったね。ちいばあちゃんが帰ってきて、ひいおばあさんのお家でたくさんの人に会って。ケンカもしたし、新しく始めたものもあったよね。


 でもさ、来年は家族がふえて、もっともっとにぎやかになるよね! きっともっと楽しくなるよね! ううん、ぼくたちで楽しくしようよ。ね、ソラ!




*「男だけの忘年会」おしまい*

 

お読み下さってありがとうございます!

また新年にお会いできますように。

(^▽^)(^O^)『良いお年を!』

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