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カイとソラ  作者: 神 雪
18/27

「月のうさぎをおいかけて」 後編

ソラ視点です

 急にとび出して行ったカイが帰ってきて、どこに行ってたの? って聞いたぼくに、ウサギみたいに真っ赤な目をして言ったのは、こんな言葉だったんだ。


「ちいばあちゃんち。これ、ソラにおみやげだって。ソラのすきなチョコクッキーだよ!」



 ぼくが、どんだけ心配したと思ってるの?

 カイにきらわれちゃったと思って。

 カイは分かってくれないんだって思って。

 やっぱり言わない方がよかったって、かなしくて、かなしくて。

 やっぱり、いっしょじゃないのがダメなのかなって思って。


「うちゅうひこうしになりたい」


 ──なんて、本当に言わなければよかった。




 夏休みにひいおばあさんのお家で見た、空いっぱいにキラキラしていた星たち。となりにいたカイが、


「なんだかこわいよ」


 って、言ってたけど、ぼくはそうは思わなかった。あの星は、どんな形をしてるんだろう。だれか住んでいるのかな? ぼくたちの地球みたいに、海はあるのかな? 犬とかネコ、カブトムシとかもいるのかな? 


 ぼくはなんだか体があつくなってきて、大きな声でワアって、さけび出したい気持ちになったんだ。ドキドキがずっと止まらなくて。ひいおばあさんのお家から帰ってからも、気がついたら星の事ばかり考えてたんだ。


 カイが、心配してくれてたのは分かったけれど、なんて言ったらいいのか分からなかった。図書室で、星の本をかりて、どうやったら行けるんだろうって調べたら、うちゅうひこうしになればいいって分かったけど。


 ──それでもぼくはずっと言えなかった。


 だって、ようち園のころ、カイが「やきゅうせん手ってカッコイイ」って言った時、ぼくはあんなのキライって言っちゃったんだもん。「そっかぁ。ソラがキライなら、ぼくやめるよ! だっていっしょじゃないもんね!」って、ぼくがやめさせちゃったんだ。カイはやきゅうをやりたいって言ったのに。


 だから、言えなかった。でも、心配してくれているのもつらかった。カイだけには、今までヒミツはなかったのに。なんでも話してきたのに。


 だけど、もうがまんできなかったんだ。いろんな気持ちがあふれて出てきちゃいそうで、少ししか見えない星を見るたびに、ドキドキワクワクする気持ちはどんどん大きくなって──。





「ゴメン! ソラ」


 クッキーをぼくにわたしながら、続けてカイが言ったんだ。ちがう。ぼくがいけなかったんだ。なんにも言わなくて、カイがこわいっていう星をすきになっちゃって。だから、だから……あやまるのはぼくなんだよ。


 ぼくが、そう言おうと思った時だった。カイが、ちいばあちゃんと話した事を教えてくれたんだ。


「本当にゴメン! ぼく、ビックリしちゃっただけなんだ。ソラに置いて行かれたみたいな気持ちになっちゃって。ぼくたちずっといっしょだったじゃん? これからもずっといっしょじゃなきゃダメって思ってたみたい。ちいばあちゃんに、ちがうソラはイヤかって聞かれてさ、ぜんぜんそんな事ないって思った。びっくりしたけどさ、すごいなあって思ったんだよ。双子だって、ちがうのが当たり前なんだよって、ちいばあちゃんが言ってね、ちがっても、いいんだって分かったんだ。だからね、ソラ。……ゴメン、心配させちゃって」


 そっかぁ。カイもおんなじ事を思ってたんだね。


「ぼくもゴメン! ずっと言えなくて。カイが心配してくれてたの、分かってたんだけど」


 目をゴシゴシこすりながら、ぼくも考えてた事、思った事を話したよ。こんなふうにカイと話したのは、はじめてじゃないかな。


「ソラ、うちゅうひこうし、ぜったいなってね! ぼく、みんなに自まんするんだから! おうえんするからさ!」


 カイってすごい! こわいのに、ぼくがだまってたのに、おうえんしてくれるなんて!

 ぼくのモヤモヤした気持ちまで、全部どこかに行っちゃった。 


「カイだって、やきゅうせん手になってよ! ずっと前に、キライなんて言っちゃってゴメン。カイをやきゅうに取られちゃうみたいな気がしてただけなんだ。だからね、やきゅうせん手になって!」


 カイは、目をまんまるにして、ビックリしたみたい。それからアハハって笑ってね、


「じゃあ、ソラは星の事、教えてよ! きっとソラが教えてくれたら、ぼくもこわくなくなるからさ! でもね、やきゅうはやってみたいけど、やきゅうせんしゅになりたいかっていうと、まだよく分からないんだ。だって考えたこともなかったんだもん。決めたらさ、すぐにソラに教えるよ!」






☆★☆★☆


 公園の近くにモリモリ生えてたススキをかざって、ちいばあちゃんが作ってくれた、お団子をお盆に乗せて、まんまるお月さまが見えるところにお供えして。


 ぼくたちは十五夜お月さまをながめてた。


 早く、お団子食べたいねえってカイが笑ってる。台所からは、いいにおいもしているし、おなか空いちゃったよね、カイ。今日は、里イモを食べるんだって。お母さんが教えてくれたよ。


 そういえば、あの日お仕事から帰ってきたお母さんが真っ赤な目をしたぼくたちを見てびっくりしてたっけ。「ケンカでもしたの?」って聞かれたけど、ぼくたちは「何でもないよ」って答えたんだ。


 だって、ぼくたち決めたんだ。まだ二人だけのヒミツにしようねって。カイが何になりたいか決まったら、その時はいっしょに言おうって、カイとぼくのやくそくなんだよ。あ、ちいばあちゃんにもないしょにしてねって言わなくちゃ。



「ねえ、ソラ」


「なあに?」


「お月さまにウサギいるかなあ~」


「いないみたいだけど?」


「ええ~。行ってみないと分からないじゃん? だってソラはうちゅうひこうしになって、あのお話の女の子みたいにウサギをおいかけて行くんでしょ?」


「え?」


「いつか大人になった時、お月さまにはウサギをおいかけるソラが見えちゃうかもね!」






*「月のうさぎをおいかけて」おわり*


お読み下さってありがとうございます!

本日は十五夜。晴れてウサギを見られますように。

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