「どしゃぶりの土曜日に」
「ソラのばか!」
「そんなこと言うカイがばか!」
「なんだって?」
「カイってこんな事もわかんないの?」
「なに言ってんだよ。ソラなんかキライだ!」
「こっちこそ、カイなんかだいっキライ!」
あ~あ。どうしてこんな事になっちゃったんだろう。
さいしょはさ、カイと二人であそんでたんだよ。ちいばあちゃんが、雨ばっかりでつまらないだろうって、赤と青と黄色と白の色のついたネンドをくれたんだ。ケンカしないようにって、ぼくとカイの二人分。
これを今日の発表会に出そうよって、車とか電車とか作っていたんだけどね、色をまぜたらどうなるんだろうって気になっちゃって。ためしにさ、カイの色のみどりを作ろうってなってね、青と黄色をまぜたらみどりになったんだよね。それからおもしろくなってきてさ、赤と白を混ぜてピンクにしたり、赤と青を混ぜてむらさき色を作ってね、そのうちにネンドがたりなくなっちゃって、車のネンドもぼくがちょっともらっちゃったんだ。もちろんカイだってぼくの電車からもらっていったし。車も電車もなくなって、いろんな色の小さなネンドボールがぼくたちのつくえの上にならんだんだけど。
どっちが先にやったかなんてわかんない。いろいろとまぜている内に、むらさきっぽい茶色になっちゃったんだ。
「なんでこんな色にしちゃったんだよ!」
「ぼく、知らないよ」
「だってソラがやったんだろ!」
「カイだってやったじゃん。ぼくのせいにしないでよ!」
「もうこんなのいらない!」
「いたっ。ぶつけないでよ! ぼくだっていらないよ!」
「いてっ。ソラこそぶつけるなよ! さいしょにまぜちゃったのソラじゃん。返してよ!」
そこらじゅうが、ネンドだらけになったけど、そんな事が気にならないくらい、プンプンおこってたぼくとカイ。
「「もう、どっか行っちゃってよ!!」」
「カイ! ソラ! こっちに来い!」
お父さんの大きな声が聞こえたのは、ぼくたちが同時にこう言った時だったんだ。こんなにおこっているみたいなお父さんの声をぼくもカイも聞いた事がなかったから、こわいよりもびっくりしてお父さんのところに走ったぼくとカイ。
「そこにすわれ」
正座したぼくたちに、お父さんが静かに話し出した。お父さんは、おこっているんじゃなかった。泣きそうな、かなしそうな顔をしていたんだ。ぼくはなんだか、むねのところをギュウっとつかまれた気がした。
「お前たち、さっきどっか行っちゃってって言ったよな? 本当にどっか行っちゃって良いのか? カイはソラがいらないのか? ソラもカイがいらないのか? 兄弟ってお前たちにとって、大事なんじゃないのか?」
そんなこと、わかってる。カイがいなかったら、いっしょに遊べないし、ケンカだってできない。
「そんな事知ってるって顔してるけれど、わかってるなら、なんであんな言葉が出てくるんだ?」
だっておこってたんだもん。しょうがないじゃん。
きっとぼくたちのそんな頭の中の声が聞こえたのかな? お父さんはぼくたちがブツブツ言う前に話を続けたんだ。
「お父さんには兄弟がいない。もうお父さんのお父さんもお母さんもいない。お父さんの家族はアイとカイとソラだけしかいないんだよ。だから家族はものすごく大切なんだ。だれにもいなくなってほしくないし、お前たちがいくらケンカしていたって、あんな言葉を言ってほしくない」
「どれだけケンカしていたって、はらが立っていたって、言って良い事といけない事があるんだよ。お前たちがふつうだって思っている毎日が、どれだけ大事なものなのか、なくした事がないときっとわからないだろう。だけどね、考える事はできるだろう?」
ぼくの頭の中に、一人ぼっちのぼくがうかんだ。たぶんカイも同じだったんだと思う。
「ごめんね。カイ」
「ごめん。ソラ」
そんな言葉がいっしょに出てきたんだ。
いつもはぼくたちがケンカしてても、おこるのはお母さんだった。お父さんは、いつだってぼくたちを見ててくれたけど、大きな声を出すなんて事がなかった。だからね、本当にやっちゃいけない事をしちゃったんだって思ったんだ。
「「お父さん、ごめんなさい」」
「ああ。わかったか? 自分が言われたらいやな言葉は、言っちゃいけない。一回出ちゃった言葉は、消えてくれないんだから。わかったら、片付けしてこい。お前たち、ネンドだらけだぞ?」
それからぼくたちは、あっちこっちにあるネンドを集めて一つにまとめてね、二人で家族を作ったんだ。へんてこな茶色だったけど、お父さんとぼくをカイが。お母さんとカイをぼくが。そしてちいばあちゃんを二人で作ったよ。夜の発表会には、これを出したんだ。もちろんちいばあちゃんにも見せに行ったよ。
「お前たち、なんでこんな茶色なんだい?」
って、びっくりしていたちいばあちゃんに、ケンカした事やお父さんに言われた事を話す事になっちゃったけど。
「そうかい。大事なおくりものをユウちゃんにもらったんだね」
ちいばあちゃんはぼくとカイにそう言って、ぼくたちをギュウっと、だきしめてくれたんだ。
ザアザアって雨の音が、ずっとずっと聞こえていたよ。
*「どしゃぶりの土曜日に」おわり*