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序章


  まえがき


 本作は、先日完結した「闇鳥のトビカタ」の続編となっております。この作品単体でも楽しめるよう気をつけてはいますが、前作のネタバレを大いに含みますので、「闇鳥のトビカタ」から読んでいただくことをオススメします。

 面倒事、と一口に言っても、その内容はその時々、人それぞれである。

 仕事が面倒な人もいるし、通勤が面倒な人もいる。食事や睡眠が面倒な人もいるかもしれないし、暇な時間が面倒だと言う人がいる可能性も否定できない。つまり、森羅万象すべてが「面倒事」になり得るのである。

 しかしそんな迷惑なものにも、そうなるためにいくつか条件がある。

 その一つが「やらなければならない」「やるべきである」ものだということ。別にやらなくてもいいことなら、ただでさえ面倒なことなのだ、みんな喜んで無視する。仕事なんてしなくても金が空から降ってくるっていうなら、俺は一日中昼寝に興じることになるだろう。もっとも、そのうち降ってきた金を拾いに行くのも面倒になりそうだが……。

 ――さて、

 面倒だと思いつつも、俺がこれをやらなければならない理由と言うのは、簡単に言えば自分自身のため、自分の安全のためだ。俺の情報がそこかしこに流れないようにしておかないと、俺は結構危うい状況になってしまうのである。秘密結社から命からがら逃げ回ったり、さもなくば殺されてしまう未来が想像できる。だから、それを防がなければならない。やりたくなくても、やらなければならない。

 つまりは、そういう因果関係。

 そんな当然で根本的で、その割に何ら意味もないことを考えている俺の目の前にあるのは、無表情の白髪ショートヘアー。よくはわからないが、どことなく考え込んでいるような雰囲気を発している。

 ふと、その白い前髪を揺らしながらその少女――ワイト=ホール――は目線を上げ、

「……わかった。……つまりあなたは……殺し屋の家系に生まれた……殺し屋の見習いで……最近『闇鳥』と呼ばれている……『黒石』ナイフ使いである。……そしてこの前……『カザミドリ』の幹部を死に追いやった張本人であり……その時に『黒石』のナイフを使っていて……ナイフのことがばれると……あなたは……命を狙われてしまう……ということ」

「そういうことだ」

 俺は頷く。

 ずいぶんと物騒な会話をしているように見えるが――俺自身もそう思うが――しかし、俺達の周りには馬鹿笑いをしながら談笑している酔っ払いしかいない。俺達の会話なんて聞いてる様子はまったくないし、この騒音では遠くから盗聴することもできないだろう。俺はそれを見込んでこの場所を選んだんだ。

 夕飯の時刻もとうに過ぎた十時少し前、すでにレストランから酒場へと雰囲気が変わった食堂で、俺とワイトはカウンター席に並んで座っている。

 互いの椅子を斜めにして向かい合っているので、顔が近すぎる気がしないでもないが、これも用心のため。ワイトがそういうことを気にするようなやつじゃなくてよかった。変に意識されると、こっちが困る。

「……で?」

 ワイトは呟くように言った。

 俺は首を傾け、

「で? ――とは?」

「……私は……それを聞いて……何をすれば……いい?」

「特に何も」

 俺は何ともなしに答える。

「とりあえず、これを他言しなければそれでいい。見返りが欲しいっていうなら――まあ、できるだけ、甘んじて受けるけど」

「……特に必要ない」

 ワイトは静かに首を横に振った。

「……あなたを守る……ためなら」

「そうか、そりゃありがたい」

 予想の範疇内ではあるが、しかし希望通りの結論が出て俺は少し安心する。テーブルに並んでいる空っぽの料理皿の代金は当然ながら俺もちで、それが面倒である理由の一つではあるのだが、それで済むなら安いもんだ。

 俺は椅子から立ち上がりながら、

「じゃあ、今日の話はこれで終わりだ。このことを知っているのはお前――と、一応アンディさん――だけだから、何か問題が起こった場合はお前に頼みごとをするかもしれない。そん時は、まあ、頼むよ」

「……わかった」

 顎を垂直に振るワイト。

「じゃあ、な」

 言いながら俺は伝票を握り、レジの方へ歩き出した。ちらりと振り返ると、ワイトは席に着いたまま、呑み残していたジンジャーエールを口に含んでいる。


「……他の話は、また今度にしておくか」


 呟きながら、俺は肩越しにワイトの左腕を見つめた。

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