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筋肉と少女そして+1

 神社の門を開き境内へ入ると、意外にも人の手が入っているようで彼女が暮らしている地元の神社と同じぐらいに清潔に感じられた。正面に大きく立派な本殿が存在し、そこから伸びる廊下の先に社務所と書かれた小さな木造の建物がある。しかも、ご丁寧に御用の方はこちらのインターホンを押してくださいとの看板まで立てられていた。それに従って彼女は社務所の前まで行ってインターホンを押した。

 「すいませーん、依頼に来たのですが。」

 しかし、まるで反応が返ってくる様子が無い。もう一度押してみることにした。

 「すいませーん、鈴谷と申します!ご依頼があって参りました!!」

 さすがに大きな声が響いたのか、本殿の方からドタバタと歩いてくるような音がこちらに向かってきた。そして、社務所の扉が乱暴に思いっきり開かれる。

 「こんな雪が降っているのに何の様じゃ!!こっちはコタツの中でゆっくりしてたのじゃぞ!!用件を言え用件を!」

 出てきたのはなんとも微妙な女性であった。髪の毛は綺麗な茶髪で胸は大きく、顔を伺うと赤いフレームの眼鏡を掛けたきつめの美人と言った感じであり、街中ですぐに声がかかるタイプだ。ただし、折角の髪が所々ボサボサデあり、服装なんて緑色のジャージである。なんというか残念な印象を相手に与えて折角の美人が台無しである。

 「はじめまして、鈴谷凛すずやりんと申します。曽根村という刑事さんから紹介されて来ました。」

  頭の防寒帽子とゴーグルを取りながら、凜は挨拶を女性にした。頭の装備をとった凜は黒髪をポニーテールでおり、活発そうな女の子といった印象を相手に与える少女だった。

  「ん?曽根村、ソネムラ・・・ちょっと思い出すから待て。」

  そう言いながら云々唸りながら天井を見上げていた。そして、何かに気づいたように手を打つと凛の方へと近づいてきた。

   「なんじゃ、曽根村から紹介されたのか。奴とは以前仕事で知り合ってな、数回連絡を交わしたっきりですっかり忘れ取ったわ。ほれ、雪を落として入って来い。ワシのジャージを貸してやるから。」

   「ありがとうございます!ええと、失礼ですが名前教えてもらえますか?」

   「ん、言ってなかったな。八代狐理やしろこりという名前じゃ。八代さんと呼べばよい。早く入れ。」

   「それじゃぁ、八代さんおじゃまします。」

   「ああ、それともう一人相方いるんじゃが・・・て帰ってきたらしいな。すまんが、わしと一緒に一度表に出てくれんか。」 

   「えっと、かまいませんが。」

 八代に従い表に出ると、八代は神社から北側の山の方を向き始めた。

   「あやつめ、またふざけた鍛錬を始めたと思ったらトンでもない事をやっておるな。」

 一緒になって同じ方角を見てみるが、凛には何も見えず雪化粧された山と森しか見ることが出来ない。

 「矢代さん何が見えてみるんですか?私には何にも見えませんよ。」

 「ああ、人間ならな。っと、凜にも見え始めるころだな。かなり目立つからすぐにわかるぞ。」

 「そう言われてもって・・・。なんですかあれ。」

 凜の目には巨大な鉄の玉が、ポーンポーンと飛び跳ねながら神社の方に向かってくる異様な光景が飛び込んでくる。

 「八代さん!アレ何なんですか!?」

 「ワシの相方じゃ、あと数分までばこっちに向かってくるじゃろう。心配するな、ただの修行馬鹿じゃ。」

 八代に言われるがまま待つこと五分少々。おおよそ三十メートルはある鉄球が神社の門の前で地響きを立てながら落下してきた。凜にしてみれば、どんな化け物が来るのかと戦々恐々としており、無意識に八代の方へと身を寄せて震えていた。そして、勢いよく門が音を立てて開き、上半身裸の一人の男が歩いてきた。

 その男は大きかった。身長を見れば2メートル50センチ以上はありそうな巨人である。しかし、凜がそう感じたのは別の部分からである。全身が激しい修練によって、極限にまで鍛え上げられた筋肉が凜に得体の知れない何かを感じさせているのだ。上から下まで太く、太く、太く・・・・。指先だけではなく全身が傷だらけであるが、それらは男の壮絶なまでに体をいじめぬいた証であることは容易く想像出来る事だ。

 (恐ろしい男だ。)

 凜は雪が降る中で額に汗を流していた。見ているだけでこの圧力、戦えばどんな相手であろうと一振りで千切れ飛ぶだろう。ただただ、恐怖以外の感情が彼女の心の中で高まっていた。凜は、無意識のうちに男へと近づく。そして、男を見上げる形となる。だが、男は無言で凜を見下ろすだけで、そこに立ち止まった。待っているのだ、このちっぽけな少女を。そして、期待しているのだ何を伝えるのかと。

 (ッッ~~~~~~~!!私が、この人に対して何を言えば良いんだ!)

 そして、凜の脳内のたった一瞬の刹那!そこで浮かんだ言葉をおもいっきり彼女はぶつけた!!

 「お願いします!!!」

 そして深々とした礼。それだけである!だが、そこからは日本人のみにしか理解することの出来ない誠心誠意の美しい極限の形が存在した!!

 「承ったァ!!!!!!!!」

 男は、それに答えた。

 余計な言葉は要らない。

 一言あればそれで充分である!

 こうして、二人は言葉を交わすことなく通じ合ったのである!!!

 ・・・・・一人以外は。

 「おい、わしを無視するな。」

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