Act・1
【Act・1】
月も姿を見せない真っ暗な夜。静まり返った街に、突然激しい破壊音が響き渡った。
ひび割れだらけのアスファルトの地面に叩き付けられたのは、ロボットの体。
起き上がれずにいるその鉄の体を、小柄な少年が一人見下ろしていた。
体に合わないだぶだぶのズボンに擦り切れたシャツ。貧しい工業街では珍しくないみすぼらしい格好だ。
少年は小さな肩に鉄パイプを担ぐようにして握っていた。
褐色の肌に漆黒の瞳と髪。ロボットを見下ろす少年のその黒い目には、憎しみの色が宿っていた。
ロボットの体にある無数の傷やヘコみは、どうやらこの少年につけられたものらしい。ロボットの足は関節の部分が折れ、配線がずるずると外へ飛び出してしまっているし、体を覆う金属板も剥がれ落ちてしまっている。
少年は倒れているロボットを、更に乱暴に蹴り飛ばした。
「てこずらすんじゃねぇよ。元々がらくたロボットのくせして、なかなか壊れやしない」
馬鹿にしたような少年の口調。
ロボットは壊れた体を引きずりもがく。まるで少年から逃げるように。
そして、
『タスケテ……』
いったいどういうプログラムなのか。機械的なロボットの声が助けを求める言葉を発した。
それを聞いた少年の顔が嫌悪に歪む。
「なんだと?」
『タスケテ・タスケテ』
「うるさい……」
『タスケテ・タスケテ』
「うるさいんだよっ! 黙れ! ロボットのくせにっ!!」
少年は持っていた鉄パイプを振り上げた。
そしてそれは、力任せにロボットの上に振り下ろされた。
「ロボットのくせに! ロボットのくせにっ!!」
繰り返し振り下ろされる鉄パイプに、グシャリと潰れていくロボットの顔。
『タァ……ス・ケ……デ……』
ロボットの声は低く歪み、やがて闇夜に消えていった。