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ROBOT HEART・ロボットハート  作者: 猫乃 鈴
十一話・カンシャ
67/75

Act・1

挿絵(By みてみん)




ROBOT HEART・11

- カンシャ -


【Act・1】


「よーしっ! 撃てぇ!」


 聞こえた兵士の声に、ココはハッとしてその声の方を見た。

 見れば同時に数発の弾を発射できると見える可動式の砲台が、列になり巨大なロボット兵器にその砲口を向けている。

 ココはアキツが残していった赤いコートに自分の腕を通すと、その声を発した兵士の前に走り両手を広げて立ち塞がった。


「ちょっと、やめてください! 撃つのをやめて!」

「何をしてる、そこをどけ!!」

「どきません! アキツが今、あのロボットの中に入ろうとしてるんだから」


 おそらく階級は上の方なのであろうその兵士は、自分の指示の間に割って入った少女を睨む。


「強化兵だか何だか知らないが、あんな子供一人に何ができる」

「アキツならできるよ!」

「どけと、言っているんだ!」


 兵士はココの襟首を乱暴に鷲掴み後ろへと投げ飛ばした。


「ココ!」


 見ていたクナイが慌ててその背中を支えに行くが、ココに押しつぶされて一緒に仰向けで地面に転がることになった。

 ココは再び起き上がり兵士を止めようとしたが――

 唐突に一発、響いた銃声にクナイと共に身を縮め強張らせた。


「邪魔をするな」


 兵士の手には空に向けて撃った銃が握られていた。

 兵士たちも必死だった。相手は巨大とはいえ人が作った機械だ。どんなに丈夫とはいえ形のある物。攻撃を続けてさえいれば、いずれは破壊できるはずだ。

 的は大きく外しはしない。しかし資源の少ない東の国では無駄にできる弾などなく、無限に攻撃を続けることなどできはしなかった。少しでも確実に、あのふざけた兵器にダメージを与えなければならない。

 まだ邪魔をするなら、たとえ女子供であろうと撃つという、国を守る職務を負った者の意思にココは動けなくなる。

 クナイは自分を押しつぶしているココの背を押し返しながら体を起こした。


「お前も大概、無茶だぞ」

「だって……」


 兵士は改めて砲台を操作している兵たちに向かって言った。


「撃てぇっ!」


 その声を合図に、心臓が一瞬止まるかと思うような轟音を立て砲台から次々と弾が発射される。


「アキツ……」


 その弾を目で追いながら、ココはアキツの身を案じた。

 弾はそれを避ける素振りさえ見せないロボット兵器の顔や胸元へと、火花と煙を上げて命中していく。

 その攻撃に煙に包まれたロボット兵器が動きを止め、兵士たちが自分達の攻撃の成功を思った次の瞬間、それはすぐに絶望へと変わった。

 ロボット兵器の口元、黒い煙に包まれたその向こうで、あの光の玉が作られているのが分かったからだ。

 いかずちを落とす前の雷雲のように不気味に光り瞬く爆煙を、皆が息を吞んで見つめる。

 一度大きく吹いた風に煙が流され、その隙間から見えた大きく開いた口の中では、すでに発射される寸前にまで大きくなった光の玉が口いっぱいに広がっていた。


「退けえぇー!!」


 言いながら自身も身を翻す指揮官に、他の兵士たちも砲台をそのままに走り出す。


「やっぱり効いてねえじゃん! 逃げるぞココ!」

「ココ、クナイ君! こっちです!!」


 クナイは、まだロボット兵器の方を見ているココの手を引くと、建物の脇に溝のように続いている深い排水路の側から呼ぶヒジリの元へと走った。

 クナイとココが溝へと滑り込み、ヒジリが二人を守るように上から覆いかぶさるのとほぼ同時に、ロボット兵器の放った攻撃による凄まじい爆風と瓦礫が溝の上を通り過ぎて行く。

 タイラもロボット兵器の攻撃に身を伏せていたが、ハルカは瓦礫が自身を掠め傷つける中、それでもロボット兵器を睨み立っていた。


「ハルカ、君も逃げるんだ」


 タイラはハルカの腕を引くが、ハルカの目はロボットから動かない。


「何をぐずぐずしているの、あの子は」

「ハルカ」

「冗談じゃないわ。あの施設には、もうほぼ完成体の強化兵がいるのよ」


 この状況でもハルカの頭には自身の研究のことしかなかった。そして、まだロボット兵器を止めることのできていないアキツに苛立っていた。

 そんなハルカに眉をひそめながらタイラは聞いた。


「いったい何人いるんだ」

「一個小隊分はいるわ。普通の部隊の何十倍もの価値がある」

「戦う者たちの命に対して、君がそんなことを言うとは……。しかし、だったらなおさら彼らを避難させて、君も逃げろ」

「それはできない。やっと……やっと最終段階に入ったの。今、彼らを移動させることはできない」

「ハルカ! 何を意地になってるんだ。このままだと、その兵士たちも君も死ぬだけだぞ!」

「あなたに私の邪魔はさせないわ、タイラ! あなたが初めに言ったのよ。痛みなんてなければと!!」

「ハルカ……」

「私は間違っていない! この研究で兵士にならなければいけない人間も減るのよ? 何がいけないというの!!」


 そのとき、ロボット兵器がハルカの言っている研究施設へと顔を向けた。先ほどより小さな光の玉を口から連続して放出する。三発、発射されたそれは、一発は施設の上を掠め通り過ぎ、残りは命中して施設を大きく破壊した。


「私の研究がっ!」

「ハルカ!!」


 研究施設を見ているハルカの両肩を掴むと、タイラはその顔を強制的に自分に向けさせた。


「ハルカ……僕が知っている限り、戦場へ出て行った者たちで、自分が兵士になったことを嘆く者は一人もいなかったよ。君も知っているだろ。彼らはいつでも勇敢だ」

「それは……」


 知っているそんなこと。そんなことは、知っているのだ。だからこそ――。

 ハルカは一度、恨むようにタイラを睨み、そして真っ直ぐ返されるタイラの視線から顔を背けた。

 するとタイラはその肩からそっと手を離した。


「痛みを感じたくなかったのは、彼らよりも僕たちの方だ。苦しみ傷つき、時には命を落とす彼らの姿に耐えられなかったのは僕たちだ。彼らの決めた覚悟に勝手に苦しみ傷つき、怯えていたのは僕たちだ。だけどこの痛みは、けして忘れたり無くしたりしてはいけないと思う。……僕は、行くよ」


 その場を動こうとしないハルカをそのままに、タイラはロボット兵器の攻撃を受けた施設へと向かった。

 視界の悪い砂埃の中を走っていると、崩れた建物の影から走り出てきた人物とぶつかりそうになり足を止める。


「Dr.タイラ。まだこんな所にいらしたんですか」

「君は……サトリ君」


 二人は互いの顔を見て驚く。

 タイラが鉢合わせたのは、困っていたココたちに一晩の寝床と食事を与えてくれた男で、車椅子の女性と暮らしていた警備兵だった。


「そういえば、皆さんが出て行かれた後に、うちへあなた方のことを聴きに軍の人間が尋ねて来たのですが……」

「なるほど、そうでしたか」

「ドクター、ここは危険です。早く避難してください」

「彼女はどうしたんです。君がついていないと……」

「ヒヨリは街の人たちに任せてあります。すでにあの街からは避難しました。それに俺なんかより、よっぽど彼女はしっかりしています」

「なら君も彼女と逃げるんだ」

「いえ、僕はここを守ります。ヒヨリとの約束を守る為にも」


 サトリには大事なものがある。

 ヒヨリのことはもちろん、ヒヨリと出会うきっかけをくれた同僚の男、ヒヨリが働いていた店の人たち。ヒヨリが足を失ってからも、ずっと自分たちを支えてくれていた人がいる。

 歳をとってもそばにいると約束をした。ヒヨリとのその約束を忘れた訳ではない。しかし自分には逃げるだけではなくできることがあるはずだとサトリは心を決め、そんなサトリをヒヨリは送り出した。


「あれは……何なんですか」

「人間によって間違った形とプログラムを与えられた、単なる機械ですよ」


 ロボット兵器を見上げるサトリに、タイラはその腕を取り引く。


「君に頼みがある。僕と一緒に来てくれませんか」

「ですが……」

「あの施設が見えますか。君がもし特殊部隊に入っていたなら、この国でどんな任務についていたのか僕には分からない。しかし、あそこにはこの国の過ちが隠されている。僕はそれを見過ごせない。お願いだ、手を貸してほしい」


 タイラの言葉にサトリは示された施設にちらりと目をやり、再びタイラへと視線を戻す。


「……分かりました、ドクター。ご一緒します。あちらから回り込みましょう。この先は建物が崩れていて通り抜けるのが難しい」


 少し迷うような表情を見せたサトリだったが力強くそう言うと、タイラを守るように先導しながら研究施設へと足を進め始めた。

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