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ROBOT HEART・ロボットハート  作者: 猫乃 鈴
十話・キオク
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Act・7

【Act・7】


 巨大なロボット兵器の足元、西軍施設の防壁の周囲は、変わらず人ではなく警備のロボットたちが辺りを警戒していた。

 すると、一体のロボットが前方に何かを見つけ立ち止まった。

 ロボットの前、その足元にあったのは小さな車のようなものだった。マッチ箱に車輪がついただけのような、子供の玩具よりも出来の悪く見えるその車は、動かないが熱く熱を持っており、ロボットのセンサーが反応を示す。

 ロボットが肩口から銃を出しそれに向けると、突然、大人しかった車が急発進し、ロボットの足元を抜け走り出した。


『不審物・発見』


 ロボットはすぐさま、車に向け発砲する。

 車はチョロチョロとすばしっこく蛇行しながら走り回ったが、立て続けに連射される銃弾に弾かれ、更に空中で粉々に撃ち砕かれた。


『不審物・駆除完了』


 ロボットは銃を仕舞いかけたが、その足元を同じ車が二台、駆け抜けて行く。


『不審物・発見』


 ロボットはまたも銃撃を再開するが、的は小さく速く、二台が乱れるように走るため、なかなか当たらない。

 車を追いかけるロボットに、別の警備ロボットも車に気づき攻撃を開始する。そこへ現れた三台目の車が、そのロボットの周囲をからかうようにぐるぐると走り回った。

 ロボットは小さな車に翻弄されながら、壁を離れて行く。


「……上手くいったみたいだ」


 クナイは建物の影からそれを確認すると、後ろのヒジリを振り返った。


「そうですか、それは良かった」


 そう言ってヒジリはさらに一台の車を、作業着のポケットから取り出し可動させ、送り出すようにそっと地面に置いた。車は他の物と同じように、ロボットたちの方へ向かって走って行く。

 これから確実に壊されに行くだけの小さな車を、どこか寂しそうな顔でヒジリは見送る。


「ロボット兵器を作らされていたとき、隠れて作ったものなんです。大きな物や武器になるようなものは作れませんでしたけど、時間稼ぎくらいにはなるかと思って」


 やはり、ヒジリなりに逃げ出すための準備は進めていたようだ。

 ただし仮に凄い武器を作れたとしても、この男にそれを使えるとはクナイには思えなかった。あの小さな車はヒジリらしい道具と言えるだろう。


「よし、今のうちだ。行こう博士」


 クナイはもう一度、ロボットがこちらに来ないかを確認すると、ヒジリの手を引き走る。


「博士、こっちだ。さっきはこの壁が開いたんだ」

「分かりました。少し待ってくださいね」


 そんなことを言うヒジリの呑気に思える言葉にも、クナイはさほど焦らなかった。ヒジリはどこか頼りないが、機械技師としての腕はやはり確かだと感じる。ヒジリにならこの壁も開けられると信じられた。

 また大きく地面が揺れて、クナイは上を見上げた。自分たちに影を落とす大きなロボット兵器がそこにいる。

 いや、そこにある、と言うべきだろう。

 見た目は生き物を模していても、あれはただの人間が作った道具なのだから。


「動き出した……」


 ロボット兵器はゆっくりと、その足を東へと向け歩き出していた。


「クナイ君、開きました。……は、早く通ってください」


 ヒジリの声にそちらへ向き直ると、ヒジリが扉の合わせ目に体を潜り込ませ、背中と手足で踏ん張るようにして開けていた。制御装置は解除できたものの、扉そのものが重いらしい。

 慌ててクナイがヒジリの腕と足の間を潜り抜け外へ出ると、ヒジリは突っ張っていた手足を外し、転がるように自分も外へ抜け出す。重みで元に戻った扉に服の裾を挟まれながらも、ヒジリも防壁の外へと出ることができた。

 弾みで転んだヒジリの目の前に、小さな手が差し出される。


「はは。やったな、博士。出られたじゃん」


 笑うクナイに助け起こされ、ヒジリも小さく笑みを見せる。


「ええ、やりました」

「よし、急ごう。あのバリケードを越えれば東の国だ。俺、通れる場所を知ってるんだ」

「は、はい」

「ほら早く!」

「すみません、私、走るのは、そ、そんなに得意じゃなくて……」


 足をもつれさせるヒジリの前をクナイは走った。自分がこちらへとやってきたときに抜け出た、バリケードの破れている場所に向かって真っ直ぐに。

 そんなに遠くはない。

 そう、たしかあの辺り。あの鉄柱の下が破れているはず。

 もうすぐ。

 もう、すぐそこだ。


「クナイ君、危ない!」


 後ろを走るヒジリが突然叫んだ。と同時に、何事かと振り向こうとしたクナイは、ヒジリに抱えられるようにして地面に転がった。その耳に聞き覚えのある銃声が響く。

 固い地面に一度、体を打ち付けた後、ゴロゴロと地面をヒジリともつれる様に転がり止まる。再び目を開いた時、ヒジリが自分の上に覆い被さっているのに気づいた。

 まるで、あの時の姉と同じような状況に、クナイは慌ててヒジリの体を揺すり、乱暴に叩いた。


「……博士? 博士っ?! しっかりしろよ! 起きろっ!!」

「……い、いたた……平気ですか? クナイ君……」

「俺は何ともない」

「良かった……うっ!」

「あんた、撃たれたのかっ?!」

「だ、大丈夫です。ちょっとかすっただけで……」


 ヨロヨロしながらも体を起こすヒジリに胸をなで下ろしながら、クナイは自分たちを攻撃したそいつを睨んだ。

 西の警備ロボット。クナイの姉を撃った物と同じ形状のそれ。

 そして――


「逃げられると思ってんの?」

「お前……」


 ロボットの上に乗り、白衣をバタバタと風になびかせながら、こちらを馬鹿にしたように見下ろすアカガネがそこにいた。

 アカガネはロボットから降りると、ヒジリを見て首を傾げる。


「あれぇ? ヒジリ博士。いやだな、あなたまでどこへ行く気です?」

「アカガネ君……」

「大変だったんですよ? 途中であなたの頭がおかしくなったもんだから。あれの仕上げを俺がやらなきゃいけなくなった」


 アカガネは東の国へと向かうロボット兵器に目をやり言う。


「アカガネ君、あれを止めてくれ」

「博士、あなたも知ってるでしょう? あれの最初のプログラムは、あの街を破壊すること。その最初のプログラムが終了するまでは、誰にもあれを止める事はできない。俺にもね、止められないの。それにしても……あなた、イカレちゃったわけじゃなかったんだ。まあ、なんか変だなぁとは思ってたんだけどね」


 ヒジリに対してもロボットに銃口を下ろさせる事なく言うアカガネ。

 向かい合う二人の機械技師。どちらもあのロボットを作ることに手を貸した者だ。ただし、東へと向かう巨大な兵器を前に、今も楽しそうな表情を見せるアカガネの方が、クナイには狂っているように見えた。

 クナイはそっとヒジリに耳打ちする。


「博士……逃げろ。あいつはヤバい。ロボットは俺が引きつけるから」

「はは、無理ですよ。私は走るのがそんなに得意じゃないもので……」


 相変わらず情けない台詞を口にするヒジリに、思わず怒鳴ろうと開いた口をクナイは閉じた。

 脇腹を片手で押さえているヒジリ。その手の下で、服がじわりと色を変えていくのが見えた。

 

「博士あんた、それ……やっぱり、さっきので?」

「君は逃げてください、クナイ君。君ならきっと逃げ切れる」

「何バカ言ってんだよ! ココがすぐそこにいるんだぞ?!」


 そんなのは嫌だ。

 もう自分を助けるために誰かが身代わりになるのなんて、二度と見たくない。


『脱走者・駆除スル』


 ロボットが体内で銃弾を装填する音がする。


「どこにも行かせないよ。仕方ないよなぁ、脱走者だもんな。バイバイ、ヒジリ博士。ああ、ついでにチビガキも」


 アカガネが攻撃の態勢をとるロボットから少し離れようとした、そのときだ。

 

「クナーーーイ!!」


 どこからか呼ぶ声がして、皆がそちらへと顔を向ける。

 西と東を分断するバリケード。その東側を土煙を上げながら走る一台の車があった。

 助手席の窓からはココが大きく身を乗り出している。その目には、西でロボットに銃を向けられているクナイの姿をしっかりと捉えていた。


「タイラ、このまま突っ込んで!」


 車内に体を戻しシートベルトをしたココが、『このまま』と真っ直ぐ指さすのは、バリケードを突き抜けた先のロボットだ。

 ……無茶を言う。

 タイラは思ったが、ここでまた言い合いをしている暇はなさそうだ。


「かしこまりましたっ」


 多少、自棄やけになりつつも、タイラはバリケードから離れるように一度大きくハンドルを切り、再びハンドルを急転回させ、バリケードに対し垂直になるよう車体の向きを変える。そして、アクセルを強く踏み込んだ。


 オンボロとはいえ軍用車。持ち堪えろ。


 迫る鉄の網で出来た壁に一瞬、ココもタイラも目を閉じ体を屈めたが、次の瞬間、車は激しい衝撃と破壊音と共にバリケードを突破した。

 ボンネットに引っかかった金網に、フロントガラスをひび割られ屋根を引っ掻かれながらも車は西の地へ飛び込んだ。

 タイラはバリケードを抜けた後もアクセルを踏む足を緩めず、ココの言葉の通りロボットへと突き進む。

 ロボットも銃口をクナイやヒジリから、突進してくる車へと向きを変え発砲を始めるが、もう遅い。


「うわあああぁっ!!」


 ロボットの隣にいたアカガネが慌てて前へと身を躍らせた直後、車はロボットへと衝突し、そのままロボットを引きずりながらアカガネの後ろを走り過ぎた。

 ロボットの足元は重く固く、その体が吹き飛んでいくことはなかったが、その代わり車の先端がめり込み、ひしゃげた体は火花を上げながら地面へとゆっくり倒れた。

 ポカンとクナイがそれを見ていると、止まった車から人が転がり降りてくる。


「クナイ! 大丈夫?!」

「……ココ」

「良かった、無事ですね」

「タイラ」


 離れていたのはほんの僅かな間のはずなのに、もう二度とは会えないと思っていた姿を前にしてクナイは胸が詰まった。


「クナイのバカ! 一人でこんなとこに来て!」

「……ごめん」

「あたしがどんなに心配した……か……」


 ココはいつになく素直なクナイに、ここぞとばかりにお説教をしようとしたが、クナイの後ろに屈みこんでいる男を見て荒げた声をしぼめる。


「お父……さん?」

「ココ……」


 ココが最後に見た三年前の姿より、少しやつれて痩せている。短かった髪は伸びているし、以前は見られなかった無精髭も少しある。でも忘れたことなどない。

 間違いなくその男は父のヒジリだった。


「そうだ、ココ、お前の父ちゃん撃たれたんだ」

「え?」


 クナイの言葉にまだ呆然とした様子でココは聞き返す。


「いや、今はそれどころじゃ……うっ!」

「無茶すんなよ!」

「今は少しでも早く、あれを止めないと」


 立ち上がろうとするヒジリにクナイが肩を貸す。手で押さえた脇腹に滲む血に、タイラが傷を診るためヒジリの前へと行った。そして東へと歩みを進めるロボット兵器を見上げて問う。


「ヒジリ博士……まさか、あなたが?」

「ええ、あれを作ったのは私です」

「お父さんが……あれを?」


 ココには信じられなかった。

 こんなにロボットを好きな人が。物を作ることだけが唯一の楽しみのような父が、あんな何かを壊すためだけのロボットを作るなど。

 そんなココの視線を感じてか、ヒジリは悲しそうな表情をココに向けると、今度は強く厳しい眼差しでロボット兵器を見た。


「だから、私があれを止めます」


 しかし、再会を果たした四人の前に、ゆらりと立ち塞がる者がいた。


「行かせないって……言ってるだろ?」


 白い白衣を土埃で汚したアカガネが、苛立ちをあらわにした表情でヒジリを睨んでいた。

 その横には、警備ロボットが大きくへこんだ体からチリチリと火花を出しながらも、再び起き上がっていた。ただしバランスの悪くなった上体は片側に酷く傾いて、顔もこちらを向いてはいない。


『脱……ソウ者……発見・ク・除スル……』

「あんたにあっちに行ってもらっちゃ困るんだよ、ヒジリ博士」


 ロボットが肩から銃を出すのを見て、アカガネはヒジリたちを指さし言った。


「撃て!!」


 しかし、ロボットの歪んでしまった体はヒジリたちの方へは回らず、そのモニターにはアカガネの姿しか映らなかった。


『ダ……走者・ハ・ハ・ハ・ケ……発見』

「おい、どうした。あっちだバカ!」


 ロボットは視界に入ったアカガネに狙いを定める。銃口が自分に向いたのを見て、アカガネは顔を強張らせ後ずさった。しかしすぐに足がすくんで動かなくなる。


「違う……俺じゃない! や、やめろ!」

『脱走シャ……』

「やめろっ!!」

『駆除・開始』

「わああああああっ!」


 ロボットがアカガネに向かって銃撃を開始する。しかし、そのアカガネに体当たりするように飛び掛った者がいた。


 クナイだ。


 二人は一緒になって地面に体を擦りながら倒れこむ。

 ロボットは歪んだ体で的外れな場所を撃ちながら、自分の銃撃の反動に耐えられず後ろに倒れた。散っていた火花は漏れた燃料に引火して、やがて大きな炎となりロボットを包み込むと、黒煙をあげてその鉄の体を焼き始めた。

 地面に倒れこんだアカガネは、自分の隣に伏しているクナイに眉をひそめる。


「チビガキ……お前、なんで……」


 聞こうとしたアカガネは突然首元を掴み起こされ、次の瞬間、左頬に飛んできた拳を受けて地面に再び勢い良く倒れた。

 痛みよりもまず驚きの方が大きかった。

 口の中に鉄錆のような味が広がり溢れ、四つん這いになってそれを吐き出した。


「げほっ…げっ……はぁ……あ」


 ボタボタと粘り気のある血が地面に落ちる。口元を抑えた手に何か固い物が転がった。

 その白い欠片はまぎれもなく自分の歯で、それを認識したとたん、痛みと恐怖がアカガネの全身を駆け上がる。


 痛い。

 痛い痛い痛い痛い……!


 クナイは小さく屈み込んだアカガネの後ろ衿を鷲掴むと、力任せに仰向けに引き倒した。自分とそう変わらない薄っぺらい腹を押しつぶすように、荒々しく馬乗りになる。

 アカガネは自分を殴った拳が、再び勢いよく振り上げられるのを見た。


「や、やめて! やだ! やだ殴らないでっ!」


 顔を両腕で隠すようにして助けを乞うアカガネの口元は、クナイの大嫌いな赤い色で汚れている。

 それを見てクナイは震えだした唇を噛み締めた。そして握り込んだ拳をアカガネの顔の横、地面に向かって鋭く叩き付ける。

 びくりと体を強張らせたアカガネは、殴られ赤黒く腫れてきた顔をくしゃりと歪め、やがてボロボロと泣き出した。


「う……いた……痛い……いた……い、うぅう」


 そんなアカガネの胸倉をクナイは掴む。


「姉ちゃんはもっと痛かった!」


 掴んだ手でアカガネを激しく揺すりながらクナイは叫ぶ。


「姉ちゃんを撃ったのはロボットかもしれない。でも、そのロボットを作ったのはお前だ! 姉ちゃんを殺したのはお前だっ! お前が姉ちゃんを――っ」


 あのロボットは元々、人を殺すためのものではなかった。治安の悪かったあの街で、それを良くしようと導入された物だった。

 あれはロボットの暴走という事故だったかもしれない。だけどそれは起こった。

 そして、その原因となる物を作った人間が目の前にいる。


「俺だってな! 俺だってお前なんか助けたくなかった! お前なんか……お前なんか死んじまえばいいのにっ!」


 死んでしまえば良かったのに。

 ロボットに銃口を向けられ立ちすくむアカガネに、クナイはあの日の弱虫な自分を見た気がした。

 あの日、本当なら死んでいたはずの自分の姿を。


「仕方ないだろっ! 助けちまったんだから!! ――見ろ、よく見ろよ!」


 アカガネの襟首を掴んだクナイは、黒く煙を上げている醜い鉄の塊へと、アカガネの顔を向けさせた。


「あれがお前の作ったもんだ。お前がすごい博士だって言うんならな、自分の作ったもんに責任ぐらい取れよ! でも俺は絶対にお前を許したりしない! 絶対だ!」


 クナイはそう言うとアカガネから手を離し、乗り上がっていた体の上から降りた。そして強く硬く握り締めた拳をそのままに、うつむきながらココたちの元へと戻る。


「いいんですか? これで」


 タイラは聞いた。

 一度殴っただけで治まるような気持ちではなかったはずだ。実際に生きている自分のことよりも、すでにいない姉のこと、その復讐がクナイには最優先だったはず。


「いいわけない。でも今、これ以上あんな奴のこと考えてるなんて馬鹿らしい」


 おそらく全てが本音ではないだろう。

 それでも今、クナイは過去にひとつの決着をつけ、これから先を見ようとしている。


「クナイ」


 ココが走り寄ってきて、突然クナイを抱きしめた。

 力任せに首に腕を回されて、顔を胸元に押し付けられた息苦しさにクナイはもがくが、腕は緩まない。


「くっ苦しい……ココ、は、離せっ」

「頑張ったね……クナイ」

「……」


 自分を抱きしめたまま小さく言うココの言葉に、クナイは不思議と体の力が抜けていくのを感じた。

 同時に今まで胸の中に冷たく凝り固まっていたものが、温かな体温に包まれ少しずつ溶かされていく様な気がした。

 ココは抱きしめたときと同じ様に、突然体を離してクナイの手を取る。アカガネを殴ったまだ小さな子供の拳は腫れて、すでに青く痣になっていた。


「痛かったね……」


 煙臭いあの街で鉄パイプを振り回し、ロボットを壊していたただけならできなかったはずのその傷に、自分よりも泣きそうな顔をするココを見てクナイは戸惑う。


「なんで……ココがそんな顔すんだよ」

「クナイは強いね。あたし、本当にクナイは強いと思う」


 かつてクナイは苛めっ子たちから弱虫と言われていた。だから強くなりたかった。そうなりたいと何度も思った。

 そんな自分を守って姉のイサナは命を奪われた。

 その復讐が、弱虫な自分をこの世から消すことができる、残された唯一の方法のはずだった。この復讐さえ終われば、もうこんな自分は消えてもいい。そう思っていた。

 しかし今、結局は復讐を果たせなかった、できたはずなのに止めてしまった自分をココは強いと言う。


「もう……どっちでもいいよ……」


 ひどく苦く、それでも小さな笑みを作り言ったクナイに、ココも泣きそうだった顔をなんとか笑顔に変えた。 

 そう。強さでも、弱さでも構わない。

 そのために誰かがどこかで泣くのではなく、こうして一緒に笑えるのなら。


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