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ROBOT HEART・ロボットハート  作者: 猫乃 鈴
九話・シンジツ
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Act・3

【Act・3】


 クナイが西の防壁を間近に確認できる頃には、空はだいぶ明るくなってきていた。

 できればもっと暗いうちに近づきたかったのだが、この迷彩スーツ……という名の布切れは本当に大丈夫なのだろうか……。

 あの女機械技師の作った物は、変な仕掛けがありそうでちょっと怖い。

 地面に這いつくばるように壁の周囲を移動する。どこか中に入れる場所はないかと探していると、前方からあのロボットが歩いてくるのが見えた。

 遠くから双眼鏡で覗いていたときに感じていたものとは比較にならない大きさ。今、自分の目の前、手を伸ばせば実際に触れられるところに、そいつはいた。


 こいつが姉ちゃんを……こいつが……


 ギリ……と奥歯を噛み堪える。

 分かっている。これは数あるロボットの中の一体に過ぎない。実際に姉を撃ったロボットではないだろう。それでも、あのときのロボットと同じ姿形をしたそれを前に、吐き気にも似た憎悪が湧き上がる。

 重みのありそうな体をしているくせに、少し地面を揺らすだけで、やたらと静かにそいつはクナイが伏せているすぐ脇を通り過ぎて行った。

 迷彩スーツの効果か、クナイがいる事には気づかなかったらしい。

 すると、ロボットは壁の前に立ち止まり外へと体を向けた。そこへ一台の軍用車が近づいてくる。車が壁の前へ来るのに合わせて、壁の一部が扉のように左右に開いた。ロボットはどうやら車が中へ入るまで入り口を見張るようだ。

 迷っている暇はない。

 クナイは起き上がり、入り口が閉じる前にと壁の中へ走り込んだ。

 中には同じようにロボットが数台歩き回っていた。車が奥へと走り去り、クナイも身を屈めて奥へと進もうとしたときだ。閉じようとする壁の向こうでロボットが何かを察知した。荒野を跳ねる動物の姿と熱だ。


『進入者発見』


 ロボットは射程圏内に入ったそれを侵入者とみなした。開いた肩口から伸びた銃口が動物を狙い、発砲を開始する。


「わっ!!」


 突然、背後でしたその銃撃音にクナイは驚いて身をすくめた。足元がもつれ転びそうな体を支えようと手が前に出る。迷彩スーツの中に隠し持っていた鉄パイプから手が離れた。


「ヤバ……!」


 カン! カランカラン……

 地面にクナイが膝を着いたのと同時、大きな音を立て、鉄パイプが地面を叩き転がる。

 それまで色のなかった目を赤く光らせたロボットたちの顔が、一斉にこちらを向いた。その目は完全にクナイを捉えている。


「……マズい」


 クナイは鉄パイプを拾うと動きずらい迷彩スーツを脱ぎ捨て走った。


『進入者発見』

『進入者発見』


 辺りに警告のサイレンが響き渡り、ロボットがクナイを追いかけ始める。


「くっそ、これでもくらえ!」


 クナイは一度足を止めると、振り向きざまに鉄パイプを後ろのロボットに向かって槍投げの要領で投げつけた。

 ガン!!

 鉄パイプはロボットの胸元に当たって地面に落ちる。ロボットの体はへこんでもいないようだ。


 …………まあ……そうだろうな。


 モップの柄でバトラー号を串刺しにしたアキツのようには、普通はいかないものだ。

 うん。分かってはいたけど、あいつはやっぱりどうかしている。自分は普通だ。

 クナイは身を翻すと再び走った。


『敵ガ進入、駆除モードへ変更スル』


 追いかけてくるロボット。あの日と同じようにロボットの体の真ん中が開き、銃口が自分を狙っているのをクナイは肩越しに見た。

 そう簡単にやられてたまるか。

 このロボットを作った奴に会うまでは。姉が死ぬ原因となった人間をこの目で見るまでは。





◆◆◆◆◆



 警備室には警告のサイレンが断続的に鳴り響いていた。

 数名の兵士が大きなモニターの前で情報を集めている。警備のロボットの数に比べ、警備室内で動いている人間の数は二、三人という少なさだ。

 東とは違い土地や資源が今だに豊富な西だったが、また東とは逆に優秀な人材に乏しいのがこの国の現状だった。


『どうしたぁ? うるさいよ』


 警備室内に突然、スピーカーから不機嫌な声が響いた。

 どこかダルそうな声と口調のそれに、兵士は答える。


「基地内に侵入者がいる模様です。現在、エリアDに移動中。D-5が駆除モードに変更しました。なかなかすばしっこい奴みたいですが」

『その侵入者の映像、こっちにも回して』

「は、はい」


 兵士は別室にいる声の主へと、ちょうど今、逃げている侵入者を追っているカメラの映像を送った。


『――なんだ、チビガキじゃん』

「……ええ」


 兵士も改めてモニターを見る。そこには走り続けるまだ小さな子供の姿があった。

 あんな子供がいったい何のためにこんなところへ入り込んだのか、兵士には分からない。しかし子供とはいえ、ここは軍の施設内であり、侵入者は侵入者だ。ついうっかり迷い込むようなところではないから、何か目的があったのだろう。可哀想な気もするが侵入者は駆除するのが決まりだ。


『侵入者発見』

『侵入者発見、駆除スル』


 直線を走るのではなく、建物の隙間をすり抜けるように常に方向を変えながら逃げる侵入者。ロボットは放っておいても自動で追跡はするが、兵士は侵入者の前からも挟み込むように、待機していたロボットを一体誘導した。

 後ろを追っていたロボットをやや引き離した侵入者は、角を曲がったところで前方からもロボットが来たことに気づく。しかし一瞬止まりかけた足をその子供は前へと再び進めた。

 ロボットに突進でもするつもりなのか。

 しかし、ロボットの銃口が自分に狙いを定めたとたん、体を急転回させ元来た方向へと走り出す。


「こっちだ! 撃てるもんなら、撃ってみやがれ!」


 ロボットが銃を発射し始めたときだ。前方の角から、それまで侵入者を追いかけていたロボットが姿を現した。侵入者は滑り込むようにそのロボットの足の間に飛び込むと、転がりながらくぐり抜ける。

 ロボットの撃った銃弾は、そのまま角から現れたロボットを撃ちぬいた。攻撃されたと認識したロボットは撃ったロボットに向かって銃を発射する。そのことにまた応戦するようにロボットが銃を連射することになった。

 結果、二体のロボットは相打ちとなり倒れ、その頃には侵入者はさらに基地の奥へと足を進めていた。


『へえ、なかなか頑張るじゃん、チビガキ。生意気』


 スピーカーからの声に不機嫌さが増した。


「でも、まあ……いつまで持つかでしょうね」

『……ねぇ、もうちょっとアップにしてくんない? あいつの顔』

「え?」

『アップにしろっての。あのガキを。早くしてよ、ノロマだなぁ』

「……はい」


 兵士は声のしてくるスピーカーをちらと、忌々いまいましげに睨んでから、侵入者を追うカメラのズームの倍率を上げた。

 何しろすばしっこく移動するので、侵入者をカメラで追い続けるには、次から次へとカメラを切り替えなければならない。

 ようやく角のない開けたところへとやってきて、カメラは侵入者の顔を捕らえた。


『んー……?』

「どうかしましたか」


 スピーカーから聞こえるくぐもった声に兵士は尋ねる。


『どっかで見た事あんだよな……あいつ』

「あの子供ですか?」

『そう。あー…………あ? ああ、そうか! 思い出した。はは。おい、駆除モード解除』

「はい?」


 突然、声の言い出した自分勝手な命令に兵士は不信感をあらわにして聞き返した。


『駆除モード解除。捕獲モードに切り替えろ』

「しかし……」

『早くしてよ。俺の言う事きけないの? 本当にノロマだな』


 こちらを明らかに下に見た馬鹿にするような声に、兵士は相手に聞こえないように小さく舌打ちをしてから答えた。


「わかりました。……アカガネ博士」

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