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ROBOT HEART・ロボットハート  作者: 猫乃 鈴
七話・ソンザイ
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Act・2

【Act・2】


「いやぁ、ごめんアキツ。本当は僕が運転しなきゃいけないと思うんだけどね」

「問題ない」

「最近ろくに寝てなかったもんだから、寝ちゃいそうでねぇ」


 小さなジープの助手席でタイラは両腕を頭の後ろに組み、くつろいだ様子で言った。

 病院内で着ていた白衣を今は、ラフな薄茶色のジャケットに着替えている。

 医者としてはまだ若いタイラだが、白衣姿のときよりも更に若い印象になる。こうしていると、あまり医者には見えない。

 アキツの運転するジープは、日がだいぶ傾いた砂の大地を順調に国境へ向けて走っていた。

 

「このまま真っ直ぐでいいのか」

「うん、よろしく」


 後部座席、アキツの後ろに座るクナイはバックミラー越しに見える、どこか浮かれた様子のタイラに眉を寄せる。


「ずいぶんと楽しそうだな」

「え? ああ、あの街を出るのも、ずいぶん久しぶりですからね」

「……ピクニック気分かよ」

「ところでココ」


 呼ばれて、窓の外を流れていく砂の波を眺めていたココは車内に目を戻した。


「……何?」

「アキツの“ココロ”は作れそうですか?」


 この旅の目的、これまでの旅の出来事をタイラはやたらと聞きたがった。

 特にアキツの機能のことになると興味津々といった様子。


「作れそうじゃなくても、作るんだもん」

「じゃあ、アキツはどんな“ココロ”が欲しいのかな? ちゃんとココに注文しないと」

「どんな、というと?」


 聞き返すアキツにココは後部座席から身を乗り出した。


「ちゃんとアキツにぴったりのを作ってあげるよ!」

「ぴったりってどんなだよ」


 クナイはさほど興味なさそうに言った。


「そりゃあもちろん、優しくってあったかくって、強くておっきなココロだよ」

「……それがお前の趣味?」


 自分ならそんなものは欲しくないとでも言いたげなクナイに聞き返され、ココは頬を少し赤くした。


「ち、違うよ。アキツだってそれがいいに決まってるよ。ね、アキツ。……アキツ?」

「おい、なんとか言えよ」


 クナイは後ろから座席の背を軽く蹴ったが、アキツの反応はない。


「どうかしましたか? アキツ」


 助手席のタイラがその肩に手をやった。

 すると、アキツの頭ががくりと前に力なく折れた。ハンドルを握っていた手もずるりと下に垂れ下がる。


「アキツ!? 大変! アキツが故障しちゃった!」

「もしもーし、アキツ? 大丈夫ですか?」


 慌てて運転席を覗き込もうとするココと、取り乱す様子もなくアキツの顔を伺うタイラに、クナイは声を張り上げた。


「それよりまずハンドルだ! ハンドルとれ! それとブレーキ!!」


 周りが何もない砂漠だったのが幸いし、ジープは蛇行したものの、どこにもぶつかることなく止まった。

 タイラは助手席から降りると、運転席側に回りドアを開ける。ココも後部座席から外へと飛び降りて、運転席へと向かった。


「クナイ、ちょっといいですか? シート倒しますから」


 アキツの後ろの座席にいたクナイが横へとずれると、そこへ座席と一緒に、まるで力の入っていないアキツの体が仰向けに倒される。

 目を閉じているアキツの頬をタイラは軽く手のひらで叩いた。


「もしもし、アキツ?」

「ちょ、ちょっと、タイラどいてよ。あたし見るよ?」


 タイラの背中に邪魔されて、ココはアキツの様子が見られない。

 タイラの上着を引っ張るココだったが、タイラは譲らない。アキツの首元に手をやったり、閉じた瞼を指先で開いてみている。


「確かに僕はロボットのことは分かりませんが……どうやら寝ているだけのように見えるんですがね」

「寝てる?」


 タイラの言葉にココとクナイは拍子抜けする。

 ただスイッチが切れただけということが分かると、クナイはアキツの額をはたいた。


「なんだよ! ただの電池切れか!」

「よかったぁ」

「……でも、そういやココが倒れてから、こいつが休んでるの見てなかったな……」

「え?」


 砂漠の中、クナイには休めと言ってきたアキツだったが、クナイが眠る直前にも、目を覚ましたそのときにもアキツは起きていた。

 もしかしたら、アキツ自身はその間、ずっと休んでいなかったのかもしれない。


「あの砂漠、お前のこと一人で運んでたのもこいつだし」

「そうなの?」


 ココとクナイのやり取りにタイラは肩をすくめた。


「なるほど……“電池切れ”ね。意外と困ったものなんですねぇ、疲労感がないというのも」


 そう呟くとアキツの体を運転席から抱え上げて後部座席に移す。

 ココはドアを閉めようとするタイラを押しのけ、その後から一緒に乗り込んだ。クナイとの間に挟むようにしてアキツを支える。


「……狭いんだけど」

「じゃあクナイ、タイラの隣」

「それはヤダ」

「……二人ともあんまり口が悪いと、運転してあげませんよ?」


 タイラは運転席へと乗り込んだ。

 前方には蜃気楼などではなく、しっかりと建物の姿を確認できる。


「とにかく、街がすぐそこでよかった。どこかで休ませてもらいましょう」


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