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ROBOT HEART・ロボットハート  作者: 猫乃 鈴
六話・ウソツキ
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Act・7

【Act・7】


 病院の屋上。

 タイラはフェンスの向こうを白い鳩たちが綺麗なラインを描いて飛んで行くのを、ベンチにもたれながら見ていた。

 口の先で咥えていた煙草を指の間に戻すと、肺深くまで取り込んだ煙を細く長く吐き出す。


「医者がタバコかよ、先生」


 嫌悪を隠しもしない口調。確認しなくても分かるその声の主に苦笑いしながら、タイラはベンチの背もたれに片腕をかけ振り向いた。


「……やめてもらえませんかねえ、それ。僕は君の先生じゃない。それに、気持ちを落ち着かせるためにチープな合法ドラッグを口にするぐらいで、うるさく言うのも」


 振り向いた先、屋上の入り口前でクナイがタイラを睨んでいた。


「医者の台詞とは思えねぇな」

「どうせ、嘘つきですからね、僕は」

「トワの病気は……?」

「今思えば、どうかしてたとしか思えないですけどね。明かりを暗くなんて」


 そう。どうかしていた。

 手術の際に照明を消すなんてしたことがない。

 見えないそいつが闇に潜んでいるような気がして、探しだしてやろうと、もっと強い光を求めたことはあったというのに。

 もっと。

 もっと早く知っていたなら――


「ココ、タイラがいたぞ」


 クナイの後ろからアキツが姿を見せたかと思うと、その更に後ろからココがひょいと顔を出した。


「タイラ! こんなところにいた!」

「どうも」

「トワがね、目を覚ましたの! タイラに会いたいって!」


 満面の笑みで報告するココ。どうやら三人ともトワのためにタイラを探して病院内を探し回っていたらしい。

 手術の際、一度は危険な状態にまでなったものの手術は無事に成功し、トワの容態は安定していた。


「そうですか。まったく……疲れているんだけどなあ」


 タイラは、まださほど吸っていない煙草を灰皿に押し付けると立ち上がった。


「そうは見えないがな」

「はは。そういう君はロボットには見えないけど?」


 ドアから病院内へと戻る際、アキツの肩にタイラは手をやる。


「完璧な人型だ」

「今度、僕にも君の“修理”させてくれないかな。こう見えて工作も結構得意なんだ」

「修理なら、ココに任せている」


 すると白衣がぐいと引っ張られた。見るとココが少し怒ったような顔でタイラの白衣を握っていた。


「タイラ」

「はい?」

「トワが待ってるよ」

「そうでしたね。今、行きます」


 にっこりと笑いながら、タイラはひらひらと手を振ってトワの病室へと向かった。その背にクナイはイーッと歯を剥く。


「けっ。やっぱ、好きになれない奴!」




◆◆◆◆◆



「それでは、しゅっぱーつ!」


 元気に腕を振り上げ一歩踏み出したココだったが、クナイは続けて足を踏み出そうとはしなかった。


「……おい、やっぱ、なんか考えようぜ」


 街の出口。日が暮れてきたとはいえ、一歩出ればそこはもう焼けるような砂漠だ。ココだってその辛さは身をもって知っているはずなのに、どうしたらまた歩いて行こうなどと思えるのか。


「仕方ないでしょ。この砂漠を越えなきゃ行けないんだから」

「絶っっ対にお前が真っ先にぶっ倒れるくせに!」

「今回は水もいっぱい持ったし、平気だよ」

「そういう問題か?」


 ココのリュックがいつもより膨れている。アキツの荷物も同様だ。アキツの表情に変化は見えないが、ココがその重さにやせ我慢をしているのは見え見えだ。


「車で行けば?」

「そうだよ、車で……って、なんだよ、タイラ」


 突然、背後から聞こえた提案に振り向くと、そこにはいつもの笑顔でタイラが立っていた。人当たりがよく、優しい好人物に見えたその笑顔も、今では胡散臭くしかクナイには思えない。


「この街から出ていく人なんて、そうそういないんだけどね。一応、軍から支給された車が数台あるんだ」

「そっか。ね、アキツ運転できる?」


 ココに聞かれてアキツは頷いた。


「問題ない」

「ねえ君たち、一つ相談なんだけど――」 

「何? タイラ」


 珍しくこちらを伺うようなタイラの口ぶりにココは首を傾げる。


「僕も一緒に行っちゃダメかなあ」


 とたんにクナイの眉間に皺が寄る。


「……何言ってんだ? こいつ」

「オバケ病の治療法も見つかったし。治療法さえ分かれば僕じゃなくてもできる手術だ。ここにいる医者は優秀だし。僕は少し“先生”を休みたくてね」

「遊びに行くんじゃねえんだよ」

「ついでに軍の医療機関に今回の報告もしなくちゃいけないんだ。医者がいると便利だよ?」

 

 アキツを探るように見るタイラだったが、アキツの答えはいつも通りだ。


「俺には医者は必要ない。修理はココに任せている」

「ひどいなあ、こんなに心配してるのに。……特にクナイ、君は明らかに――」


 眉を寄せ言いにくそうに言葉を濁す医者に、クナイは少し動揺する。


「な、なんだよ」

「栄養足りてないよね?」

「……どういう意味だ、おい。なあ、ココ、ほっといて行こうぜ」

「あたしは……」


 ココが迷うように視線を落としたときだ。


「タイラ先生!」


 元気な声に見ると、車椅子に座ったトワが手を振っていた。

 看護師がトワの催促に応じるように車椅子をタイラの所まで押して来る。


「トワ? だめですよ? まだ外に出たら」

「トワ、もう元気だもん」

「すみません……あまりに外へ行くって騒ぐもので……」

「こらこら。騒ぐとお腹の傷が開いちゃいますよ?」

「はーい」


 タイラに頭を撫でられて、トワは満足そうに笑う。


「ねえ、タイラ先生。先生はやっぱ、すごい先生だね。どんな病気もケガも治しちゃうんだもん」

「じゃあ、先生の言う事はちゃんと聞いてくださいね?」

「うん。バイバイお姉ちゃん、バイバイ、ロボットさん、クナイ」

「バイバイ、トワ」


 病室へと戻って行くトワにココは手を振る。クナイも同じように手を振りながらボソッと言った。


「お前もな、タイラ」

「冷たいなぁ」


 クナイの態度にタイラが苦笑する。すると、


「……いいよ」

「え?」

「一緒に行こう、タイラ」


 ココが言って、クナイが目を丸くした。


「本気かよ」

「うん」

「本当? いいの? 有り難う。いやあ、良かった。よろしくね」


 握手でもしようというのか、差し出された手の平をクナイは無視した。


「よろしく……したくない。おいアキツ、お前もなんか言えよ」

「俺はどちらでもかまわないが。ココはいつも――」

「人数は多い方が楽しいよ」


 ココはアキツの言葉の後を続けた。


「……あっそ」


 クナイが旅に加わったとき、ハルヒが仲間になりかけたときも同じことを言っていたココだったが、今、同じ言葉を口にしたその顔は、あまり楽しそうではない。


「よろしく、ココ」

「よろしく……タイラ」


 差し出された医者の手に、ココはそれを握り返した。





ROBOT HEART・6

- ウソツキ - 終了


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