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ROBOT HEART・ロボットハート  作者: 猫乃 鈴
四話・リユウ
23/75

Act・2

【Act・2】


「あれが私の家よ」


 ココとクナイは少女の指差す建物を見て、思わず足を止めた。少女の家があまりに大きく立派なものだったからだ。家というよりは屋敷と呼ぶべきだろう。

 真っ白な外壁に広い窓。重そうな門が、来る者を迎えるというよりは拒むかのようにそびえている。少女が門の前までやってくると門はゆっくりと開き、そこから更に奥へと進んで、やっと玄関の扉へとたどり着いた。

 門なんてものはなく、入り口を入ればすぐそこに台所、食卓、居間に寝床が揃っていた【造屋歯車】の二階に住んでいたココ。この大きな屋敷が羨ましいというよりは、自分の家の中に入るために、こんなに歩かなければならないなんて面倒くさいとしか思えない。

 玄関の脇には銀色に磨き上げられた、立派なロボットが一体立っていた。


「オカエリナサイマセ」


 ロボットがそう言って少女を認識すると玄関が自動的に開く。


「入って。荷物はそこに」


 少女の示した場所へとアキツは掲げていた荷物を降ろした。ズシンと床に響く振動に、荷物を持っていないココにも、それがとても重たい物だったのだということが改めて分かる。


「ありがとう。本当に助かったわ。ねぇ、泊まるところに困っているなら、お礼にうちに泊まって」


 少女の思いがけない提案にも、アキツの表情が変わることはない。しかしココとクナイは顔を見合わせた。


「いいのか」

「もちろん。私、ヒナ。よろしくね」

「俺の名前はアキツという。完璧な人型――」

「あたしココ!」


 いつもの自己紹介を始めたアキツを遮るようにココが言った。


「で、こっちはクナイだよ」

「アキツ、ココ、クナイね。ゆっくりしていって。今日はパパもママも出掛けているから」


 ホールとでもいうのか、広すぎる玄関から中へと進むヒナについていくと、


「オカエリナサイマセ」

「イラッシャイマセ」


 廊下の端や窓辺に何体ものロボットがいるのが目に入ってきた。


「ロボットがいっぱい……」


 ココの呟きにヒナが振り向いた。


「え? ええ。そうなの。あれは掃除ロボット。さっきのは警備ロボット。それにあっちのは調理ロボット」

「うげ」


 ヒナの説明にロボットが大嫌いなクナイは顔を歪める。

 ロボットが作った料理なんて、口にすると考えただけで吐き気がする。


「おい、良かったなアキツ。仲間がいっぱいで」


 皮肉たっぷりの声でアキツにかけた言葉にヒナが首を傾げた。


「仲間?」

「クナイ!」


 ココが咎めるように言ったが


「俺はロボットだからな」


 アキツがそう続けて、ヒナの目が驚きに丸くなる。


「ロボット?! あなたが?」

「最新の技術で作られた完璧な人型ロボットだ」

「…………すごい……。どうりであんな重い物を軽々持ち上げちゃうわけね……」


 色々なロボットに囲まれているからか、アキツの異常な力を目にしているからか、特に疑うこともせず、ヒナは感心したようにアキツを眺めた。


「でも本当に人間にしか見えない。……ココのロボット?」

「え?! ち、違うよっ!」


 突然の予想もしなかった質問に、声を裏返しながらココは答えた。


「そうなの。じゃあクナイの?」

「……いらねぇよ」

「アキツはアキツだよ。誰の物でもないよ」


 ココは言ったが、ヒナは理解できないというように眉を寄せアキツを見た。


「所有者がいないの?」

「自ら学習することで知識を高め、自らの意思で行動することができる」

「ふぅん……それじゃあ、あなたは何ロボットなの?」

「え?」


 聞き返したのはココだった。


「だってロボットだもの。何か理由があって作られたはずでしょう?」

「理由……」


 答えの思いつかないココに代わって口を開いたのはクナイだった。


「戦闘用じゃねぇの?」


 その一言に、皆が一瞬黙ってクナイを見る。


「な、なんだよ……」

「そんなことないよ!」


 ココがむっとしたようにクナイに反論した。


「じゃあなんだよ」

「それは……」


 軽く素早い身のこなし、並外れた腕力や握力。


「ほら、一番しっくりくるだろうが」

「……えっと…………ほら、愛玩用……とか……?」


 明らかに目が泳いでいる。


「こんな無愛想な愛玩ロボットがいてたまるか!」

「そんなことないもん。アキツは可愛いもん」

「どこがだっ」

「クナイ、人には色々な好みがあるんだよ?」

「わからねぇ……わからねぇぞ。俺には」


 諭すように言うココにクナイは顔を引き攣らせた。


「アキツ、戦闘用なの?」


 ヒナは自ら学習し、自らの意思で行動できるというロボット自身に問いかける。


「さあ。今まで特定の行動のみを求められた覚えがないので判断しかねるが、掃除をしようと思えばできるし、料理も一度口にした味なら、再現は可能なはずだ」

「――で、戦えるのね」

「問題ない」

「それが本当ならちょうど良かったわ!」


 ヒナが声を弾ませ、アキツの手を取る。


「明日ロボット同士の試合があるの! アキツ出てくれない?」

「ロボット同士の試合?」

「そう。勝った方は相手の持ってるロボットの中から、好きな物を一つもらえるの。私、前回は負けちゃったから悔しくって」


 ココは嫌な予感がして聞いてみた。


「負けたっ……て?」

「酷いのよ? 最新のロボットだったのに、めちゃくちゃに壊されちゃって! 今、修理に出しているの」

「そんな危ないこと……ダメだよ!」


 あっけらかんと言ったヒナだったが、ココは声を大に反対した。そんなものに出たら、今度はアキツが壊されてしまうかもしれない。

 めちゃくちゃに壊されたアキツなんて想像もしたくない。

 そんなココに、ヒナは愛らしい口元に不適な笑みを浮かべた。


「もしアキツが勝ったら、この街から出してあげるっていうのはどう?」

「え……」

「私のパパは警備局の局長だもの。私が頼めば大丈夫」

「俺はかまわない」


 ココが戸惑っていると、アキツがさっさとそう答えてしまう。


「ホント?」

「本当に街から出られるのか」

「約束するわ」

「アキツ! ダメだってば」


 断固として賛成しようとしないココに、ヒナの顔が曇った。失望したとでもいうように溜息をつく。


「……もしかして……弱いの? アキツ」

「そ……そんなことないよっ! アキツは強いよ! 前に悪者を倒したときだってね、そりゃあもう、あっという間に――」

「じゃあ大丈夫ね! 早速、手続きしてくるわっ。あ、二階の好きな部屋使って。用があったらそこのロボットに言ってねぇ」


 コロッと態度を変えると、ヒナは意気揚々と出掛けて行ってしまった。

 ポカンとそれを見送ることしかできなかったココにクナイが言った。


「……おい。 弱いって言っときゃ、出なくて済んだんじゃないか?」

「ああっ!」


 しまった。思わずムキになって反論してしまった。

 頭を抱えたココだったがアキツは気にもしていない様子。まあ、いつもの通りだ。


「ココ、大丈夫だ。これでこの街からも出られる」

「でも」

「壊れたらココが修理してくれればいい」

「……それは……するけどさ……」

「時間だ。先に休む」

「……おやすみ」


 階段を上がって行くアキツの姿を心配そうに見つめるココに、クナイが気まずそうに声を掛けた。


「平気だよ。あいつなら勝つって」

「え? あぁ、うん。でもねクナイ、あたし、その……アキツが他のロボットを壊すのも見たくないっていうか……」

「は?」

「アキツが壊れちゃうのは嫌だよ? でも相手のロボットがアキツに壊されるのも、なんかヤダなぁ……」


 機械技師としてのロボットに対する思い入れというものだろうか。ロボット嫌いのクナイには理解できない考えだ。


「少なくとも相手のロボットは、そのために作られた物だぞ」

「ロボットを壊すために作られたロボット……か」

「さっきのは……その……悪かった」

「さっき?」

「アキツが戦闘用……ってヤツ」


 自分があんなことを言わなければ、ヒナがアキツを戦わせようなんて言いださなかったはずだ。


「ああ。でもクナイがそう思っても仕方ないよ」


 ココは苦笑しながら軽く返したが、クナイの表情は晴れない。


「……存在に理由を必要とするのはロボットだけじゃない……」

「クナイ?」


 ぼそりとクナイの口から漏れた声が聞き取れず、ココは首を傾げたが、クナイはわざとらしく大きな欠伸をすると、くるりと背を向けた。


「俺も寝る」

「うん……おやすみ」


 二人が二階へと上がってしまうと、後には仕事を続けるロボットたちの動作音だけが残った。

 与えられた仕事をこなすだけの彼らは、そこにいるのに気配が感じられず、広い屋敷の中は物音があるのに寂しく、それがなんだかココは少し怖いと思った。

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