Act・1
【Act・1】
その日、少年は朝からずっと店番をしていた。
少年はまだ幼かったが、少年にとってその店で働くことは決して嫌なことではなかった。その店で取り扱っている商品が、今では貴重となっている玩具ばかりだったから。
この国にもかつて数多くあったはずの玩具たちは、みんな壊れてしまったか、あるいは溶かされ形を変え戦場へ向かったか、その姿を見ることは難しくなっていた。
戦争が休戦状態に入った直後には、主力産業へと資源や物資が優先されて、玩具などに貴重な物資を使うことなど到底許されることではなかった。
少年は戦争を知らない。
ただ生まれたときからずっと貧しいだけで、少年は自分の世界はそういうものなのだと思っていた。だから、まだ幼い自分が働くことも至極当たり前のことだった。
それでも、調理場の洗い物や鉄屑拾いなどの仕事もある中、少年にとってこの店での仕事はとても心躍るものだった。
今では人々が娯楽に目を向けられるようになってはいるものの、これだけの数の玩具を目にすることが出来る場所は、少年の知る限り他にはない。
色とりどりのガラスで出来たキラキラ光るビー玉。
丁寧に仕立てられた、上等のドレスを身にまとったセルロイドの人形。
汽笛を鳴らす実物の四十分の一スケールの蒸気機関車。
そんな数々の玩具の中でも、ブリキのロボットたちは少年の一番のお気に入りだ。
発条を回すことで命が吹き込まれ、カタカタと器用に手足を動かす彼らは、まるで本当に生きているかのようだった。
カララララン
店のドアに吊るされたベルが客の来訪を軽やかに知らせ、少年は玩具の並ぶ棚にハタキを掛けていた手を止め振り返った。
「いらっしゃい」
入って来たのはひょろりとした背の高い、歳は十六、七ほどの少年だった。
それほど寒くないここ最近の陽気には少し暑いのではないかと思われる、フード付きのくすんだ赤いコートを着ている。細身の少年の物にしては、その上着は少し大きいようだ。
「何かお探しですか」
店番の少年はオドオドと尋ねた。
元々、あまり客の来ない店なのだ。番をすることには慣れていても、接客には慣れていない。
「ああ。ここの店主は」
客の少年は店の中を見回しながら言った。
「店長は出かけています。僕、店番なんで……」
「この店はどんなものがあるんだ」
「うちですか。うちは見ての通り、玩具やロボットなら色々そろっていますけど」
客の言葉に店番は少し得意気に答え、そして小さく首を傾げた。
「どんな物をお探しですか」
「ココロだ」
「はい?」
抑揚のない声で返された客の言葉の意味が分からない。思わず聞き返した店番に、客の少年ははっきりと繰り返した。
「“ココロ”を、探している」