表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ROBOT HEART・ロボットハート  作者: 猫乃 鈴
一話・ココロ
2/75

Act・1

挿絵(By みてみん)


【Act・1】


 その日、少年は朝からずっと店番をしていた。

 少年はまだ幼かったが、少年にとってその店で働くことは決して嫌なことではなかった。その店で取り扱っている商品が、今では貴重となっている玩具おもちゃばかりだったから。

 この国にもかつて数多くあったはずの玩具たちは、みんな壊れてしまったか、あるいは溶かされ形を変え戦場へ向かったか、その姿を見ることは難しくなっていた。

 戦争が休戦状態に入った直後には、主力産業へと資源や物資が優先されて、玩具などに貴重な物資を使うことなど到底許されることではなかった。


 少年は戦争を知らない。

 ただ生まれたときからずっと貧しいだけで、少年は自分の世界はそういうものなのだと思っていた。だから、まだ幼い自分が働くことも至極当たり前のことだった。

 それでも、調理場の洗い物や鉄屑拾いなどの仕事もある中、少年にとってこの店での仕事はとても心躍るものだった。

 今では人々が娯楽に目を向けられるようになってはいるものの、これだけの数の玩具を目にすることが出来る場所は、少年の知る限り他にはない。


 色とりどりのガラスで出来たキラキラ光るビー玉。

 丁寧に仕立てられた、上等のドレスを身にまとったセルロイドの人形。

 汽笛を鳴らす実物の四十分の一スケールの蒸気機関車。


 そんな数々の玩具の中でも、ブリキのロボットたちは少年の一番のお気に入りだ。

 発条ぜんまいを回すことで命が吹き込まれ、カタカタと器用に手足を動かす彼らは、まるで本当に生きているかのようだった。


 カララララン


 店のドアに吊るされたベルが客の来訪を軽やかに知らせ、少年は玩具の並ぶ棚にハタキを掛けていた手を止め振り返った。


「いらっしゃい」


 入って来たのはひょろりとした背の高い、歳は十六、七ほどの少年だった。

 それほど寒くないここ最近の陽気には少し暑いのではないかと思われる、フード付きのくすんだ赤いコートを着ている。細身の少年の物にしては、その上着は少し大きいようだ。


「何かお探しですか」


 店番の少年はオドオドと尋ねた。

 元々、あまり客の来ない店なのだ。番をすることには慣れていても、接客には慣れていない。


「ああ。ここの店主は」


 客の少年は店の中を見回しながら言った。


「店長は出かけています。僕、店番なんで……」

「この店はどんなものがあるんだ」

「うちですか。うちは見ての通り、玩具やロボットなら色々そろっていますけど」


 客の言葉に店番は少し得意気に答え、そして小さく首を傾げた。


「どんな物をお探しですか」

「ココロだ」

「はい?」


 抑揚のない声で返された客の言葉の意味が分からない。思わず聞き返した店番に、客の少年ははっきりと繰り返した。


「“ココロ”を、探している」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ