Act・4
【Act・4】
「ガオーン。スーパーロボットパーンチ!!」
子供の声がして、アキツは窓から外を見た。
そこでは玩具のロボットを手に、小さな少年が二人遊んでいた。
「こっちはロケットキックだ。ドーン!」
一人が、もう一人のロボットに自分のロボットを体当たりさせた。当てられた方の少年は手にしていたロボットを落としてしまい、それはガシャリと音を立てて乾いた地面に落ちた。
地面に直接叩きつけられたロボットの右腕が、壊れて体から外れてしまう。
「ああっ。俺のスーパーメタリック号が!」
少年にとって大事な玩具なのだろう。慌ててロボットと外れてしまった腕を拾い上げる少年の顔が、悲しげに歪む。
「何すんだよ。腕取れちゃったじゃんか。痛いだろ、メタリック号ー……」
まるで話しかけるように玩具のロボットに言う少年に、もう一人の少年は小さく肩をすくめた。
「痛くねぇよ。ロボットだもん」
そして、壊れたロボットを持った少年の背を押し歩き出した。
「接着剤でつければ直るって」
◆◆◆◆◆
タキはトンボを探して部屋のドアを開けた。そこにはアキツがテーブルについて本を読んでいる。タキは少し考えたが、アキツの前に座ると声を掛けた。
「何の本を読んでいるんだ。ずいぶん難しそうだな」
「タキ……」
アキツは本から顔を上げた。その手に包帯はない。
タキは思わずアキツの手を取り、指を開かせ確認した。二日前に焼けたそこは、すっかり新しい皮膚に覆われている。
「……驚いたな。綺麗に治ってる」
「タキ、話がある」
「俺にか。トンボじゃなくて」
「トンボはすぐに怒るか笑うかで話が進まない」
トンボの性格を指摘するアキツの抑揚のない声に、タキは苦笑する。
「まあな。それで、なんだ」
「俺が何なのか、分かった気がする」
「記憶が戻った……訳ではなさそうだな。で、何なんだ、お前は」
「俺はロボットだ」
タキは一瞬キョトンとしたが、生真面目な顔のままのアキツを見て笑った。
「冗談が言えるようになったのか」
「真面目に話している。俺とそれは似た点が多い」
「でも、俺には人間に見えるけどな」
笑うのをやめ、タキはアキツにそう返す。
「見た目だけの問題だ。俺はおそらく完全な人型ロボットだ。技術的には難しいが不可能ではない」
タキはアキツが手にしている本を見た。どこで手に入れた物なのか、医療と科学に関する物のようで、その内容はタキにも難しい。
「他にも読んだ。二足での歩行から人工での皮膚の生成まで、あらゆる物が今や人の手で造ることが可能だ。ただ感覚という機能に関しては人工的に作れる物か曖昧だ。しかし、生き物であればそれは自然に持っているべき機能だ」
それを持たない自分はロボットだと。
「なるほどな……面白い考えだ」
タキが感心したように言ったときだ。
「ちっとも面白くない!」
不機嫌な声がして見ると、ドアの向こうにトンボが立っていた。
「やはり怒った」
アキツが呟く。
「そうか? なかなかの考えだと思うぞ」
言ったタキに、トンボはズカズカと部屋に入ってきてタキに詰め寄る。
「こいつのどこがロボットなんだよ!」
「じゃあ、トンボはなんでアキツが人間だと思う」
逆にタキに聞き返されて、そのおかしな質問にトンボは拍子抜けといったように口をポカンと開ける。
「だって、どう見たって……」
「アキツも言っていたが、それは見た目だけの問題だ。お前の言う人間の定義ってのは何だ。人の形をしていることか? それなら文字通り『人形』でもいいことになる」
それを聞いて、トンボがまた声を荒げた。
「人形なんかと一緒にすんな! アキツはこうして生きてんだろっ」
「何も感じないでな」
最後に一言、タキは静かに言った。言葉に詰まったトンボの顔が情けなく歪む。
トンボはアキツのそばにしゃがむと、その両肩を掴んでアキツを覗き見た。
「アキツ、思い出せよ。どうしてお前、そうなっちゃったんだよ。一体誰がお前にあんな……あんな物みたいな印つけたんだよ」
つい肩を掴む手に力がこもっていることに気づいて力を抜くが、強く掴まれた肩にアキツが痛いと言うことはない。
トンボは顔を伏せた。
「なんでトンボが泣くんだ」
アキツに聞かれてトンボは鼻をすすった。
「だってお前は泣けねぇじゃん」
すると、トンボは何かを決心したように顔を上げた。
「決めた。お前がロボットなら、俺が人間にしてやる」
「……また、とんでもないことを言い出したな」
宣言したトンボにタキが大きな溜息をつく。
「文句あっかよ」
タキを一度睨んで、トンボは改めてアキツに向かって言った。
「俺がロボットのお前に“ココロ”をやる。だから心配すんな」