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柱のない家  作者: B型Rh+
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プロローグ

野球を題材とした文学として、専門用語を使用することになると思いますが多少はご容赦ください。

 真新しい校舎、そのエントランスでは今、まさに合否の発表が行われていた。俺たち三人が受験したこの県立倉浜(くらはま)高校は新設一年目、つまり合格できれば記念すべき第一期生となる。なんでわざわざそんな高校を受験したかといえば、これにはちょっとした「理由」がある。



 中学時代、俺たち三人は野球部に所属していた。まぁなんだかんだ有名にもなったんだが、直接関係はないのでいま語る必要はない。「理由」はもっと単純だった。

季節は秋。引退から二ヶ月後の十月。「理由」は突然やってきた。

「学校が終わったら校門前で待ってろ」

 俺と、同じクラスで元野球部所属のキャッチャー、大宮剛(おおみやごう)は伝言で呼び出された。野球部の後輩を使って伝言をする奴など一人しか思い浮かばなかったが…剛は違ったらしい。

「恭輔(きょうすけ)~……どうしよう」

 などと落ち込んでいる。不良に目をつけられたとでも思っているのだろうか。で、恭輔ってのは俺の名前である。名字は佐野って言うんだが、そこも重要じゃない。

「あのなぁ、こんなことするのは健太郎くらいのもんだろ?」

 今は怯える剛を見てふざける場面では無いようだったので、真実であろうことを伝えてやる。

「あぁ、そうか」

 剛は合点したようで、うなずいた。そして続けて言った。

「健太郎なら十分あり得るな」

 健太郎。橋上健太郎(はしがみけんたろう)は野球部のエースピッチャーだった奴だ。野球選手としては抜群だったが多少性格に問題がある。何を言い出すのやら。まぁ、今は待つしかない。


 放課後。健太郎は待たせると怒るので、剛と校門に急いだ。到着したが、そこに人を待つ影はなかった。予想はしていたし、こうなるように急いだのだから計画通りだ。おそらく十五分は待たされるが、それより奴が先に到着することが厄介だということは、俺も剛も認識済みだった。待つことちょうど十五分。後ろから声がした。

「よう。俺だ」

 本当に十五分遅れで来たそいつはガキ大将のように笑った。実際、ガキ大将がそのまま成長したような奴なんだが。

「で、何の用?」

 と、聞いてやると、

「え、まず驚かないの?まさか…!、、とかないの?」

……ある筈ない。だが用件を早く聞き出すには、

「ああ、内心びっくりだ。まさかお前だとはな。で、用件はなんだ?」

 こう言うのがベストだろう。

「よっしゃ。で、用件だったな。俺たち三人で倉浜高校受けるぞ」

 は?それが第一印象。確かに中学時代のチームメイトが示し合わせて同じ高校に入るのは珍しいことではない。しかし、くらはま?そんな高校あったっけか?

「それ、どこにあるの?あんまり遠いのは嫌だな」

 空気化していた剛が尋ねる。

「この学区に今年からできる新設校だ。剛の家からならチャリで二十分、恭輔の家からなら三十分ってとこだな」

 ほう。まぁ許容範囲である。それに先輩関係を嫌う健太郎ならば新設校に行こうというのも分かる。しかもこいつらとなら、本気で甲子園を狙えそうな気もする。だから、

「分かった。やってやろうじゃねーか。なぁ剛?」

 返ってくる答えは分かっていた。

「ああ。もちろんだ」

 その答えを聞いた健太郎はニッと笑い、

「倉浜でいくぜ甲子園!」

 と叫んだ。



 それが「理由」。だから間違いなく、三人での合格が必要だった。合否の発表方法は個人情報がなんだかんだということで、封筒で渡されるらしい。最初に封筒を貰ったのは剛。剛は三人の中では一番賢かったので、問題なく合格。次は俺。新設だけに倍率もなかなかのものだったが、なんとか合格。最後は健太郎。頭は悪くないのだが、行動がバカなので俺は心配だった。それは剛も同じなようで、180センチ以上あるはずが今ばかりは小さく見えた。

「健太郎、早くしろよ」

 剛にはもう余裕がない。それを見た健太郎は封筒からスッと紙を引き出した。刻まれていた文字は……

不合格。

「…………」

「…………」

「…………」

 誰もが言葉を失った。目眩がする。一秒流れるのに数時間かかっているような絶望感。もはや言いだしっぺがどうとか言う力さえない。しかし一番辛いのは健太郎なのだと思い、一言かけてやろうと健太郎の方を見ると、その表情は無だった。次第に暗くなっていくのかと思いきや、何かを思いついたようにパッと明るくなった。

「どうした?」

 思わず訊いていた。

 すると、健太郎は

「落ちちまったもんは仕方ねえ。俺はたった今目標を変えた。お前らの分もだ。俺は違う高校でお前らを倒して甲子園に行く。だからお前らは俺を倒して甲子園に行くことを目標にしやがれ」

 と、宣言した。理不尽極まりないが、同時に野球選手としての自分に火が灯るのを感じた。

「しかたねぇ。次ぎ会うのはグラウンドでだ。」

 と口走っていた。


――――そうして俺たちの高校野球生活は前途多難に始まりを告げた。





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